「剣の里に現れた魔族の討伐……ですか?」
魔物の討伐を終えた後、その報告をゼンゼに話していた時、私に新たな仕事がやってきた。
「ああ。剣の里に強力な魔族が現れたようだ。すぐに向かってほしい」
剣の里。勇者の剣が封印されている里。
アニメでも出ていたから知っている。
「それは構わないのですが、今から行くとなると数か月はかかりますよ?魔法を使って急いでも一ヶ月はかかります」
魔法都市オイサーストから剣の里まで結構な距離がある。
時間はかかるだろう。
そんな私にゼンゼは「問題ない」と告げる。
「ゼーリエ様から特殊な魔道具を借りている」
ゼンゼはポケットから二枚の札のようなものを私に渡した。
「これは?」
「魔力を流すことで指定した場所を一瞬で移動することができる魔道具だ。一枚は剣の里に行けるもの。もう一枚はここ……魔法都市オイサーストに行けるもの」
「伝説級の魔道具じゃないですか」
「とにかく頼んだぞ」
ゼンゼはそう言って私の前から消えた。
あの人……人使い荒いんだよね。
「まぁとにかく……魔族退治にでも行こうかな」
私は札の一枚に魔力を流し込んだ。
すると建物の中にいた私は、いつのまにか雪景色の中にいた。
流石は伝説級の魔法。一瞬で移動できた。
「あれかな……」
周囲を見渡した私は、小さな街を見つける。
私は街に向かって歩く。
<><><><>
「これは……酷い」
街に到着した私は思わずそう呟いた。
街は酷かった。
いくつもの建物が燃やされた跡がある。
「お待ちしておりました。《水魔のカンネ》様」
後ろから少女の声が聞こえた私は振り返った。
声の主は背の小さい女の子。
この子……確かアニメに登場していた。
「剣の里の里長……ですね」
「私のことをご存じなのですか?」
「はい。そちらも私のことをご存じみたいですね」
「魔法都市オイサーストから送られた手紙で書かれていたので。あなたのことを。そしてあなたが魔族を討伐してくれる魔法使いだということを」
「なら話は早いです。魔族はどこにいますか?」
「あそこの洞窟の前です」
里長は指を指した方向に視線を向ける。
洞窟……もしかして、
「勇者の剣がある洞窟にいるのですか?」
「!知っているのですか。勇者の剣が抜かれていないことを」
「……まぁ」
本の物語ではフリーレンの仲間である勇者ヒンメルは勇者の剣を抜いたとされている。
だが本当は違う。勇者ヒンメルは、伝説の剣―――勇者の剣を抜くことができなかった。
勇者の剣に選ばれなかったのに魔王を倒しちゃうヒンメルとその仲間は、とんでもない化物だね。
それにしても勇者の剣がある洞窟の前にいるってことは……、
「魔族の狙いは勇者の剣」
まぁ理由なんてどうでもいい。
私は魔族を倒す。
それだけだよ。
<><><><>
剣の里の近くにある洞窟の前で……一人の魔族の少年が立っていた。
その少年は長い二本の角を生やし、燃えるような紅い髪を生やしている。
彼は鎧を纏っており、宝石が埋め込まれた大剣を背負っていた。
少年が見つめるものは、地面に突き刺さった一本の剣。
「……」
少年は近づこうと一歩前に進む。
だがすぐに後ろに下がった。
「なるほど……勇者の剣が目当てなのは確かみたいだけど、近づけないみたいだね」
少年の背後から少女の声が聞こえた。
彼は素早く振り返り、背負っていた大剣を構える。
魔族の瞳に映るのは、オレンジ色の髪をツインテールにした少女。
青と白のローブを羽織っており、手には槍のような長い杖が握られていた。
「オレンジ色の髪に、青と白のローブ……。君か、水の魔法使い……《水魔のカンネ》は?」
「どうやら自己紹介は必要みたいだね。その通り……私はカンネ。あなたは?」
「……フロア」
「フロア。あなたを……討伐するね」
カンネの言葉を聞いた直後、魔族の少年—――フロアは地面を駆けだした。
大剣から激しく燃え上がる炎を纏わせ、力強く振るう。
迫りくる炎の斬撃。
だがカンネは恐れない。
「“
カンネが魔法を発動した直後、彼女の目の前に分厚い水の盾が出現。
炎の斬撃は水の盾に防がれ、水蒸気が発生する。
白い水蒸気のせいで視界が見えなくなったフロアは、大剣を振るう。
振るわれた剣から発生した突風が、水蒸気を吹き飛ばした。
その直後、彼の目の前にいくつもの水の球体が現れる。
「“
少女の声が聞こえた次の瞬間、無数の水の球体が突然爆発。
爆発を直撃した魔族の少年は吹き飛ぶ。
すぐに体勢を整え、少女に突撃。
素早く、そして力強く大剣を横に振るい、カンネの身体を切り裂いた。
しかし、切り裂かれたカンネの水へと変わった。
フロアが大きく目を見開いていると、彼の背中になにかが当たる。
「“
フロアの背後にいたカンネは、彼の背中に杖を当てていた。
「これで終わりだよ。
直後、カンネの杖から大きな水の塊が勢いよく放たれた。
勢いよく放たれた水の塊によってフロアの胸に大きな穴が開く。
フロアは大剣を手から落とし、地面に倒れた。
黒い塵と化して消えようとしている彼は、カンネを見つめながら言う。
「化物……」
<><><><>
勇者の剣を狙っていた魔族を倒した私はフゥ―と軽く息を吐く。
化物……か。
確かに今の私は水の化け物かもしれない。
ゼーリエ様の修行のおかげで、私は多くの水の魔法を生み出し、多くの魔族と魔物を殺している。
それにしても今回の魔族は剣と魔法を同時に使っていた。……いや、気にする必要はないかな。
「さて……里長に報告しないと」
私は剣の里に向かおうとした時、洞窟が光り出した。
洞窟に視線を向けた私は目を見開く。
「嘘……」
地面に刺さっていた勇者の剣が光っていた。
まさか……。
気になった私は勇者の剣に近付く。
ありえない。そんなはずはないと思いながら、勇者の剣の柄を握り、引き抜こうとした。
すると、地面から勇者の剣が抜けた。
剣についていた埃や錆びは消え、美しく眩しい光を放っている。
私は言葉を失った。
どうやら私は……勇者の剣に選ばれたみたい。
<><><><>
「まさか……こんなことが」
とりあえず私は里長のところに向かい、事情を説明した。
里長は信じられない目で勇者の剣を見つめている。
それはそうだよね。
あのヒンメルでも抜けなかった剣を私は抜いたんだから。
「カンネ様。あなたはこの勇者の剣の主……つまり、勇者なのです」
「勇者……」
私が勇者……か。
いや……それはないかな。
「あの…里長。この勇者の剣はお返しします」
「ど、どうしてですか!?あなたは選ばれたのですよ」
「私は魔法使いです。そして私は……剣を使うなと師匠に言われています」
私はもう剣は扱えない。
剣を使うことを、ゼーリエ様は許さない。
つまり……使うことはない。
「……いや、あなたは勇者の剣を持っていてください」
「どうして、ですか?」
「勇者の剣が抜けたということは、大きな災いが起きるということです。きっとこの剣が必要となります」
剣を捨てた私を……なぜ勇者にしたのか分からない。
もう魔法剣士ですらない私は……魔法使いである私は……本当に勇者なのかな?
「なんで私を勇者にしたの?教えてよ……勇者の剣」
剣に映る私の顔は、とても悲しそうに歪んでいた。