「 キヴォトス 等身大ザク 男子校  私 」   作:おおおユウゴ

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第六話 ティーパーティーと青人スーツと腹ペコ男子

## 第六話 ティーパーティーと青人スーツと腹ペコ男子

 

さて、私の前に降臨なされた御三方。白亜の制服は(まばゆ)く、頭上のヘイローはいと(とうと)く、その存在感たるや、詰所の蛍光灯(けいこうとう)すら後光に見紛うほどである。トリニティ総合学園生徒会『ティーパーティー』。キヴォトス広しといえど、その名を知らぬ者はモグリか、あるいはアビドスの砂漠で隠遁生活を送る仙人に違いない。そんな雲上人(うんじょうびと)が、何故このような掃き溜め──失礼、正義実現委員会の前線詰所に御成りになったのか? 私の貧弱なCPUでは処理能力を超えてエラー落ち寸前である。

 

「は、はっ! ナギサ様、ミカ様、セイア様! ごきげんよう!」

 

ハスミ嬢が、畢生(ひっせい)の名演とでも言うべき美しい敬礼と共に、やや上擦った声で挨拶をする。無理もない。ヒラの委員(しかも一年生)にとって、ティーパーティーとは直属の上司どころか、天上の存在に近いのだから。隣のイチカ嬢に至っては、もはや彫像である。先ほどまでの威勢はどこへやら、借りてきた猫どころか、ポンペイの遺跡から発掘された石膏像のように、カチンコチンに硬直している。ぷるぷると小刻みに震えるプラチナブロンドが、彼女の内心の動揺を雄弁に物語っていた。まったく、ティーパーティー恐るべし。その存在だけで、場の空気を凍てつかせ、不良少女をも石化させるのだから。

 

「あらあら、随分と騒がしいと思ったら……。ハスミさん、これは一体、どういう状況ですの?」

 

ティーパーティーのホスト、ナギサ嬢が、穏やかながらも有無を言わせぬ口調で尋ねる。その声には、場の空気を一瞬で支配するような、不思議な圧があった。ミカ嬢はといえば、私のザクスーツへの興味が勝るのか、あるいはこの場の微妙な空気などどこ吹く風なのか、既に私の傍らに移動し、鋼鉄(メタル)の装甲を無遠慮に観察している。セイア嬢は静かに目を伏せ、何やら思案顔だ。

 

「は、はっ! ナギサ様! こちらは……その……」

 

ハスミ嬢は、必死に状況を説明しようとするが、緊張のあまり言葉がうまく出てこないようだ。頑張れハスミ嬢! 君の正義はそこにあるのか! 君は生き延びることができるか?

 

そんな彼女を尻目に、ナギサ様の理知的な視線が、部屋の隅で縮こまっている(物理的には大きいのだが)私へと向けられた。

 

「プルガトリウムの……Nさん、でしたね」

 

ひぃっ! 名指し! しかも、どこで私の名前を!?

 

「先ほどの戦闘、拝見しておりました。見事な戦いぶり……いえ、奮闘(ふんとう)ぶりでしたわ。トリニティの生徒を救ってくださったこと、ティーパーティーとして感謝いたします」

 

な、なんと! 感謝の言葉! しかも戦闘を見ていた!? どこから!? まさか、この詰所には監視カメラ的なものが……いや、考えるのはよそう。深く考えてはいけない。キヴォトスでは、そういうことが往々にしてあるのだ。

 

「い、いえ、そんな……たまたま居合わせただけで……」私は恐縮して答えるしかない。

 

「ご謙遜を」ナギサ様は穏やかに微笑む。その完璧な笑みは、まるで能面のようにも見え、その奥にある真意を窺い知ることは、私のような俗物には到底不可能であった。 これは、尋問の前口上(まえこうじょう)に違いない。「それで、Nさん。単刀直入に伺いますが、貴方がトリニティの管轄区域にいた理由、そしてその異様な……ザクスーツについて、詳しくお聞かせ願えますか? 我々としても、看過できない問題ですので」

 

やはり来た。王道にして、私にとっては死刑宣告にも等しい質問である。私は内心で呻いた。アビドスでの任務──雷帝の遺産の調査などと、口が裂けても言えるわけがない。ゲヘナとアビドスの問題に、トリニティの、しかも最高権力者が関わってきたとなれば、事態は国際問題(インターナショナル・インシデント)に発展しかねない。ここは適当にはぐらかすしかない。しかし、一体どうやって? 私の貧弱な脳味噌が、必死に言い訳を検索するが、出てくるのはエラーメッセージばかりだ!

 

「あ、あの、それはですね……」私は、しどろもどろになりながら、必死に言葉を紡ぎだそうとする。「その、道に迷ってしまいまして……ええ、トリニティのあまりの美しさに、つい、ふらふらと……。それで、このスーツですが、これは、その、なんと言いますか……最新式の、えーっと……健康器具(ヘルス・ギア)? のようなものでして! そう、装着型筋力(きんりょく)トレーニングマシンとでも申しましょうか! プルガトリウムでは今、これが大流行でして! ええ! 皆これで日々、肉体を鍛え上げているのですよ! はは、ははは……」

 

我ながら、あまりにも苦しい、そしてあまりにも馬鹿げた言い訳である。健康器具? 筋トレマシン? 全長二メートルでモノアイ付き、背中にはスラスターまで搭載した筋トレマシンが、この世のどこにあるというのか! しかもプルガトリウムで大流行? 嘘つけ! 我が母校で流行っているのは、プロテインと意味不明な筋肉自慢だけだ!

