ピカピカ勇者ちゃんとドロドロパーティ   作:ブナハブ

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戦士ちゃんは月だけを見る その1

 あれから一年弱、少女はリリア達と共に日々を過ごした。

 たくさんの事があった。リリアがランクCの昇格試験で受かった。モンスターから受けた毒で危うくパーティが全滅しかけた。遺跡調査でお宝を見つけて、ちょっとした小金持ちになった。

 たくさんの事を知った。獣人族と他種族の常識の違い。百獣奥義以外の武技の存在。リリアとルーチェの人となり。

 そんな日々を振り返る内───心が温かくなった。

 

(……分かっていた)

 

 獣人族の勘は並外れている。相手の人柄は、ひと目見ただけで大まかに見抜く事だって出来る。

 

(最初から、分かっていた)

 

 少女もハーフではあるが、獣人の血を引く者。敵意を保つべく、どれだけ自分を取り繕おうと、心の奥底ではしっかり理解していた。

 初めてリリアに出会った時、彼女は強く感じた。リリアの持つ善性を。曇り一つない、優しい輝きを。

 

……リリアは善い人間だ。それも今まで出会った者の中で、一番の善人。

 

(でも、分からない)

 

 そして最近、ようやくその事実を受け入れられるようになった時、少女は再び分からなくなっていた。

 

(私は、リリアに惹かれてる……でも、なんで?)

 

 もはや少女に、リリアへの敵愾心は無かった。むしろ好感すら抱いている。しかし、その理由が分からない。

 優しくしてくれたからだとか、善人だからとか、そんな理由では無い筈だ。その程度で絆されるなら、道中でペテンに掛かって食いものにされていただろうと、彼女は自認していた。

 

(私は、リリアの何に……)

 

 少女は泊まっている宿屋の屋根上で、空に浮かぶ月を眺めながらボーッと考えにふける。

 

 人を好きになる理由が分かるほど、彼女は人を信用して来なかった。

 好きな理由が分からないまま尻尾を振るほど、彼女のプライドは低くなかった。

 内に秘めた想いを理解できない限り、彼女は一歩を踏み出せない。

 

「───こんな所に居たんだ」

 

 そんな中で、少女は彼女(リリア)の呟き声を耳にした。

 

「……リリア?」

「やっほー」

 

 少女が後ろを振り返ってみると、そこには屋根へよじ登ろうとするリリアの姿があった。

 

「そんな所で何を───おわっ!?」

 

 直後、リリアは足を滑らせて屋根から落下し、

 

「……」

「あ、ありがとぉ〜……!」

 

 少女は一瞬でリリアに近付き、落ちる彼女の腕を掴んだ。

 

 

 

「いやー、さっきは本当にありがとね」

「……別に」

 

 落ちかけたリリアを引き上げた後、少女とリリアは屋根上で一緒に夜空を見上げていた。

 

「綺麗だよねー、夜空って。青空も良いけど、夜空は星が沢山あって見るのが楽しい」

「……そう」

「そういえば、たまに夜に居なくなるけど、いつも此処で夜空を見てるの?」

「……まあ」

 

 少女の淡白な返事に、リリアは笑顔で会話を進める。その表情に嘘は無い……と、少女は感じた。

 

「……どうして」

「うん?」

「どうしてそんなに、楽しそうなの?」

「え?」

 

 仏頂面で、口数も少ない。必要最低限の事しか喋らず、返事も淡々とした物ばかり。……こんな奴と話して何が楽しいのか、少女にはまったく分からなかった。

 

「えー? 楽しいと思うけどなぁ」

「なんで?」

「なんで、か……うーん」

 

 少女は素朴な疑問で聞いたつもりだったが、リリアは真剣な表情で悩み出した。

 

「───実感が湧くから、かなぁ」

「実感?」

「あ、ああ、うん、えっとね」

 

 不意に漏れた言葉だったらしく、リリアはどう言ったものかと口をもごつかせていた。

 

「……前はさ、こうして気楽に話せなかったじゃん?」

 

 しばらくして、言う事が決まったのかリリアはそれを口に出し始める。

 

「君は事あるごとに唸ってきたし、ボクもそんな君にどう接して良いのか分からなかった」

「……うん」

 

 確かにそうだったと、少女は頷く。過去の自分は、こんな風に誰かと穏やかに会話できるなんて思ってもいなかっただろう。

 

(けど、今は)

「けど今は違う。君は唸らなくなったし、ボクも普通に君とお喋り出来てる」

「それでふと思うんだ。……ああ、仲良くなったんだなぁ、って」

「……!」

 

 偶然か必然か、少女も同じ事を考えようとしていた。

 

