チリちゃんに堕とされたはがね使いの弟分 作:おねショタいいよね。
グレープアカデミー、談話室。完全個室のプライベートルームにて、一人の少年がソファに腰掛けて、とある人物を待っていた。
サイカらしくもなくソワソワしながら待っていると、やがて扉がガラリと開き、剃り込みの入った笑顔な男性が入ってくる。
一件は完全にどこかのポケモンマフィアだが、その正体はグレープアカデミーの言語学の先生、『セイジ』である。
「おまたせ〜親愛なるサイカ!」
「あっ、セイジ先生……ありがとうございます。お時間態々……」
「ノープログレムだね!生徒が勇気を出して相談してくれた。これ、教師としてはベリベリハッピーね!それに、サイカには少し用もあったしな!」
そう言ってセイジは頭を下げていたサイカを笑顔で収める。
セイジは熟れた手つきでお茶を淹れると、そっとサイカの手元へと出し、彼自身もサイカの向かい側のソファへと腰掛ける。
「……それで、サイカはワシに何の御用かな?確か……プライベートな相談、言ってたね?」
「あっ……はい……実は……」
――サイカは、少し緊張しているのか言葉を出そうにも、中々でない……そんなサイカを、セイジは急かす訳でもなく、笑顔で見守っていた。
「そのっ……最近……ちょっと前……から、好きな人が出来て……」
「おぉ!それはめでたいお話やな!」
「なん、ですけど……その……相手が年上で……」
そう聞くと、セイジはふむ。と言葉を漏らして小首を傾げながら問いかける。
「年上?具体的には?」
「その……これ位。」
そう言って、サイカは片手の指を一本立てて、もう片方の手の指で◯を作る。それを見て、セイジはふむふむと頷く。
「……いや、こんな事学校の先生に聞くのなんてどうかしてると思うんですけど、話を分かってくれそうな人が周りにセイジ先生しか居なくて……俺、どうしたら良いのかなって……」
「HAHAHA!そんな気にしなくてもオッケーね!でも、そっかぁ。甘酸っぱいな!」
そう語るセイジ先生の薬指にはめられた指輪が、サイカには陽の光の相まって一瞬輝いているように見えた。
「好きな相手が年上だったり年下だったりすると、悩む事が多いな!」
「……はい。」
「でも、よく勇気出してくれたな!恋やラブについての相談って中々人にしづらいわな!ワシ、どの程度役に立てるかわからんけど、力のかぎり手を貸すよ!」
そう言ってセイジは、サイカの肩をパシパシと叩く。
「さて……その子とは仲良いのかな?」
「その……子供の頃から面倒見てくれた姉貴分的な人で……」
「昔は鬱陶しいほど構ってきたんですけど、最近忙しくてあんまり一緒に過ごす機会も減って……」
「始めの頃はそんなんでとなかったんですけど、途中からなんかずっと寂しくなって……」
「俺も最初は気の迷いかなって思ってたんですけど……日に日にその人の事で頭いっぱいになって……」
「セイジ先生の言語学で『好きな人』についての話題が出る度にその人の事が思い浮かんで……!」
「その人、なんと言うかいつもはおちゃらけてるんですけど、いざという時はしっかりしてて格好良くて……」
「なんか……その……そんな感じ……です。」
一度話し始めれば留まることを知らず、ただひたすらに自身の心の中のもやもやした思いをぶちまけていた。
セイジはそんなサイカを茶化すでもなく、真剣な表情で、一言一句聞き逃さずに耳を傾けている。
「そっかぁ……よく話してくれたね。」
「……先生って、結婚してるし、こういった事情も詳しそうなので相談してみたんですけど……やっぱり良くない、ですかね?」
そんな事を漏らしてしまうサイカに、セイジは少し眉をひそめて、しっかりとした言葉遣いで伝える。、
「サイカ、好きになる気持ちに『良くない』なんて事はそうそうないよ。勿論、一方通行すぎるのは良くないけど、せっかく秘めた恋心を『良くない』なんて卑下するのは辞めなさい。」
「っ!は、はい!」
サイカは思わず身体を跳ねさせて背筋をピンと伸ばす……すると、セイジの表情は崩れてまた笑顔を向ける。
「よし!……とは言ったものの難しい問題ではあるな。」
セイジは先生として生徒の恋路やその相談を無碍にする事は出来ない。かと言って、無責任な言葉を投げてあげる事ももっての他だ。
「ワシ、一番いけないと思うのは、焦って気持ちを伝える事だと思うねん!焦ったり急いだりして気持ちを伝えようとすると、一方通行になってしまう事も多いからな!」
「一方通行……」
……そう言われてみれば、サイカは確かに先ほどから自分の心持ちばかりで相手のことをあまり考えられていないのを再認識する。
まぁ、十歳で成人になれるとはいってもまだ子供、そこに気づけただけでも大きな進歩だろう。
「けど、自分が少しでもちゃんとした形で、しっかりとした言葉で伝えられそうって思ったら、キチンと伝えるのも大事!その押し引きが恋愛の難しい所やんな!」
