ピカピカ勇者ちゃんとドロドロパーティ   作:ブナハブ

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戦士ちゃんは月だけを見る その2

「まさかこんな所でまた会える日が来るなんて、人生分からねえもんだ。……なあ? 負け犬?」

 

 薬草採取の依頼を受け、洞窟へ向かっていたリリアたち。道中、ルナは物陰からこちらを窺う獣人の気配に気づき、仲間に知らせることなく、彼女は一人、その存在と向き合っていた。

 

「あれからもう何年だ? まさかあの負け犬が、今でも渋く生きてるなんて夢にも思わなかったぜ、ハハハハ!」

 

 獣人の男は、ルナと出会った事に大きく笑う。しかしその笑いに純粋な喜びはなく、たっぷりの悪意が詰め込まれていた。

 

「そういやお前、奴隷の首輪してるよな? ぶはっ! なんだよ、やっぱり里を出た後誰かに買われたのか? ああ、その首輪似合ってるぜ、負け犬のお前にはそりゃあもう!」

「……」

 

 嗤い、貶め、蔑む。弱者を徹底的に見下し、悦に浸る。それがこの男の本質だった。

 

「……それで、要件は?」

「あん?」

 

 だが、ルナは男の悪意に屈しなかった。

 

「要件は? 無いなら失せろ」

 

 否、そもそも効いていない。眼中にすらない。

 

「テメェ……」

「さっきからお前の言っている事は意味不明。あと、お前の事なんてルナは知らない」

 

 ルナにとって男は赤の他人で、男の吐く言葉に耳を傾ける価値なんて無かった。

 

「いいぜ、お前がその気なら、いっぺんお灸を据えてやる」

「そう……」

 

 男が全身に闘気を滾らせる。それを見てルナも、背負っていた大剣を手に取り、構える。

 

「おいおい、そんな玩具で戦う気かよ?」

「……」

「まあいいぜ、お前をボコボコにするついでに……」

 

 直後、男の姿が一瞬ブレて、

 

「その玩具もぶっ壊してやるよ」〈剛熊拳(ごうゆうけん)

 

 次の瞬間、男はルナの眼前まで迫ってきていた。

 

「くっ───カハッ!?」

 

 男が放った拳の一撃に、ルナは剣を盾に防ごうとするも吹き飛ばされる。

 

「ハハッ! 弱え弱え!」〈蛇腹撃(じゃばらうち)

 

 吹き飛んだルナに、男は追撃しに掛かる。

 

「ッ、このっ!」

 

 させじとルナは牽制目的で大剣を振り回すが、男は攻撃の隙間を縫うように潜り抜け、彼女の鳩尾を一突きする。

 

「ぐぅッ!」

「すっトロいなァ!」〈破砕鰐(はさいがく)

 

 急所を受けて怯む隙に、男は彼女の腕を掴み掛かる。

 

「───ッ!」

 

 瞬間、ルナの脳裏に予感が過ぎった。

 このまま腕を掴まれたら、抗う間もなく握り潰される。そんな予感を。

 

(させるか!)

 

 ルナは痛みを堪えて急いで間合いを取る。間一髪の所で、男の掴みから逃れる事が出来た。

 

「ちぇっ、そう上手くいかないか」

 

 男は掴み損ねた事を口惜しそうにするが、言うほど不満げには見えなかった。

 

「……今の技」

「ハハッ、流石に分かるか」

 

 それも当然だろう。

 

「そうだ。これまでの技は全て百獣奥義……お前が必死こいて身に付けようとして、結局出来なかった代物だよ」

 

 なにせ男は、半分技を見せる(・・・・・)つもりで戦っていたのだから。

 

「分かったか? これが格の違いだ。力も弱い、魔法も使えない。半人半獣(はんぱもの)のお前が俺に勝とうなんて、到底無理な話だったのさ」

 

 男は徹底的にルナの心を折りに掛かる。戦意を失ってくれれば、分かり切った戦いをしなくて済むし、なにより自分が悦に浸れるからだ。

 

「……そう」

 

 そして、それに対してルナが取った行動は、剣を下ろす事だった。

 

「お? なんだ、諦めたのか?」

 

 あっさり降参するんだなと、男な内心意外に思う。……それは、大きな間違いだった。

 

「やっぱり、まだ使いこなせない」

「あ?」

「本当はコレ(・・)で勝ちたい。けど、これ以上使ったら壊れちゃう」

 

 ルナは大剣を丁重に、とてもとても大事そうに地面へ置くと、男の方へ向き直る。

 

「仕方ないから、コッチ(・・・)で行く」

 

 そして拳を固めて、構えを取った。

 

「……はんっ、玩具の次は徒手空拳(ステゴロ)か」

 

 男はつまらなそうに鼻で笑う。

 

「俺もやる事があるし、さっさと終わらせたかったんだが、仕方ねえか」

 

 そしてさっきと同じように姿が一瞬ブレて、

 

(徹底的に嬲ってやるよ)〈剛熊拳(ごうゆうけん)

