Hedgehog in Borderland RETRY   作:M.T.

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はあとのじゅう(2)

ヘイジside

 

 『げぇむ』『ぱんでみっく』。

 難易度『♡10(はあとのじゅう)』。

 

 参加者は、『げぇむ』開始時点で『のぉまる』か『かんせんしゃ』に振り分けられる。

 『のぉまる』と『かんせんしゃ』が接触すると、『のぉまる』と『かんせんしゃ』が入れ替わる。

 『のぉまる』同士が接触すると、両者とも1本ずつ『わくちん』を作れる。

 『わくちん』を持った参加者が『かんせんしゃ』に接触すると、接触された『かんせんしゃ』は『のぉまる』になる。

 ただし、『わくちん』を作れるのは1人1本まで。

 

 制限時間は30分。

 制限時間終了時点で『のぉまる』の参加者は『げぇむくりあ』。

 制限時間終了時点で『かんせんしゃ』の参加者は『げぇむおおばぁ』。

 

 

 

「嘘だろ……?」

 

 目の前で、人が死んだ。

 カスガさんがタケヒトに殺され、そのタケヒトはレーザーで撃たれて死んだ。

 

「いやっ…いやああああ!!」

 

 仲の良かったカスガさんを殺され、カシロさんはカスガさんの遺体を抱きしめて泣いていた。

 それを見ていた他の参加者は、呆然としていた。

 まだ開始から5分も経ってないってのに、いきなり2人も死んだ。

 この『げぇむ』は、最後に『のぉまる』だった1人しか生き残れない。

 やっぱり、殺しあうしかないのかよ…?

 

 俺がそう思っていると、クズミさんがカシロさんに歩み寄った。

 クズミさんは、カシロさんにハンカチを差し出しながら話しかける。

 

「……彼、君の友人か何かか?」

 

「え…?」

 

「止められなくて、すまない…」

 

 クズミさんは、眉間に皺を寄せてカスガさんの死を悔やんだ。

 最初は近寄りがたい人だと思ってたけど…案外、いい人なのかもしれない。

 

「もうこんな事、終わりにしなきゃいけない。これ以上無意味な殺し合いをしたところで、余計な血が流れるだけだ。ここにいる全員で協力すれば、全員で生き残る方法があるのかもしれない。諦めずに、全員で生き残る道を探そう。きっと彼も、それを望んでいるはずだ」

 

「…………」

 

 クズミさんが説得すると、カシロさんは涙を流しながら俯いた。

 カスガさんは、身を挺してカシロさんを守った。

 クズミさんの言う通り、もしカスガさんが生きていれば、全員で生き残る道を探そうとしていたはずだ。

 もうこれ以上、誰にも死んでほしくない。

 殺し合いなんか、繰り返しちゃいけないんだ。

 

「…できれば、殺し合いが起こる前に見つけられれば良かったが…この『げぇむ』には、全員が生き残れる必勝法がある」

 

「え……?」

 

 クズミさんが言うと、カシロさんが顔を上げる。

 全員が生き残れる必勝法…?

 そんなものが本当にあるなら、カスガさんとタケヒトは、死なずに済んだのか?

 そして、これ以上無駄な犠牲を出さずに済む…?

 

「その必勝法が成立するのかを確かめる為に、実験したい事があるんだ。少しの間、スマホを貸してくれるかな」

 

「……わかりました」

 

 クズミさんが言うと、カシロさんは、少し躊躇いながらもスマホを差し出した。

 クズミさんは、カシロさんのスマホを受け取ると、自分のスマホとカシロさんのスマホを重ね合わせた。

 すると、全員のスマホに『ピロン』と通知音が鳴る。

 画面を見ると、クズミさんが『のぉまる』になって、カシロさんが『かんせんしゃ』になっていた。

 

「……なるほどな。相手を殺す以外の方法でなら、スマホの強奪は禁止されていないわけか。そして、接触が成立さえすれば、参加者の意思は関係ない…と」

 

「な……!?」

 

「ありがとう、君はもう用済みだよ」

 

 そう言ってクズミさんは、カシロさんに向かってスマホを放り投げると、その場から立ち去ろうとする。

 するとサクラが、クズミさんを呼び止めた。

 

「ちょっと待って下さい!!クズミさん、全員で生き残れる必勝法を見つけたんじゃなかったんですか!?」

 

