不可避のF/風都の聖杯戦争   作:otmo

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猛攻のA/ガイアインパクト

 アクセルはすでに二十分もの間、風都タワー前にて戦っていた。

 寄る敵は片っ端から超重量のエンジンブレードで力任せに薙ぎ払い、敵の攻撃はアクセルの装甲に傷一つ付けることができないと、趨勢そのものはアクセルが優勢だった。

 しかし敵の数は一向に減っているかのように見えず、さすがのアクセルも困惑を覚えずにはいられなかった。

 

(疲労を狙っているのか……?)

 

 数で圧倒的に勝るにもかかわらず、敵の姿勢は消極的――アクセルの圧倒的な戦力を考えれば怯むことも当然だが、そうした怯えではなく、敵の動きには意図的なものが感じられた。

 

(ならばその奸計ごと振り切る――!)

 

 アクセルはドライバーの右スロットルを回す。その途端、猛火のような力がアクセルの内部に吹き荒れる。

 強力なパワー、強固な防御、バイクフォームによる機動力、そしてこのメモリのエネルギーを上昇させる特殊能力による不尽のスタミナ。 

 左翔太郎が、彼一人に戦いを任せた時に抱いた思いは、断腸の思いではなく、こうしたアクセルの力への信頼であった。

 

 パチパチと拍手の音が聞こえる。

 風都タワー上部――おおよそ二十階ほどの位置の“外壁”に大柄な男が立っている。

 男はとんと飛び降り、そのままアクセルの前に着地した。むろん人間業ではない。

 

「見事だ、仮面ライダーよ」

 

「その白服……財団Xか!」

 

「いかにも……その健闘を称え、君の疑問の全てに答えよう。何も知らぬまま死ぬのは不憫――」

 

 ごう、とエンジンブレードが振るわれる。

 敵と定めたからには、その者と語る舌など持たない。閃く刃は、そう口よりも雄弁に物を語っていた。

 

「短気なことだ……折角全ての種明かしをしようというのに」

 

 後ろに飛びブレードを回避、そのままとんと跳躍すると、再び風都タワーの外壁へと、突き刺さるかのように降り立った。

 配下と思わしき者達は統率のとれた動きでアクセルを囲む。

 その動きはアクセルの打倒ではなく、あまりにも露骨に『ここから逃がさない』ことを表していた。

 

「ガイアインパクトを知っているかな、アクセル」

 

 アクセルは返事をしない。聞く耳持たんという様子で周囲のマスカレイド・ドーパントを切り伏せる。

 だがその単語はアクセルの心に深く根付いていた。忘れるはずもない。それはかつてミュージアムが企んだ最終計画。

 

「財団はガイアメモリそのものは見限ったが、ガイアインパクトにはまだ利用価値があるのではないかと考えていたのだ。

園崎琉兵衛や加頭順には彼らなりの考えがあったらしいが、メモリ適合率の高い者のみが生き残るデータの嵐すら巻き起こす現象への財団の捉え方はもっとシンプルなものだ」

 

『ジェット!』

 

 アクセルはジェットメモリを使用し、エネルギー弾を放ち男を狙う。

 男は軽やかに回避するも、アクセルは回避したことによる姿勢の崩れを狙い、バイクフォームで突撃を試みる。

 だがさらに溢れ出るマスカレイド・ドーパントによる肉壁に断念せざるを得なかった。

 

「圧倒的な範囲を持つ破壊の力を放ちつつも、特定の人物のみを生き残らせる――つまりは敵味方を識別する大量破壊兵器。味方ごと敵を撃とうと、敵対する地域のみが破壊され、自身の兵は死なない兵器。死の商人には喉から手が出るほどほしいものだろう?――もっとも財団Xが単なる利潤目的の死の商人と呼んでもいいものかは私でさえ計りかねるが……ともかくガイアインパクトの計測データはコピーがあったものでね。担当セクションは膨大なシミュレーションの末、目的のプログラムを完成させたのだ。あとは園崎若菜……データの奔流の代替となる性質のものさえ見つかれば、“疑似ガイアインパクト”は発動する」

 

 見つかれば――さも手元にないかのような発言とは裏腹に、男の言葉には自信が満ち溢れている。

 アクセルはダメージも顧みず強行突破を図る。立ち伏せる敵を切り、防御も考えず前に進む。

 もはや一刻の猶予もない――敵はすでに園崎若菜の代替をすでに見つけている!

