魔力の残滓が光の粒となって舞う。
ランサーを斬り飛ばしたセイバーは、膝を突いている士郎を見下ろす。
「マスターて・・・。何のことかさっぱりだ」
「その手に刻まれた令呪こそ、マスターの証。これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある」
背後でランサーが立ち上がる気配を察知したセイバーは、いつでも応戦できるように剣を構え士郎に背を向ける。
「マスター指示を」
「指示って言ったって・・・」
指示をくれと言われても、何をすれば良いのかを士郎が理解できないでいると、態勢を整えたランサーがセイバーへと襲い掛かる。
「ま、八人目だとしてもだ。俺のやることは変わらねぇ!!」
吼え槍を振るうランサーであるが、セイバーは風王結界によって剣を不可視としている為に、ランサーはセイバーの剣の間合いをいまいち掴めない。
「得物を隠すとは、卑怯だぞセイバー!!」
「好きに言うが良いランサー、だが剣とは言ったが斧か槍。はたまた弓かもしれんぞ?」
「抜かせよセイバー、既に貴様以外の役者は出揃ってんだ」
互いに戦いあいながら相手の決定的な隙を両者は探すが、セイバーは何かに気づいたのか眉を顰める。
「ランサー、貴様やはり手を抜いているな?」
「許せや、気にくわねぇ令呪の縛りだ。サーヴァント全員と戦い帰還しろただし倒すなって言うな。だがまぁ、一撃本気でやってやるよ」
獰猛に笑ったランサーは、セイバーの振るった斬撃を身をかがめて躱すのを利用し後方に跳躍する。
「これで死んだらそれまでって事だ。受けて見ろ、我が必殺の魔槍!!」
構えられた槍に濃密な魔力が集約していくと、ランサーはセイバーへと槍を振るう。
「
ランサーと共に解放された槍が、セイバーへと襲い掛かるが彼女は剣で受け止める事でそれを防ごうとする。
だが、突き穿つ死翔の槍は因果逆転の魔槍。
心臓を貫いたと言う結果を置いて放たれる物。
その為にセイバーに襲い掛かっている槍は辻褄を合わせるために、穂先を刀身からずらしセイバーの心臓を穿とうとする。
「ッ!」
しかし、未来予知染みたセイバーの直感が働き穂先が肉を抉り出した段階で剣を振るい槍を弾き、ランサーへと風王鉄槌と共に剣を叩きつける。
剣を槍で受け止め風に身を任せたランサーは、塀の上に着地する。
「貴様、我が必殺を防いだな」
「ゲイ・ボルク、そうか貴殿はアイルランドの光の御子。クー・フーリンか」
「だから防がれるのは嫌なんだよ。まあ良い、宝具を撃って倒せなかったら帰って来いって命令だ。この勝負預けるぞ、セイバー」
再び風を纏ったセイバーの剣を一瞥したランサーは、霊体化し撤退した。
ランサーを退けたと言うのに、セイバーは未だ険しい表情をしていた。
「どうしたんだ。あいつはもう居ないんじゃないのか?」
「ランサーは退けましたが、サーヴァントが新たにこちらに向かっています。マスターは手負いに見える、こちらで待機を」
そう言いセイバーは士郎が何かを言う前に外に飛び出していった。
「待ってくれ!!」
また士郎も待てと言われて、待つ訳にはいかないのでセイバーを追っていく。
士郎が外に出ると、そこではセイバーがアーチャーに斬りかかっていた。
羽織っている黒いロングコートの裾を斬られるも、斬撃を躱したアーチャーはフードから覗く眼光を鋭くしセイバーへと銃を突きつけ引き金を引こうとする。
「やめなさいアーチャー!」
「正気か、凛!?」
しかし凛が令呪を使用しアーチャーの行動を止めた為に、アーチャーはため息をついて霊体化する。
「遠坂!?」
そして士郎の上げた声を聞いてセイバーもまた、凛へと斬りかかろうとしていたのをやめ士郎の側へとよる。
「何してるんだよ、お前・・・」
「それはこちらの台詞よ。まさか、貴方が七人目だったなんてね」
「七?」
ランサーと凛の言っていた数が合わない事に士郎が戸惑っていると、凛は警戒は忘れないながらに平然と衛宮邸へと入っていく。
「あ、おい!待ってくれ!!急に色んな事が起きすぎて何が何だか分からないんだ!!」
訳知りであろう凛を追って、士郎は出たばかりの自宅へと戻っていく。
それをセイバーはなんとも言えない顔でついて行った。
何も居ないのに送られてくる視線を努めて無視しながら、凛は先ほどセイバーとランサーの戦闘が行われていた庭へと立ち入る。
「派手にやられたわね衛宮君」
「急に襲われたんだよ、あのランサーって奴に」
それだけ言って窓ガラスを直そうとしない士郎を、凛はジトッとした目で見つめる。
「そんな目で見たって俺には直せないさ。俺は姉貴と違って強化くらいしか使えないんだ」
「そう、だったら一つ貸しておいてあげる。これで衛宮君は、私が助けを求めたら助けること」
凛はそう言って窓ガラスを魔術を使いあっという間に、割れる前の状態へと戻す。
「ありがとう遠坂。分かったよこの借りはきっと返すさ」
「マスター!」
「貴方のサーヴァントは否定的みたいだけど?」
「否定ではない、ただ警戒をしたまでです。アーチャーのマスター」
マスターはともかくサーヴァントは一流だと判断した凛は、盛大にため息をつく。
「なんだよ遠坂」
「ううん、なんでもないわ。さて、衛宮君質問よ。貴方何処まで知っているの?当然魔術師なんだから、自分が今何に参加しているかは把握しているわよね」
