ピカピカ勇者ちゃんとドロドロパーティ   作:ブナハブ

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勇者ちゃんと愉快な仲間たち

「ブフォオオオ!!!」

「……っ!」

 

 身体の芯まで震える咆哮が平原に響き渡る。その叫びに少女は思わず目を閉じそうになるが、負けん気を発揮してカッと目を見開き相手を睨み付ける。

 

 緑肌の食人豚、オーク。三メートル大の巨躯とそれを支える巨木のような足と腕、それだけで武器になるだろうにその手には体格相応の大きさな棍棒が握られている。鬼に金棒とはまさにこの事だろう。

 

 そんなオークと正面から対峙するのは、赤みがかった茶髪の少女である。少女は長身の剣を構え、防具として革の鎧もしっかり身に纏っている。が、それもオークを前にすると酷く頼りなく映った。

 

「ブフゥー!」

 

 オークは怒りを剥き出しにして少女を睨む。体中には多くの傷があり、特に首元辺りには夥しい量の斬撃が付けられていた。……それらは全て、目の前の少女が刻んだ物である。

 オークと少女の戦いは、開始から一時間が経過しようとしていた。こんなにも矮小な存在一人に手こずるとは、オークも予想だにしていなかっただろう。

 かと言って少女が優勢という訳でも無い。少女の体に目立った傷は見当たらないが、あの巨体に一度でもまともに当たればあっという間に倒れ伏す事だろう。

 

「はぁ、はぁ」

 

 加えて長期戦による疲労も溜まって来ている。オークは負傷こそ多いものの、まだまだ元気だ。

 

「はぁ、はぁ……ふんっ!」

 

 少女は荒い呼吸を整えると、オークに向かって思いっきり走り込む。

 

「ブモォオオ!!」

 

 肉薄する少女に、オークは棍棒を大きな動作で構える。

 あからさまなノーガード戦法、防御は取らない。する必要がない。だって今までの攻撃、全て自慢の分厚い脂肪で受け切れたのだから。

 

 経験に基づいて動くオークには知性が感じられる。

 

「はあああ!」

 

 しかし所詮は畜生。少女が放つ気迫に全く気付かない。

 

───この一撃に全てを賭ける。そんな並々ならない覚悟に、オークは気付けない。

 

「スラアアアッシュ!!!」

 

 

 

 ドサリと重い音を立てて落ちるオークの頭。それから少しして、首を断たれた胴体も思い出したように倒れ込む。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 オークの首を討ち取った少女は、その翡翠色の瞳で地に伏すオークの死体を見つめる。

 

「はぁ……はぁ……〜っ!」

 

 訪れた静寂に勝利を実感した少女は、歓喜に震えると拳を天高く突き上げて力いっぱいに叫んだ。

 

「パンパカパーン! リリアはレベルアップした!」

 

▼▼▼

 

 勝ったどおおおお!!!

 

 苦節一年、三度目となるオークとのタイマン勝負、とうとうボクは目標だったオーク単独撃破を成し遂げた。

 

 いやー……ほんっとうに嬉しい。オーク単独撃破というのは、Bランク冒険者の強さの目安と言われている。最高峰のSランク冒険者を目指すCランク冒険者のボクにとって、オークを倒せた事実は普段の強敵との戦い以上に込み上がる嬉しさがあった。

 

(次お師匠に会ったらお礼を言わなきゃ)

 

 最後のトドメに使ったスキル、スラッシュ。お師匠に教えて貰ったボクの初めてのスキル、これが無ければきっとオークの首を断ち切る事が出来なかっただろう。こうげき や ぼうぎょ で倒せるほど、オークは弱くないしボクも強くないのだ。

 

「お疲れ様」

「あ、ルーチェ!」

 

 ボクが勝利できた喜びを噛み締めていると、遠くで待機していた仲間達がやって来る。

 

「ねえねえ見てた? やれたよボク! 遂に一人でオークを倒せたんだ!」

「ええ、見てたわよ。まあ本当にギリギリだったけどね、見ていてヒヤヒヤしたわ」

「うぐっ、そ、それはそうなんだけどさ」

 

 折角パーティメンバーが念願の目標を達成したというのに反応が薄い……全く、幼馴染なんだからもうちょい感慨深くなっても良いと思うんだけどな。

 