 

「そう、我々はそれを手に入れた。SOLUと呼ばれる宇宙生命体だ……その体内に有する膨大なコズミックエナジーは疑似ガイアインパクト発動に最適だった!まさに宇宙からの祝福と言わざるを得ない! もう間もなく風都は消滅する……仮面ライダーと共に……!」

 

「仮面ライダーを倒すために、風都を巻き込むというの!?」

 

「ようやく口を開いたか……思いのほかシャイな男だ。あまり自分を高く見ないほうがいいぞ、アクセル。財団にとっては仮面ライダーといえど些事なのだ。……いざとなればいつでも潰せるもの……疑似ガイアインパクトの発動は、この町があまりにも財団とかかわりすぎたことが原因なのだ。闇は闇へ、暗きは暗き場所へ……もっとも仮面ライダーも無意味な存在ではないがな。そうでなければこうまでして引き留めはしない。疑似ガイアインパクトの威力が仮面ライダー級の敵性体にも通用するか、確かにデータを取らせてもらう。君はそのためにここにいるのだ。」

 

 アクセルはバイクフォームで風都タワーへと取り付く。

 その驚異的な走破性は直面の壁すらも走り抜ける。しかし、一体、二体、三体と敵に組み付かれても爆走するアクセルだったが、さすがに四体、五体となると振り払うこともままならず、再び人型に戻り地面に降り立ち、格闘戦を挑むほかなかった。

 

「ならば何故イリヤスフィールを攫った! お前たちに目的に必要だとは思えないがな!」

 

 その言葉を聞き、男の顔が軽い困惑に歪む。まるで場違いな質問を浴びせられたかのような――

 

「……何を言っている? ともかくお前はこの場にいてもらおう。データを取らなければならないからな……」

 

 その言葉と共に男の体が異形へと変化する。大柄だった体はさらに一回り大きくなった。

 どしんと、地面を揺るがし、アクセルの前に降り立つ男――怪人はその剛腕でアクセルへと攻撃を加える。

 アクセルはエンジンブレードを両手で支え、振り下ろされる腕の盾とした。

 再び地が揺れる。アクセルの両足はアスファルトに大きくヒビを入れ入れたものの、確かにその攻撃を受け切って見せた。

 だが両手が痺れ、しばらくは戦いに使えそうにない。

 

(ならば……!)

 

『アクセル・マキシマムドライブ!』

 

 アクセルドライバーへとメモリを挿し込み、マキシマムを発動させ、生み出された膨大なパワーを全て足へと回し飛び蹴りを放つ。

 

「むっ!」

 

 身構えた怪人へと、アクセルは渾身の一撃を叩き込む。

 爆発音が響き、怪人は大きく姿勢を崩し後ろに跳ね飛ばされた――だが倒れるまではいかない。

 

「ぐァ……! 予測データ以上のパワーだ……!」

 

 怪人はマキシマムを受けた腕を痛みに震えさせ、感嘆の声を上げた。

 一方アクセルもその怪人のポテンシャルに驚嘆せざるを得なかった。単純な破壊力ではWを含めた仮面ライダーの攻撃手段の中でも上位に位置する技だ。

 それをある程度のダメージを与えたとはいえ、五体満足で受け切られたということは、この怪人へと通じる攻撃法方法は自ずと限られることとなってしまう。

 

「だがアクセルよ……! どれだけの勇猛を振るおうとお前にもうなす術はない……この戦い、疑似ガイアインパクトを察知できなかった時点でお前の運命は決しているのだ!」

 

「ならばその運命――振り切ってみせる!」

 

 自身の全てを賭けて、今眼前の敵には挑まなくてはならない。

 だがアクセルの脳裏にはある疑問がこびりついていた。

 ――この敵はイリヤスフィールとは関係していない。ならば彼女を攫ったのは誰なのか……?

