毒蛇に噛まれたシュタルクを治療するために、フリーレンたちは一度村に行き、協会に向かった。
しかし、
「手遅れですね。数時間後には脳が溶け始め、鼻から全部流れ出て……死にます」
神父はハッキリとそう言った。
「すごく怖い!」
シュタルクは恐怖で涙を流し、フリーレンとフェルンは身体を震わせた。
「シュタルク……お前のことは忘れない」
「ラヴィーネ、俺…まだ生きてるからね!?」
ラヴィーネの言葉に、思わずシュタルクはツッコム。
「どうにかならないんですか?神父様」
フェルンの質問に対して、神父はうーんと考えながら答える。
「本来なら初期の段階でしか対処できませんが、私の弟ならあるいは……」
神父がそう言った時、扉が開き……男が現れる。
その男はラヴィーネが助けた者だった。
「兄貴、ちょっといいか?新しい風呂おけ小さくない?」
「清貧です」
「やりすぎじゃない?手のひらサイズまで清貧しちゃってんの、うちくらいだよ」
「それよりもザイン。この方を診てあげなさい」
男—――ザインはラヴィーネ達を見て、驚く。
「あれ?お前ら……」
「よ、おっさん。また会ったな」
ラヴィーネは「数十分ぶりだな」と言って、手を上げる。
「知り合いですか?」
「兄貴、こいつらだよ。俺のことを助けてくれたのは」
ザインはシュタルクに近付き、鼻から血を流していることに気が付く。
「なんだ?蛇にでも噛まれたか?気をつけろっつったのに」
はぁとため息を吐いたザインはシュタルクの肩に手を近づけた。
するとザインの手が緑色に光り出す。
シュタルクの鼻から流れ出た血は止まり、彼は驚く。
「じゃ、これでチャラだな。兄貴、広場の手伝い行ってくる」
「ああ」
ザインは教会を出て、扉を閉めた。
「鼻血……止まった」
「毒の反応が消えています」
シュタルクとフェルンが驚いていると、フリーレンが神父に尋ねる。
「神父様……あいつ」
「どう思われますか?弟を」
フリーレンは神父の首にぶら下がっているペンダントに視線を向ける。
「その首にかけている聖印。聖都から地方で最も優れている司祭に与えられるものだ。その回復のエキスパートが不治と判断した毒を一瞬で治療した。あれは天性の才だ」
「やはりフリーレン様には分かりますか」
「私のこと知っているの?」
「ハイター様から聞かされておりましたので。この聖印は聖都から視察に来られた―――ハイター様から授けられたものです」
大切そうにペンダントに触れる神父。
彼を見ていたラヴィーネは自然と腰に差していた剣の柄を撫でる。
「とはいっても所詮、私は田舎の僧侶。誇れるものなんてこれくらいしかありません。ですが……ザインの才は私の比ではない。私たちの両親は早くに他界しましてね。男でひとつで年の離れたザインを育ててきました。あの子は子供の頃、冒険者になりたいとよく言っていた」
昔を懐かしむように目を細めながら、神父は語り続ける。
「私のような同じ毎日を繰り返すだけの―――平凡な村の僧侶にはなりたくないと夢や希望に満ちた目でそう言ったんです。でも今は私の若い頃にそっくりだ。さぞつまらない人生でしょう。どうか、あの子をこの村から連れ出してやってはくれませんか。きっとあの子はずっと背中を押してくれる誰かを探しているんですよ」
話を聞いていたフリーレンが黙り込んでいると、
「分かった。連れて行こう」
ラヴィーネがはっきりとそう言った。
「ラヴィーネ」
「フリーレン。仲間になったばかりの私が言っていい事か分からないが……少なくともあいつはこの村から引っ張り出して、冒険者にさせたほうがいい」
「……なんでそう言えるの?」
「私は……あのおっさんの気持ちが分かる。親友に会いたい。一緒にいたい。一緒に笑い合いたいって気持ちが……伝わってくる」
ラヴィーネは自分の胸を当てながら、真っすぐした目でフリーレンを見る。
「フリーレン。あのおっさんは私と一緒だ。恋愛と友情の違いはあるが……親友と一緒にいたいという気持ちは、痛いほど分かる。だから……連れていくべきだ」
「……少し考えさせて」
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宿屋に泊まったフリーレンたちはザインのことで話をしていた。
「俺は賛成だぜ、フリーレン。悩むようなことじゃねえだろ」
シュタルクはザインを仲間にするべきと考えた。
「もう脳みそ鼻から出そうになる経験はご免だぜ」
「確かにここから先は僧侶がいたほうが安心かもしれませんね」
フェルンもザインを仲間にするのは賛成だった。
しかしフリーレンは「うーん」と唸るだけ。
「フリーレン様は何が不満なんですか?」
「うーん……同族嫌悪かな……」
フリーレンの言葉を聞いて、シュタルクは「なに言ってんだ、こいつ」と呟く。
シュタルクはフリーレンの言っている意味が分からなかった。
そしてベットに座っていたラヴィーネも同じだ。