「おめでとうございます。リリアさんの頑張りが実り、私も感無量です」

「ご主人様、すごい」

「ソレイユ、ルナ……! うぅぅありがとう〜!」

 

 ルーチェに淡白な反応を返された後だからだろうか、他二人の仲間であるエリスとルナの言葉が心に沁みる。

 

「っ、わ、私だって別に嬉しくない訳じゃないのよ……まあその、おめでとう」

「ルーチェ……!」

 

 しかしルーチェも後から労いの言葉をしっかり送ってくれて、たまらずボクは皆を抱きしめた。

 

「ありがとう! やっぱりボクのパーティは最高だ!」

「ちょっ!?」

「……!」

「ふふふ」

 

 幼馴染の魔法使い、ルーチェ。獣人の戦士、ルナ。そして聖女な僧侶、ソレイユ・グローリア。

 

 ボクは改めて決意する。彼女達と目指すのだ。前世からの憧れ……そう、勇者に!

 

▼▼▼

 

 ボクには前世の記憶がある。地球という星の日本と呼ばれる国、そこでボクは今と違って男の子として生きていた。

 なんであるのかは分からない。物心ついた時には既にボクの中にあったこれは、ボクに多大な影響を与えた。中でも一番影響を受けたのは、RPGというゲームである。

 前世のボクはRPGが大好きだった。それは今世のボクも同じ事で、幼い頃は隙さえあれば前世の記憶を掘り起こしてRPGを遊んだ記憶を追体験していた。

 

 古今東西、あらゆるRPGをプレイしたボクは中でも王道のど真ん中を突っ走るタイプが好きだった。

 勇者が仲間と共に旅をして、その果てに魔王を倒して世界を救う。……初めてプレイしたRPGがそういう部類だったから思い出補正もあるんだろうけど、それを抜きにしても心踊る話じゃないか。

 

 こんな冒険をしてみたい。憧れの勇者になりたい。いつしかそう考えるようになったボクは、ある時に気付いた。

 

 出来るじゃないか。此処なら、前世と違ってファンタジーに溢れたこの世界ならば。

 

 そう思い立って鍛錬を始めた子ども時代、そこから幼馴染と一緒に村を飛び出して街で冒険者となり早五年。仲間も出来て、着実に力も身に付いていて、ボクの冒険は順風満帆に進んでいた。

 

「よーし、この調子で目指せSランク! そして冒険者から勇者にジョブチェンジだ!」

 

 オーク討伐の依頼をギルドに報告した帰り、ボクはそう言って意気込むのだった。

 

「……ん?」

 

 その時、不意にその店がボクの目に留まった。

 

「マッサージ屋?」

 

 初めて見るお店、けれど妙に聞き覚えがあるのは、きっと前世の知識によるものだろう。

 

「うむむむ」

 

 ボクは前世の記憶を掘り起こし、マッサージ屋が如何なるものかを調べる。

 調べた情報によると、マッサージ屋とは肩たたきみたいに揉んだり叩いたりして体をほぐし、疲れを取ってくれる場所らしい。

 

「疲れを取る……うん、いいかも!」

 

 ボクも前世の知識を使ってストレッチとかするから、体をほぐす事の重要性は理解している。

 

「お邪魔しまーす!」

 

 思い立ったが吉日、軽く散歩するだけだったボクは急遽変更してマッサージ屋に足を運ぶのだった。

 

(良さげだったら皆にもオススメしよっと)

 

 

 

「ただいまー!」

 

 マッサージ屋を後にしたボクは、パーティメンバーと一緒に暮らしているパーティハウスへと帰ってきた。

 

「ご主人様、おかえり」

「お帰りなさい、ちょうど夕食が出来上がりました」

「おーシチュー! いつも美味しいご飯ありがとね、ソレイユ!」

「ふふ、まだ食べてないのに美味しいのですか?」

「いつも美味しいから言ってるの! あと、このシチューも絶対に美味しい!」

「……ふふ、ありがとうございます」

 

 帰ってきた頃には辺りもすっかり暗くなり、ボクのお腹もペコペコだ。本当、朝昼晩と欠かさず美味しい料理を作ってくれるソレイユには感謝しかない。

 

