不可避のF/風都の聖杯戦争   作:otmo

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猛攻のA/七騎のサーヴァント

 聖杯戦争。

 七人の魔術師による殺し合いである。勝者はあらゆる願いをかなえる聖杯を手に入れるという。

 魔術師は各々サーヴァントと呼ばれる英霊を召喚し、自らの戦力として扱う。

 英霊とは、死して英霊の座へと召し上げられた者達あり、いずれも歴史に名を残す英雄たちである。

 彼らもまた聖杯に託す願いを持ち、聖杯を手に入れるため召喚に応じる。

 

「俺には聖杯にかける願いなんざ持ち合わせていないんだがな……ただ無理やりたたき起こされただけだ」

 

「そう言うな、“ライダー”。あるいは自覚がないだけなのかもしれんぞ」

 

 ライダーと呼ばれた青年は、自らに声をかける男を無視し、奥の空間へと進もうとする。

 “男”はそれをおしとどめるように、前に立ちふさがった。

 

「何をする気だ、ライダー」

 

「奥にあるんだろう? “器”とやらをぶっ壊すのさ。そうすれば何をたくらんでいるのかは知らないが、お前の下らない目論見もご破算だろう」

 

「そうはいかないよ、ライダー。君は私の魔力供給により現界している。私が魔力を断てば君は目的を果たすことなく再び眠りにつくこととなるぞ。なにより――」

 

 ライダーの前に立ちはだかる男の横に、二人の人物がつく。

 

「“アーチャー”と“キャスター”は、聖杯戦争へと乗り気のようだ。いくらライダーのクラスに単独行動のスキルがあるとはいえ、二人の英霊を敵に回すせばただでは済むまい」

 

 剣士の英霊――セイバー。

 槍兵の英霊――ランサー。

 弓兵の英霊――アーチャー。

 魔術師の英霊――キャスター。

 暗殺者の英霊――アサシン。

 狂戦士の英霊――バーサーカー。

 

 英霊たちはそれぞれ生前の逸話から、七つのクラスへと分けられる。

 一つ目の理由は、いかに聖杯の力とて、超常の力を持つ英霊の力をそのまま再現するのが不可能だったため、クラスという枠組みをあらかじめ用意し、そこに英霊の力を落とし込んだものがサーヴァントなのだ。

 そしてもう一つの理由が、彼らの正体の隠匿のためである。

 生前英雄として名を馳せた彼らは、その戦力、そして弱点までもが多くの人々に知れ渡っている。

 そこに生まれる不公平さを無くすため、サーヴァントは自らの名を隠し、クラス名において自らを語るのだ。

 

「私に指図され気に食わないのは分かるがな、ライダー。何、考えればそう悪くもないはずだ。少し耐えればあらゆる願いを叶える聖杯が手に入るのだぞ」

 

「死人を戦い合わせて、お前は高みの見物か?」

 

 ライダーの毒付きを男は軽く笑い流した。

 

「私一人で儀式を行い、私一人で君達を現界させている。その程度は大目に見てほしいな」

 

「そこだ、俺が聖杯に与えられた知識によると、儀式を行うには七人の魔術師が必要だったこと、そして願いをかなえられるものが一人だったからこそ、この戦争は起きた。そして元来戦闘に向かない魔術師たちが雌雄を決するためにサーヴァントを用意する――だが、今この儀式を行っているのはお前一人だ。ならなぜ俺たちが呼び起され、戦わされている?」

 

 ライダーが男を睨みつけながら疑問をぶつける。

 ライダーにとっては、この儀式の根幹に踏み込んだ質問のつもりだったが、思いのほか他のサーヴァントたちの反応は鈍い。

 アサシンが男に向きやる程度だった。

 