 

 直後にはルナの眼前まで迫り、必殺の拳が放たれていた。

 

「それはもう見た(・・・・)」〈受け流し〉

 

 ルナはその拳に手のひらを軽く添えて、

 

 

〈打ち払い〉

〈熊受け〉

〈拳逸らし〉

〈ストライクパリィ〉

 

 

 あっさりと、受け流した。

 

「……は?」

「隙あり」〈閃突〉

 

 呆気に取られ、ガラ空きとなった男の胴に、ルナは拳を穿った。

 

「ガハッ……!」

 

 その拳が命中する。先ほどとは打って変わり、今回は男の方が吹き飛んだ。

 

「ッ、クソがァ!」〈蛇腹撃(じゃばらうち)

 

 反撃された男は、怒りのままに肉薄する。

 あらゆる猛攻を掻い潜り、相手の懐に入り込んで急所を当てる蛇腹撃(じゃばらうち)

 

「それも見た」〈迎え撃ち〉

 

 

〈カウンターストライク〉

〈先撃〉

〈蛇落とし〉

〈拳止め〉

 

 

「ぐぉっ!?」

 

 それをルナは、カウンター狙いの一撃で難なく対処し、逆に男の頬を殴り飛ばして見せた。

 

「くっ……!」

 

 異常な事態に男は動揺を隠せず、思わずルナから距離を取っていた。

 

「はぁ、はぁ……なんだ、何をしやがった!?」

「別に何も、ただ武技(スキル)を使っただけ」

 

 それは男にとって、到底信じられる話じゃ無かった。

 

「バカ言うな! テメェが使える程度の武技で、俺の百獣奥義が破れる訳ないだろ!」

 

 百獣奥義は、スキルの中でも上位の強さを誇る技。それは男の自惚れでもなんでもない、純然たる事実だった。

 獣人特有の高い身体能力と、洗練された武。その二つを兼ね備える必要のある百獣奥義は、それ相応に破られ難い。生半可な武技では、獣人由来のパワーか技量の高さで押し負けてしまう。

 

……しかしそれは、生半可な武技を普通に使っていたらの話だ。

 

(それに武技だと? そんな訳ない。アレは完全に百獣奥義を……たったの一つの技に対処する為だけにある動きだった!)

 

 男は期せずして正解を言い当てていた。

 

 ルナは武技を扱う天才だった。高い身体能力が必須な百獣奥義との相性が悪かっただけで、それ以外の大抵の武技はあっという間に修得できた。

 ルナは途轍もなく器用だった。どういう技を使えば相手の技に対応できるかを瞬時に見抜き、それを手持ちの武技を組み合わせて実現する事が出来た。

 

……百を超える武技を組み合わせて、相手の技をメタる。それがルナの戦闘スタイルだ。

 

(剣を使う時でも、これぐらい動きたいな)

 

 なお、その才が適用されるのは徒手空拳だけだったりする。

 

「来ないなら、こっちから」

「く、くそっ!」〈亀甲大楯(きっこうおおたて)

 

 猛スピードで迫ってくるルナに対し、男は両腕を前に出して、守りの姿勢に入る。

 亀甲大楯(きっこうおおたて)、百獣奥義の中でもトップクラスの防御力を誇る技だ。

 

(どんな術を使おうが、この守りを突破できる訳が無い! 攻撃を受け切った後にカウンターを)

 

 

〈鎧砕き〉

〈貫当〉

〈震撃〉

〈アーマースマッシュ〉

〈シールドブレイク〉

 

 

「……カハッ」

 

 これまで、どんな攻撃も受け止めてみせた男の技を、ルナは一瞬で攻略して見せた。

 

「あ、がっ」

「これでおしまい」

「ま、待て! 待ってくれシィラ!」

 

 とうとう膝をついてしまった男は、口早で命乞いをする。

 

「頼む、殺さないでくれ! む、昔のよしみで、見逃しちゃくれないか?」

「……」

「ほ、本当に覚えてない訳ないよな? 俺だ、ガァロだ。シィラ、お前が昔追放された里に居た、あのガァロだよ」

「……」

 

 ルナは何も言わない。男を見下ろす目には憎悪も無ければ殺意も無く、ただ無が広がるばかり……それが男には、堪らなく恐ろしかった。

 

「わ、悪かった! 里でお前にやってきた事は謝る! お詫びになんでもする!」

 

 とにかく何か反応が欲しくて、男は必死に言葉を紡ぎ続けた。

 

「そ、そうだ! お前奴隷なんだろ? 恐らく、さっきまで居た奴らの……お、お前を奴隷の身から解放してやる。アイツらを殺して、首輪の鍵を」

「は???」

 

……それが、彼女の逆鱗に繋がるとも知らず。

 

「ぐぇっ!」

「お前、なんて言った?」

 

 ルナは男の首を掴み、持ち上げる。これまでと違い彼女の紅い目には、きちんと男が映っていた。

 

