遅れすぎたやもしれませぬ。
次は近いうちにあげられると思います。
聖杯を手にすべき資格があるかどうかを、推し量る聖杯問答を開始するとライダーは告げた。
「ま、なんだ。此度の酒宴を開いたのは余である故な。この征服王が一番槍となろう」
「良いぞ、特に許す。不遜にも聖杯を手にせんとする、その胸の内語ってみせるが良い」
杯を傾けながらそう言ったアーチャーに応じるように、ライダーは一つ咳払いをすると己が聖杯へと掛ける願いを語る。
「余が望むのは・・・受肉よ」
「ほお?」
「受肉!?だってライダーお前、世界征服をするって――!!いったぁッ!!」
以前自分が聴いていた願いと異なる事を告げるライダーに、ウェイバーは詰め寄るが案の定デコピンされ軽く吹っ飛ぶ。
「・・・」
「な、なんだよ・・・」
「良く触れれば、可愛い顔をしていますね」
倒れ込んだ先にいたアナに顔を撫で回されたウェイバーの背筋に悪寒が走ると、同時に頬をべろりと舐められる。
「な、何するんだッ!?」
狼狽えるウェイバーの先で、アナが酒を口に含んだかと思えばウェイバーは口を塞がれ酒を流し込まれる。
「それくらいにしてやってくれんかバーサーカーのマスターよ」
「ええ、そうね。また今度に取っておくわ」
思考がこんがらがっているウェイバーの首根っこを掴み、ライダーは己の側に置く。
「話しを戻すがな。今の余はサーヴァント、即ち霊体に過ぎん。このような身では夢に対して真に熱が籠もるとは言えん。夢を果たすにはまず、確とした己が肉体が必要だろうよ。さて余は語ったぞ。次はどちらだ。セイバーか?それともアーチャーか?はたまたバーサーカーのマスター、主か?」
「私が語ろう」
順繰りに差し向けられた柄杓をセイバーは受け取り、汲み上げられていたワインを飲み干す。
その様子をアーチャーは熱を感じさせない瞳で眺め、ライダーは口角を上げ、アナは黙って耳を傾ける。
「私が望むは、故国ブリテンの救済だ」
「故国の救済だと?それはなんだセイバー、過去を変えようとでも言いたいのか貴様」
「そうだ、聖杯であればあの選定をやり直し、私以上のブリテンを救うに相応しき王を選び出すことが出来る筈だ」
「ク・・・ククク・・・フハハハハハハハハ!!!聞いたか征服王、この騎士王を名乗る小娘は聖杯で国を救うのだとさ!!」
セイバーからの返答にアーチャーは腹の底から笑い転げながら、ライダーへと意見を求める。
「何がおかしいアーチャー!!地獄となり民に苦しみを与えるしか無かったあのブリテンを救いたいと願うことの何処がおかしい!!」
「セイバーよ、それはちゃんちゃらおかしい話よ。過去を変えると言ったがそれは、お前に付き従った臣下を裏切るという事に他ならん」
裏切りと発された事でバーサーカーが実体化しようとするが、アナが魔力を絞っているためにそれは叶わないが、バーサーカーの憎悪が傷みとなり彼女を襲う。
「貴様、まさか民に対してその身を捧げているのか?」
「そうだ、王とは民に報いるものだ」
「履き違えるなよセイバー、王とは民が奉仕するものよ。貴様のそれは奴隷だ」
「奴隷か、それで構わない。私に未来はなくとも、ブリテンに未来があればそれで良い」
ぴちゃり、と石畳に血が落ちる。
「ごめんなさい、バーサーカーが吠えているだけだから。気にしないで、でもセイバー私のこの傷は正しさと言う貴女の刃による切り傷ね」
「なにを言っているバーサーカーのマスター」
アナの言葉にセイバーが戸惑っていると、ライダーが杯を飲み干し石畳に置く。
「セイバーよ。貴様の在り方は王では無いわ」
「何を言うか征服王。国に身を捧げる事を笑うか!!」
