空が暗くなった夜、フリーレンたちはラヴィーネと一緒に焚火をしていた。
「えっと……ラヴィーネさんってあの《氷剣のラヴィーネ》ってことでよろしいでしょうか?」
フェルンの質問にラヴィーネは「ああ」と頷く。
「まさか……《氷剣のラヴィーネ》と出会えるとは思わなかったぜ」
「知っているの?シュタルク」
「むしろなんでフリーレンは知らないんだよ。《氷剣のラヴィーネ》は氷の魔法と剣で多くの魔族や魔物を倒している剣の魔法使いだ。しかも二級魔法使いでありながら、強い戦士や一級魔法使いとの決闘で勝ち続けているとか」
「へぇ~…そんなにすごいんだ」
フリーレンから見て、ラヴィーネは十六歳ぐらいの女の子にしか見えなかった。
そんな女の子が魔法使いでありながら、魔族や魔物を倒せる実力を持っていることにフリーレンは少し驚く。
(でも確かに纏っている雰囲気が普通の戦士や魔法使いのものではないね。実力ならシュタルクとフェルン以上かも)
そう考えながら、フリーレンはラヴィーネと話すことにした。
「ラヴィーネって言うんだね。私はフリーレン。紫髪の女の子がフェルン。赤髪の男の子がシュタルク。私達は旅をしているんだ。よろしく」
「……ああ、よろしく」
「氷魔法と剣がすごいみたいだね。君も旅をしているの?どこに向かっているの?」
「……魔法都市オイサーストに向かっている」
「オイサースト?もしかして一級魔法使いの試験に?」
「まぁ…それもあるが、目的は別にある」
「…聞いてもいいかな?」
ラヴィーネは少し話すかどうか考えた後、軽くため息を吐いて、答える。
「好きな奴を取り戻しに行く」
「好きな奴?」
「そうだ。私にとってかけがえない存在。大切な人。そいつをゼーリエに奪われちまった」
「ゼーリエに?ちなみに奪われた人ってどんな人」
「太陽のように明るく……そばにいると心が温かくなるような最高の女」
「名前は?」
「……カンネだ」
ラヴィーネが「カンネ」と答えた時、とても寂しそうに目を細めていた。
「カンネって……あの《水魔のカンネ》」
「……そうだが、違う」
「え?」
眉間に皺を寄せて、ラヴィーネは言う。
「あいつの本当の異名は《水魔のカンネ》じゃない。……《魔剣のカンネ》だ」
彼女の声には少し怒気が宿っていた。
(よくわからないが、どうやらラヴィーネの癇に障るようなことを言ってしまったみたいだね)
フリーレンは言葉に気をつけながら、ラヴィーネに問い掛けた。
「どうして……カンネと別れちゃったの?」
「……これ以上、話す気はない」
ラヴィーネはフリーレンから目を逸らし、焚火を見つめた。
これ以上聞いても無駄かと考えたフリーレンは、彼女にある提案をする。
「そう。……ねぇラヴィーネ。よかったら一緒に旅をしない?」
「なに?」
「君の実力は素晴らしい。共に旅をしてくれると心強い」
「……魔法都市オイサーストまでは一緒に旅をする。それでいいか?」
「うん。それでいい」
フリーレンはラヴィーネに手を差しだす。
「よろしくね」
「……よろしく」
ラヴィーネはフリーレンと握手した。
<><><><>
フリーレン達と旅をすることになったラヴィーネ。
彼女はフリーレンたちと共に、森の中を歩いていた。
しばらく森の中を歩いていると、
「グルルルルルルル!」
「ガルルルルルルル!」
頭が二つある大きな犬型魔物―――オルトロスが現れた。
フリーレンとフェルンは杖を構え、シュタルクは斧を構える。
そんな彼らを……ラヴィーネは手で制する。
「ここは私がやる」
「一人じゃあ危険ですよ」
心配してフェルンが声を掛けるが、ラヴィーネは落ち着いた声で「問題ない」と告げた。
「一分以内で終わらせる」
腰に差した鞘から魔法の剣―――影月を抜き、構える。
口からフゥ―と息を吐き、ラヴィーネはオルトロスを睨む。
「シッ!」
ラヴィーネは地面を強く蹴り、オルトロスに突撃した。
オルトロスは大きな爪を振り下ろし、ラヴィーネを切り裂こうとする。
迫りくる重い爪撃を、彼女は剣で受け流す。
そして身体を回転させ、ラヴィーネは剣を振るった。
遠心力が乗った剣撃はオルトロスの足を切り裂き、凍結させる。
「今のは!」
「剣撃と魔法の組み合わせ!?」
少し離れたところから見ていたフェルンとシュタルクは目を見開いた。
フリーレンもラヴィーネの剣と魔法の組み合わせ攻撃に、内心驚く。
「「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」
一本の足を凍らせた人間の少女を二つの口で噛み殺そうとする。
無数の鋭い牙が襲い掛かるが、ラヴィーネは動じない。
「遅い」
ラヴィーネは高く跳んでオルトロスの牙を躱し、冷気を纏わせた剣を構える。
「まずは一つ」
オルトロスの片方の頭にラヴィーネは剣を突き刺す。
オルトロスの頭は一瞬で氷漬けになり、甲高い音を立てて砕け散る。
片方の頭を失ったオルトロスは大声で叫ぶ。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「うるせぇ」
ラヴィーネは剣から冷気を放ち、オルトロスの口を凍らせた。
そして彼女は踊るように剣を振るい、オルトロスの身体に無数の斬撃を切り刻む。
ラヴィーネの剣舞に思わずフリーレンたちは見惚れる。
「すごいですね」
「ああ。あんな美しい剣技……初めて見た」
「そうだね」
フリーレンは千年間、生きてきたが……ラヴィーネの剣技はどの剣技よりも美しかった。
「これが《氷剣のラヴィーネ》……」
斬撃を受け、身体のあちこちが凍傷してしまったオルトロスは立っていることができず、地面に倒れる。
はぁはぁと荒い息を吐くオルトロス。
そんな犬型魔物の頭を、ラヴィーネは冷気を纏った剣で切り裂く。
斬撃の跡が刻まれたオルトロスは氷に覆われる。
氷漬けになり、命を堕としたオルトロス。
ラヴィーネは剣を鞘に戻し、フゥ―と息を吐いて肩の力を抜く。
「すごかったよ。ラヴィーネ」
「素晴らしい剣技でした」
「ああ、あんなにすごい剣は初めて見たぜ」
フリーレン達はラヴィーネに称賛した。
しかしラヴィーネは喜んだり、照れたりしない。
それどころかどこか寂しそうに目を細めた。
「こんなのは大したことない。アイツのほうが……もっとすごかった」
「アイツって……カンネのこと?」
フリーレンの問いに、ラヴィーネは「ああ、そうだ」と言って頷いた。
「アイツの剣はもっと速く、もっと力強く、そして……どんなものも切り裂いた」
「そうなんだ」
「私の剣はアイツの剣のように速くもなく、力強くもなく、そして……どんなものでも切り裂けるわけじゃない」
「……憧れているんだね」
「憧れている。そして同時に……愛している」
ラヴィーネは空を見上げながら、手を伸ばす。
「アイツは私のものだ。だから絶対に……ゼーリエからカンネを取り戻す」