神秘狩りの夜   作:猫又提督

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前回銃の下りで、狩人様が持っている銃はフリントロック式だという前提で書きましたが、調べたところ多分違いますね。この話を書く間に何度か書き換えていると思います。


第18話

 私は人形に声をかけ、花畑の館のバルコニーにやって来た。椅子に座り、対面の空席に客人が来るのを待った。

 花畑を眺めてしばらく「ここは?」とセイアの声が聞こえた。

 

「おや、本当に来たのか」

「君……ここは狩人の夢か。君が呼んだのかい」

「ああ。まさか本当に呼べるとは思っていなかったが」

 

 私は人形に合図をした。すると彼女はセイアの前に置かれたカップに紅茶を注ぐ。セイアはありがとうと礼を言った。その顔は穏やかだった。

 

「私を呼んだ理由はなんだ」

「聖杯ダンジョンでこれを拾ったのだが使い方がいまいちわからなくてな。見た所キヴォトスの銃と似ていたから、貴公なら分かるだろうと思った」

 

 私はそう言って例の短銃をセイアに見せた。しかし彼女の反応は予想外のものだった。

 

「なんだいそれは。初めて見る形だが」

「ん? 貴公でも分からないのか」

「ここからじゃよく見えない」

 

 私は短銃を机に置き、セイアに向けて強く押しだした。短銃は回りながら机上を滑り、セイアの目の前で止まった。彼女は短銃を受け取り観察しだした。

 

「これは……銃身が短いライフルみたいだが、こんなライフルは初めて見た」

「予想外だ。貴公に聞けば分かると思っていたのに」

「私は銃に詳しい訳じゃないからな」

「キヴォトスは銃で溢れているだろう?」

「銃と言っても種類はたくさんある。私が使うのはハンドガンだ。ライフルじゃない」

 

 そう言ってセイアが取り出した銃は短銃よりも小さな銃だった。

 

「小さいな。そんなもので戦えるのか」

「生憎、私が扱える銃はこの程度のもんだ。ライフルなんて代物は扱えないよ。これでも十分自衛は出来る。それさえできれば十分さ」

「そういえば貴公はお嬢様だったな。戦いはしないか」

「お嬢様という言葉はあまり好きではないが、戦うときは戦うさ。周りは良しとしないがね。ところでこの短いライフルだが、普通に弾丸を装填すれば使えると思うぞ」

「しかし私が使った時は引き金を引いてもうんともすんとも言わなかった」

「本当かい。それライフル弾じゃ無いんじゃないかい」

「ライフル弾というのはよく分からないが、この銃弾では駄目なのかね」

 

 私はそう言って水銀弾を一発取り出した。セイアは水銀弾を見た途端、表情こそ変えなかったものの、明らかに呆れた声色で言った。

 

「君、それ弾頭しかないじゃないか。そりゃ撃てないはずだよ」

「弾頭しか見せていないからな。使うときはちゃんと実包さ」

 

 私の言葉にセイアは一瞬きょとんとしたが、すぐに合点が行った顔をした。

 

「ちょっと、それを貸してくれないか」

 

 セイアがそういうので、私は水銀弾を彼女に投げ渡した。彼女は突然投げられた水銀弾に慌てた。落としそうになったのを両手で受け止めると、ライフルに入れた。

 

「やっぱりそうだ。君が扱うのは古い銃だ。このライフルも私から見れば古い部類に入るが、君から見れば新しいものになるだろう。多分銃弾のサイズが合ってないんだ。因みに実包も見せてもらえるかい」

 

 私は彼女の言う通りに普段使う実包を見せた。

 

「うーん。やっぱり使えるか? だがやっぱり少し違うのだろう。最悪暴発するだろうし、使うのはよした方がいい」

「なるほどそういうことか。その銃の弾はどこで供給できるだろうか」

「コンビニで買えば使えるだろう。それにしてもこの弾丸、変わった見た目をしているな。色的に鉛ではないな」

「水銀弾だ。獣にはそれがよく効く」

「ドラキュラ伝説みたいだ。本当に水銀弾を使うんだな」

「むしろ水銀弾でなければ獣には効かぬからな。しかしまあ、キヴォトスの銃は水銀弾でなくても十分に効きそうだ」

「これ返すよ」

 

 セイアはライフルと水銀弾を投げ返した。しかしパワーが足りず机の真ん中で止まってしまい、水銀弾はあらぬ方向へ飛んでいった。私とセイアは真ん中で止まった銃を見た。床に落ちた水銀弾が跳ね返る音が響き渡る。私は次にセイアを見た。彼女は銃を押し出したポーズのまま顔を顰めて銃を見ていた。

