「ん……ここは?」
目を覚ましたラヴィーネはベットから起き上がる。
「このベット……それにこの部屋……ここは私の家か」
自分が実家にいることに気付いたラヴィーネは、自分の腕や脚に視線を向ける。
「腕と脚が……元に戻っている。それだけじゃない……目も見える」
魔族に襲われた時、右腕、左脚、左目を失っていたのは彼女も覚えている。
だからこそ驚いていた。
失ったはずの手足が再生していることに。
「いったいなにが……そうだ、カンネは」
一人の友人のことを思い出したラヴィーネは慌ててベットから降りて、部屋を出ようとした。
その時、部屋のドアが開き、三人の若い男性が入ってきた。
「ラヴィーネ!」
「目を覚ましたか!」
「本当に…よかった」
安堵し、そして歓喜する男性達。
ラヴィーネは彼らを知っている。
「兄貴たち……」
そう。彼らはラヴィーネの兄だ。
目元に涙を浮かべながら喜んでいることから、とても心配させてしまったことに気付く。
「すまん。心配かけた」
「本当だよ。さぁ、まだ起き上がらないで。寝てないと」
「そういうわけにはいかない。カンネが無事かどうか確かめないと」
ラヴィーネの言葉を聞いた彼女の兄三人は表情を曇らせる。
そんな兄たちを見て、ラヴィーネは首を傾げた。
「どうした?まさかカンネになにか!」
「カンネちゃんは無事だよ。街を襲おうとした魔族と“七崩賢”の一人—――《断頭台のアウラ》を倒した」
「カンネが!」
まさか大魔族の一人を倒したとは思わなかったラヴィーネは驚く。
「それで……その後、カンネは?」
「……大魔法使いゼーリエ様が……カンネを連れて行った」
「はぁ!?」
ラヴィーネは兄の一人の襟をつかみ、顔を近づける。
「どういう意味だ、兄貴!なんでゼーリエが出てくる!!」
「ゼーリエ様はカンネちゃんとアウラが戦う所を見ていたらしくて……よほど気に入ったのか、カンネちゃんを自分の弟子にしたんだ」
「なんで弟子にした!他に理由があるはずだ」
「それは……」
言葉を詰まらせる兄を見て、ラヴィーネは何か隠していることに気付く。
「言え。なんでカンネはゼーリエの弟子になった」
「……ラヴィーネを助けるためだ」
「私…を……?」
「重傷を負っていたラヴィーネを助けるために、カンネちゃんはゼーリエ様の条件を呑んだんだ」
「条件?条件ってなんだ!」
「一つはゼーリエ様の弟子になること。もう一つは……剣を捨てること」
「なっ!」
ラヴィーネは目を見開いた。
剣を捨てる。それは最強の魔法剣士になりたいカンネが夢を諦めるということ。
「なんで……なんでカンネが剣を捨てなくちゃならない!アイツにとって魔法と剣がどれだけ大切なのか知っているのか!」
ラヴィーネは思い出す。
カンネとカフェで話していた時のことを。
<><><><>
とある小さなカフェでお茶を飲みながらラヴィーネはカンネに尋ねた。
「なぁカンネ。なんで魔法と剣……どっちも鍛えているんだ?」
「え?そんなの決まっているじゃん。大好きだからだよ」
ニッとまるで太陽のように明るく笑うカンネ。
そんな彼女を見て、少しラヴィーネはドキッと胸が高鳴るのを感じた。
「そんなに好きなのか?」
「うん。大好きで……命よりも大切。魔法と剣は私のかけがえのないもの。もしどちらか失う時になると……たぶん私は死ぬよりも辛い思いをすると思う」
「そうなのか」
「私ね。世界で唯一にして、最強の魔法剣士になるのが夢なの。その夢のためなら死んでもいい」
「なんでそこまでしてその夢を叶えたいと思っている?」
「そんなの……」
「カッコいいからだよ!」
<><><><>
「アイツにとって魔法と剣……どちらかを捨てるってことは死ぬよりも辛い事なんだぞ!それなのに……なんで」
「……それぐらいラヴィーネが大切だったんだ」
「!!」
「カンネちゃんは言っていた。『ラヴィーネは私にとって大切な友達で……失いたくない人なんです。だから……死んでほしくなかったんです』って」
「カン…ネ」
「……それからカンネちゃんから預かっていた物があるんだ。ラヴィーネが起きたら渡してほしいって」
兄の一人が一冊の魔導書と鞘に納められた剣をラヴィーネに渡した。
「これ…は?」
「魔導書のほうはラヴィーネのために作ったものらしい。きっと役に立つからって。そして剣は……ラヴィーネに貰ってほしいと言っていた」
ラヴィーネは魔導書と剣を受け取り、ギュッと抱き締める。
剣はカンネが愛用していた魔法剣―――影月だった。
「今すぐにカンネのところに向かう」
ラヴィーネはすぐに出かける準備をしようとした。
しかしそれを彼女の兄たちは止める。
「どけ!なんで兄貴たちが止める」
「……ゼーリエ様から伝言があるんだ」
「伝言?」
「『三流魔法使いのお前が我が弟子カンネに会うことを禁じる。会いたければ一級魔法使いになってからにしろ』」
「……ふざけたことを!」
ラヴィーネは眉間に皺を寄せ、ガリっと歯噛みした。
彼女の心の中でマグマの如き怒りが湧き上がる。
「それからカンネちゃんからも伝言があるんだ」
「アイツから!」
「『あんたに会えて本当に良かった。ずっとあんたと一緒にいたかった。さよなら。……生きて、幸せになってね』っと」
「ふざ……けるな!アイツが……カンネがいなくちゃ、幸せになれるわけ!……なれる……わけ……」
ラヴィーネは言いかけた自分の言葉で、ある事に気付いた。
「そうか……私、アイツを……愛していたのか」
カンネがいなくなったことで、感じる欠落感と焦燥。
カンネがそばにいることで、感じる充足感と安心感。
カンネと二度と会えないと思うことで、感じる悲しみ。
いつのまにかラヴィーネにとってカンネはかけがえのないものなっていたのだ。
「ふざけるな」
ラヴィーネは瞳に強い怒りを宿した。
「大魔法使いだかなんだか知らないか……カンネを奪ったことは許さねぇ」
ラヴィーネはカンネから貰った魔導書と剣を強く抱き締める。
「アイツは……私のだ。絶対に……取り戻す!」
この日、新たな魔法剣士の……誕生の瞬間だった。