「シチューシチュー♪」

 

 机に並べられたシチューの香りに食欲をそそられながら着席する。隣にはルナが、正面にはルーチェとソレイユが、いつもの形で座っていく。

 

「相変わらず呑気ねぇ、心配してた私がバカみたい」

「ん? 心配?」

 

 全員座った所でいただきますをしようと思ったボクだが、その前にルーチェが頬杖を付きながらそうボヤいたので思わず聞き返した。

 

「ちょっと散歩するだけとか言ってたのに、ぜんぜん帰って来なかったじゃない。何か事件に巻き込まれたんじゃって心配したんだから」

「あー、そっか」

 

 言われてみたらそうだ。ボク自身も小一時間ぐらいで帰ってくるつもりだったし、それが四時間も五時間も経って帰らないんだからそりゃ心配もしちゃうか。

 

「ごめんね心配かけちゃって」

「まったく……それで? どこほっつき歩いてたの?」

「へ?」

 

 軽く謝ってご飯を食べようと思ったボクだが、どうやらそうは問屋が卸さないらしい。

 

「あ、えっと、実はこの街に新しくマッサージ屋が出来たみたいなんだ」

「マッサージ屋?」

「うん、体をほぐして疲れを取る場所だよ。で、たまたま見かけたから行ってみたんだ」

 

 

「「「……」」」

 

 

……あれ? なんかみんな静かだな?

 

「リリア、そこで何かされた?」

「うん? さっき言ったように体をほぐして貰ったよ」

「具体的には?」

「えーっと……あれ?」

 

 そうルーチェに問われてマッサージ屋での出来事を思い出そうとしたボクだが、何故かはっきりと思い出す事が出来ない。

 

「う〜ん?」

 

 改めて思い返してみると、マッサージ屋ではずっと寝ていた事に気付く。起きたのも施術が終わった後だし……そりゃ覚えてない訳だ。

 

「あはは……ごめん、ほとんど寝てたから覚えてないや。けど気持ち良かったよ!」

 

 疲れも吹き飛んで体もスッキリしてるし、今度は皆と一緒に行こうかな?

 

「「「……」」」

 

 にしてもみんな、今日は本当に静かだな?

 

▼▼▼

 

 リリアがマッサージ屋に訪れたその日の夜、マッサージ屋の店長である男はその店にある秘密の地下室へとやって来た。

 

「一、二、三……へへ、大漁大漁」

 

 そう言って男は嬉しげに牢屋の中に居る者達を数える。

 

「さて、いつも通り売り飛ばすとして……ひひ、どいつを取っておこうかな〜?」

 

 男は下卑た笑みを浮かべると、牢屋に中……全身の力が抜け切ったようにダラリと倒れる女達を見ていった。

 

 マッサージ屋を営むこの男には、一つ自慢の特技があった。その名は疲労回復(リフレッシュ)、肉体に加わっている余分な力……いわゆる筋肉の凝りを無くす魔法である。

 普通なら日常生活にも使える、ただただ便利な魔法。しかし男は、とある地方に伝わる整体技術を組み合わせる事で疲労回復(リフレッシュ)という魔法を凶悪に進化させた。

 

 普通なら余分な力だけを無くす疲労回復(リフレッシュ)、しかしそれをマッサージと併用して使う事で、相手を無力化させる事すら可能とした。

 体から必要以上の力を失った者は、常時脱力した状態になる。暴れる為の力が無ければ、例えどんな屈強な人間でも相手に抵抗する事は出来ない。

 あとは簡単、定期的にマッサージと疲労回復(リフレッシュ)をして脱力状態を継続させれば、何をしても無抵抗な人形の完成である。

 

「……いや、あの女が良いな」

 

 そんな男は拉致した客を売り飛ばす一方、その中に好みの女が居れば密かなお愉しみとしてキープしている。そして今、一人の少女をターゲットに絞った。

 

「今日来たあの女、あれは俺好みの良い体してた。あの微妙な膨らみが堪らねぇ」

 

 そう言って目を血走らせながら思い出すのは、バスタオルを一枚だけ羽織ったリリアの姿である。

 

