間桐の親戚さん   作:鍋の中の白い奴シラタキ

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幕間

 第四次聖杯戦争より暫しの時がたった頃、衛宮切嗣は自身で救助した少年を養子とした。

少年の名前は、衛宮士郎となり。

現在は切嗣と共に武家屋敷に居住している。

 そして、切嗣は一人で病院へと赴いていた。

あの日、ランスロットよりどういうわけか託された、彼のマスターであるアナ・クレメットが意識を取り戻したと、病院から連絡が来たからだ。

実に、聖杯戦争終結より2年の時が経った今にである。

 何やら説得をしようとしている看護師の声が聞こえる病室、そこにアナは居るらしい。

ノックをすると声が止み、入室を許可されたので、切嗣は病室へと入る。

 

「僕の事は分かるかい」

 

瞼は開いているのに焦点の合わない視線は、切嗣が声をかけた事で彼の方へと、一瞬定まるが直ぐにぶれる。

 

「・・・切嗣?」

 

アナからすれば初対面とそうは変わらないと言うよりも、アインツベルン城での戦闘と冬木市民会館での闇討ちの二回。

どちらも良い印象など与える訳がないのである。

だと言うのに、彼女の口より発せられた切嗣の名は暖かい物が込められていた。

 

「目が、見えないのかい」

「そうなの。光が差して暖かい筈なのに、真っ暗」

 

まるで、長年連れ添ったかのように語りかけてくるアナに、切嗣はどこか不気味な物を感じながらも、敢えてそこには触れない。

 

「少し、右手を見せて貰っても良いかな」

「ええ」

 

断る理由なんて無いのだろう、躊躇う事なく頷いたアナの右手を、切嗣は触れる。

 

(二画・・・。つまり、バーサーカーはまだ退去していないのか)

 

令呪が残っていると言うことは、バーサーカーはまだアナの側に居るという事になる。

 

「ねぇ、切嗣」

「なんだい」

 

できるだけ、今のアナは刺激しないようにしておこうと決めた切嗣は、アナに言葉の先を促す。

 

「イリヤを迎えに行かないと・・・」

 

ぞわりと、背筋に悪寒が走った。

何故、この女が自身の娘を知っているのか。

この2年、アナは一度たりとも目を覚ましていない。

意識が覚醒のしたのだって、ここ数日の事なのである。

 

「何を・・・言っているんだ・・・」

 

思わず口を出た言葉に、切嗣は失言だったと気づきアナから距離を取る。

 

「約束をしたでしょ。全部終ったら迎えに行くって」

 

確かに約束はしている、切嗣はその約束を果たすためにアインツベルン城へと何度も赴こうとしている。

だが、当主であるアハト翁は折角顕現した聖杯を破壊した事で、切嗣を裏切り者と見なし、イリヤに合わせるつもりがないのだ。

 

「君は、アイリじゃない。君は、イリヤとは何も関係無い」

「・・・」

 

切嗣からそう言われた事で、アナは右腕で頭を抑える。

両腕で押さえようとしたのだろうが、左腕は痙攣するだけで動く事はないようだ。

 

「私は・・・誰・・・」

 

譫言を繰り返した後に、出力された言葉と共に涙が落ちる。

 

「誰・・・?」

 

その様子を見て、切嗣が何も言えなくなっていると、同室していた看護師に退室を促される。

 切嗣が病室から出ると、看護師も共に退室してくる。

 

「彼女は、ずっとああなのかい」

「はい。あの様子に至るまでを繰り返しています」

 

看護師からの返答を聞いて、切嗣はまさかと考える。

第三魔法が中途半端に発動して、アイリスフィールの記憶の一部がアナに混ざり込んだのではないかと。

真実は、花の魔術師による介入であるが、切嗣にそれを知る術は無い。

 

 

 

 

 

 

 病院での一連の出来事を終え、帰宅した切嗣は夕食を終らせた後に士郎に問いかける。

切嗣自身の中での答えは決まっているが、士郎の意思も大事であるからだ。

 

