「 キヴォトス 等身大ザク 男子校 私 」 作:おおおユウゴ
通常の2倍のスピードで
ブルーブラックのザクⅡだ。それは等身大で、その1つ目を真っ赤に輝かせ、アビドスの砂塵のなかにただ一人、アーマー・アームの腕のなかで少女を抱きとめて、立ち望む。
その青黒のザクは、その実、たった一人の人間、少年より一回り大きなほどの背丈を、その姿を、ザクの外骨格装甲で保っているに過ぎなかった。
その頭の上で、
青黒のアーマー・ヘッドには、1つの角ばった角が生えている。その角だけが、紅蓮の色をしている。いや、炎よりも冷静に赤く灯るのは、その角だけではなく、その瞳、1つだけの赤い目、モノアイに他ならない。
その機械の目がなによりも血色の敵意を
ブルーブラックのザクⅡは、腕のなかの緑髪の少女、アイアンホルスの盾を背負ったままの彼女を、もう一度その両手で胸の前へと掻き抱いた。瞬間、ザクの後方が爆炎に膨らみ、その時にはザクはすでにスラスターの噴射をして空中を突き進んでいた。
ビナーがそのヘイローを光らせて、口を大きく開く。ザクは脚部のスラスターを噴かし、空中でその軌道を曲げた。
ビナーが、その巨体あるまじき素早さで飛びかかり、外すやいなや、今度は巨体ごとザクの上へと跳ねあがり、暴れながら落下して大地へとすべてを叩きつぶそうとした。ここまでが刹那のことだった。ザクは自分と、抱きかかえる少女に被さったビナーの巨大な影へと、赤い目を一度だけ光らせた。その両腕は少女を抱きかかえ、不自由である。
しかしザクはなにも躊躇わず、ビナーの落ちてくる巨体へと向けて、脚部と背面のスラスターを全力で噴射した。轟きはビナーのものか、これをかき消すほどのスラスターの爆音なのか。
ザクはビナーと重なり、ビナーの表面装甲のうえでザクの全身でドリフトをするようにして、ビナーを紙一重ですり抜けた。ビナーの巨体が大地へと落ち、大雷のような地響きの轟音が、アビドスの砂塵が、はげしく巻き上がる。
ザクが頭上をとった。アビドスの天空から未だ沈まぬ白日が、すべてを灼熱の輝きのもとへと照らし出す。モノアイの赤がロックオンを、モーター音の重々しい駆動とともに響かせた。
片手間のビナー退治は不首尾におわった。ザクは結局、逃げるを余儀なくされた。
少女を片手に抱きかかえ、利き手でマシンガンや斧で戦うには、それらの武器がいかにハイテクでも、無理があった。
どどつまりザクが生かせたのは、その速度、彼が通う男子校の『学園』でも、彼が一目置かれている(らしい)速度だけだった。
通常の2倍の逃げ足、これが彼を、あのビナーというよく分からない機械の竜から、ほうぼうの体で逃げ延びさせたのだった。
アビドスの学校(それは寂れていたが)そこへと、少女を置いてきてから、彼は着込んでいるブルーブラックなザクの外骨格、すなわち等身大モビル・スーツという代物、この中で涙ちょちょぎれていた。
本当だったらアビドスの高校で出迎えてくれた(いや、あれは途方に暮れて待ち望んでいたのかもしれないが、)そんな桃色短髪のチビ少女、彼女に聴いておくべきだったのだ。彼が助けた(ことになるのだろう、)あの緑髪爆乳長身少女の、モモトークの連絡先を!
しかし聞けなかった。泣くしかない。しかし等身大モビルスーツに涙は似合わない。あと、モノアイ付きの装甲ヘルメットの中で泣いたりなどという、塩水の大放出をやったのちには、肌が大荒れの末路をたどる。そうだ、あと作戦中だったので、ひげも伸びっぱなし、歯も磨いていない。女の子に顔を合わせるには、あまりにも戦術的敗北に喫しすぎている。
少年は、アビドスから彼の高校、男子校に帰る道すがら(それは一般歩道をモビルスーツ姿(等身大)で一歩一歩歩いて帰る、シュールレアリスムの具現であったが、)それでも地団駄を踏みたくて仕方なかった。
しかし女子と話す機会は案外すぐにやってきた。少年が着込んだザクⅡ、ブルーブラックの機体のそれに向かって、後ろからサイレンの音が追っかけてきた。
ザクのヘッドが、モノアイとともにサイレンの方を向いた。
1台のパトカーが近づいてくる。サイレンをパトロールランプの点灯とともにうならせるのは、アルファ・ロメオの159なパトカー、いいや、車体の黒に赤のラインが入れた、正義実現委員会のそれであった。