ちゃんとした形――しっかりとした言葉――確かに、今のサイカがちゃんとした言葉でキチンと意中の人にその言葉を伝えられるかはわからない。
「でも、サイカがその人を大好きなのはちゃんと伝わったよ!ナイスラブね!」
「そう……ですか?」
「うんうん、ワシも昔も思い出しちゃったよ…………恋愛には待つ時間も必要!焦るのも痛いほど分かるけど、兎に角今は待つ時間!少しの間がまんね!」
「はいっ。」
サイカはセイジの言葉に。そう勢い良く返した……すると、セイジは少し肩をすぼめながら呟く。
「少しは参考になったかな?」
「……正直、まだちょっとピンと来てない所もあります……けど、改めてしっかりと話せて良かったです。」
「うん、それでヨシ!ね。恋は勢いも大切、けどゆっくり歩くことも大切。ペースが分からなくなったりしたらまた声掛けて!ちゃんと相談にのるからな!……あ!」
すると、セイジは思い出したように手を叩いて笑顔を向ける。
「そうだ!サイカにこの子を渡そうと、思ってたんだ!」
そう言ってセイジは懐から一つのモンスターボールを手にとって、サイカの手に握らせる。
サイカは持たされたモンスターボールの中を見てみると、そこには黒い小判を額に付けた灰色っぽい体色のばけねこポケモン『ニャース(ガラルの姿)』だ。
ガラル地方特異の姿、リージョンフォーム。しかも、タイプははがねとサイカの専門タイプだ。彼自身、なんど図鑑を読んで憧れた事か。
サイカが個人的にリスペクトし、憧れている元ガラルチャンピオン、鋼の大将ことピオニーの手持ちにも、このニャースの進化形であるニャイキングがいる。
「えっ!?ガラルのニャース!?……い、良いんですか!?」
「YES!サイカははがねタイプに詳しい聞いてたし、その子は冒険好きみたいでな!君と一緒に居た方がもっと沢山世界をみれると思うから、君に預けようと思うよ!」
「わ……わぁ!」
サイカば目を輝かせながら手元に来たニャースを見る。ギュッとボールを握りしめて、セイジにまた深く頭を下げる。
「セイジ先生、ありがとうございます!……よろしくね、ニャース!」
「うんうん、ポケモンへのラブもバッチリねー!老若男女、笑顔が一番よ!」
セイジがうんうんと満足気に頷く中、サイカはふと一つ引っかかる事があり……思わずセイジに問いかける。
「そう言えばセイジ先生……俺がはがねタイプが好きって誰から?」
「ジニア先生からなんだな!彼、前の宝探しでサイカが作ったカヌチャン達に関するレポートを褒めてたよ!はがねタイプの知見が深いって!」
「あ。へへっ……そう言われるのは嬉しいですね。」
……サイカは、幼い頃にピオニーの試合を見てからずっとはがねタイプに憧れて、はがねタイプの勉強やフィールドワークをしてきた。
その努力の結晶の一つが、先生にもちゃんと伝わったというのは、嬉しいことこの上ない。
「えへへっ……あ、そろそろ時間だ。」
「ん、話し込んでしまったね!また何かあったら相談してね!」
「はい!ありがとうございました!」
サイカは再度、セイジへと深々と頭を下げると談話室を後にする……セイジはサイカが、居なくなった後も満足そうに、しかし何かを考えるように頷いていた。
(うん、サイカならきっと大丈夫……問題はお相手さんの方だな。生徒の目を疑いたくはないけど、先生としてはサイカに変な事に巻き込まれて欲しくはないからな。)
十歳差……それはけして少ない年齢差ではない。
無論だからといってその恋路が間違っている訳が無いのだが、大人としては無条件に応援もできない。
万が一、相手が子供を食い物にするワルで、サイカが良いように使われる可能性もあるのなら……考えなければならない。
セイジが詳しく考える中、当の本人達は……
「あり?サイカ、腰のボール増えてへんか?新しくポケモン捕まえたん?」
「ある人から預かってさ!ガラルのニャース!」
「おぉ、珍しいな!立派に育てや!」
「おう!」
(ゆっくりか、ゆっくり……そうだな。チリ姉もリーグや四天王の仕事忙しいし、こっちの気持ち押し付けちゃ駄目だよな。)
(いやぁ、可愛いなサイカ…………こんな子に惚れられとるんかぁ……アカン隆起すんな隆起すんな隆起すんな隆起すんな――)
そんな感じで、また良くわからない状態へと陥っていたのだった。
セイジ先生:良い先生で良い大人。生徒の恋路を応援してるけどその純情を弄ぶような悪人なら容赦しない。
サイカ:勇気を出してセイジ先生に相談してみた。宝探しで作ったカヌチャンの性格や特性ごとの武器の差異がかなりちゃんと作られていて好評らしい。
チリちゃん:知らぬ間にサイカを拗らせた人。現在大人としての自制心を鍛えている真っ只中。
ニャース(ガラルの姿):サイカの新たな手持ち。攻撃技はねこだましのみである。