 勝利を確信し、わざわざ計画を晒したこの男が、今更イリヤスフィールの所在を隠すとは思えない。この男は本当にイリヤスフィールという存在を知らないのだ。

 しかし同日に起きた事件が全くの無関係とも思えない。

 何より今目の前にいる怪人のディテールは、ドーパントというよりも、アイリを襲った女の怪人と似通った部分が多かった。

 この男は知らない、だが財団X、あるいはこの怪人へと力を与えた何者かが関わっている――

 ガツン、とアクセルは今だ痺れの残る両腕を強くぶつけ合わせ、思考を振り払った。

 気になることはある。だが、今そのことを考えている暇はない。

 この戦いに負ければイリヤスフィールも、仲間も、街も、そして愛する妻も――全てが灰燼へと帰すのだから。

 

「オオオッ!」

 

 アクセルは裂帛の気合いと共に上段の回し蹴りを放つ。しかしマキシマムにすら耐えるその肉体には、それだけでは目立ったダメージを与えることができない。

 怪人もそのことを理解しているのか避けようともせず、アクセルの攻撃を無視するかのように猛進、そのままショルダータックルによる攻撃を行う。

 攻撃の最中のため機敏な回避を行えないはずのアクセルだったが、あわや命中というところで紙一重の回避を見せる。

 しかしそれは次の動きを犠牲とした回避――身を投げ出すかのようなその動きは、回避というよりも地に倒れこんだと言ってもいい。

 

「それでは次の攻撃を避けられまい!」

 

 怪人もまた倒れこむかのような動作と共に、肘を構える。仰向けに倒れたアクセルの胸にエルボーを叩き込み、そのまま地面と挟み込んで動きを封じこむ腹だ。

 だがアクセルは背中のホイールを猛烈に回転させると、それを利用し、倒れたまま地面を高速移動する。

 そうして距離を離したアクセルは再び立ち上がり、ファイティングポーズをとった。

 

「器用だな……だが、気づいているか? 自分が風都タワーからどんどん離れていることに」 

 

 確かに怪人の言う通り、二人と周囲を囲むマスカレイド・ドーパントは最初に相対した場所からかなりの距離を戦闘しながら移動していた。

 それはアクセルが防がねばならない疑似ガイアインパクトの発生地から大きく離れていくことになる。

 アクセルもまたそのことは理解しているものの、この強力な怪人の手から逃れ、風都タワーへ向かうことは困難を極めた。バイクフォームも完全に警戒されており、十分な加速を得る前にまず捕えられてしまうだろう。そして疑似ガイアインパクトとやらはいつ発動してもおかしくはない。

 これは将棋でいうところの『詰み』。怪人の言う通り、もはや運命は決したと言ってもいい――しかし、アクセルは諦めることはしなかった。

 

「そうだ、距離は離れている――もう十分な距離がとれた!」

 

「何……!?」

 

『トライアル!』

 

 トライアルメモリ――パワー、装甲を代償とするものの、そのことにより得られるスピードは拳銃の弾丸にも匹敵する。もっとも銃弾とは違いアクセルは失速もしなければ、その運動は直進のみでもない。

 アクセル・トライアルはそのスピードを存分に活かし、風都タワーに向かって走り出す。怪人はアクセルを掴もうとするも、影にすら手が届かない。

 アクセルはただ闇雲に戦っていたわけではない。敵の最大戦力である大柄な怪人を、できる限りタワーから引き離すことにあったのだ。

 更に速度を上げ、アクセルは風都タワーへ向かう。行く手には百を超えるマスカレイドドーパントがアクセルを通すまいと、風都タワーの周囲で陣形を組むものの、その程度ではトライアルのスピードには対抗できない。おびただしいドーパントの集団の中を縫うようにアクセルは進む。すでにアクセルを阻むものはなく、あとは風都タワーにある、疑似ガイアインパクトを発生させる装置を壊すのみである。

 しかし――

 

『コマンダー!』

『コマンダー!』

『コマンダー!』

 

「な……!?」

 

 風都タワーの上階で数人の人員がガイアメモリを発動させる。

 コマンダーメモリ。かつて照井竜を苦しめた指揮官の記憶を封じ込めたメモリである。複数の能力を持つものの、特筆すべきものは仮面兵士と呼ばれる複数の分身を生み出すことである。