「参加?・・・何にだ」
「嘘。まさか貴方お姉さんに、何も聞かされてないの?」
凛はまたもやため息をつくと、士郎と向き合う。
「いい衛宮君。貴方は今、聖杯戦争って言う儀式に参加しているの。七人のマスターが殺し合い、万能の願望機たる聖杯を求めて殺し合うゲームにね」
「殺し合うって・・・。万能だってんなら皆で分け合えば良いじゃないか」
「そういうわけにはいかないの、聖杯が選ぶのは唯一人なのだから。さて行くわよ衛宮君」
「行くってどこにさ」
至極当然の士郎の疑問に凛は答える。
「なんちゃって魔術師の衛宮君に聖杯戦争を詳しく説明してくれる奴の居るところよ」
「遠いのか?」
「大丈夫、直ぐそこの隣町の教会ね」
行き先を聞いて朝には帰ってこれそうだと、士郎は判断すると凛について行こうとする。
「マスター、そう素直について行くのは」
「大丈夫だ。遠坂は悪いやつじゃないさ」
「何故そう言い切れるのです」
「俺を騙そうってなら、もう俺は死んでるだろうしさ」
「マスター・・・」
このマスターはお人好しの上に頑固やもしれないと、セイバーは思うのだった。
「どうしたの行かないの?」
「行くよ」
冬木教会へと向けて三人は出発した。
◎
教会へと向かう道中、サーヴァントに襲撃されると言うようなトラブルは起きずに三人は無事に教会に到着した。
「セイバー?」
「私は此処に残ります。お気になさらず」
教会の門扉を通ろうとしないセイバーに、そう言われた士郎は凛に促されセイバーを待機させると、教会内へと入っていった。
薄暗い講堂内には一人の神父、言峰綺礼が居た。
「再三の呼び出しに応じず、唐突に現われたかと思えば。ボーイフレンドを連れてきたか、何だ祝福の一つでも欲しいのか?」
「馬鹿言ってんじゃないわよエセ神父。こいつは何も知らずに聖杯戦争に巻き込まれたの。アンタ監督役でしょ、聖杯戦争について説明してあげなさいよ」
「・・・確かにそれは私の仕事の領分だな」
凛が訪れた理由を理解した言峰は、士郎へと視線を送る。
「さて、聖杯戦争などと言う物に巻き込まれた哀れな少年。君の名は、何というのかね?」
「衛宮士郎だ」
「そうか、衛宮か・・・」
衛宮と言う名を聞いて、言峰は口角を僅かに上げ直ぐに戻す。
(笑った?)
「さて衛宮士郎、君は聖杯戦争について何処まで聞いた?」
「魔術師が聖杯を巡って殺し合うってくらいだ」
「それが理解できているならば問題はないだろう。では一つ警告だ、その手に刻まれた令呪はたった三回の絶対命令権。くれぐれも、凛のように無駄遣いしないことだ」
言峰がそう言い笑うと、凛はむすっとする。
「さて、まだ聞きたい事はあるかね」
「なんで殺し合う必要があるんだ」
「それが必要だからだ。その様子だと、凛にも聞いたと思うが。聖杯は、己を持つに相応しい主を選ぶ」
「選ぶ?」
「そうだ、聖杯は意思を持つ。故に前回は、二人選ばれた」
「二人?」
「そして最終的に聖杯が欲した者は、聖杯に相応しく無かった。その果てがあの災厄だ」
それを聞いて、士郎は十年前の大災害を思い出すと強烈な目眩と吐き気に襲われる。
「衛宮君!!綺礼、私は説明してと言ったの!!傷を開けとは言ってないわ!!」
「何、性分だ。呑み込め」
「アンタね・・・」
喉の奥から競り上がって来ていた物を押し戻した士郎は、凛に助けられながらも立ち上がる。
「またあの災害が起こるって言うのか」
「それは分からん。聖杯へとくべられる願い次第だ。だが、災厄を望まぬならお前が聖杯を掴むと良い」
「・・・」
言峰の言葉に、士郎は暫し考え口を開く。
「俺は戦うさ、あれをまた起こすわけにはいかない。だけど、俺はマスターを殺さない」
「青いが、可能だ。だが険しいぞ」
「構うもんか。帰ろう遠坂」
「ちょっと衛宮君」
講堂から出ようとしている二人に言峰が声をかける。
「では、君たちが此処に再び訪れるのは己がサーヴァントを失った時だ。その時は、聖杯戦争終結まで保護しよう。なに、教会は不可侵域だ。無事は保証する」
「じゃあ私はもうアンタの顔は見ないわね」
「勇ましいな」
そう言い凛は、士郎を押しのけ先に講堂から出て行った。
凛を追って士郎も講堂を出ると、背後に寒気を感じ振り向く。
「まだ、なんかあるのかよ」
「――喜べ、少年。君の願いはようやく叶う」
「どういう意味だ・・・」
「単純な図式だ。正義の味方には、倒すべき”悪”が存在しなければならない」
言峰はそう言うと、扉を閉めるのだった。
◎
門扉を抜け士郎と凛は、待機していたセイバーと合流する。
「さて、衛宮君。次会ったときは私達は敵同士よ」
凛のその言葉に、士郎が何かを言おうとする。
「こんばんは」
だが、士郎が何かを言う前に可憐な声が響く。
「イリヤスフィール・・・」
「驚いた、サーヴァントなのに覚えてるんだ」
十年前と姿が変わっていないように見えるイリヤに、セイバーは思わず名を溢す。
「アインツベルン、何をしに来たのかしら」
「初めましてリンにお兄ちゃん。私は、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
自己紹介を終えたイリヤの背後に、灰色の巨人バーサーカーが実体化する。
「お話は終わり。それじゃあ、殺すね」
「■■■■ーーッ!!!」
バーサーカーが咆哮を上げた。