「女を捨てる?なにを言っている」
ラヴィーネの言葉に首を傾げるゼーリエ。
そんな彼女にラヴィーネは不敵な笑みを浮かべて、告げる。
「そのままの意味だ。大魔法使い!」
次の瞬間、ラヴィーネの足元に白い魔法陣が現れた。
それを見て、ゼーリエは僅かに目を見開く。
「これは……」
「ある男は親友を強力な魔物から助けるために男であることを捨てて、女になり……膨大な魔力を手に入れ、魔法の才能を大幅に強化した。その女になった男は……私の母で、助けた親友が私の父だ」
「!」
「今の性別を捨てることで強力な力を得る母のオリジナル魔法。今ここで使わせてもらう」
ゼーリエは距離を取った。
直後、魔法陣から白く輝く光の柱が発生する。
光の柱はラヴィーネを呑み込んだ。
やがて柱が消えると、そこに立っていたのは背の高い男。
彼はねずみ色のポニーテイルを揺らしながら、蒼い瞳を輝かせる。
「ほう……確かに魔力が大幅に上昇しているな」
男となったラヴィーネから感じる膨大な魔力。
それを感じ取ったゼーリエは目を細める。
「大魔法使いゼーリエ……今日ここで……お前に勝つ」
低い男の声でそう言ったラヴィーネは、剣を氷に覆われた地面に突き刺した。
直後、ゼーリエとラヴィーネ、カンネがいる世界が変わる。
「これは……」
ゼーリエの視界に映ったのは、氷の空間。
空は暗く、月が浮かんでおり、星の形をした無数の氷が空中に浮かんでいた。
冷たい風がゼーリエの頬を撫でる。
そして彼女が最も驚いたのは……ラヴィーネの背後に建つ巨大な氷の城。
その氷の城は青く、白く輝いていた。
「結界型魔法……“氷の王国”。性別を捨てることで使うことができる私の強力な魔法だ。“氷の王国”は私の氷魔法の能力を爆発的に強化する」
「なるほど……確かに犠牲を払うことで強力な魔法が使うことができる。だが……まさか性別を捨てる魔法があるとはな……面白い。だが……その程度で私に勝てるとでも?」
ゼーリエは余裕な笑みを浮かべて、何千という炎の竜の頭を生み出した。
だが直後、何千という炎竜の頭は一瞬で凍り、砕け散る。
それを見て、ゼーリエは目を大きく見開く。
「この世界は私の世界だ。お前の攻撃なんて全て凍らせてやるよ」
「……」
冷気を纏わせた剣を構えるラヴィーネ。
そんな彼女を見て、ゼーリエは……、
「ハハハ……ハハハハハハハハハハハハハ!!」
笑った。口元を三日月に歪め、瞳を怪しく光らせて笑う。
「面白い!実に面白い!!ハハハハハハ!!」
ゼーリエは高笑いした。
そしてピタリと笑い声は止まり、ゼーリエはフゥと息を吐く。
「だが……私の弟子は渡さんぞ?」
ゼーリエは目を細めて、指をパチンと鳴らした。
すると空中に無数の魔法陣が出現する。
「全力で潰してやるからかかってこい。《氷剣のラヴィーネ》」
「なら私はお前を凍らせてやる。《大魔法使いゼーリエ》」
ラヴィーネは瞳を強く輝かせ、氷の地面を超高速に滑った。
氷の上を滑走する氷の魔法剣士。
そんな彼女に向かって、ゼーリエはいくつもの魔法攻撃を放つ。
炎の槍が、光の剣が、水の矢が、石の斧が、風の鎌がラヴィーネを襲う。
だがラヴィーネは動じない。
無数の魔法攻撃が彼女に直撃する直前、ゼーリエの魔法攻撃は全て凍り、甲高い音を立てて砕け散る。
それを見て、ゼーリエは眉間に皺を寄せる。
「舐めるなよ、魔法剣士!」
ゼーリエは両手をバシン!と合わせた。
直後、ラヴィーネの左右に巨大な炎の手が現れる。
そして巨大な炎の手はラヴィーネを虫を潰すかのように強く合わせた。
しかし巨大な炎の手は一瞬で凍り、砕け散る。
「この程度で止まるか!」
氷の上を超高速に滑走するラヴィーネ。
彼女はゼーリエの懐に入り、冷気の剣を上段から振り下ろす。
「くっ!」
ゼーリエは何十層のバリアを生み出し、冷気の剣撃を防ぐ。
だが何十層も重ねられたバリアは一瞬で凍結し、砕け散る。
一瞬。
全てが一瞬で凍り、全てが無になる。
「な…に……!?」
「ゼーリエ。お前は魔法使い最強だ。どれだけ時が経とうが……それが変わらない。だがな……惚れた女を取り返そうとする私には、勝てない」
氷の魔法剣士は、剣を構える。
「返してもらうぞ、私の宝物を」
ラヴィーネは鋭い刺突を放った。
冷気を宿した刺突はゼーリエの左肩に突き刺さる。
攻撃を受けたゼーリエの左肩が、氷に覆われた。
同時に、空に大きな皹が走り、甲高い音を立てて氷の空間が崩壊する。
元の世界に戻った後、ラヴィーネは剣から手を離し、両膝を地面に付けた。
彼の体を覆っていた氷の鎧は消え、氷の化物から人間へと戻る。
「……見事だ」
ゼーリエはそう言って、自分の左肩に刺さった剣を抜く。
「お前の勝ちだ。カンネを連れて帰るがよい」
そう言い残して、ゼーリエは草原から姿を消した。
<><><><>
「……」
私は今……信じられないものを目にした。
ラヴィーネは男となったら、氷の世界を作り、ゼーリエ様に攻撃を当てた。
ラヴィーネが……勝った。
いや……今はそんなことはどうでもいい。
「カン…ネ……」
ゆっくりと立ち上がりながら、疲れた顔で笑みを浮かべるラヴィーネ。
そんなラヴィーネを見て、私は駆け出した。
草原の上を走り、ラヴィーネの胸に飛び込む。
「バカじゃないの……こんなボロボロになって……女を捨てて男になるなんて」
「お前を取り戻すためなら……女なんて捨ててやる」
そう言ってラヴィーネは私を優しく抱き締めた。
「カンネ……ずっと伝えたいことがあった」
「なに?」
「カンネ……」
「愛してる」
その言葉を聞いて、私は涙を流した。
ダメだ。涙が止まらない。
我慢できないや。
きっと……私の顔、ぐちゃぐちゃになってるだろうな。
「カンネ……今日からお前は私のものだ」
「うん」
「カンネ……絶対にお前を離さない」
「うん」
「カンネ……これから死ぬまで傍にいてほしい」
「うん……!」
私はラヴィーネを抱き締める力を強くした。
「私の全部……あんたにあげる。だから……ずっと一緒にいて」
「ああ……これからずっと……ずっと一緒だ」
私とラヴィーネは唇と唇を重ねた。
唇を離した後、私はラヴィーネを見つめながら自分の想いを伝える。
「ラヴィーネ……今、私……世界一幸せな女だよ」
ありがとう、ラヴィーネ。
本当に……大好き。
読んでくれてありがとうございます。
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