「ワンッ!!ワンワンッ!!」

 

「必勝法?必勝法…ねぇ」

 

 サクラがクズミさんを呼び止め、ペコもクズミさんに向かって吠えると、クズミさんが鼻で笑った。

 

「あれはあの女からスマホを奪う為の出まかせだ。そんな都合のいいもの、あるわけないだろう?」

 

 クズミさんは、俺達を見下すような視線を向けながら言い放った。

 するとクリハラさんが、クズミさんに軽蔑の眼差しを向けながら尋ねる。

 

「最初からオレ達を出し抜いて、自分一人だけ生き残るつもりだったのか」

 

「当たり前だ。私が生きた方が世の為になる」

 

 クリハラさんが尋ねると、クズミさんが平然と言い放つ。

 クリハラさんの隣にいたナオは、クズミさんを睨みながらボソッと言った。

 

「サイッテー…」

 

「おっと、私を責めるなよ。これはそういう『げぇむ』だ。自分が生き残る為に人を騙して何が悪い?」

 

 クズミさんが開き直ったように言うと、他の皆が黙り込む。

 クズミさんは、左手で眼鏡をクイっと上げながら続けて言い放つ。

 

「さっきの男のように、暴力に頼るんじゃダメ。生き残る為には、頭も使わないとな」

 

 クズミさんがそう言った、その瞬間だった。

 

「うああああああっ!!!」

 

 どこからかモップを持ってきたタマキが、クズミさんに襲いかかる。

 タマキがモップを振り回すと、モップの柄がクズミさんの右眼に直撃した。

 

「ぐああああ…っ!!」

 

 右眼を潰されたクズミさんは、その場で膝をついて悶えた。

 クズミさんがスマホを床に落とすと、タマキはそのスマホを素早く奪って自分のスマホと接触させた。

 すると、今度はタマキが『のぉまる』になった。

 

「こんなところで死んでたまるか…!生き残るのは、アタシよ…!!」

 

「この…クソアマ…!!」

 

 タマキがモップを構えながら言うと、クズミさんは右眼を押さえながらフラフラと立ち上がり、タマキに襲い掛かろうとした。

 タマキはモップを振り回して、クズミさんを寄せつけなかった。

 だけどその時、タマキの背後に忍び寄ったカシロさんが、鋭利な髪留めでタマキの脇腹を刺した。

 

「あ゛あ゛あっ!!」

 

 脇腹に髪留めが刺さると、タマキが顔を歪めて悲鳴を上げる。

 カシロさんは、血のついた髪留めを握りながら、タマキとクズミさんを睨んだ。

 

「アンタ達みたいな奴のせいで、カスガさんが死んだッ…!!死ねッ、死んでちょうだい!!」

 

 カシロさんは、涙を流しながら、タマキとクズミさんを責めた。

 するとタマキが、モップの柄でカシロさんを殴りつけた。

 

「痛ったいわね…!!アンタが死ねよ!!」

 

 カシロさんを殴りつけたタマキは、カシロさんを睨みつけた。

 すると今度は、クズミさんがタマキに襲いかかった。

 タマキは、咄嗟にモップを振り回してクズミさんを返り討ちにしようとする。

 だけどクズミさんがモップを避けてタマキの懐に入り込むと、タマキの手首を捻り上げた。

 

「ああああっ!!」

 

 手首を捻られたタマキは、顔を歪めて悲鳴を上げる。

 タマキの手が緩んだ瞬間に、クズミさんは強引にタマキと接触して『のぉまる』を奪い返した。

 その次の瞬間、カシロさんがクズミさんに襲いかかる。

 クズミさん、カシロさん、タマキの三つ巴の殺し合いが、目の前で繰り広げられていた。

 するとその時、サクラが涙を流しながら叫んだ。

 

「もうやめてください!!まだ遅くありません、皆で生き残る方法を探しましょう!!諦めずに協力して探し続ければ、どこかに希望はあるはずですから…!!こんなのっ…生き延びたところで、誰も幸せにならないじゃないですか!!」

 

「うるさい、アンタだってそうやって、アタシらを騙すつもりなんでしょ!?」

 

「必勝法なんてものがあるなら、カスガさんは死ななかった…!!わたし達はもう、殺し合うしかないのよ!!」

 

「殺し合う覚悟が無いなら、黙ってろ!!」

 

