「 キヴォトス 等身大ザク 男子校 私 」 作:おおおユウゴ
## 第六話 ティーパーティーと青人スーツと腹ペコ男子
さて、私の前に降臨なされた御三方。白亜の制服は
「は、はっ! ナギサ様、ミカ様、セイア様! ごきげんよう!」
ハスミ嬢が、
「あらあら、随分と騒がしいと思ったら……。ハスミさん、これは一体、どういう状況ですの?」
ティーパーティーのホスト、ナギサ嬢が、穏やかながらも有無を言わせぬ口調で尋ねる。その声には、場の空気を一瞬で支配するような、不思議な圧があった。ミカ嬢はといえば、私のザクスーツへの興味が勝るのか、あるいはこの場の微妙な空気などどこ吹く風なのか、既に私の傍らに移動し、
「は、はっ! ナギサ様! こちらは……その……」
ハスミ嬢は、必死に状況を説明しようとするが、緊張のあまり言葉がうまく出てこないようだ。頑張れハスミ嬢! 君の正義はそこにあるのか! 君は生き延びることができるか?
そんな彼女を尻目に、ナギサ様の理知的な視線が、部屋の隅で縮こまっている(物理的には大きいのだが)私へと向けられた。
「プルガトリウムの……Nさん、でしたね」
ひぃっ! 名指し! しかも、どこで私の名前を!?
「先ほどの戦闘、拝見しておりました。見事な戦いぶり……いえ、
な、なんと! 感謝の言葉! しかも戦闘を見ていた!? どこから!? まさか、この詰所には監視カメラ的なものが……いや、考えるのはよそう。深く考えてはいけない。キヴォトスでは、そういうことが往々にしてあるのだ。
「い、いえ、そんな……たまたま居合わせただけで……」私は恐縮して答えるしかない。
「ご謙遜を」ナギサ様は穏やかに微笑む。その完璧な笑みは、まるで能面のようにも見え、その奥にある真意を窺い知ることは、私のような俗物には到底不可能であった。 これは、尋問の
やはり来た。王道にして、私にとっては死刑宣告にも等しい質問である。私は内心で呻いた。アビドスでの任務──雷帝の遺産の調査などと、口が裂けても言えるわけがない。ゲヘナとアビドスの問題に、トリニティの、しかも最高権力者が関わってきたとなれば、事態は
「あ、あの、それはですね……」私は、しどろもどろになりながら、必死に言葉を紡ぎだそうとする。「その、道に迷ってしまいまして……ええ、トリニティのあまりの美しさに、つい、ふらふらと……。それで、このスーツですが、これは、その、なんと言いますか……最新式の、えーっと……
我ながら、あまりにも苦しい、そしてあまりにも馬鹿げた言い訳である。健康器具? 筋トレマシン? 全長二メートルでモノアイ付き、背中にはスラスターまで搭載した筋トレマシンが、この世のどこにあるというのか! しかもプルガトリウムで大流行? 嘘つけ! 我が母校で流行っているのは、プロテインと意味不明な筋肉自慢だけだ!
もうダメだ。終わった。私の人生は、この詰所で、ティーパーティーの冷ややかな視線の中で、静かに終わりを告げるのだ。せめて最期に、ラーメンを……。
「健康器具、ですか?」ナギサ嬢は、美しい眉をピクリと動かした。その声には、呆れとも、あるいは純粋な困惑ともつかない響きが混じっている。「その……随分と物騒なデザインの健康器具ですのね。しかも、それでオートマタの一個小隊を殲滅なさった、と?」
その目は、明らかに「貴方、本気で言っていますの?」と問いかけている!
「……ま、まあ、たまたまです! 運が良かったというか! そう、
もう支離滅裂である。私の語彙力は、空腹と緊張によって完全に崩壊した。
「運、ですか」ナギサ嬢はふぅ、と小さく、しかしそれはそれは深ァい溜息をついた。「その“運”で、トリニティの生徒を救ってくださったことには、感謝いたします。……正直、貴方の仰ることを鵜呑みにするわけにはいきませんが」
おや? 意外にも追求はそれ以上なかった。むしろ、感謝の言葉まで頂戴してしまった。これはどういう風の吹き回しか? あるいは、私のあまりの挙動不審ぶりに、憐れみを覚えてくださったのだろうか? だとしたら、それはそれで情けない話である。
「それでね、Nくん!」ミカ嬢が再び口を挟む。私のスーツへの興味は尽きないらしい。「そのスーツ、もっと詳しく見せてよ! 中はどうなってるの? やっぱり
後半の発言は聞き捨てならん! 断じて生身などではない! いや、生身なのだが、そういう意味ではない!
「ミカさん、お黙りなさい」ナギサ嬢が、今度は少し強めの口調で制止する。どうやらミカ嬢は、私のこの胡散臭いスーツに本気で、それも少々危うい方向で興味を持っているらしい。ありがたいような、
「君の行動には不可解な点が多い」セイア嬢が静かに告げる。「だが、今はそれを詮索する時ではないのかもしれない。流れは、まだ定まっていないのだから。……ただ、その
またしても意味深な発言。そして不吉な予言。この方は一体何が視えているのだろうか。私の寿命とか? できれば聞きたくない。
「Nさん」ナギサ嬢が居住まいを正し、私に向き直った。場の空気が再び引き締まる。「貴方の目的が何であれ、トリニティの危機を救ってくださった事実は変わりません。ティーパーティーとして、改めて感謝を申し上げます。……つきましては、今回の件に関する報告と、今後の協力について、少しお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
協力? 何の協力だ? 私の貧弱な脳味噌が、けたたましい警鐘を鳴らす。これは間違いなく、さらなる面倒事への、甘美にして危険な招待状だ! 断固拒否! ……したい。したいのだが、この場の空気、そしてナギサ様の有無を言わせぬオーラの前では、私の「否」というか細い声など、風前の灯火にも等しい。
「いえ、私はその、ただの通りすがりのプルガトリウム生でして……協力など、おこがましいというか……」
私は、最後の抵抗を試みる。実に情けない抵抗であるが。
「あらあら、ご謙遜を」ナギサ嬢はくすりと笑う。その笑みは、春の陽光のように温かいようでいて、同時に深淵を覗き込むような、底知れぬ何かを感じさせた。 怖い!「まあ、立ち話もなんですし……場所を移しましょうか。丁度、お茶の時間ですわ。美味しい紅茶とケーキをご用意させます」
お茶……ケーキ……。なるほど、トリニティらしい、優雅な響きである。だがしかし! 今の私の
「お茶より、ラーメンが食べたいんですが」
私の口から、
言ってしまった。ついに言ってしまった。ティーパーティーの御前で、「ラーメンが食べたい」と。
しん、と詰所に静寂が訪れた。まるで、時間が止まったかのようだ。ティーパーティーの御三方は、一瞬きょとんとした表情を浮かべ、ハスミ嬢は信じられないものを見る目で私を見つめ、イチカ嬢は硬直したまま口を半開きにし、ノア嬢は興味深そうに目を細め、津山君は「こいつ、終わったな」とでも言いたげな憐憫の視線を私に送っている。モブ生徒たち(まだ残っていたのか)に至っては、息を呑む音すら聞こえてきそうだ。
私の人生という名の、薄っぺらい舞台劇。そのクライマックス(あるいは破滅への序章)が、今、静かに、しかし確実に、幕を開けた瞬間であった。ああ、神よ、仏よ、ラーメンの神様よ。私に、せめて最後の一杯の慈悲を……!