宝具を持たずとも相対するは英霊。
一人ひとりの力量は、セイバーと比べるべくないのだが、とにかく数が多い。
おまけに、ランサーによって与えられた左手の傷は未だに治っていないために、頼みの綱である対軍宝具が封じられている始末である。
更にセイバーの呼吸の隙を突き、戦車に乗ったライダーが突撃してくるため。
それの対処もせねばならなかった。
「今一度問うぞセイバー。どうだ、余と共に、世界を獲らんか?」
「答えは決まっているぞライダー!!私は、貴様の軍門には降らない!!私はやり直さねばならないんだ!!」
「断るならば、それもやはり良し!!だが、何度も言うぞ。己を信じた者を裏切る事は、王として一番してはならんことよ!!」
「・・・裏切りではない!!ただ、幸せに成って欲しいだけだ!!こんな私に着いてきてくれたからこそ!!」
受け入れがたい滅びを前にして、途方もない絶望を感じたセイバーは、ライダーの言葉に耳を傾ける事はない。
例えこの聖杯戦争で敗北しても、セイバーは変わらない。
きっと、変われないのだ。
◎
いつの間にか、戦場は大地から大空へと変わっていた。
宝具化したワイバーンを駆るバーサーカーであるが、圧倒的密度で宝具を射出するアーチャーに対して、未だ傷一つ与えられない。
だが、アーチャーは苛立っていた。
「雑種、貴様侍らせる英霊が英霊であるならば。貴様も盗人かッ!」
「戦略と言って欲しいわアーチャー」
アーチャーの射出した宝具は、彼が回収するよりも早くにアナが展開した虚数空間への入り口を通して、彼女の固有結界へと納められていく。
「おのれッ!」
「返してあげるッ!」
固有結界を通した事で、アナによって奪われた宝具はアーチャーに回収される事なく、彼の射出した宝具にまるで意思を持っているかの如く向かっていき、壊れた幻想を引き起こす。
冬木の空に咲いた花火によってできた、宝具の無い空間へとバーサーカーが騎乗していたワイバーンを蹴り飛び込む。
「Gaaaaaaaaa!」
「貴様ぁ!!誰の許可を得て、我を見下ろしているッ!バーサーカーッ!」
双槍が振るわれた事で、アーチャーはヴィマーナの上で回避するために半歩下がる。
しかし、それはアーチャーにとって屈辱であった。
理性なく、誰彼構わず噛みつく狂犬に王たる自らが防御を取らされたのだ。
「そうか・・・。ならば、マスター共々殺してやろう」
「!?・・・Kiiiiiiiiiill!!」
通常であればバーサーカーに使用することは無かったであろう、だが此度においてアーチャーはそれを解き放った。
「
「Aaaa!?」
双槍が破壊され、バーサーカーの腹部を鎖の先端が貫き、更に彼を宙に固定する。
「ヤバッ!」
拘束されたバーサーカーを確実に仕留める為に、アーチャーが黄金の波紋をバーサーカーを囲むように展開する。
それを見たアナは、今まで背負っているだけで、中に触れようとしなかったそれを箱から取り出すと共に、魔眼を解放した。
◎
ライダーによって轢き飛ばされたセイバーが着地すると、彼女へと向けて槍に弓矢が飛来してくる。
だが、セイバーはそれを風を巻き起こす事で薙ぎ払うと、左手の違和感が消えている事に気がつく。
「これは・・・!!」
それは、同時刻にて起こっているバーサーカー対アーチャーの戦闘において、必滅の黄薔薇が破壊された為だ。
「この軍勢が貴方の描いた軌跡なら、この光が私の王としての印!!」
風王結界が解除された事で、聖剣がその身を輝きと共に現われる。
「ぬぅッ!」
それを見たライダーが、ウェイバーと共に戦車から降りる。
「束ねるは星の息吹。輝ける命の奔流。受けるが良い!!」
Alalalalalaiと勝ち鬨を上げながら迫る軍勢へと、セイバーは聖剣を振り下ろす。
「