 サクラは3人を説得しようとしたけど、3人とも聞く耳を持たなかった。

 サクラが3人を説得しようとしている間に、クリハラさんがナオの手を引いて、どこかへ行った。

 クズミさん、カシロさん、タマキの3人が、生き残りの一枠をかけて争い合った。

 

 ……何でだよ。

 何でこうも簡単に、掌の上で踊る事ができるんだよ。

 これじゃあ、『げぇむ』の思う壺じゃねぇかよ。

 頼むから…これ以上、誰も傷つけ合わないでくれよ。

 

 俺がそう願った、その時だった。

 サクラの腕の中で鳴いていたペコが、サクラの腕の中から抜け出して、争っている3人のもとへと走っていった。

 

「グルルルル…!」

 

 ペコは、タマキとカシロさんを殴りつけて『のぉまる』を死守しているクズミさんの服の裾を噛んだ。

 だけどペコに服を噛まれて逆上したクズミさんが、ペコを蹴飛ばした。

 

「邪魔だ!」

 

「キャンっ!」

 

「ペコ!!」

 

 クズミさんがペコを蹴飛ばすと、ペコは壁に叩きつけられて鳴き叫ぶ。

 するとサクラが血相を変えてペコに駆け寄った。

 カシロさんは、ペコには目もくれず、クズミさんの腕を髪留めで突き刺した。

 腕を刺されたクズミさんが悶えると、カシロさんはクズミさんのスマホを奪おうとした。

 だけどその前に、タマキがクズミさんからスマホを奪って『のぉまる』を奪い返した。

 もう、黙って見ている事なんかできない。

 

「いい加減にしろ!!!」

 

 俺が声を張り上げて叫ぶと、争いをしていた3人が俺の方を振り向く。

 俺は、殺し合っていた3人に向かって言った。

 

「何でこんなにも簡単に、『げぇむ』を作った奴の掌の上で踊る事ができるんだよ…!?サクラの言う通り、殺し合うのとは真逆の攻略法があるのかもしれないのに…!!これじゃあ、『げぇむ』の思う壺じゃねぇかよ!!」

 

「殺し合うのと真逆の攻略法…?そんなの、無いわよ!!あなただって、わたし達を騙して、自分だけ生き残るつもりなんでしょう!?」

 

「違う!!頼むから、オレに考える時間をくれ!!全員で生き残る方法を、必ず見つけるから…!!」

 

 クソッ、どうすりゃあいいんだよ…!

 俺は、帰りを待ってるヒヅルと子供の為にも、絶対に生きて元の世界に帰らなくちゃいけない。

 でも、だからって、サクラやペコ、クリハラさんやナオ…皆を殺して『げぇむくりあ』するのだけはダメだ。

 何か、方法はないのか…?

 誰一人傷つけ合わずに生き延びる方法…!

 

 俺は、もう一度スマホの画面を見て、何かヒントが無いか探そうとした。

 その瞬間、すぐに違和感に気がついた。

 

「……あれっ?これ、おかしいぞ…?IDの表示がひとつ足りない…」

 

 スマホの画面には、9つのIDが表示されていた。

 そこには、既に死んだカスガさんとタケヒトのIDもある。

 参加者は10人…正確には9人と1匹のはず。

 現に、『げぇむ』開始時には、ちゃんと10個のIDが表示されていた。

 

 なのに今は、IDが9つしかない。

 ペコのIDだけが、画面に表示されていなかった。

 

「なあ、サクラ。ペコのIDが表示されてないんだけど…」

 

「えっ?」

 

 俺がサクラに言うと、サクラがきょとんとする。

 俺に言われて思い出したようにスマホを確認したサクラは、画面を見てハッとする。

 

「あっ、本当だ…」

 

「サクラのスマホでも、ペコのIDは表示されてないのか…でも、何で…」

 

 ペコのIDだけがいきなり消えた原因を考えていた、その時だった。

 サクラが思い出したようにもう一台のスマホをパーカーのポケットから取り出すと、そのスマホを操作した。

 すると再び、ペコのIDが画面に表示された。

 ペコのステータスは、相変わらず『かんせんしゃ』のままだ。

 

「あっ、IDの表示が戻った。何でだ…?」

 

「今、ペコのスマホの電源を入れたんです。いつの間にか電源が落ちちゃってたみたいで…」

 

「……!そう…か……」

 