 どっと溢れ出すように分身が数フロアを埋め尽くす。

 広場に溢れる集団の隙間も、そそり立つ壁をも走り抜けるさすがのトライアルも、一切の隙間なく物理的に埋め尽くされたその空間を走ることまではできない。

 

「く……!」

 

 アクセルはそのスピードで次々と兵士たちをタワーから引きはがし、地面へと突き落す。しかしフロアを埋め尽くす兵士を全て排除するには、如何せん時間が足りない。

 

「万策尽きたか?」

 

 果敢に応戦するアクセルだったが、とうとう大柄な怪人が追いついてしまった。背中の大型の翼をはためかせ、悠々と空を舞っている。

 

「スペックこそ把握していたが、そこまでそのスピードを使いこなすとは思わなかった……正直焦ったぞ。だがだからこそ、ここで終わらせる。仮面ライダーはデータで測れぬ危険な存在だ……!」

 

 怪人は咆哮を放つ。風都タワーが激しく振動する。

 おそらくそれが合図だったのだろう――この街を死へと誘う終末の報せ。

 気配が分かる。兵士たちの中、何かを了解したかのような気配を感じる。これから疑似ガイアインパクトが発動する――

 

「貴様……!」

 

「さらばだ、仮面ライダー。そして風都の住民たち」

 

 

 

 ――翔太郎達が風都タワーに突入する少し前。

 切嗣はバイクを走らせ、風都の街を進んでいた。

 あてもなく走らせているわけではない。公算こそ大きくないものの彼なりの考えがあってのことだ。

 切嗣の考えも照井竜とは違わず、財団Xこそが“実行犯”だろうと目を付けていた。

 では何故魔術に価値を見出さない財団がイリヤを攫ったのか、何故イリヤを見出しつつも、アイリを殺害しようとしたのか。

 これを切嗣は、敵はイリヤのみに価値を見出したのではなく、そもそもイリヤとアイリの価値を理解できていないのではないかと発想を変えた。

 価値も理解できないものを強奪した理由は――価値を知るものが背後にいるから。

 魔術協会と財団の間で何らかの取引が持ち掛けられた可能性……財団が求めたものはともかくとして、魔術協会が求めるであろうものははっきりとしている。貴重な魔術標本となりうるイリヤである。

 たとえ名うての執行者であろうとも、魔術師の活動が制限される風都で、魔術師の手口を知り尽くした衛宮切嗣を敵に回して成果物を持ち帰るのはまず不可能、ならば財団の手を借りれば――そんなところだろうか。

 敵対組織に情報は明かせない、だからこそ協会は深い情報を渡さずイリヤのみをを狙うよう指示したため、誘拐犯はアイリには興味を示さない、そして鮮やかな手口と怪人。起こったことの説明は一応つく。

 

 そして財団Xが実行犯だとすれば、やはり車の逃走方向はあのままであろうことも想像がつく。

 財団Xほどの戦力を持つ者たちが、わざわざ偽りの道を通り、何物かを攪乱する必要があるのだろうか? そう、財団はあの凄まじい力を誇る仮面ライダーですら警戒をしていない。だからこそ遠回りなどもない。

 つまりは街からの脱出を奴らは狙っていない。

 おそらく実行犯、そしてイリヤはまだこの街にいる。

 だがイリヤを狙うのが魔術協会ならば、財団は早急にイリヤを引き渡すべきだ。それをせずに未だ風都にとどまるということは、そうせざるを得ない理由があるからなのだろう。

 では、その理由は……それはまだ判然としない。だが“風都にしかない何か”にその答えがあるのではないか――その考えのもと切嗣は行動していた。

 

 切嗣とてこの根拠のない推論を正しいと言い切るつもりはなかった。考えうる仮説の中、もっともマシなものを選んだに過ぎない。

 外れればすぐさま次の候補地へ向かうつもりだった――だったのだが。

 土に残る最近の轍の後、足跡、そして巧妙に、且つ数多く隠された警報装置。

 

(……当たりを引いたのか?)

