間桐の親戚さん   作:鍋の中の白い奴シラタキ

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夜明け

 耳を澄まさねば聞こえない程であるが、アイリスフィールはまだ息をしていた。

冬木市民会館のホールの壇上に横たわれている彼女の耳に、階下から響く銃声が届く。

どうやら、セイバーよりも先に冬木市民会館へと切嗣は到着しているようであった。

屋外ではアーチャーとバーサーカーにアナが盛大に暴れ回っているが、上手く切り抜けたようだ。

 身体さえ動かせれば、アイリスフィールは今すぐ切嗣の元へと駆けつけたい。

だがそれは叶わない、それは例え身体が動いても、もう叶わない。

何故か?

 ホールの天井が、アーチャーの放った天地乖離す開闢の星によって吹き飛ぶ。

それによって、アイリスフィールは見てしまう。

割れていく空から、悍ましい呪いを湛えた泥が溢れ落ちていくのを。

 

(嘘・・・)

 

そして直感してしまう、小聖杯である彼女であるから直感してしまう。

あの泥こそが、切嗣が欲してやまなかった聖杯であると。

あんなものが、何よりも世界平和を望む切嗣が縋った聖杯であると。

確かに、あれに願えばアインツベルンの悲願である第三魔法『ヘブンズフィール』は成るだろう。

しかし、その後に見えるのは明白だ。ひとたび、あのような物が完全に起動すれば、それは人類の絶滅しかないと。

 

(無駄だったと言うの?無意味だったと言うの?切嗣の献身は、報われないと言うの?)

 

ああ、そんなの酷過ぎる。

これが、泥に呑まれ活動を停止する直前の、アイリスフィールの思考であった。

 

 

 

 

 

 

 舞弥と共に、綺礼を倒しアイリスフィールを取り戻しに来た切嗣。

彼は今、遙か遠き理想郷を使用しているため肉体へのダメージを度外視した戦法を取り、綺礼の片腕を奪っていた。

だが、ここまでやって片腕なのである。

 

「衛宮切嗣。お前は、私が生きてきた中で最も理解できん人間だ」

「そうか、殺す必要の無い父親を殺す男に理解されたいだなんて思わないさ」

「まるで、貴様も父を殺したことがあるような言い草だな」

 

聖杯が降りる場所を調べた際に、教会にて見つけた璃正の死体。

そしてこの戦闘において、綺礼が使用した腕にびっしりと刻まれた令呪。

これにより結論づけた事で、切嗣は嫌味を返すが、綺礼には堪える様子などない。

 自身と舞弥の二人がかりでも、倒しきれない綺礼に切嗣が内心舌打ちしていると、綺礼がアーチャーが打倒された事を察知する。

それによる動揺で、動きが止まった所に切嗣がトンプソンコンテンダーを抜き引き金を引こうとすると、天井が割れ泥が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 崩落している天井より市民会館のホールに入った、アナとバーサーカーは泥の滝から何かが出てくるのを察知する。

 

「あれが、聖杯・・・」

 

折角なら直で見たいからと、包帯を取ったアナは泥の滝の前に浮かぶ聖杯を見る。

 

「愛はあげられないけど、雁夜くんにはあれで我慢して貰おう」

 

明らかにまともな物では無い泥に触れないように、アナはバーサーカーに自身を抱えさせ聖杯の元へと辿り着く。

 

「貴方は要らないのバーサーカー?」

 

凄まじいまでに聖杯に執着している臓硯の様子から、聖杯戦争に参加する英霊はあのアーチャーのような例外でも無ければ、等しく聖杯が欲しい物だと彼女は思っている。

だが、バーサーカーは聖杯を掴みはしてもただ眺めるだけで使おうとせず、アナの問いかけに首を縦に振る。

 すると、バイクの音が近づいてくると壁を砕きセイバーが現われる。

 

「それを渡せ、バーサーカー!!!」

 

臨戦態勢の状態でそう言うセイバーを見て、アナが一歩下がると、バーサーカーは聖杯をポイと捨てる。

 

「なッ!?」

 

理解できないと、驚きの声をあげるセイバーの前で聖杯は宙に浮かぶと滞空を始める。

 

「Arthurrrrrr・・・」

「お前は、私を知っているのか?私は、お前を知っているのか!?」

 

問いかけるセイバーへと歩んでいくバーサーカー、一歩一歩踏み出すごとに彼を包む黒い靄が晴れていく。

 

「その・・・鎧は・・・」

「Arthurrrrrrrr・・・」

 

