魔剣のカンネ   作:グレンリアスター

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別の世界の自分になる魔法

「これで治療は完了です」

「ありがとうございます。神父様」

 

 魔法都市オイサーストの教会で、ラヴィーネの傷を治療してくれた神父に私は頭を下げた。

 

「傷は治しましたが、疲労はまだ残っています。ゆっくり休んでください」

「ありがとう、神父様」

 

 ラヴィーネも感謝の言葉を言った後、私達は教会を出た。

 

「……ようやく一緒にいられるな、カンネ」

「……うん」

 

 微笑みを浮かべながら、私たちは見つめ合った。

 

「ラヴィーネの男の姿……まだ慣れないよ」

「いやか?」

「ううん。女の時も、男の時も……最高だよ」

 

 ラヴィーネは私をゼーリエ様から取り返してくれた。

 これからはラヴィーネとずっといられる。

 これからは魔法剣士として生きていける。

 ラヴィーネには感謝しかない。

 

「ラヴィーネ……私は、今日からあんたのものだよ。だから……だから……」

 

 ラヴィーネの頬に手を当てながら、私は言う。

 

「ずっと……ずっと……一緒にいて」

「もちろんだ。カンネ」

 

 ラヴィーネは目を閉じて、ゆっくりと唇を近づける。

 私も目を閉じて、唇をラヴィーネに近付けた。

 その時、

 

「お熱いね……二人とも」

「そうですね、フリーレン様」

 

 声が聞こえた。

 私は目を開けて、声が聞こえた方向に視線を向ける。

 視線の先には、紫髪の少女のフェルンと銀色のツインテールエルフのフリーレンがいた。

 

「フリーレン、フェルン……いつの間に」

「ラヴィーネがゼーリエと戦うところから見ていたよ」

 

 ゼーリエ様と戦うところから……見ていた?

 ってことは!それって!!

 

「わ、わわわわ私とラヴィーネがキスしているところを見ていたの!?」

「うん。そうだよ」

「あ、あう~……」

 

 私は顔が熱くなるのを感じながら、しゃがみ込んだ。

 は、恥ずかしい!

 ラヴィーネとキスしているところを見られていたなんて!!

 いや、これで二回目だけど!! 

 

「まぁ……その、そこのカフェで少し話そうか」

 

<><><><>

 

 オシャレなカフェに入った私たちはフリーレンとフェルンと話を始めた。

 

「まず……すごっかたよ、ラヴィーネ。あのゼーリエに勝つなんて」

「すごいです。ラヴィーネ様」

 

 フリーレンとフェルンは称賛した。

 二人の言葉を聞いて、ラヴィーネは「ありがとう」と告げる。

 

「だいぶ無茶はしてしまったが、そのおかげで宝物を取り返すことができた」

「ラ、ラヴィーネ。宝物は言いすぎだよ。恥ずかしい」

「いやか?」

「い、嫌じゃないよ」

 

 もう、どうしよう。

 ラヴィーネがイケメン過ぎて、私……死んじゃいそう。

 

「ラブラブだね」

「ああ、これからもラブラブするさ。離れていた分だけ」

「そっか。……ところでラヴィーネ。君が男になった魔法……詳しく教えてほしいんだけど」

 

 フリーレンは興奮した様子で尋ねてきた。

 あ、相変わらず魔法大好きなんだね、フリーレンは。

 アニメ通りだ。

 

「女を捨てる……って言ってたけど、だからって男になるのはおかしいんじゃないかな?」

「まぁ……正確に捨てたのは性別じゃないんだ」

「というと?」

「私が捨てたのは、()()()()()()だ」

 

 フリーレンは目を細めながら、「続けて」と言う。

 

「フリーレン、並行世界って聞いたことあるか?」

「この世界に似た世界のことだよね?世界は一つではなく、無数に存在する」

「そうだ。別の世界では私は魔法のみを極めていたかもしれないし、また別の世界では剣のみを極めていたかもしれない。そして……剣も魔法を極めない平凡な少女として生きていたかもしれないし、男の私もいたかもしれない」

「……」

「元男だった私の母は、魔法が少し使えるだけの少年だった。だけど母は自分だけの魔法を作ってみたいと思い、どうすればいいか悩み……ある魔法を作った。その魔法は……」

「まさか……」

「そう。“()()()()()()()()()()()()”を作ったんだ」

 

 ラヴィーネの言葉を聞いて、私は思わず目を大きく見開いた。

 私だけでなく、フリーレンやフェルンも驚いている。

 そりゃあ、驚くよ。

 ラヴィーネが男になったのは、性別を変えたんじゃなくて……別の世界に存在する男のラヴィーネになったからだったんだ。

 

「母は魔物に襲われた父を助けるために……この魔法を使った。魔物を倒せる強い自分……それが魔力量が多く、魔法の才能があり、魔法を極めた女の自分に母はなったんだ」

「そうだったんだ……じゃあラヴィーネが男になったのは」

「そうだ。私はゼーリエに勝つために、別の世界に存在する強い私になることを決めた。その私は魔力量が多く、剣と氷魔法を極めた男の魔法剣士……それが今の私だ」

「なるほど……だけど代償はデカいでしょう?」

「まぁな。今の私になるためには、前の私を捨てる必要があった」

「つまり?」

「この世界の私から別の世界の私に置き換えたんだ。いや……より正確に言うと、上書きしたというべきか」

 

 なるほど……女を捨てるってそういう意味だっただ。

 ラヴィーネが捨てたのは、この世界の自分自身。

 ゼーリエ様に勝つために、別の世界のラヴィーネになったんだ。

 

「すごいね……そんな魔法があるなんて」

「まぁ……デメリットも多いがな。まず一つはこの魔法は一人一回しか使えない。そしてもう一つは……一度、別の自分になったらもう元に戻すことはできない」

「そうなんだね」

「でも……私は後悔していない。なぜならこうして……惚れた女をゼーリエから取り返すことができた」

 

 微笑みを浮かべながら、私を見てくるラヴィーネ。

 そんな彼女に、私はドキッと胸が高鳴るのを感じた。

 

「もう……恥ずかしいことを堂々と言わないでよ」

「嫌か?」

「……ううん。すっごい嬉しい」

 

 本当に恥ずかしいけど……どうしようもないぐらい、嬉しくて……幸せだな。

 

「私ね……ラヴィーネの隣にいるだけで、すっごく……幸せなんだ」

「私もだ……本当に幸せだ。幸せで……」

「ラヴィーネ?」

 

 私はラヴィーネの顔を見て……言葉を失った。

 

 泣いていたのだ。

 

 ラヴィーネのサファイアの如き青い瞳から、涙が流れていた。

 

「ど、どうしたの!?なんで泣いてるの?」

「す、すまん。泣くつもりはなかったんだ。ダメだ……止まらない」

 

 ラヴィーネは腕で涙を拭うが、涙は止まらなかった。

 そんな彼女を私は……優しく抱き締める。

 

「カンネ?」

「いいよ。……泣き止むまで……そばにいるから」

「……ありがとよ」

 

 ラヴィーネは私の胸の中で……静かに泣いた。

 私の服を握り締める彼女の手は、僅かに震えていることに気付く。

 




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