村で旅の疲れを癒し、食料を調達したフリーレンたちは旅を再開しようとしていた。
「みんな……準備できた」
「はい」
「ああ」
「できてる」
「問題ない」
みんなの返事を聞いたフリーレンは「さぁ……出発しよう」と言おうとした。
その時、突然……フリーレンたちに全身を無数の剣で刺されるような殺気が襲い掛かる。
「「「「「!!?」」」」」
フリーレンたちは武器を構え、殺気を感じた方向に視線を向ける。
彼らの視線の先にいたのは……剣を持った人型の魔物。
その魔物は顔を含めた身体全体が、黒い外殻に覆われていた。
両目が不気味な緑色に光っており、口から白い煙が漏れ出ている。
まるで全身鎧を纏ったその魔物は、右手に奇妙な剣を握り締めていた。
「なんだ……あの剣は」
魔物が持っていた剣の表面には血管のようなものがあり、脈を打っている。
まるで剣が生きているようだ。
人型魔物は……ゆっくりと剣を上段に構える。
それを見たフリーレンは魔法でシュタルクとフェルンを吹き飛ばし、横に跳ぶ。
そしてラヴィーネはザインを抱えて、駆け出した。
「死ネ」
人型魔物は剣を振り下ろした。
直後、フリーレンたちがさっきまでいた場所に大きな斬撃の跡が生まれる。
一瞬、なにが起きたか分からなかったシュタルクとフェルン、ザインは目を大きく見開く。
「やばいね」
「チッ!」
フリーレンは杖から白い光線を放ち、ラヴィーネは剣から無数の氷柱を放つ。
彼女達の攻撃が魔物に直撃しようとした。
その直前、脈を打つ剣が全ての攻撃を弾く。
「シュタルク、ラヴィーネ!攻撃を!フェルン!私と一緒に二人のサポートを!!ザインは村の人達を避難させて!」
フリーレンの指示にハッと我に返ったフェルン、シュタルク、ザインは動き出した。
ラヴィーネとシュタルクは地面を強く蹴って、剣の魔物に突撃する。
「行くぞ、シュタルク!」
「おう!」
ラヴィーネは冷気を纏った剣を振るい、シュタルクは斧を力強く振るった。
迫りくる剣撃と斧撃。
それを魔物は、
「無駄」
剣で弾いた。
ラヴィーネとシュタルクは連続して攻撃するが、全て防がれてしまう。
武器と武器が激しくぶつかり合い、火花が飛び散る。
金属音が鳴り響く中、フリーレンとフェルンは杖を構えた。
「「“
彼女達は杖から白い光線を放った。
精密に放たれた光線はラヴィーネとシュタルクの間を通り、魔物に直撃しようとする。
しかし、
「ダカラ無駄ダッテ」
魔物は魔法の光線を剣で切り裂き、消滅させた。
「嘘」
「ありえない」
フェルンは驚愕し、フリーレンは頬から汗を流す。
そんな彼女達に向かって魔物は剣を素早く振るった。
脈打つ剣から巨大な斬撃が飛び、二人を切り裂こうとする。
「フェルン!」
「分かってます!」
二人は飛行魔法で空中を飛び、斬撃を回避。
巨大な斬撃は遠くにあった大きな山まで飛んだ。
そして斬撃は山を……真っ二つに切断する。
「これは……とんでもない化け物が現れたね」
フリーレンは思い出す。人類史上最悪の魔族……魔王のことを。
「どうやら……魔王級に強い魔物が現れたみたいだね」
<><><><>
「ハァ…ハァ…ハァ……」
シュタルクは口から荒い息を漏らしながら、片膝を地面に付けていた。
彼の手はガタガタと震えている。
とてつもない疲労感と……言葉では言い表せないような恐怖が彼を襲っていた。
(なんなんだよ……アイツ)
剣を持った魔物。
魔族でもないというのにその魔物は、圧倒的な強さでラヴィーネの剣撃とフリーレンの魔法攻撃を完璧に防ぎ、反撃していた。
もう戦っているのはラヴィーネとフリーレンだけ。
シュタルクとフェルンは恐怖と疲労で戦意喪失し、ただフリーレンたちと剣の魔物との戦いを……黙って見ていることしかできなかった。
もうすでに何時間も戦っている。
周りの村はほとんど壊滅し、地面はいくつもの斬撃の跡があり、全ての木は斬り飛ばされていた。
(なんで……ラヴィーネとフリーレンは戦えてんだよ)
剣の魔物と戦っているせいでフリーレンとラヴィーネは傷だらけになっていた。
だというのに彼女達はまだ……戦っている。
シュタルクとフェルンは十分ぐらいで恐怖と疲労で戦えなくなったというのに。
「クッ……情けねぇ!」
悔しそうにガリっと歯噛みするシュタルク。
そんな彼にザインは走って近づいた。
「シュタルク!大丈夫か!」
「ザイン……」
「動けるか?」
「いや……恐怖と疲労で足が立たねぇ」
「なら肩を貸してやる。ここから逃げるぞ」
「え?でもフリーレンたちが」
「バカっ!俺達がここにいても邪魔なだけだ。村の人達は全員、避難させた。あとはお前とフェルンだけだ」
「ならフェルンを先に!」
「お前が先だ」
ザインはシュタルクを安全な所に運ぼうとした。
その時、剣の魔物は気味の悪い声で声を発する。
「モウ……面倒クサイ」
魔物は不気味な剣に黒い陽炎を纏わせた。
「失セロ。エルフト人間」
魔物は力強く、剣を振るった。
剣から常闇の如き黒い炎の斬撃が放たれる。
危険を感じ取ったフリーレンとラヴィーネは斬撃を回避した。
黒い炎の斬撃は切断したいくつもの木を燃やしながら飛んでいく。
そして斬撃が飛ぶ先に……疲労と恐怖で動けなくなったフェルンがいた。
「「フェルン!」」
フリーレンとラヴィーネが助けようとするが、遅い。
彼女達の足で間に合わない。
「フェルン……」
黒炎の斬撃がフェルンに直撃すれば……間違いなく死ぬ。
彼女の死んだ姿をイメージしたシュタルクは……地面を強く蹴り、駆け出す。
「シュタルク、止まれ!」
ザインが制止の声を上げるが、シュタルクの耳には届かない。
(いやだ!いやだ!!いやだ!!!)
走っている間、シュタルクは走馬灯のように思い出す。
フェルンの拗ねた顔を。
フェルンに怒られた時のことを。
フェルンと喧嘩した時のことを。
そして……フェルンと一緒に誕生日プレゼントを選んだ時のことを。
(死なせたくない!フェルンが死ぬ未来なんて……絶対に嫌だ!!)
フェルンを死なせたくない。
その想いがシュタルクの身体能力を限界突破させた。
超高速に走る彼は斬撃とフェルンの間に入り、両腕を広げる。
「フェルンは……死なせない!!」
次の瞬間、黒い炎の斬撃はシュタルクに直撃した。
斬られる痛みと肉が焼かれる痛みが同時に彼を襲い、意識を奪う。
意識が完全に失う直前、シュタルクはフェルンを見て……微笑む。
「よかった……間に……合っ…た」