 サクラの言葉を聞いた瞬間、俺は自分がとんでもない勘違いをしていた事に気がついた。

 俺は、この場にいる他の3人に、その事を話した。

 

「皆、聞いてくれ!!オレ達は、もしかしたらとんでもない勘違いをしていたのかもしれない…!」

 

「勘違い…?」

 

「このスマホに表示されるのは、参加者のIDじゃなくて、()()()()()()()()()()()()I()D()だったんだ…!!」

 

 俺が言うと、他の3人が驚いた表情を見せる。

 この『げぇむ』の主催者側が意図的に仕掛けた錯覚。

 それは、このスマホのアプリの特性だったんだ。

 

 開始時点で参加者の顔写真とIDが表示されれば、普通は参加者のIDが表示されると思い込む。

 だけど、スマホに表示されるのは、参加者のIDじゃなくて、今電源が付いているスマホのIDだ。

 いきなり消えたペコのIDが、サクラがスマホの電源を入れた途端に復活したのがその証拠だ。

 俺が説明すると、クズミさんが反論する。

 

「それが…わかったから何だって言うんだ…?現状は何も変わってないだろうが…!!」

 

「覚えてないか?『げぇむ』開始時点で、一台だけ、電源がついてないスマホがあったのを…」

 

 俺が言うと、クズミさんは思い出したように目を見開く。

 

「まさか…最初の犠牲者が持っていたスマホか…?」

 

「そうだ」

 

 俺は、クズミさんの言葉に頷いた。

 『げぇむ』開始時点で、最初の犠牲者が持っていたスマホだけは、充電が切れていたのか、電源がつかなかった。

 もしかしたら、最初の犠牲者のスマホに、『げぇむくりあ』のヒントがあったのかもしれない。

 

「それが…何だっていうのよ!?あの人は、『かんせんしゃ』の見せしめに殺されたんでしょ!?だったら、スマホがあっても意味ないじゃない!」

 

 カシロさんが俺の言葉に反論した、その時だった。

 

「それは違うわ!」

 

 クリハラさんに連れられて身を隠していたナオが、駆けつけてきて叫んだ。

 ナオに続けて、クリハラさんも駆けつけてくる。

 

「おい、ナオ!先に行くなって!」

 

「わかったのよ!彼は、見せしめに殺されたんじゃない!!彼の、本当の死因は…」

 

 ナオが、皆に真相を話そうとした、その時だった。

 タマキが、ナオに向かってモップを振りかぶる。

 

「ナオ!!」

 

 クリハラさんが、血相を変えて駆けつける。

 ナオの頭にモップが振り下ろされる、その瞬間だった。

 

 

 

 ――ゴッ

 

 

 

「嘘、でしょ…」

 

 鈍い音が、響いた。

 ナオの前に立ち塞がったクリハラさんが、床に倒れる。

 クリハラさんが倒れるのとほぼ同じタイミングで、俺はタマキに飛びついて組み伏せた。

 

「いやっ…お父さん…お父さん!!」

 

 ナオは、床に倒れたクリハラさんの肩を揺すった。

 クリハラさんの頭からは、ドロっと赤いものが流れた。

 

「タマキ、もうこんな事やめろ!!」

 

「離せ!!既に2人死んだ!!今更勘違いに気づいたから何!?アタシはもう、止まれないんだよ!!」

 

 俺は、暴れるタマキを地面に組み伏せて説得を試みた。

 だけどタマキは、聞く耳を持たなかった。

 そんな中、サクラが、ナオに向かって叫ぶ。

 

「ナオさん!!気付いた事って、何だったんですか!?お願いします、話して下さい!!今は、ナオさんが頼りなんです!!」

 

 サクラは、気付いた事を話すよう、ナオに言った。

 だけどナオは、クリハラさんが殴られたショックで放心して、サクラの声が聴こえていなかった。

 

「お父さん…お父さん…!!」

 

「ナオ!!」

 

 俺が叫ぶと、ナオはビクッと肩を跳ね上がらせる。

 

「タマキがクリハラさんを殺してたら、とっくにタマキがレーザーで撃たれてるはずだ!クリハラさんはまだ生きてる!!今『げぇむくりあ』すれば、クリハラさんは助かるんだ!!だから教えてくれ!!」

 

 俺がナオに言うと、正気を取り戻したナオが目を見開く。

 口を開いたナオは、真実を語り始めた。

 

