ザインがフリーレンたちの仲間になってから多くのことが起こった。
北側諸国ラオブ丘陸の小さな村で植物型モンスターに眠らされたり。
要塞都市フォーリヒでシュタルクが貴族の息子の代わりに社交会に参加したり。
トラブルはあったものの、楽しい旅をフリーレンたちはしていた。
旅の疲れを癒すために小さな街に、彼らは泊まることにした。
「じゃあ、私とフェルンは宿屋の確保。シュタルクとラヴィーネとザインは食料の準備を」
「はい」
「了解」
「分かった」
「あいよ」
フリーレンの指示に全員従い、それぞれ行動した。
ラヴィーネはシュタルクとザインと一緒に食料の買い出しをする。
パンや乾燥肉、野菜や果物などを店で買っていく。
だいたいのものを買い終わった後、宿に向かって歩いている時、シュタルクはラヴィーネに頼みごとをする。
「なぁ、ラヴィーネ。一つお願いしていいか?」
「なんだ?」
「俺と一度、戦ってくれないか?」
ラヴィーネは足を止め、首を傾げる。
「なんでだ?」
「いや……何度かラヴィーネの戦いを見て……すごいなっと思ってさ。俺とラヴィーネが戦ったらどうなるんだろうって思ったり……だめ?」
「……いいぞ」
「いいのか!?」
シュタルクはパァッと表情が明るくなる。
「ああ。いい練習相手なるだろうし……ザイン、少し寄り道していいか?」
「分かった」
ラヴィーネとシュタルクは村の近くにある森の中に行った。
そしてラヴィーネは剣を構え、シュタルクは斧を構える。
そんな二人を離れたところからザインは見ていた。
「来い」
「おう」
シュタルクは足に力を込め、強く駆けだした。
普通の人間では出せない速さでラヴィーネに突撃したシュタルクは、力強く斧を振り下ろす。
迫りくる斧撃をラヴィーネは剣で受け流した。
「はああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
シュタルクは怒涛の連撃を放った。
しかし彼の攻撃はラヴィーネの剣によって全て受け流される。
「次はこっちの番だ」
シュタルクの斧撃を受け流したラヴィーネは、踊るように剣を振るう。
彼女の連撃にシュタルクは慌てて斧で防ぐ。
剣の一撃一撃は重くもなく、速くもない。
だがラヴィーネの剣は美しく、時々フェイントをかけながら、正確に心臓や首などを狙ってくる。
「くっ!」
ラヴィーネの攻撃を防いでいたシュタルクは苦しい顔で少しずつ後ろに下がっていく。
そして、
カキンッ!
シュタルクの斧は吹き飛び、クルクルと回転し、地面に落ちた。
武器を失ったシュタルクの首に、ラヴィーネは剣を当てる。
「ま、参りました」
シュタルクは両手を挙げて、降参のポーズをとる。
模擬戦に勝利したラヴィーネは剣を鞘に戻し、ふぅと息を吐く。
「すごいな、ラヴィーネ。こんなに剣が強いだなんて……」
「まぁ……師匠のおかげだ」
「師匠?詳しく教えてもらってもいいか?」
「……ゼーリエに親友を奪われたって話は知っているか?」
「ああ。フリーレンから聞いた」
「魔法使いだった私はゼーリエから親友を取り戻すために、剣を学ぶことにしたんだ。両親と兄貴に頼んで剣の師匠を用意してもらった。その師匠はエルフで、剣に全てを捧げた達人……ゼーリエが大魔法使いなら、あの人は剣聖だ」
「そんなエルフがいたんだな」
「師匠は変わっていてな。お酒とタバコ、ギャンブルが大好きな人だった。よく剣の修行の休憩時間、私はギャンブルの勝ち方を教え込まれた」
「やばい師匠だな」
「でも……剣の腕は本物だった。力強くもなく、速くもなく、だけど一撃一撃が美しかった。師匠の剣は全ての攻撃を受け流し、敵を翻弄し、正確に急所を突く。そんな剣だった」
「そうなのか」
「幸い私には剣の才能があった。それもただの才能じゃない。一万人に一人の天才だそうだ。おかげで私は数年でここまで強くなれた」
「すげーな」
「私はすごくねぇよ。運よく師匠に恵まれて、才能にも恵まれただけ。本当にすごいのは……親友だ」
ラヴィーネは腰に差した剣を撫でる。
寂しそうな、そして悲しそうな顔で彼女はカンネのことを話す。
「親友……カンネは剣の才能がなかった。だけどアイツは努力のみで剣を振るい、オリジナルの剣技を生み出し、どんな魔物や魔族を切り裂いた。アイツの一撃はシュタルク……お前の一撃よりも重く、速かった」
「マジかよ」
「アイツは最強の魔法剣士なる女だった。それを私のせいで台無しにしてしまった」
ラヴィーネは眉間に皺を寄せて、拳を強く握る。
彼女が後悔しているのが、シュタルクとザインに伝わってくる。
「……もし、ゼーリエからカンネを取り戻したら……どうするんだ?」
「そんなの決まっている」
真剣な表情でラヴィーネは答える。
「愛しているって伝える」
「あい……して……」
「そうだ。ずっと一緒にいたい。ずっと傍にいてくれって伝える」
「……好きなんだな」
「違う。大好きなんだ」
「そう……なのか」
ラヴィーネの愛は本物だった。
偽りはない。
親友のことがどうしようもなく愛しているのが、シュタルクには分かる。
「羨ましいな。そんなに人を愛せて」
「……シュタルク」
「なんだ?」
「自分の気持ちには早く気付いた方がいい」
「自分の……気持ち?」
「そうだ。じゃないと……失って気付くことになる」
「?」
首を傾げるシュタルク。
彼はラヴィーネの言葉の意味を、まだ……分からなかった。