 

 風都に行かない何か――ミュージアム本拠地跡、星降る谷発掘場。

 娘の姿を求め、切嗣は姿の見えない要塞へと化した発掘場へ慎重に足を踏み入れる。

 

 ふと、左翔太郎へと助けを求めるべきか否かという考えが彼の脳裏に浮かんだ。

 おそらくは間違いない、彼こそが仮面ライダーなのだろう。

 あの仮面ライダーがイリヤの救出にその身を惜しまず協力してくれるというのなら、勿論ありがたい話ではある。

 しかし、切嗣は左翔太郎へと助けは求めなかった。

 ――別段、彼へとわだかまりがあるわけではない。

 実際に仮面ライダーを目にするまでは、切嗣の中では彼が財団Xの始末屋だというのが最も有力な考えだった。

 ミュージアムは徹底的な秘密主義を貫き、事実ミュージアムの成果というものは組織の活動中、外部には全くというほど漏れなかった。

 しかし、それはミュージアムの手によるものだけとは考えづらい。財団もまた情報の隠蔽を行っていたというのが妥当であろう。

 そしてそれを財団側から行っていたのが、仮面ライダーではないか。彼は暴走したドーパントを処理し、表向きは風都の守護者としてふるまう。

 しかし裏ではミュージアムの痕跡を抹消し、ミュージアムへと協力――同時に、ミュージアムの監視も行う。そして財団の意を外れるようならば始末する――それが当初、切嗣が仮面ライダーへと抱いていた印象であった。

 だがあの夜、あの仮面ライダーの戦いを見て、彼が財団Xとは繋がりがないことを切嗣は察した。

 彼の戦いぶりは情報の隠蔽には程遠い。真意こそ測れなかったものの、財団の使者だとは思えなかった。

 そして実際に相対することとなり、彼は仮面ライダー――左翔太郎という人物を知ることとなる。

 当初は仮面ライダーアクセルと彼が属する組織を推し量るつもりだった。彼らがイリヤの誘拐に何らかの形で関わっている可能性もあったからである。

 しかし切嗣の目の前に現れた青年は切嗣の想像とは違い、真っ直ぐで純粋な青年だった。

 彼は心からイリヤの身の安全を心配している。

 だからこそ、今ここで仮面ライダーの力を借りるのも一つの手だ。彼らはイリヤを助けるという目的の上では信用できる人間たちだ。

 しかし切嗣は彼らを陽動して扱うことにした。

 彼らには表だって風都を探ってもらう。そして財団、もしくはイリヤを攫った者たちの目がそちらに移っている間に、自分が秘密裏に行動する。

 だからこそ、今、彼らに助けは求めない。妥当な手であるはずだった。

 

(……本当に、そうなのだろうか……)

 

 切嗣は自身が“英雄”というものに、過去深い憎しみを抱いていたことを自覚している。

 仮面ライダー、風都に燦然と輝く英雄。なるほど、過去の自分ならば憎んでも憎み足りない存在である。

 しかし今の自分にとってはどうでもいい話である。

 誰が煌びやかに戦いを飾りたてようが、誰が戦いというものを世界に広げようが――そんなものはただ家族のみを守ることと決めた切嗣にとっては対岸の火事に等しい。

 仮面ライダーが力を貸してくれるというのなら、素直に借りればいい。

 だが、自分は未だ英雄というものに、憤懣やるかたないものを抱えているのではないだろうか?

 だからこそ、左翔太郎を拒絶した――

 それは切嗣にとっては恐ろしい想像だった。未だ自分にとって家族以上に重んずる何かが心中に淀んでいるというのか。

 

(いや、違う……!)

 

 切嗣はかつての聖杯戦争を思い起こしていた。あの時自分は、例え憎かろうが“セイバー”の戦力を活用したはずだ。

 ならば今左翔太郎を呼ばないのも、確固とした戦術に則るもので、決して私情に根差したものではない。

 気が付くと切嗣はびっしょりと全身を汗で濡らしていた。それは戦場では未だかつてない経験だった。

 

(僕は……弱くなっている……)

 

 せめてイリヤを取り戻すまで、母娘の平穏を取り戻すまで――暗殺者として戦い続けたあの時の強さが少しでも自身に留まるよう、切嗣は念じながら、採掘場の奥へと歩みを進めた。

 

 

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