「士郎、この家僕と二人じゃ広いと思わないかい」

「なんだよ切嗣。急に改まって」

 

お茶を飲み喉を潤わせた切嗣は、士郎に言う。

 

「今日、僕は病院に行ってきたんだ。そこで、あの日士郎の後に助けた人に会ってきた」

 

正確には、ランスロットから託されたであるが。

 

「その人さえ良ければ、僕は此処に居て貰いたいと思っている」

 

切嗣からしてみれば、今のアナは不気味である。

だがそれ以上に、見捨ててはおけなかった。

もう正義の味方になれないとしても、小さな善くらいはやっても良いだろうと、切嗣は考える。

 

「俺は・・・反対する理由がないよ。切嗣、仕事で家に居ない時の方が長いだろ?」

「ハハ、痛いところを突かれちゃったね」

 

士郎に賛成された事で、切嗣はアナが拒絶しなければ、彼女を此処に引き取ろうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 改めて士郎と決めた事を、切嗣はアナへと告げに来ていた。

 

「君さえ良ければ、僕と一緒に暮らさないかい?」

 

切嗣が改めて調べた事によると、この2年において当主不在となったクレメット家の資産は、そのほぼ全てが間桐に接収されていた。

故に、此処でアナが断ったとしても、彼女に行く当てなど無いのである。

 

「私・・・自分が誰かも分からない。イリヤと貴方が大事と言うことしか覚えてない。でも、違和感があるの」

 

アナ自身、混ぜられた記憶に違和感はあるのだろう。

だが、思いは止められない。

 

「それでも、貴方と居られるなら一緒に居たい」

「・・・うん、ありがとう」

 

アイリスフィールではないと分かりきっている、全くの他人なのに切嗣は、微笑むアナにアイリスフィールの面影を感じずには居られなかった。

 

 

 

 

 

 

 ささやかであるが、アナの歓迎会を兼ねた退院祝いを終らせた夜。

切嗣は自身以外が寝静まった屋敷にて、縁側で酒を飲んでいた。

 

「やはり、貴方に彼女を託して正解だった」

「バーサーカー・・・」

 

庭の暗がりから滲むように現われたランスロットは、どういうわけかバーサーカークラス特有の狂化が弱まって居るようだった。

 

「あの呪いの中、命を救おうとしていた貴方に、私は高潔さを見た」

「だから僕に彼女を託したのかい」

「我が王がマスターとして認めていた方でもあるからだ」

 

ランスロットの言葉に、切嗣はセイバーの慟哭を思い出す。

 

「僕は、彼女を土壇場で裏切ったんだ。それでも、高潔と言えるかい」

「それでもだ。あの聖杯は、誰も使ってはいけない。我が王も理解してくださる」

 

とても、あの最終決戦でセイバーの精神を言葉でぼっこぼこにしていた奴には見えないランスロットであった。

 

「切嗣殿、どうか彼女と貴方達に幸有らんことを」

 

ランスロットはそう言うと、霊体化して消えた。

 

「取りあえず。危険はないか」

 

狂気がなりを潜めているランスロットを見て、切嗣はそう判断し酒を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 そして、教会の書斎では言峰綺礼は頭を悩ませていた。

 

「ふむ・・・」

「何を考え込んでいる綺礼」

「ギルガメッシュ。・・・なんだその格好は」

「見て分からぬか。我は暫しの時、湯浴み行脚に赴くとする」

 

相変わらずこの男は自由だと、綺礼はため息をつく。

 

「して綺礼、何を悩んでいるのだ」

「なに、我が師の遺言書通りに凜が成人するまで、資産運用を任されたのだがな。今月も赤字だ」

「・・・貴様、前から思っていたが天才的に才能が無いぞ」

「知っているとも。だからこそ、悩んでいるのだ」

 

ため息をつく綺礼をおいて、ギルガメッシュは温泉旅行に出かけていった。




温泉は貸し切った模様
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