「………2日以上、経ってたの…」

 

「え…?」

 

「お父さんが、死体の違和感に気付いて…それでさっき、もう一度検視したら、あの死体が死後2日以上経ってる事がわかったの…それで、お父さんが言ってたの…あの人は、この『げぇむ』の見せしめとして殺されたんじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃないかって…」

 

 ナオが真実を口にすると、クズミさんとカシロさんが呆然と立ち尽くす。

 診察室の死体は、死後2日以上経ってた。

 だったら、この『げぇむ』の見せしめに殺された可能性は低い。

 多分、逆だったんだ。

 ここに参加者を誘き寄せて殺したんじゃなくて、別の『げぇむ』で死んだ参加者を、『でぃいらぁ』がここに運び込んだんだ。

 俺がその事に気付くと、カシロさんが反論する。

 

「だったら、『げぇむ』の説明の時に表示された画像は、何だったの!?」

 

「…フェイクだよ」

 

「フェイク…?」

 

「あれは、AIで生成されたフェイク画像だ。『かんせんしゃ』の見せしめとして殺されてる人の画像じゃない。見せしめなんか、初めからいなかったんだ」

 

 俺が画像を見た時抱いた違和感は、これだった。

 あのフェイク画像は、あの男が『かんせんしゃ』の見せしめとして殺されたと俺達に思い込ませる為の、罠だったんだ。

 あの画像が偽物なら、あの男が『かんせんしゃ』だったという前提自体が正しいと言えなくなる。

 

「それがわかったから…何だと言うんだ…!?『げぇむくりあ』と何の関係がある…!?」

 

 クズミさんは、俺を睨みながら尋ねる。

 俺は、あの男が持っていたスマホの存在を思い出した。

 

「ナオ、最初の犠牲者が持ってたスマホは…?」

 

「い、一応持ってろって、お父さんが…」

 

「貸してくれ」

 

 俺が言うと、ナオはスマホを取り出して俺に差し出した。

 俺は、ナオから受け取ったスマホの電源ボタンを押す。

 しばらくして、画面がついた。

 そこには…俺が予想していた通りの画面が表示された。

 

「『のぉまる』のIDが…2つ…!?」

 

 自分のスマホの画面を確認したサクラが、驚きを露わにしながら言った。

 俺のスマホには、11個のIDが表示されていた。

 そのうち、タマキと、最初の犠牲者の男のIDの2つだけが、『のぉまる』だった。

 

「『のぉまる』のスマホが2つあれば、『わくちん』を増やして、ここにいる参加者を全員『のぉまる』にできる。それが…この『げぇむ』の、唯一の必勝法だったんだ」

 

「そんな…じゃあ…カスガさんも、タケヒトも…死なずに済んだっていうの…!?」

 

 俺が言うと、カシロさんが呆然と立ち尽くしながら口を開き、俺が押さえつけていたタマキは、絶望の表情を浮かべる。

 この『げぇむ』は、たった1人の生き残りを決めるデスゲームなんかじゃない。

 皆で協力すれば参加者全員を救える、優しい『げぇむ』だったんだ。

 その事に、もっと早く気付けていたら…誰一人死なずに済んだ。

 カスガさんも、タケヒトも、救う事ができたのかもしれない。

 

「ウソ…じゃあ、アタシがした事って…何だったの…?」

 

 タマキは、ポロポロと涙を流しながら口を開く。

 もう暴れる気力も残っていないタマキを解放すると、タマキは頭を抱えて自分の行いを悔いた。

 

「アタシは…1人しか生き残れないと思ったから、戦う事にしたのよ…それなのに、全員を救う方法があるなんて…だったら、アタシのした事って…!!」

 

 タマキは、自分のした事が無駄だったと知って、絶望のあまり涙を流していた。

 俺は、タマキのスマホの上に、最初の犠牲者のスマホを置いて、接触させた。

 するとタマキと男の顔写真の上に、注射マークが表示される。

 『のぉまる』同士が接触したから、『わくちん』ができたんだ。

 

「タマキ。今、他の皆を救えるかどうかは、お前にかかってるんだ。他の皆と接触してくれ。頼む」

 

 俺は、参加者の中で唯一『わくちん』を持っているタマキを説得した。

 だけどタマキは、俺の言葉には耳を貸さなかった。

 