「仕込みは済ませた。感触としても悪くなかったしまたウチに来るだろう。そして次に来た時……ひひ、楽しみだなあ」

 

 近いうちに訪れるだろう未来に、男は思わずヨダレを垂らしていた。

 

「……ん?」

 

 その時、ふと上から物音が聞こえた。

 

「なんだ? 誰か居るのか?」

 

 男は怪訝な顔を浮かべながら、地下から出てくる様子を見られないようこっそりと店の中へと戻った。

 

「あん?」

 

 店の中には、ローブ服にとんがり帽子と如何にも魔法使いといった風貌の少女が居た。

 

「……」

 

 目を瞑り、玄関前でジッと佇む少女は、暫くした後に目を開けて男の方へと目線を向ける。

 

「……えっと、なんですかな? 今日はもう店じまいなんですけど」

 

 明かりの灯らない店内は真っ暗闇で、唯一の光源は少女が開けっぱなしにした扉から差し込む月明かりのみである。

 

「……ここに、リリアという人は来ましたか?」

「リリア?」

「茶髪に緑目の女性です」

「……ああ」

 

 それを聞いて男は声を出す。そのリリアという女が、自分が狙っている女と同じ事に気付いたからだ。

 

「ええ、まあ、確かに今日来ましたけど」

「そう……もう一つ」

 

 少女は男が出てきた通路、その先にある奥の部屋を指差す。

 

「さっき地下から出てきましたよね?」

「……」

 

 男はようやく気付く。少女の目が凍え切っている事に、その目で自分を見続けている事に。

 

「……気のせいじゃありませんかね?」

「店へ入った直後に探知(サーチ)を使いました。それであなたが店の地下に居た事に気付きました」

「……へへ、なんだよ、良い(チョロい)街だと思ってた所なのにさぁ」

 

 もはや隠し通す事は不可能、そう判断した男は開き直って本性を曝け出す。

 

探知(サーチ)なんて痕跡の残りやすい魔法を使うか普通? 街中で魔法なんて騎士団にバレたらしょっ引かれるだろうに」

「詳しいんですね、魔法」

「まあな、それで嬢ちゃんは……ひひ、あれか? お友達の為にわざわざ調査しに来たって所か?」

「……」

 

 冷めた目がより一層凍りつく。しかし男は気にした様子もなくベラベラと喋る。

 

「勘の良いお友達も居たもんだなぁ……もっとも、一人で来たのはミスったな」

 

 そう言って男は、おもむろに嵌めていた指輪へ魔力を流し込む。

 

「俺も騎士団に目を付けられるのは嫌だからな。口封じの為、用心棒の一人や二人は雇ってんだよ」

 

 指輪に付けられた小さな水晶は魔力に反応して光り始める。

 

「さあもうお終いだ! 用心棒共には共鳴石を常に持つよう指示してある。その共鳴石が光り出した瞬間、奴らは俺の所へ駆け付けるって寸法さ! 周りに人が居ないと思って安心したかあ?」

「……」

 

 少女の不安を煽りたくて男はわざわざ説明したのだが、彼女は無機質な表情を一切変えなかった。

 

「チッ……まあ良い。どの道お前は終わりだ。あと数秒足らず用心棒共はやって来る」

 

 そう言った直後、玄関の先……つまり少女の後ろから物音が聞こえた。

 

「おっと、そう言っている内に来たらしい。おいテメェら、コイツを抑えつけろ」

 

 勝ち誇った笑みを浮かべて男は命令する。……だが、そこから暫く経っても動きは無かった。

 

「……おい、テメェらなにしてっ!?」

 

 痺れを切らした男は少女の後ろを覗き込み、絶句する。

 そこに居たのは雇った用心棒では無かった。そこにあるのは……共鳴石付きの指輪を嵌めた手首だけであった。

 

「な、なにが起きて」

「ルーチェ」

 

 予想だにしなかった光景を見て固まる男は、玄関から新たに入ってきた者の姿を見て更に驚愕した。

 

「こっちに来てた奴ら、全員やった」

 

 そう言ってローブ服の少女……ルーチェに話しかけるのは、全身が血に塗れた黒い獣人の少女だった。

 

「そう」

「……コイツがそうなの?」

「十中八九ね。この下に地下室があったけど、そこに倒れてる人達が居たわ」

「…………そっか、コイツが」

 

