魔剣のカンネ   作:グレンリアスター

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水の魔法使い

 大魔族にして、“七崩賢”の一人—――《断頭台のアウラ》は剣を持つ魔法使いの少女をつまらなそうに見ていた。

 

(これが《魔剣のカンネ》。人間の子娘にしては強いけど…大したことないわね)

 

 アウラは《魔剣のカンネ》のことを他の魔族から聞いていた。

 ある魔族は言った。魔法使いでありながら剣を使う人間の少女がいると。

 ある魔族は言った。多くの魔族を剣と魔法で倒した人間の少女がいると。

 ある魔族は言った。剣の魔法使いは無限の魔力を持っていると。

 

(私の部下を倒すぐらいは強いけど……噂ほど強くないわね)

 

 カンネという少女は自分の敵ではない。

 それがアウラの素直な感想だった。

 アウラはピクリとも動かない人間の少女—――カンネに興味を失った。

 部下が人質にした人間の中に彼女の知り合いがいたようで、呆然としている。

 

「もういいわ。もう死にな―――」

 

 アウラが魔法でカンネを殺そうとした時、

 

 

 少女は消えた。

 

「なっ!」

 

 アウラが目を見開いていた時、彼女の部下達である“首切り役人”のリュグナー、リーニエ、ドラートの三人の首が飛んだ。

 彼らの首を斬り飛ばしたのは他でもない。

 黒と白のロングコートを羽織った剣の魔法使いの少女—――カンネだ。

 カンネは剣を地面に突き刺し、ロングコートを脱ぐ。

 そして脱いだロングコートをビリビリと破った。

 カンネは破いたロングコートで一人の少女の傷口に巻き付け、止血する。

 

「ラヴィーネ……ちょっと待てて。すぐに終わらせるから」

 

 傷だらけの少女にそう言い残したカンネはゆっくりと振り返り、アウラを見た。

 同時にカンネの顔を見たアウラは……一歩、後ろに下がる。

 大魔族であるアウラは頬から一筋の汗を流す。

 

 今、アウラは……恐怖を覚えていた。

 見たものを全部斬り殺すような殺意を瞳に宿した人間の少女に。

 

「アウラ……あなたを倒さずに街から離れさせようとしたけど……やっぱりやめるね」

「はぁ?なにを言って」

「アウラ……あなたを―――」

 

「殺すよ」

 

 そう言ったカンネの身体を、突然現れた青と白のローブが覆う。

 そして空中に突然現れた槍のような長い杖をカンネは右手で掴む。

 ローブの背中には涙を流す女性のエンブレムが施されていた。

 

 今のカンネはまるで、魔法使いのよう。

 

 

「す、姿を変えた程度で私に勝てるとでも?」

「言ったはずだよ。殺すって」

 

 ローブを揺らしながら、彼女は魔法を唱える。

 

「“魔力を無限にする魔法(インフィニティ)”」

 

 次の瞬間、カンネの身体からオレンジ色の粒子が発生した。

 溢れ出る膨大な魔力を感じ、アウラは言葉を失う。

 

(無限の魔力を持つって噂を本当だったの!?これじゃあ、“服従させる魔法(アゼリューゼ)”が使えない)

 

 自分の必殺技が使えないことに気付き、アウラは焦る。

 

「これで終わりじゃないよ?……《水の女王になる魔法(アクア・クイーン)》」

 

 カンネが新しい魔法を発動した瞬間、彼女を中心に巨大な水の竜巻が発生。

 やがて水の竜巻が収まると、そこにいたのは水の王冠を被り、水のドレスを着たカンネだった。

 彼女の周囲にはいくつもの水の球体が浮かんでいる。

 神秘的な美しさを感じさせる今のカンネは……まさに水の女王。

 

「《水の女王になる魔法》は大した力はない。ただ……魔力を大量の水に変換することができる」

「大量の水?そんなものいったいどうするわけ?」

「こうするんだよ」

 

 カンネは槍のような杖を軽く振るい、告げる。

 

「“水を操る魔法(リームシュトローア)”」

 

 直後、カンネの周囲に浮かんでいた無数の水の球は槍の形になり、勢いよく飛んだ。

 飛んだ無数の水の槍は全ての首なし騎士達を串刺しにした。

 そして串刺しになった首なし鎧騎士達は大きな音を立てて破裂。

 腕や脚、腐った内臓や血が地面に飛び散る。

 

「嘘……」

 

 一瞬だった。

 一瞬でアウラが操っていた首なし兵士たちが消された。

 慌ててアウラは魔法を発動させようとするが、それよりも早くカンネが圧縮した水のレーザーを杖から放射。

 放射された水のレーザーはアウラの両腕を斬り飛ばす。

 

「うっ!」

 

 両腕を失ったアウラはその場から逃げようとするが、それよりも早くカンネが彼女の両脚を水の槍で貫いた。

 両脚を失ったアウラは地面に倒れ、怯えた表情でカンネを見上げる。

 カンネは冷たい目でアウラを見ていた。

 

「い、いや…殺さないで」

 

 怯えた声で命声をする大魔族。

 アウラは気が付いてしまった。

 自分は……化物の尻尾を踏んでしまったことに。

 怒らせてはならない魔法使いを…怒らせてしまったことに。

 

「いいや……あなたは殺すよ。絶対に」

 

 カンネは槍のような杖をアウラに向けた。

 すると空中にいくつもの水の槍が出現する。

 

「死んでからも……後悔して」

 

 無数の水の槍は容赦なくアウラの身体を貫いた。

 この日……剣の魔法使い…いや、水の魔法使いは“七崩賢”の一人《断頭台のアウラ》を……この世から消し去った。

 

<><><><>

 

《断頭台のアウラ》を倒した私は手から杖を離し、地面に倒れる。

 身体から発生していたオレンジ色の粒子は止まり、着ていた水のドレスも消えた。 

“魔力を無限にする魔法”の反動で魔力を使い切った私は、身体を引きずりながらラヴィーネのところに向かう。

 

「ラヴィー……ネ!」

 

 私はラヴィーネの左手を握る。

 

「いや…だよ。ラヴィーネ。死なないで……」

 

 意識を失いそうになりながら、私はラヴィーネに声を掛け続けた。

 

「ラヴィーネ。起きてよ。……もう、死んだら……絶対に…許さないんだ…か……ら」

 

 私はラヴィーネの左手を離さないように強く握り、意識を手放した。 

 

<><><><>

 

「予想以上に面白い子娘だな」

 

 傷だらけの少女の手を握り、気絶したオレンジ髪の少女。

 そんな少女を見下ろすのは……長い耳を生やした背の低い女性。

 金色の髪をなびかせながら、金色の瞳で女性は……カンネを見つめる。

 

「《魔剣のカンネ》。いや……《水魔(すいま)のカンネ》。私はお前が気に入った」

 

 女性は笑みを浮かべて、目を細めた。

 

「決めた……お前は私の弟子にしよう」

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