「全員を救えるって…何よそれ…!だったらアタシは、無意味に人を傷つけて殺そうとした、最低のクズって事になるじゃない…!1人しか生き残れない『るうる』で死んだ方が、どんなに良かったか…!!」

 

 自分が生き残る為に他の参加者を傷つけたタマキは、自責の念に駆られて、もう生きる気力すら失くしていた。

 俺は、タマキの肩を掴んで、顔の前で叫んだ。

 

「聞け!」

 

 俺が叫ぶと、タマキは目を見開く。

 

「…確かに、お前がクズミさんやカシロさん、クリハラさんを傷つけた事は、無かった事にはできない。けど、3人とも、生きてる。生きてる限り、取り返しはいくらでもつく。まだ、生きてる奴等は救えるんだよ!」

 

「無理だよ…アタシなんか、死んだ方がいい…!」

 

「それは違う。お前が死んでも、そんなのは償いでも何でもない。もしお前に、詫びたい気持ちが少しでもあるのなら…背負って生きろ!お前が自分の罪を許せる日が来るまで、足掻いて、踠いて、全力で生き延びろ!!」

 

 俺は、タマキの肩を揺すりながら叫んだ。

 するとタマキは、俯いて涙を拭ってから、フラフラと立ち上がった。

 そして床に落ちたクリハラさんのスマホに、自分のスマホを重ねた。

 タマキとクリハラさんの接触が成立して、クリハラさんも『のぉまる』になった。

 俺は、クリハラさんの前で床に座り込んで肩を振るわせるタマキに、後ろから声をかけた。

 

「ありがとう」

 

 俺が言うと、タマキは大声で泣いた。

 俺も、犠牲者のスマホを使って自分を『のぉまる』にして、クリハラさんと接触して『わくちん』を作った。

 俺は自分の『わくちん』でペコを『のぉまる』にして、ナオはクリハラさんと接触して自分を『のぉまる』にした。

 サクラはペコの代わりにクズミさんを、ナオはカシロさんを『のぉまる』にして、クズミさんが、自分の『わくちん』を使って、最後の『かんせんしゃ』であるサクラを『のぉまる』にした。

 生存者全員が『のぉまる』になると、時間切れを待たずに、スマホから通知メロディーが流れる。

 

《『こんぐらちゅれいしょん』。『げぇむくりあ』》

 

 持っていたスマホに、『げぇむくりあ』と表示される。

 

「良かった…良かったぁ…!!」

 

 『げぇむ』を生き延びたナオは、安堵の涙を流した。

 他の皆も、誰一人犠牲者を増やさずに『げぇむくりあ』できた事を喜び合った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 『げぇむ』を『くりあ』した後、俺とナオ、そしてサクラは、『げぇむ』で重傷を負ったクリハラさん、クズミさん、カシロさん、そしてタマキの手当てをした。

 クズミさん、カシロさん、タマキの3人は、傷つけ合った者同士、相手の傷つけた箇所を治療した。

 『げぇむ』中は殺し合っていた3人だったけど、『げぇむ』を終えたら、互いを許し合って、助け合っていた。

 本当は、犠牲になった2人の事も、救いたかった。

 だけど生き残った人達は、最後には全員がお互いを労って、助け合えた。

 最後の最後に、人の心は美しいって事を、改めて知る事ができた。

 

「良かったですね、本当に…」

 

「ああ…」

 

 他の皆が『げぇむ』会場を去っていった後、俺とサクラだけが、会場に残った。

 俺は、気になった事をサクラに尋ねる。

 

「…なぁ、サクラ。ひとつ聞いていいか?」

 

「はい?」

 

「お前……『ぷれいやぁ』じゃないだろ」

 

 俺が尋ねると、サクラが僅かに目を見開く。

 それもそのはずだ。

 『ふぁあすとすてぇじ』がまだ途中なのに、『ぷれいやぁ』が自身の置かれている立場を知る手段は、何もないはずだからだ。

 だけどサクラは、すぐに態度を切り替えてシラを切った。

 

「『ぷれいやぁ』?何の事です?」

 

「オレがこの国に来るのは、2回目だ」

 

「え……?」

 

 俺が言うと、サクラが大きく目を見開く。

 

「オレは、12年前の隕石災害で、心肺停止に陥ってこの国に来た。ここで全ての『げぇむ』を『くりあ』して、元の世界に戻ったんだ」

 

「……道理で…『げぇむ』慣れしてると思いました…」

 