 数秒の沈黙の後、人形が銃を拾って私に差し出してくれた。

 多少気まずい空気が流れたが、セイアは最初から何もなかったかのように紅茶を飲み始めた。

 

 互いに紅茶を飲み切ったころ、セイアは言った。

 

「用事はこれだけか」

「もう一つある。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか」

「何をだい」

「約束しただろう。いい加減貴公の神秘の在処を教えてくれないだろうか」

「ん……ああ。そうだな、そうだった。すまない、ここ数日忙しくてな。すっかり忘れていた」

「いつまでも私が大人しく待っていると思うな。これ以上は待てんぞ」

「落ち着け。ちゃんと教えるから」

「それで、貴公の神秘はどこにある」

「詳しい場所までは分からない。何せ判断できる材料があまりなかったからな。ただあの場所の特徴からして、恐らく百鬼夜行だろう」

「どこだそこは」

「正式には百鬼夜行連合学院という。三大校程ではないが十分大きな学園だ」

「どうやって行けばよい?」

「電車でいくつか路線を乗り継げば着くだろう」

「電車とは何だ。もう少し詳しく教えてくれ」

「詳しくは知らない。私も残念ながらあまり外に出られなかった体でね。話にはよく聞くが実際に行ったことは無いのさ。それに約束は在処を教えるところまでだ。行き方は含まれていない」

 

 正直少し頭に来たが、セイアが言ったことも事実。彼女の性格からして何を言っても約束に含まれていないの一点張りで躱されるだろう。幸い時間はあるのだからゆっくり行けばいい。

 

「分かった。確かに約束は果たされた。しかしせめて電車とやらの乗り方は教えてくれたまえ。馬車とは違うのか」

「君が元いた時代というのは大体200年前だろう。その頃なら汽車とかあったんじゃないか」

「汽車……汽車か。使った記憶はないな。ヤーナムに来る以前の記憶は無いし、ヤーナム周辺に汽車はない。全て馬車だ」

「記憶が無いのかい?」

「ああ、だがそのことは関係ない。電車が汽車と似たような乗り物だというのは分かった。しかし私は汽車すらよく知らない。やはり教えてくれたまえ」

「しょうがないな。分かったよ」

「用事は終わりだ。帰っていいぞ」

「どうやったら帰れるのだろうね」

 

 セイアはため息をついて呆れた声で言った。そして人形に紅茶のお代わりを要求した。

 

 翌朝のことだ。今となっては忌々しい太陽が差し込もうとする寝室。だが今日だけは少しだけ太陽も許せる気がした。今日私は百鬼夜行連合学院に向かうつもりだ。思えばトリニティには長くいたものだ。二日か、それとも三日か……数えていないから分からない。しかしたった一晩だけのヤーナムよりは短い気がする。それはきっと一晩を何回も繰り返したからだろう。

 

「普段よりも幾分か気分がいい気がする」

「そうかい」

 

 セイアはベッドに座って答えた。その目はまだ眠そうだ。

 昇った日差しが私の顔にかかった。その瞬間、酷い倦怠感に襲われ、机に臥せざるを得なくなった。

 

「やっぱり気のせいだ」

 

 私は絞り出すようにしていった。

 

「そうかい」

 

 セイアはそう言ってあくびをした。

 

 先日借りたセイアの日傘だが、結局そのまま一本貰うことになった。彼女もその方がいいだろうと言うし、予備はまだあるから一本ぐらいあげても構わないそうだ。

 電車に乗るために私とセイアはトリニティの中心街を歩いていた。自治区の中では最も栄えている所らしく、見たことが無いほどの人で埋め尽くされている。学園の中心から近いだけあって、学生の姿もよく見るが、それ以上におおよそ人とは思えない住民に目が行く。

 セイア曰くあれはロボット、機械人だそうだ。そして獣も何食わぬ顔で歩いている。

 

「言っておくがあれは絶対違うからな」

 

 私はまだ獣がいるとしか思っていない。だというのになぜかセイアに釘を刺されてしまった。

 

「私はまだ何もしていないが」

「君が獣とやらに執着しているのを覚えているからね。というか君、まだって言ったか。私が止めていなければ一体何をしでかす気だったんだ」

「何もしないさ。獣狩りの夜でもあるまいに」

「夜でも暴れないでくれ」

「しょうがないな」

 

 数十分ほど人に揉まれながら歩いていると、前方に大きな建築物が見えてきた。トリニティらしい外観をしているが、中に入ると一変して近未来のような建築様式に変わった。見たことも無いものが大量にあって、一度に理解するにはあまりにも物が多すぎた。

 

「あそこで切符を買うといい」

「切符とな」

「電車に乗るために必要だ。百鬼夜行までだと……多分七百円ぐらいかな」

 