飛び出た戦車が稲妻を伴い数瞬拮抗するが、抵抗虚しく光に呑まれる。
その運命は軍勢と同じく、塵一つ残さず消し去られた。
ライダーの展開する王の軍勢は、臣下と共に一つの心象を展開する固有結界。
それ故に、固有結界内にライダーしか残らなくなれば、必然固有結界は解除される。
「されど我が進撃は止まらん!!Alalalalalai!!!!」
例え一人になろうともライダー止まらない、彼はその命尽きるまで世界の果てへと進み続けるが故に。
「ライダー、貴方こそ。世界征服などと言う、夢から醒めるべきだッ!」
放たれた風王鉄槌により、ライダーの騎乗していたブケファラスが絶命し退去する。
ウェイバーは地面に投げ出されるが、ライダーは彼に笑みを向けると、剣を抜きセイバーへと突撃していく。
「行けぇぇぇぇええ!!ライダー!!」
だが、ウェイバーの声援虚しくに、左手が治ったセイバーによって、ライダーは剣を振り下ろした腕を撥ね飛ばされ、続く一太刀で霊核を破壊された事で消滅した。
「ライダー・・・」
項垂れるウェイバーを背に、セイバーは再びバイクに跨がり冬木市民会館へと向かって行った。
◎
射出されると思われた宝具であったが、突如として現われたケルベロスによって防がれる。
「なに?」
更に、アーチャーは自らが徐々に石へと変わっていっている事を知覚する。
「おの――!がぁッ!」
悪態を言い終わらぬ内に放たれた黄金の斬撃が、アーチャーをヴィマーナから吹き飛ばすが、彼が地面に落下する前にヴィマーナが滑り込む事で落下を防ぐ。
「やはりか女。貴様、神の裔か」
「
「吠えたな!!」
バーサーカーを拘束から解いた天の鎖が、アナを葬る為に向かってくるが、ケルベロスが彼女の身代わりとなり天の鎖に縛られる。
解放されたバーサーカーがアナの創り出した影を踏み、アーチャーへと駆けていく。
「・・・・・・ッ!光栄に思うが良い!!」
このままでは負けると判断したアーチャーが鍵を取り出すと、赤い線が空間を走り抜けると、彼の手に乖離剣エアが現われる。
「バーサーカー、いいや裏切りの騎士!!貴様には相応しかろう!!裁きの時だ!!」
あれが放たれればアナが無事では済まないと判断した、バーサーカーが一息に彼女の乗るワイバーンに着地すると、ワイバーンに全力の回避態勢を取らせる。
「原初の地獄を見るが良い!!受けよ、
嵐が巻き起こり、横薙ぎに振るわれワイバーンが呑まれ消滅する。
そして、空が砕けた。
砕けた空より、泥が溢れる。
人類を呪う泥が冬木に溢れ落ちていく。
「フハハハハハハハハハ!!綺礼よ、貴様の目にはこの聖杯がさぞ美しく見えるのだろうな!!」
現代の人の愚かしさに、アーチャーが心底可笑しそうに爆笑していると、砕けた空に黒点が一つ。
それで彼は気がつく、石化は止まっていない。
「馬鹿なッ!」
「Oooooooooo!!!!!!」
怪物の黄金剣を握るバーサーカーが、ヴィマーナに着地するとアーチャーを斬り付け蹈鞴を踏ませるとヴィマーナから蹴り落とす。
「輝いて眩しかったわ、ギルガメッシュ」
「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇぇええええ!!!」
バーサーカーによりヴィマーナが掌握された事で、地上に溢れる泥へとアーチャーは頭から落ちる。
「ぐッ!貴様、この我を喰らうかッ!おのれ、おのれバーサーカぁぁあぁぁぁぁああぁああああ!」
泥に呑まれ見えなくなる最後までアーチャーの叫びは木霊した。
アーチャーの最後を見届けたアナは、バーサーカーから怪物の黄金剣を返して貰い箱に収納し、魔眼も閉じる。
「さて、聖杯の元へ行こうか」
その言葉に、バーサーカーは無言で頷くとヴィマーナを操作し、半壊し泥の降り注ぐ冬木市民会館へと向かっていった。