「あ゙、ぐぁ」

「殺す? ご主人様を? ……させない」

 

 ゴウゴウと、瞳の中で真っ黒な炎が燃え盛る。

 

「させない、させない、させない! お前なんかにご主人様は指一本触れさせない! その前にルナがお前を殺す! 殺す殺す殺す死ね死ねシネ!!!」

 

 目の前の存在を許すな。愛しい愛しいご主人様(リリア)を害するコイツを生かしておくな。炎の勢いは増すばかりで、自身の身をも焦がしそうだった。

 

「シネシネシネシネシネ!!!」

 

 それでもルナは止まらない。止められない。そんな事より彼女の安否の方が大切で、それ以外に大切な物なんて無いからだ。

 

「シネ、シネ、シネ……ぁ」

 

 ポタリ、ポタリと、頬に真っ赤な雫が落ちてきて、ようやく気付く。

 

「ーーー」

 

 男はもう、とっくに死んでいた。首を絞められた時点で息絶えて、そうとは知らずに力を込め続けた事で指先が喉を突き破り、出血していたのだ。

 

「……ああ」

 

 その事に気付いたルナは、心からの安堵の笑みを浮かべた。

 

「よかったぁ」

 

 目の前の男(リリアを害する者)が消えた。自分はご主人様を守る事が出来た。ご主人様の為になれた。それがルナには、堪らなく嬉しい。

 

「……少し、時間が掛かり過ぎちゃった」

 

 戻るのが遅いとリリアが心配してしまう。それはいけないと、ルナは後ろを向いて、足早でその場を去り始める。

 

「はいストーップ」

 

 そんな彼女の進路を防いだのは、ルーチェだった。

 

「……ルーチェ? なんでここに」

「戻るのが遅いから様子を見に来たのよ。案の定の有様だし……リリアを置いてきて正解だったわ」

 

 ルーチェは、ルナの後ろにある死体を見やる。

 

「ソレ、どうしたの?」

「ルナ達の後をついて来てたから、一人になっておびき出した。そしたらご主人様を殺すって言ったから、殺した」

「……それで、そいつの目的は聞いたの?」

「目的?」

「はぁ〜……あのねぇ、理由もなく後をつけてく奴なんて居る訳ないでしょ? そいつは、何かを企んで私達に近付こうとしたのよ。それを聞かないで殺しちゃったら、この後どう動けば良いか分からなくなるでしょ」

「むぅー」

 

 折角リリアを守れたのにお小言を沢山言われて不満げなルナだが、ルーチェの言っている事も理解できる為、何も言い返せなかった。

 

「それとっ!」

 

 ルーチェはビシッと、ルナの腕に向かって指を差す。

 

「戻るのは、その血を洗ってからにしなさい!」

「……分かった」

 

 完璧に言い負かされた(戦えてすらいない)ルナは、渋々と近くの川まで歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 ご主人様は、ルナの月。いつでもルナの事を見てくれる、世界でたった一つの存在。

 

 だからルナも(ご主人様)を見る。月だけを見て、月を見る為だけに生きる。

 

 ご主人様はルナが守る。ご主人様を害する奴らは全員殺す。例え親兄弟、知り合い、ルーチェやソレイユでも殺す。殺し尽くしてやる。

 

───ご主人様はルナのもの()だ。




あなたは相手の事をどう思っていますか?
(リリア×ルナ編)


【勇者ちゃんの場合】
ルナは、ボクが冒険者になってから初めて出来た仲間で……最初で最後になるボクの奴隷だよ。奴隷の存在は前世の知識で知ってたけど、やっぱり直で見ると辛いものがあったね。けど、だからこそ、その中に居たルナがボクには輝いて見えて、衝動的に彼女が欲しくなっちゃったんだ。……あ、別に奴隷が良い訳じゃないよ!? ルナの事は頼りになる仲間だと思ってるし、出来るなら奴隷の身から解放してあげたいとも思ってる。まあ、何故かルナは奴隷のままで良いって頑なに言ってるけど。……うん、好きだよ? 歳下だからかなぁ、時たまルナが妹みたいに感じるんだよね。


ありがとうございます。



【戦士ちゃんの場合】
ルナのご主人様。初めは、ルナを見てくれる唯一の人だから惹かれてた。けど、今は少し違う。今は、ご主人様さえ居れば良いと思ってる。それ以外はいらないし、興味も無い。ああでも、ご主人様に悪い事をしようとする奴らだけは許さない。居たら全力で殺す。そのせいでルーチェには文句ばかり言われるけど。……なんで得意な素手より大剣を使うか? だって、この剣はご主人様がルナに最初にくれた物。凄いって、褒めてくれた物だから、それで強くなりたい。強くなって、ご主人様の想いに報いたい。……ご主人様は好きか? 当然、好きに決まってる。どんな関係でも、ご主人様の隣に居られるなら、それがルナの幸せ。けど、出来るならご主人様の奴隷のままで居たい。ご主人様の所有物だって実感できて、安心するから。


ありがとうございます。
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