 俺が言うと、サクラは観念したのか、ため息をついた。

 

「お前が『ぷれいやぁ』じゃないと確信したのは、お前がペコのスマホの電源を入れた時だ。お前がペコのスマホの電源を落としてまたつけなきゃ、オレ達がこの『げぇむ』の仕掛けに気付く事はなかった。今思えば、最初の男のスマホを充電するよう言った時といい、タマキ達を説得しようとした時といい、お前の行動は、オレ達を『げぇむくりあ』に誘導しているように見えた」

 

「………」

 

「お前が『でぃいらぁ』なら、オレ達が『げぇむくりあ』した時点で殺されてるはずだ。お前は…『今際の国』の()国民なんじゃないのか?」

 

 俺はサクラに、自分の中で立てた仮説を話した。

 サクラは現国民だった。

 そう考えれば、今までの不可解な行動は全て説明がつく。

 俺が言うと、サクラは、呆れたように笑いながら白状した。

 

「……あーあ。バレちゃった…ボクとした事が、その可能性を完全に見落としてましたよ。まさか、2()()()の人がいるなんて」

 

「…やっぱり、そうだったんだな。どうして『今際の国』の国民になったんだ?」

 

 俺が尋ねると、サクラはポツリ、ポツリと話し始める。

 

「ボク、12年前の隕石災害で、家族を亡くしてるんです。両親と兄は、即死でした。姉は…救急隊員の人達が手を尽くしてくれたみたいなんですけど、結局助からなくて…そんな時、噂を聞いたんです。あの災害で心肺停止に陥った人が、臨死体験をしたって噂……この国に来て、その噂を思い出して、確信しました。姉は、この国に迷い込んで、『げぇむ』に敗れて命を落としたんじゃないかって。だからボクは、この国を支配する存在から過去にこの国に来た人の情報を聞き出す為に、国民になる事を選んだんです」

 

 その話を聞いた瞬間、点と点が繋がった。

 サクラは、ニーナの妹だったんだ。

 臨死体験の噂を聞いてこの国に迷い込んだサクラは、ニーナもこの『今際の国』に迷い込んでいた事を突き止めた。

 そしてニーナの死の真相を確かめる為に、国民になる事を選んだんだ。

 

「その為だけに、何百人もの『ぷれいやぁ』と殺し合いをする…それが本当に、お前の望んだ結末なのか?」

 

「さあ…どうでしょうね。ただ、これだけは確かです。ボクは、そうまでしてでも、お姉ちゃんに会いたかった。両親にも兄にも相手にされなくて、学校にも馴染めずに閉じこもってたボクに、優しくしてくれた、たった一人のお姉ちゃんだったから…」

 

 そう語るサクラの目には、涙が浮かんでいた。

 そんなサクラを心配してか、ペコがサクラの顔を舐める。

 

「くぅ〜ん…くぅ〜ん…」

 

 ペコは、寂しそうに鳴きながら、サクラの頬に伝った涙を舐め取った。

 するとサクラは、ペコの頭を撫でながら言った。

 

「ペコ。お前はボクみたいになっちゃダメだよ。ボクはここに残るけど、お前は元の世界に戻って生きるんだよ」

 

 そう言ってサクラは、ペコの身体を抱きしめた。

 ちょうど、その時だった。

 

 

 

 ――ドォン!!

 

 

 

 空に無数の花火が打ち上がった。

 いよいよ、この国から出る時が来たんだ。

 『今際の国』を出れば、この国での出来事は全部忘れちまう。

 今度こそ…本当に、お別れだな。

 

「サクラ…」

 

 俺はこの国を出る前に、サクラにニーナの事を伝えようとした。

 だけど、伝えなくてもいいと思った。

 国民になった時点で、残された時間は僅かだろうけど、サクラがこの国に留まってまで探し求めた答えは、サクラ自身が見つけなきゃいけない気がした。

 

「……いや、何でもない」

 

 俺がそう言って背を向けたその時、サクラが呼び止める。

 

「ヘイジさん!」

 

 サクラは、俺に向かって何かを言った。

 だけどその言葉は、花火の音で掻き消された。

 その言葉を聞き返す前に、一際大きな花火が打ち上げられた。

 巨大な花火が、遙か上空で弾けた。

 その瞬間、俺の視界は白い光に包まれて、意識が途絶えた。

 

 

 

 

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