「笑うとも!!王が国に奉仕するのではない、国がそこに住まう民が王に奉ずるのだ!!貴様の在り方は聖職者よ!!それは確かに正しく、眩しきものであろうさ。だがな、それで誰が憧れる。王とは己が生き様を魅せつけ、導くものッ!」
「導くだけでは何も救われはしない!!」
「救われるとも、自らの足で歩めばな。だからこそ導かねばならん。セイバー貴様は、救うばかりであったのだろう。故に貴様の民は雛鳥のままだったのだ」
「民までを侮辱するか征服王ッ!」
怒気を発するセイバーが剣を抜こうとするが、アーチャーがそれを止める。
「よもや貴様ら、我の願いは聞くまでも無いと言うのか?」
「・・・。すまないアーチャー、気が逸ったようです」
「清廉がすぎるな」
先ほど爆笑していた自身に対して素直に謝罪を口にするセイバーに、アーチャーは一言呟く。
「で、我の願いだったな」
「おう、気になっておったのよ。言ってみせよアーチャー」
「願いなど無いが?」
「なに?」
「なんと・・・」
「へぇ・・・」
アーチャー以外の全員が驚きに硬直する中、彼は続ける。
「そも、世にある宝物は全てが我の物。この数千年において些か散逸したてらいはあるがな」
「ではなんだアーチャー、お前は聖杯を生前手にしたと」
「いや無いが?」
「ふざけているのかアーチャー!」
「そう見えるは貴様の視野が狭いからだセイバー」
ライダーからの当然の疑問に当たり前のように、無いと返答するアーチャーに、セイバーは語気を強めるが、アーチャーはそれを柳に風と受け流す。
「さて、最後は貴様だ。語る前に酔い潰れてはいまいな?」
「当然です。普段の物より酒精が強かったもので」
「確かにな、坊主などあれだけで潰れたわ」
口移しだけで酔い寝落ちしているウェイバーを突きながらライダーがそう言う。
「私の願い・・・。それは確かにありますよ。俗な者達のように根源の渦への到達とは言いません」
「勿体ぶるな」
「我らが祖への拝謁。叶わぬとは知れど、叶わぬ事などこの世にはない、と私は信じています」
アーチャーから急かされた事でアナは願いを口にする。
「だが、聖杯なぞに私の願いを叶えて貰おうと思わない」
「いか故にだ、雑種」
「ずるじゃない?過程を経らないなんて。私は私だけの力であの島に行く。我らが血に刻まれたあの記憶の島に・・・」
まるで恋する乙女が如くアナは身をよじる。
「聖杯が要らないなら、何故貴女は聖杯戦争に参戦したの?」
どうしても聞かぬ訳にはいかないと、今まで口をつぐんでいたアイリスフィールがアナへと疑問を投げかける。
「古今東西の英雄が集うと聞いたの、なら一目みたいものでしょ?」
「そんなバードウォッチングみたいな」
「貴様、我を獣と同列に見ていたか」
アイリスフィールの呟きを拾い、アーチャーは面白そうにそう言う。
「まさか、敬意は払っていますよ。ね、雁夜くん」
「あ、ああ。尊敬するべき人達だというのは分かる」
「分を弁えているのなら良い、許す」
全員の願いは語られた。
「であればだ、セイバーとは武を競うとしてだな。アーチャー、バーサーカーのマスター、主等余に聖杯を譲るきはないか?」
「戯けめ、それは貴様を上に据えると言うことであろう」
「私は雁夜くんにあげるって約束してるの」
「ならば結局の所、皆で争うことには変わらんと言うことか」
ライダーがそう結論づけると、ウェイバー目がけてダガーが放たれる。
キィン、とライダーの剣がダガーを防ぐと庭園の暗がりから全員を囲うように、敗退した筈のアサシンが”大量”に出現する。
「時臣め・・・。下らぬ事を」
「アーチャー、貴様の策かこいつは」
「我の策であれば上手くやるわ」
