切嗣との戦闘に加えバーサーカーへの多大な魔力供給によってグロッキーになっているアナはもう昼過ぎだというのに布団を頭までかぶり眠っていた。
そんなアナの元に桜の様子を見てきた雁夜が今日の方針を確認する為に足を運んでいた。
「まだ寝てるのか・・・」
「へっぽこの君なら魔力が少ない上に身体中が痛い気持ちは察して余りあると思うわ」
口調からもう弱っている事が分かるのである。
そんなアナにこれ以上眠るのは許さんとばかりに、白鳩が窓を突く。
「あぁぁ、音が響くぅ・・・」
「教会の使い魔だ」
窓を開け白鳩にくくりつけてあった手紙を雁夜が取ると白鳩は飛び去る。
手紙に書かれている内容を確認した雁夜はそれをアナへと告げる。
「午後三時迄に教会に来いと書いてあったぞ」
「そう・・・。じゃあ君行ってきてよ」
「なんでだ」
「明日の朝まで私は寝ます。衛宮切嗣のせいで心象神殿のバランスが悪いし・・・」
「心象神殿?そんな事俺に言っても良いのか」
「良いよ・・・。君には何もできないし、臓硯とは不可侵だし。はい、話しは終わり。私は寝る、君は教会に行く」
話しを強引に終らせ寝息を立て始めたアナにため息をつくと、雁夜は教会へと向かう。
「三時?・・・二十分後じゃないか」
知らせるならもっと早くして欲しかったとも雁夜は思うのであった。
◎
定められた時間ギリギリに教会へと到着した雁夜に対して、今回の招集をかけた張本人である言峰璃正がどこか咎めるような視線を送る。
「遅刻寸前で悪かったな。文句を言うならもっと早く使い魔を送るべきだ」
「あれで七度目だがね」
「・・・七」
まさかの回数に雁夜が軽く呆れていると、璃正が咳払いを行い本題へと入る。
「ただ今、キャスター陣営を除く者達に集まって貰ったのは他でもない。今この時をおいて聖杯戦争を一時中断し、キャスターの早急な討伐を行って貰いたい」
(あのキャスターか・・・)
一度見たら忘れはしないキャスターを脳裏に浮かべながら雁夜は璃正の言葉に耳を傾ける。
「冬木にて起こっている児童の失踪は全てキャスター陣営の手による物であり、更に彼の者達は魔術の秘匿を一切行っていない。このままいけば一般人への被害はますばかりである。故のキャスター討伐戦である。無論ただとは言わない。キャスターを討伐した陣営のマスターには、この腕に刻まれた預託令呪より一画を報奨として与えよう。以上質問はあるかね?」
講堂内を見渡した璃正はバーサーカー陣営以外が差し向けている使い魔に向けて口を開く。
「ただし、質問は肉声のみを受け入れよう。実質的に君だけの質問権だ、間桐雁夜」
「質問なんてないさ、俺はマスターに選ばれなかったからな」
「そうか、であれば各陣営励んでくれ」
解散の合図を受け、各陣営の使い魔が去って行く中で雁夜が声をあげる。
「時臣!!」
名を呼ばれたからだろう、時臣の使い魔が雁夜へと顔を向ける。
「俺はお前が地獄へ突き落とした桜ちゃんを何をしても救い出してみせるぞ。マスターでなくともだッ!」
これ以上雁夜は言葉を続ける気など無かったが、時臣の使い魔は戯れ言を聞く価値は無いとして立ち去っていった。
◎
雁夜の言葉を聞き時臣は嘆息していた。
「時臣、貴様言われておるではないか」
「お戯れはおやめください英雄王。あの者は舞台にすら上がれ無かった落伍者。言葉に価値などありません」
「まあ良いだが、我から見れば貴様よりもあの男の方が見ていて飽きはせぬ。娯楽としては落第点ではあるがな」
アーチャーはそれだけ言うと霊体化する。
(英雄王はあのような者を認めると言うのか?)