 それを聞いた獣人の少女は、ローブ服の少女とは正反対に激しい憎悪の籠った目を男にぶつける。

 

「コイツが、コイツが、コイツが! コイツが!! コイツが!!! コイツが!!!」

「ひっ……!」

 

 ドス黒く、燃え尽きる事を知らないような怒りの炎、それを全身に浴びた男が感じたのは熱さではなく、底冷えするような寒さだった。

 

「ルナ、落ち着いて。殺しちゃダメよ」

「なんで? やったのコイツでしょ? コイツが、コイツがご主人様を傷付けた。なのに生かすの? ……ルーチェも、ルナの敵?」

 

 獣人の少女、ルナは血のように真っ赤な瞳をルーチェにぶつける。その瞬間、ルーチェは凍えるような瞳を男からルナへと向け直す。

 

「私が、恩情でコイツの事を生かそうと思ってる訳? あの子を穢したコイツを? ……ふざけないで」

 

 凍って、凍って、凍りつく。

 

「誰よりも、何よりも尊い存在であるあの子を穢す奴が現れた。こんな事態は二度と起こす訳にはいかない。だから徹底的にやるのよ。コイツから知っている事を全て吐き出させて、時には利用して、あの子を穢す恐れのある奴ら全てを消す。だから私は生かそうと言ったの、分かる?」

 

 無機質な顔と目からは一切の感情が読み取れない筈なのに、激しい憎悪だけは嫌に伝わってくる。

 

「……分かった、殺さない。ルナもこれ以上ご主人様が傷付くのは嫌だから」

「分かってくれてありがと……それじゃあ、さっさとコイツを捕まえましょ。殺さなきゃ何しても構わないから」

 

 相談が終わって、二人の少女は男に目を向ける。その間、男は逃げる事が出来なかった。

 

「ひ、ひぃー!」

 

 男も人を闇市で売るような人間だ。見るに堪えない聞くも恐ろしい悪人というのは何度も見た事がある。しかし、そんな彼らと比較しても目の前に居る少女達は次元が違った。

 

 彼女達は、たった一人の友人の為にここまでしている。人を殺す事も、拷問に掛ける事も、その人の為なら歯牙にも掛けない。そんな、神や悪魔を盲信する狂信者にも似た感情を彼女達はその友人に対して抱いていた。

 

「ゆ、許して」

「───すみません、遅れてしまいました」

 

 受け入れ難い現実に思わず許しを請おうとする男だが、それを遮るように再び店の玄関から人が現れた。

 

「あれ、ソレイユ?」

「来たんだ」

「ええ、付いて来なかったからてっきり来ないのかと思ってたわ」

 

 ルーチェとルナの疑問に神官服を身に付けた少女、ソレイユは微笑みを浮かべて答えた。

 

「眠っているリリアさんに浄化の奇跡を掛け続けていたのです。全身くまなく、穢れの一欠片も残さないよう」

「あーそうだったの、お疲れ様。……変な事してないでしょうね?」

「まさか。リリアさんに誓って何もしていませんわ」

 

 ルーチェからジト目で問われた質問にも、ソレイユは微笑みを絶やす事なく答えた。

 

「……ところで、それ(・・)はどのように扱うおつもりだったのでしょうか?」

 

 そう言ってソレイユは、男の方へと目を向けた。そこには変わらない微笑みが浮かんでいた筈なのに、その笑みを向けられた男はどうしようもない悪寒に襲われた。

 

「尋問して知ってる情報を全て吐かせるつもりよ」

「……なるほど」

「なに? 宗教的にそういうの不味かったりする訳?」

「いえ、リリアさんに手を出したんです。どのみち裁かれる運命にあるのですから、その過程で何があろうと瑣末事でしょう」

 

 ソレイユは、やはり変わらない微笑みで平然と答える。

 

「なら良かったわ。けど問題はどこでやるかなのよね、じっくりやるつもりだから絶対に誰にもバレない場所が良いんだけど」

「それなんですが……尋問の件、全て私に任せてくれませんか?」

「いいの?」

「ええ、誰にもバレない場所というのも私のツテを使えば確保できそうですし。なにより尋問するのなら、私の治癒の奇跡が有効だと思うんです」

 