完全に靄が晴れた事で、正体を現したバーサーカーの兜が消える。

今までは兜によって隠されていた、彼の素顔は元は整っていたのであろうが、髪は乱れ、歯はまるで獣のようであり、瞳は淀んでいた。

 

「ら、ランスロット卿・・・。どうして、どうして、貴方程の人がバーサーカーなど・・・」

「何故・・・」

 

狂化されて居たといえど、これはバーサーカーの魂の底からの慟哭なのだろう。

 

「アーサー王、何故私を裁かない・・・!!」

「何を・・・」

 

本気で分からないと言うセイバーへと、バーサーカーは己の最後の切り札である無毀なる湖光(アロンダイト)を抜き放ち斬りかかる。

 

「姦淫をッ!不貞を犯した私をッ!」

「あれは・・・!あれは、あの結末が幸せでッ!」

「幸せ!?何故!!」

 

起源が同じ神造兵装と言えど、それを振るう両者の精神は方や折れかかって居るために、ただ憎悪を燃やすバーサーカーが押していた。

 

「貴方とギネヴィアは愛し合っていたから!!私では彼女を幸せにできないッ!」

「貴女の感傷で、罰なく私は許されたのか・・・!私は!!彼女は火に炙られたと言うのにッ!」

「嘘だ・・・」

 

バーサーカーの斬撃が、セイバーの鎧を割り血を噴き出させる。

 

「彼女は・・・修道院に送ったと・・・」

「・・・ッ!Arthurrrrrrrrrrr!!!」

 

配下の騎士よりは、そう聞いていたのであろうがバーサーカーは真実を知っていた。

確かに、不貞を起こした己とギネヴィアは悪い。

だが、己を罰さずギネヴィアのみを罰し。

あまつさえ、セイバーはそれを知らないと来た。

 バーサーカーは再び兜を被り、赤黒い光を激しく発する無毀なる湖光をセイバーへと振り下ろす。

 

「ぐぅッ!」

 

例え、バーサーカーの憎悪が逆恨みから来るものでも、セイバーはギネヴィアの末路と合わせ、全ては己の罪と抱え込む。

 

「すまないランスロット・・・。だからこそ私は、聖杯を手にしなければならない!!」

 

無毀なる湖光を受け止めていた、約束された勝利の剣の風王結界が解かれると刀身が輝きだすと、無毀なる湖光を弾き飛ばしバーサーカーは、セイバーに蹴り飛ばされる。

 それを見て、今まで勝利を確信していたが故に、戦いを観戦していたアナが動こうとすると、銃声が響きアナの身体に激痛が走る。

 

「っあ!!」

「!!」

 

放たれたそれ、起源弾により左腕の神経を駄目にされた事で、よろめいたアナはそのままバランスを崩し泥に頭から落ちていったしまった。

 

「Guineverrrrrrrre!!!」

 

どうやら狂化が施されているために、マスターであるアナの事をギネヴィアと認識していた、バーサーカーが絶叫をあげるが、セイバーの約束された勝利の剣の発動準備が完了する。

 

「三画の令呪を持って、勅令とする。・・・・・・全魔力で持って聖杯を、聖剣で破壊しろセイバー」

「切嗣!?何故!!」

 

トンプソンコンテンダーを撃った事で脱臼した肩を押さえながら、セイバーへと勅令を下した切嗣はへたり込む。

 

「僕は、正義の味方になりたかったんだよ」

「切嗣!!!切嗣!!!うああぁぁぁぁああああああ!!!」

 

泥に呑まれた事で、聖杯の正体を知ったことで切嗣は今己のやるべき事を果たす。

 

「すまない、アイリ、舞弥」

 

聖杯と成ってしまったアイリスフィール、そして泥に呑まれ呪い殺された舞弥への、謝罪を口にしながら切嗣は、聖剣の光に呑まれ聖杯が砕けたのを見届ける。

 宝具の発動と共にセイバーは消滅し、バーサーカーも姿が見えない事から余波によって消滅したのだろう。

よってこれで、呪いの泥は止まると切嗣は思ったが、最後っ屁なのか黒い太陽が現われると、一際大量の泥を吐き出していく。

 

「馬鹿な・・・」

「愚かな男め」

「言峰綺礼・・・」

 

呆然とする切嗣の後ろから、息も絶え絶えであるがなんとか生きている綺礼が現われる。

 

「聖杯戦争の勝者は貴様だ。平和へと手をかけたではないか」

「あんな殺戮の果てに有るものが、平和だなんて。僕は、認めない」

 

切嗣はそう言うと、無事な方の腕で綺礼へと銃を撃つ。

 

「殺すしか脳はないのだ、所詮は人だからな」

 