もうダメだ。終わった。私の人生は、この詰所で、ティーパーティーの冷ややかな視線の中で、静かに終わりを告げるのだ。せめて最期に、ラーメンを……。

 

「健康器具、ですか?」ナギサ嬢は、美しい眉をピクリと動かした。その声には、呆れとも、あるいは純粋な困惑ともつかない響きが混じっている。「その……随分と物騒なデザインの健康器具ですのね。しかも、それでオートマタの一個小隊を殲滅なさった、と?」

その目は、明らかに「貴方、本気で言っていますの?」と問いかけている!

 

「……ま、まあ、たまたまです! 運が良かったというか! そう、(たな)から牡丹餅(ぼたもち)怪我(けが)功名(こうみょう)(ぶた)(おだ)てりゃ()(のぼ)る、みたいな!」

もう支離滅裂である。私の語彙力は、空腹と緊張によって完全に崩壊した。

 

「運、ですか」ナギサ嬢はふぅ、と小さく、しかしそれはそれは深ァい溜息をついた。「その“運”で、トリニティの生徒を救ってくださったことには、感謝いたします。……正直、貴方の仰ることを鵜呑みにするわけにはいきませんが」

 

おや? 意外にも追求はそれ以上なかった。むしろ、感謝の言葉まで頂戴してしまった。これはどういう風の吹き回しか? あるいは、私のあまりの挙動不審ぶりに、憐れみを覚えてくださったのだろうか? だとしたら、それはそれで情けない話である。

 

「それでね、Nくん!」ミカ嬢が再び口を挟む。私のスーツへの興味は尽きないらしい。「そのスーツ、もっと詳しく見せてよ! 中はどうなってるの? やっぱり操縦服(パイロットスーツ)とか着てるの? それとも生身? 生身なら、ちょっと……いや、かなり興奮するかも☆」

後半の発言は聞き捨てならん! 断じて生身などではない! いや、生身なのだが、そういう意味ではない!

 

「ミカさん、お黙りなさい」ナギサ嬢が、今度は少し強めの口調で制止する。どうやらミカ嬢は、私のこの胡散臭いスーツに本気で、それも少々危うい方向で興味を持っているらしい。ありがたいような、断固(だんこ)として迷惑なような。

 

「君の行動には不可解な点が多い」セイア嬢が静かに告げる。「だが、今はそれを詮索する時ではないのかもしれない。流れは、まだ定まっていないのだから。……ただ、その鉄塊(スーツ)が、良くも悪くも、事態の(キー)となる可能性は高い。それだけは、覚えておくことだね」

またしても意味深な発言。そして不吉な予言。この方は一体何が視えているのだろうか。私の寿命とか? できれば聞きたくない。

 

「Nさん」ナギサ嬢が居住まいを正し、私に向き直った。場の空気が再び引き締まる。「貴方の目的が何であれ、トリニティの危機を救ってくださった事実は変わりません。ティーパーティーとして、改めて感謝を申し上げます。……つきましては、今回の件に関する報告と、今後の協力について、少しお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

協力? 何の協力だ? 私の貧弱な脳味噌が、けたたましい警鐘を鳴らす。これは間違いなく、さらなる面倒事への、甘美にして危険な招待状だ! 断固拒否! ……したい。したいのだが、この場の空気、そしてナギサ様の有無を言わせぬオーラの前では、私の「否」というか細い声など、風前の灯火にも等しい。

 

「いえ、私はその、ただの通りすがりのプルガトリウム生でして……協力など、おこがましいというか……」

私は、最後の抵抗を試みる。実に情けない抵抗であるが。

 

「あらあら、ご謙遜を」ナギサ嬢はくすりと笑う。その笑みは、春の陽光のように温かいようでいて、同時に深淵を覗き込むような、底知れぬ何かを感じさせた。 怖い!「まあ、立ち話もなんですし……場所を移しましょうか。丁度、お茶の時間ですわ。美味しい紅茶とケーキをご用意させます」

 

お茶……ケーキ……。なるほど、トリニティらしい、優雅な響きである。だがしかし! 今の私の飢渇(かつえ)は、そのような洒落(しゃれ)たものでは到底満たされぬ! 私の身体が、魂が、胃袋が欲しているのは、もっとこう、荒々しく、野蛮で、そして至福(しふく)に満ちた……!

 

「お茶より、ラーメンが食べたいんですが」

 

私の口から、衝動的(インパルス)に、しかし確信犯的に、その言葉が滑り出た。

言ってしまった。ついに言ってしまった。ティーパーティーの御前で、「ラーメンが食べたい」と。

 

しん、と詰所に静寂が訪れた。まるで、時間が止まったかのようだ。ティーパーティーの御三方は、一瞬きょとんとした表情を浮かべ、ハスミ嬢は信じられないものを見る目で私を見つめ、イチカ嬢は硬直したまま口を半開きにし、ノア嬢は興味深そうに目を細め、津山君は「こいつ、終わったな」とでも言いたげな憐憫の視線を私に送っている。モブ生徒たち(まだ残っていたのか)に至っては、息を呑む音すら聞こえてきそうだ。

 

私の人生という名の、薄っぺらい舞台劇。そのクライマックス(あるいは破滅への序章)が、今、静かに、しかし確実に、幕を開けた瞬間であった。ああ、神よ、仏よ、ラーメンの神様よ。私に、せめて最後の一杯の慈悲を……!

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