「フリーレン……回復魔法を使うことができる僧侶は旅に必要だ」
「そうだけど……ラヴィーネはそんなに連れて行きたいの」
「ああ、首根っこ引っ張ってでも連れて行きたいと思っている」
「そこまでなんだ」
「どうしても……自分と重ねてしまうんだ。おっさんを」
「……う~ん、でもな~」
フリーレンは微妙な顔で悩んだ。
「とにかく俺一人でも勧誘しに行くぜ」
「私も行く」
シュタルクとラヴィーネは部屋を出て、ザインがいるところに向かった。
<><><><>
部屋の下にある酒場にやってきたシュタルクとラヴィーネは微妙は表情を浮かべた。
その理由はザインが男二人と一緒に酒を飲み、タバコを吸い、ギャンブルをやっていたからだ。
「酒…タバコ…ギャンブル……さすがに生臭すぎないかな」
「まったくだ」
シュタルクとラヴィーネはザインに呆れた。
「親睦を深めてるんだ。小僧も嬢ちゃんもやるか?」
「シュタルクだ。そしてこっちはラヴィーネ。俺たち僧侶を探しているんだ。仲間にならないか?」
「フッ……冗談だろ」
ザインは鼻で笑う。
「俺はこの村の僧侶だ。冒険になんか……いや、それも一興か」
「座れシュタルク。俺に勝てたら仲間になってやるよ」
「ホントか?」
「ああ、本当だ」
シュタルクはギャンブルをやろうとした時、
「待て、シュタルク。私がやる」
そう言ってラヴィーネは椅子に座った。
「お、お嬢ちゃんもやるのか?悪いが俺は手加減しないぜ?」
「いいぜ。こっちも手加減しない。だがちゃんと約束は守れよ?」
「ああ、いいぜ」
ラヴィーネは青い瞳を怪しく光らせる。
「私……こういうの強いんだ」
<><><><>
十数分後、男たちはパンツ一丁にさせられていた。
ザインもパンツ以外、身ぐるみはがされている。
それを見て、シュタルクはドン引きした。
「ラヴィーネ。ここまでやらなくても。というか、強くない?」
「私の剣の師匠がギャンブルの勝ち方を教えてくれてな。色んなイカサマを叩き込まれた」
「どんな師匠だよ」
「そんなことより……おっさん。約束は守ってもらうぜ」
ラヴィーネがそう言うと、「待った!」と叫んだ。
「もう一回。もう一回だけ頼む!」
「ダメだ。約束を守れ」
「そこをなんとか!」
「ダメだ。お前は私たちの仲間になってもらう」
「せめて……せめて別のお願いを」
必死な表情で説得してくるザインを見て、ラヴィーネははぁとため息を吐く。
「なんでそこまで仲間になりたくないんだ?」
「それは……旅が危険だからに決まって」
「嘘だ」
「!」
ラヴィーネはザインの瞳を見つめる。
「お前は……今でも親友を追いかけたいと思っている。だが別の理由で旅に行けない。違うか?」
ザインはただ黙ってタバコを吸い、煙を吐く。
「兄貴を置いて村を出るなんて……そんなことできるわけねぇだろ」
「なるほど、それが理由か」
「ああ。兄貴は俺のためにこの村に残ったんだ。本当だったら聖都の司祭になるはずだった。だけど兄貴は俺を思ってこの村に残ることを選んだんだ」
「だから自分も残るってか?」
ラヴィーネの言葉にザインは頷く。
「他をあたってくれ。ここにいるのは落ちぶれたパンツ一丁のおっさんだ」
「……」
ラヴィーネは静かに椅子から立ち上がり、そして―――、
パシンッ!!
ザインの頬を強く叩いた。
それを見て、シュタルクは驚く。
「な、なにを」
「じゃあなんでそんな後悔した顔をしている」
「!」
ラヴィーネはザインの顎を掴み、顔を近づけた。
「なんでそんなダサい顔をしているんだって聞いているんだ!追いかけたいんだろう?会いたいんだろう?後悔しているんだろう?だったら今すぐにでも親友を追いかけろよ!」
「だけど……アイツは十年もこの村に戻っていない。三年後には戻ってくると言っていたのに。……もう死んでるかもしれない」
「そいつの死体を見たのか?そいつが死んだところを見たのか?見てねぇだろ!なら死んだなんて決めつけるな!!」
「ラヴィーネ」
「私は……今、大切な親友……惚れた女をムカつくやつから取り戻そうとしている。私はあいつの隣にいたい。ずっと笑い合いたい。くだらないことで喧嘩して、くだらないことで笑って、一緒に泣きたい。あんたは違うのか!?」
ザインは大きく目を見開く。
彼の瞳は揺れ動いていた。
「ザイン……あんたの気持ちを……本当の気持ちを教えてくれ」
「……」
ザインは少し黙り込んだ後、真っすぐな瞳でラヴィーネを見て、言う。
「俺は……アイツに会いたい。一緒に、冒険者をやりたい」
「なら今すぐ、兄貴のところに行け。そして自分の気持ちを伝えて来い」
「……分かった」
ザインはパンツ一丁で走って酒場を出た。
残されたシュタルクは呆然とし、ラヴィーネは小さく微笑んだ。
「まったく……世話が焼けるおっさんだ」
「すごいな、ラヴィーネ。まるでオーガみたいだったぜ」
「ああん?」
「ごめんなさい。なんでもないです」