綺礼はそう言うと倒れ、事切れた。

 

 

 

 

 

 

 止めどない悪意の奔流によって、深く深く引きずり込まれていく。

今まで辿った己の軌跡が塗りつぶされていく。

もう間もなく自らが誰であったかも、この悪意が塗りつぶすだろう。

 

「それは頂けないね。僕はハッピーエンドが好きだからね。多少強引だとしてもさ」

 

花が、咲いた。

 

「誰・・・?」

「アルトリアもだけど、ランスロットにも多少の罪悪感はあるのさ」

 

泥に花を咲かせた魔術師は、己があやふやとなった女に何かを混ぜていく。

 

「今の君は酷く脆い。だから補強をしよう。うん、きっと愛が何かも知れるさ」

「・・・イリヤ?」

 

雪の上を走るこの少女は誰だ。

だが、己はこの少女を思い浮かべ、愛おしいと感じた。

 

「さぁ、君の物語はまだ終らない」

 

身体が悪意の坩堝より浮上していった。

 

 

 

 

 

 

 平和の為の最後の戦争は終った。

だが、訪れたのは平和などではなく、災厄であった。

 己の行いでもたらされたしまった、この災厄の中。

救いを求めて切嗣は、生きている者をひたすら探す。

見つかる筈は無く、全ては泥によって発された呪いによって燃やし尽くされている。

 だが、運命は残酷なだけではない。

頑張ったからには、僅かでも報われるのだ。

ふらふらと歩く赤毛の少年が居た。

 

「あ・・・」

 

年の頃は、自らの娘とそうは変わらないだろう。

とうとう力尽き倒れていく少年を、切嗣は全速力で駆け寄り抱き留める。

少年は生きている。

 

「ありがとう・・・!!ありがとう・・・!!」

 

切嗣が少年を抱きかかえ、火災の起きていない地区へと向かい救急隊員に少年を受け渡す。

 救急車に乗せられ搬送される少年を見届けると、背後でガシャリと甲冑が擦れる音がした。

 

「バーサーカー・・・!」

 

聖剣の一撃を回避したのだろう無事なバーサーカーは、切嗣に自らが抱えるアナを差し出す。

 

「どういう、つもりだ・・・」

「我が王のマスター・・・。貴方に、彼女を・・・」

 

言葉を発した事に驚きつつも、切嗣はこれ以上命が失われるのは嫌だと感じたことで、バーサーカーよりアナを受け取る。

それを確認したバーサーカーは頭を下げると霊体化した。

 

「まだ、生きている人が!!」

 

切嗣はアナを抱きかかえ救急隊の元へと再び向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 間桐邸に、焼け爛れ元の顔の判別が付かなくなった雁夜が入る。

 

「聖杯・・・だ・・・」

 

セイバーによって破壊されても、一部は残っていたのか聖杯の欠片を持った雁夜は、修練場へと向かっていく。

 

「約束・・・、愛・・・」

 

譫言を呟きながら階段を降りていく雁夜は、足を滑らせ一気に階段を転がり落ちていく。

 

「雁夜よ、なんだその体たらくは」

 

どうやら、今夜は桜への修練を行っていないのか。

修練場には臓硯が居た。

 

「爺・・・、聖杯だ・・・。桜ちゃんを・・・」

「カカカ、そんな欠片で何ができる」

「う、ああぁあぁああ・・・。アナ、桜ちゃん・・・・・・・・・・・・葵さんッ!!なんで俺を愛してくれないんだッ!!」

 

嗚咽をあげながら間桐雁夜は、その無為な生涯に幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 炎の熱で、目が覚める。

 

「これは・・・」

「全く、悪運が強いな貴様は」

「ギルガメッシュ」

 

霊核を破壊されるではなく、泥に叩き落とされる事で敗北したアーチャーは、泥の悪意に屈さずあまつさえ飲み干し受肉した。

 

「神のご加護か・・・」

 

こちらは切嗣に撃ち殺されたままで、綺礼は十字架に手を当てる。

 

「!!鼓動が」

「さて、我は受肉をはたしてしまった。征服王めが悔しがるな。さて、綺礼人生の延長戦であるが、貴様は何をする」

「生きているのならば、私は役割を全うする。だが、あれは祝福してやらねばな」

「良いぞ、我が許す」

 

黄金の波紋より取り出した酒を飲み、アーチャーは地平を眺める。

 

「さて、我はしばしこの世を堪能するとしよう」

 

今の人間は醜悪ではあるが、娯楽を楽しむのも良いとアーチャーは考えるのだった。




第四次は此処にて閉幕
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