魔術から逃げだし今更に聖杯欲しさで魔術を無理矢理に修めた雁夜が、己よりも見応えがあると言われ時臣は歯噛みする。
それはただプライドを逆撫でされたからではない、時臣にはアーチャーの言葉が五代続いた遠坂の研鑽よりも雁夜の一年間が価値があると言われたように思えたのだ。
「間桐雁夜か・・・。そうか、私は示さねばならない英雄王に我が遠坂の研鑽を」
遠坂当主としての自負と誇りでもって時臣は、マスターですらない落伍者の間桐雁夜を己の手で倒すと決めたのだ。
(此処までやってこれか。綺礼を目覚めさせる方が余程充実するな)
決意を固める時臣を霊体化した状態で眺めていたアーチャーは綺礼の居る教会へと向かって行った。
◎
城のバルコニーにてセイバーは自身の掌を見つめていた。
「どうしたのセイバー、凄く難しい顔をしているわよ」
「アイリスフィール・・・。いえ、どうにも私の騎士として直感が叫んでいるのです。お前はバーサーカーを知っていると」
「バーサーカーね。あのサーヴァントの声、私には悲鳴にも聞こえるの」
「悲鳴ですか・・・」
「セイバーの直感もきっと、あの悲鳴を聞いて叫びをあげているのね」
悲鳴、であれば己はそのような物を自らにぶつけてくる者が居たというのに理解していなかったと言うこと。
「王は人の心が分からない・・・。以前、ある騎士にそう言われたのです」
「そんな事は無いわ、セイバーは人の心を理解している」
「いえ・・・。あのような感情を英霊と成ってなお私に向ける者を思い起こせないのです。であれば私は人の心を分からぬのでしょう」
「セイバー・・・」
「アイリスフィール。切嗣はキャスターよりも手負いのランサーのマスターを狙っている。もうそれは良い」
話題を変えたセイバーが森の向こうに見える街を見据える。
「ランサーであればマスターを守り通せる。ならば私たちはキャスターを探し出し一刻も早く討つべきだ」
「分かったわセイバー。街に行きましょう」
「ありがとうアイリスフィール」
今の二人の会話を切嗣はケイネスへの追撃準備を整えながら聞いていた。
「人の心か・・・」
この聖杯戦争を勝ち抜き聖杯を得るには、己の心は余分であると切嗣は考える。
既に妻であるアイリスフィールに背を押された。
故に彼は泣き言を溢さない。
(イリヤ、お母さんを奪う僕を許さなくて良い。僕はイリヤの為に人生を捧げるよ)
遠く離れたドイツの地にあるアインツベルン本拠にて自身とアイリスフィールの帰りを待つ愛娘へと切嗣は誓いを立てた。
◎
午後十時を過ぎた頃にアナはようやく目を覚ました。
「マーリン、あんなに胡散臭い人なのか・・・」
魔力、肉体、心象神殿その全てはベストコンディションであったが夢を通して見た、バーサーカーの過去に出てきた魔術師に対してアナはイメージが壊れたとため息をつく。
『酷いなぁ僕は素敵な花のお兄さんじゃないか』
「は!?」
一瞬香った甘い匂いと思念として伝えられた声にアナは一気に意識を覚醒させる。
「Merrrrrlin・・・」
「なるほど塔に幽閉されてるって噂は本当だったのね。貴方の過去で私が認識したから今のマーリンが一瞬こちらを見たと・・・」
キャメロットの宮廷魔術師は凄まじいとアナは戦慄する。
「今は霊体化しててバーサーカー」
「aaaa・・・」
呻きながらもバーサーカーが霊体化すると、アナは雁夜へと電話をかけ教会からの告知を知る。
「少々出遅れかもしれないけど、キャスター狩りだ雁夜くん」
『俺も行くんだろう』
「もちろんだ、外道と言っても英霊だ。写真に残す価値はある」
集合場所を伝え電話を切ったアナは礼装を身につけ夜の街へと繰り出す。
「ま、狩りの前にご飯だ」
明朝から寝っぱなしだった故に叫びをあげる胃袋に従いアナは飲食店に向かっていった。
流石に放置は気まずいとして雁夜と合流してからアナは食事に向かうのだった。
キャスターレイド発令のタイミングは当作では此処と言うことでお願いします
心象神殿
体内に構築された魔獣が犇めく固有結界。
クレメット家の始まりとなった存在の血が一際濃いアナであるために数多の魔獣を使役する事が可能となっている。
先代当主は数体の魔獣を使役するのみであった。