「仲良くなった実感が湧いて、それが堪らなく嬉しくって、その実感に浸りたくって、もっと仲良くなりたいと思うようになって……」

 

 空を仰いでいたリリアの瞳が、少女に移る。

 

「君と話すのが夢中になる」

「ーーー」

 

 少女は何も言えなかった。彼女の翡翠色の瞳から目を離せず、そのまま吸い込まれてしまいそうだった。

 

(……ああ、そっか)

 

 少女は理解した。自分がリリアに惹かれていた、その理由を。

 

(この人は、私を(・・)見て(・・)くれ(・・)ている(・・・)

 

 少女のこれまでの人生、誰一人として少女を見なかった。強いて言うなら、亡き両親は見てくれていただろうか? だが、それだけだ。

 誰も見ない。見向きもされない。見ても塵屑を見る目ばかり……自身の世界に、(誰か)は無かった。常に真っ暗闇(一人きり)だった。

 

 そこに彼女は現れた。

 

(この人は、この人だけは)

 

 彼女が、(リリア)だけが、自分を見て(照らして)くれていた。

 

「……ぁ、えっと」

「うん?」

 

 嬉しい、嬉しい、堪らなく嬉しい。……だからこそ、少女は不安になる。

 

「わ、私、獣人と人間のハーフで、里じゃ一番弱くて、負け犬って呼ばれてて」

 

 ハーフである事も、里での話も、少女は一度もリリアに話した事が無い。急に言われても伝わらないだろうが、それでも言わないと気が済まなかった。

 

「その、あなたに見て貰えるような存在じゃないかも、知れなくて」

「それは違うよ」

 

 罪を告白するように言葉を紡ぐ少女に、リリアは食い気味に否定してきた。

 

「……ボクの好きなRPGにね、遊び人っていうジョブのキャラが居たんだ」

「……?」

 

 そして、よく分からない話を少女に聞かせた。

 

「初めて見た時、なんだこのネタキャラは、と思ってね。仲間にも出来たんだけど、使えないだろうって選ばなかったんだ」

「けど一度ゲームをクリアして、その後調べてみたらなんと、その遊び人、誰よりも早く最強クラスのジョブ、賢者になれる素養を持っていたんだ」

「あの時は悔しかったなー。なんでボクはあの時、遊び人を仲間にしなかったんだ。って」

 

 その時の出来事を思い出しているのか、リリアは宙を見つめて、楽しそうに語っていた。

 

「……」

「ああ、ごめんごめん、つまりボクが言いたいのは、将来どうなるかなんて誰にも分からないんだから、今を見て見限るなんて事はあり得ない。って事だよ」

「……じゃあ」

 

 リリアの言葉に嘘偽りは無い。少女にはそれが良く分かり、だからもっと聞いてみたくなった。

 

「私を買ったのは、なんで?」

「……あー、そういえば言ってなかったね」

 

 少女がその事について尋ねると、リリアは突然頬を赤らめて、目線を逸らす。

 

「君と初めて会ったあの日、実は迷って偶然あそこに辿り着いたんだ」

「ボク、初めて奴隷が売られている所を見たんだけど、みんな辛そうで、悲しそうで……諦めた目をしていた」

 

 けど、と、リリアは改めて少女の方を見た。

 

「そんな中で君は、君だけは、とても強い意思を持っていた。他の人より一層傷付いていた君だけが……それが凄く印象的で、惹かれて……一目惚れ、になるのかな。うん、そんな感じ」

 

 ニヘラと笑うリリアを見て……少女の心にあった濁りは、完全に消えた。

 

「〜ッ、あ、あれ? なんかさっきからボク、すごいクサい事言ってない? うわっ、なんか急に恥ずかしく……うぅ〜! まだ名前も碌に教えて貰ってない仲の癖に何を言って」

(……名前)

 

 カァッと顔が熱くなっているリリアを置いて、少女はふと思い出す。

 

(そういえば、教えてなかった)

 

 確かに少女は、今の今まで自分の名前を教えていない。何故かと言えば、怖かったからだろう。

 名前は、奴隷堕ちした少女が唯一持っていた自分だけの物。それを教えるという事は、自身の全てを渡すような気がして……

 

(───くだらない)

 

 今にして思う。なんと浅はかで、無意味な行為だったろうか。

 里に居た頃、その名を呼んでくれた者は何人居た? 里を追放されてから、その名を名乗った事はあったか?

 名前をくれた両親は既に居ない。この名を知る者は、もはや誰一人として居ない。

 

「……しい」

「え?」

「名前、付けて欲しい」

 

 それならもう、この名は捨てよう。

 

「い、いいの?」

「うん」

「……えっと」

 

 ◼️◼️◼️は、両親と共に死んだのだ。

 

「じゃあ───」

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