 神を信仰する者だけが扱える奇跡、中でも肉体の損傷を回復させる治癒の奇跡は、魔法でも再現不可能とされる特有の物だ。

 そんな治癒の奇跡が尋問で有効……それが意味する事に男は気付き、本当に神官なのかと信じられないものを見る目でソレイユの事を見た。

 

「ふーん、だったらお願いしようかな」

「ありがとうございます」

 

 ルーチェから尋問する許可を得たソレイユは、男に向かって歩みを進める。

 

「あ、あああ……!」

 

 もう何度目かも分からない恐怖に襲われる男は、その場に座り込んで動けなくなる。今すぐにでも逃げ出したいが、震えが止まらずそれも叶わない。

 

 近づいてくるソレイユを前に何か行動を起こす事も出来ずに、男は───

 

▼▼▼

 

「あれ?」

 

 翌朝、リリアはいつものように仲間と共にギルドへ向かう道中、とある光景を見て思わず声を上げる。

 

「どうしたの、リリア」

「いや、ほらあそこ」

 

 ルーチェに尋ねられたリリアは、街の騎士が多く集まっている場所を指差す。

 

「昨日ボクが言ったマッサージ屋ってあそこなんだ」

「へー、そうなの」

「うん、何かあそこで事件でもあったのかな?」

「……」

「昨日マッサージしてくれた恩もあるし、ここは勇者を目指す者として一つ」

「だめ」

 

 即決して現場に乗り込もうとするリリアを、ルナは彼女の裾を掴んで引き留めた。

 

「ルナ?」

「あんなとこ、ご主人様は行かないでいい」

「???」

 

 要領を得ない言葉にリリアの頭は疑問符でいっぱいとなる。

 

「……あー、私もルナに賛成よ」

「ええ、既に騎士の方達が来ているようですし、ここは彼らに任せるのが良いと私も思います」

 

 しかしルーチェとソレイユの言葉を聞いて、どうやらルナはあそこへ自分に行って欲しくないのだとリリアは気付く。そして、それは他二人の仲間も同じらしい。

 

「うーん……まあこういうのって素人が出しゃばるのも良くないって聞くし、仕方ないのか」

 

 そう言ってリリアは、気持ちを切り替えて皆に呼び掛ける。

 

「よーし! それじゃあ気を取り直して、今日はどんな依頼を受ける? 昨日は遂にオークも倒せたし、ボクとしてはいつもより難しい依頼を受けたいな」

「はいはい、調子に乗らない。そんな事を言うのはもっと余裕を持ってオークを倒してからよ」

「えー!」

「ルナも、これ以上難しい依頼だとご主人様が危ない」

「そんなー……ソ、ソレイユは?」

「心苦しいですが、私も依頼のレベルを上げるのはもっと力を付けてからの方が良いと思います」

「ソレイユまで!? うぅぅ、勇者の道のりは長いなー」

 

 多数決で今回も無難な依頼を受ける事になりガックリするリリア、そんな彼女を仲間達は励ます。そうやってギルドに到着するまで、四人はワイワイ楽しそうにお喋りをする。

 

「「「……」」」

 

 そんな中、リリアを除く三人は心の中で改めて決意する。

 

(リリア、あなたは私の光よ。この世の誰よりも、何よりも尊い存在……だから)

(ご主人様はルナの月。暗闇の中で寄り添ってくれる優しい存在……だから)

(リリアさんは私の太陽です。その輝きを信じる事が出来るこの世で唯一の存在……だから)

 

───あなた(光・月・太陽)は必ず(ルナ)が守る。




勇者ちゃん:異世界転生したRPG厨、憧れの勇者を目指して日々頑張っているぞ。
魔法使いちゃん:勇者ちゃんの幼馴染、子どもの時から勇者ちゃんに脳を焼かれ続けてもう手遅れだぞ。
戦士ちゃん:勇者ちゃんに買われた奴隷、勇者ちゃん泣かせた奴ぜったいぶっ殺すマンだぞ。
僧侶ちゃん:教会じゃ位の高い神官、勇者ちゃんの事をナチュラルに神様扱いしてるぞ。
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