「だろうな」
アーチャーの返答を聞き、ライダーはアサシンに柄杓に注いだワインを差し出す。
「この場に現われたとは、語り合うためと見た。この酒は貴様等の血潮と等価よ。語らうならばこの酒飲むが良い」
寛大にも受け入れようと言うライダーへの返答は、柄杓が切り裂かれた事で石畳にぶちまけられたワインであった。
「そうか、であらば分かっておろうな」
自らの王道でもってこちらを嘲笑うアサシンを蹂躙しようと、ライダーが宝具を発動しようとするが、アナがアサシンへと歩み出す。
「お酒は十分に美味しかったけど、おつまみが足りなかったわ」
「貴様酔っておるな・・・」
はらりと包帯が解かれ、アナの魔眼が露わになる。
「この子達もお腹を空かしているの」
広がる影より魔獣の呻きが響き始める。
何かがやばいと察知したアサシンがダガーを一斉にアナへと投擲する。
だが、アナへとダガーが到達する前に世界が影に飲まれた。
それは血に刻まれた神殿、かつて三柱の女神が居た島の再現。
「
夥しい程の魔獣に供物として捧げられたアサシンは抵抗も空しく、屠られていく。
「固有結界・・・」
虚数世界に構築されたアナの世界にアイリスフィールは戦慄し、雁夜は聖杯戦争の勝利を確信する。
英霊達はアナと言う刃が己へと届くやもしれぬと留め置く。
「おのれ、魔術師風情めッ!」
「バーサーカー」
何とか魔獣の海を抜け出してきたアサシン最後の一騎であったが、ようやく実体化を許されたバーサーカーの暴威を前に何もできずに散っていった。
その後は特に語ることは特筆してなく、セイバー陣営を残してアインツベルン城より各陣営は帰還していった。
聖杯問答の様子をセイバーを通して見ていた切嗣はアナへの警戒レベルを跳ね上げていた。
◎
綺礼と共に聖杯問答を観察していた時臣は冷や汗を流す。
「まさか、間桐のマスターがこれほどとは・・・」
あの雁夜があそこまで勢いづくわけであると時臣は納得する。
(アナ・クレメット。彼女は聖杯戦争において最大の脅威となるかもしれないな・・・)
これからの策を考える時臣の近くでは、綺礼がアサシンの消滅と共に消えた二画の令呪を本人さえ気づかぬ内に名残惜しそうに見ていた。
「綺礼?」
「なんでもありません。今は師が聖杯へと一歩近づいたことを祝いましょう」
「祝うならば聖杯を手にしたときだよ綺礼」
「はい」
己の内にて叫ぶ心をねじ伏せ綺礼は鉄面皮を被る。
◎
下水道内のどこかにてキャスターの腕の中で、龍之介が目を開く。
「おお、龍之介ッ!」
「旦那、俺神様が見えたよ・・・」
「何を言っているのです龍之介!!神など居はしませぬ」
「居るさ旦那」
砕けかけた魂の振り絞る最後の力で龍之介は言葉を紡ぐ。
「神様が居るから世界はこんなに楽しいんだ。神様は人類を愛してるんだよ」
「ならば神は何故!!何故!!何故!!ジャンヌを玩弄するかッ!」
「神様は愛とか希望と同じくらい、恐怖と絶望が好きなんだよ。今の旦那は絶望してるターン、これからきっと希望がやって来るよ」
「・・・確かにジャンヌは我が前に降り立った」
セイバーの事を思い浮かべながらキャスターは龍之介を見つめる。
「旦那、次はアンタが神様を絶望させて希望を得るんだよ。俺達のCOOLでさ」
令呪が二画消えキャスターに魔力が満ちる。
「ええ、分かりました龍之介。私が見せましょう愛と希望をッ!そして神の恐怖と絶望をッ!」
魂が砕け散りただ息をする肉塊になった己のマスターを連れ、キャスターは未遠川水上に現われる。
「共に参りましょう龍之介!最高のCOOOOOOOLと友にッ!」
時刻はアサシン敗退の直後、月はまだ天上にある。