 円とは聞いたことのない単位だ。キヴォトスは遠い東の地の国の言葉を用いる。おかげでキヴォトスの文字が一切読めない。言葉ももちろん通貨の単位も合わせているのだろう。

 

「どうした。もしかして君お金持っていないのか?」

「金ならある」

 

 そう言って私は輝く硬貨を取り出した。獣狩りにおいて使い道は無く、精々道しるべになる程度だ。私は道しるべにすら使うことは無かった。

 

「円は」

「円とは」

「金の単位だが」

「そんなものあるわけないだろう」

「だろうね。しょうがあるまい。私が代わりに出そう」

 

 そう言っていいセイアは懐から別の硬貨を取り出した。色は金・銀・銅に近いが光沢は鈍かった。彼女から硬貨を受け取ると、ここにいれるんだと壁に埋まった機械に開いた穴を指した。そこには丁度硬貨が入る程度の穴が開いていた。受け皿に硬貨を置くと、穴に吸い込まれるように滑り落ちていった。機械には文字が浮かび上がっており、セイアの指示通りに操作をし続けた。すると最終的には一枚の紙が出てきた。羊皮紙ほどではないが、厚さのある紙だ。

 

「これで終わりか」

「ああ。改札機で切符を通すんだ。二十分後に百鬼夜行行きの特急が出るらしいからそれに乗ればいいだろう。終点だから間違えることもあるまい」

「ここまで付き合ってもらってすまないな。これはお礼だ」

 

 私はセイアに輝く硬貨を十枚落とした。彼女は一枚掴んで空に掲げて眺めた。

 

「君のとこの通貨か。こんなものを貰っても精々アンティークなコレクションにしかならないのだが」

「勿論そのように扱っても構わないが、キヴォトスの通貨に換金してもらっても構わない。相場は知らないが、それなりの価値にはなるだろう」

「確かに値打ちはありそうだが、今時換金場なんてなかなか見つからない物さ。したことも無いし。まあ貰えるのならありがたく受け取るが」

 

 私は改札口に切符を差し込んだ。セイアが切符を入れたらすぐに通れと言うので、急いで渡った。それと出てくる切符を忘れずにとも。彼女の言う通り切符が出てきた。片方に穴が開いている。百鬼夜行連合学院に着いたら同じように通ればいいそうだ。その時は回収されるから切符は受け取らなくても良いらしい。

 改札を抜けてホームとやらに向かう。セイアに言われた通りの場所から出ると、視界が半分開けた。中心街ほどではないが、ここにもたくさんの人がいる。機械の掲示板には日本語と時刻と思われる数字が書かれており、ありがたいことに隣には時計が置いてあった。セイアが言っていたのは掲示板の二つ目に書かれてある数字の電車だ。まだ少し時間があるようなので、壁に寄って電車が来るのを待つことにした。

 壁によりかかると、尻の辺りに何かが当たった。それは聖杯ダンジョンで拾った銃だ。そういえば折角セイアに使い方を聞きだしたというのに、コンビニとかいう所に寄るのを忘れていた。だがたしか彼女はコンビニで弾丸を買えば、と言っていた。つまりまた円が必要なのだろう。獣狩りに金は必要ない。何の役にも立たないからだ。まさかここにきて必要になるとは思わなかった。

私は輝く硬貨を一枚取り出した。輝き、恐らく貴金属を使っているだろうから、直接使えずとも円に換金すればそこそこの価値があるはずだ。しかしそれでも私にはこの硬貨を魅力的には思えなかった。というよりも通貨に興味を持てなかった。それなのになぜこの硬貨を持っているかと問われれば、それはただ単に私の収集癖の結果だ。

 

 ぼーっと駅を眺めていると、一本の電車がやって来た。この前に一本見逃しているからこれがきっと百鬼夜行に向かう電車である。掲示板と時計を見てもやはり正しい。

 私は周囲の人を真似て並んだ。電車が止まり、入り口が勝手に開いた。前の人が電車に入ったので、私も一緒に入った。中は明るく、嗅いだことのない匂いがした。中には座っている人や立っている人が多くいた。その中で一つの空席を見つけ、私は其処に腰かけた。とても柔らかかった。まるでソファの様だ。

 私が驚いている間に扉は閉まり、電車はゆっくりと動き出した。私はトリニティを離れた。




キヴォトスの短銃
 キヴォトスでは広く普及している銃。その銃身を切り詰めた物。ヤーナムで出回っている銃よりも威力は高い。たとえ水銀弾でなくとも獣に致命傷を与えることが出来る。だが、反動は大きく片手で扱うのは難しい。
 本来は遠距離を狙うものであるが、銃身が短いゆえに精度は高くない。しかし狩人にとってそれは関係の無いことだ。狩人が遠距離から獣を狩るなど。
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