「まず認めよう、この儀式は非常にイレギュラーなものだ。よって君たちが与えられた正しい聖杯戦争の知識とは大きなずれがある。そしてサーヴァントが戦わなければならない理由だがこれもまた明かしておこう。聖杯の力とはすなわち、敗北したサーヴァントの魂によって賄われるのだ。よって君たちの争い無くして聖杯は降臨しない。確かに気に食わないだろう。私一人が聖杯の入手を確定させ、君たちは争わなければならないのだから――」

 

 これらの会話に最も大きな衝撃を受けたのは、突如として現世へと帰還を果たし、争いの渦中へと巻き込まれることとなったサーヴァントたちではなかった。

 星降る谷の採掘場――数多の罠をくぐり抜け、その深部へと足を踏み入れ、今岩陰に隠れながら会話を盗み聞く衛宮切嗣である。

 

(マスターが一人……だと……!?)

 

 なるほど、聖杯戦争は魔術の儀式としては非常に完成されたシステムである。それは魔術師としては異端である切嗣であっても舌を巻くほどであり、労力と資金と時間さえあれば、再現すること自体は可能だろう。

 だがしかし、いくらなんでもマスターが一人だというのはあり得ない。これでは挫折と迷走、屈辱の末に現在の聖杯戦争へと至ったアインツベルンの顔がないではないか。

 もし仮に、あの男の話が全て真実だとして、あの男一人が儀式を取り仕切っているというのなら、男の能力はすでに魔法の域に達しているといっても過言ではないはずだが――そんな事が有りえるのだろうか?

 しかし大きな違和感を感じつつも、今男の周囲を取り囲む七人の人物がサーヴァントだということは切嗣もまた認めざるを得なかった。

 かつて彼が見た英霊たちと同じ、圧倒的な魔力の奔流、存在感――男の話す内容には疑問を覚えつつも、あの七人は間違いなくサーヴァントだった。

 ――しかし、切嗣にとっては儀式の内容など些細なことだった。

 たしかに信じられないことではある。たった一人で儀式を完遂したことも、たった一人で七人分の英霊の魔力を賄うことも、魔術には不向きのこの風都の地で聖杯戦争が再現されたことも、明らかに魔術の条理を外れている。

 だがそれはどれだけ過程が複雑であろうと、今目の前に歴として存在する事実であり、切嗣にはそんなことよりもずっと考えなければならないことがあった。

 

(まさかイリヤを聖杯の器とするつもりなのか……!? あの子は……英霊の魂を受け入れられるような体じゃないんだぞ!?)

 

 聖杯戦争において聖杯となる器の製作を担当したアインツベルンは、器そのものに意思を持たせ、ホムンクルスとすることで自陣へのアドバンテージとした。

 それこそがアイリスフィール・フォン・アインツベルンである。

 そしてアイリに芽吹いた命――イリヤもまたアインツベルンによる長年の調整を受けてきた。いずれは彼女もまた生きた器となるために――

 しかし英霊の魂を受け入れるということは人の身には過ぎたことである。

 アイリが聖杯となれば、英霊の魂を多く受け入れればアイリという外殻は消え去ってしまう――だからこそ彼はかつてアイリを連れ立ち聖杯戦争を逃げ出した。

 だが今は娘がその脅威に晒されようとしている。すでに命に関わる不調を煩う彼女が英霊の魂を収めると、よしんば聖杯は完成したとしても、間違いなくイリヤスフィール・フォン・アインツベルンはこの世を去ることになるだろう。

 

(イリヤ……!)

 

 娘の名を叫びたかった。今すぐここを飛び出して、奥にいるであろう娘の元へと駆けつけたかった。

 だが今奥へ通じる道の前には、聖杯を巡る一人の人間と七人のサーヴァントがいる。彼が姿を現せば、それこそイリヤを救出する機会はなくなるだろう。

 歯が砕ける音がした。どれだけの苦しみが心身を苛もうと、切嗣は潜まなければならなかった。

 

「さて、各々方、聖杯戦争の開幕――といいたいところだが、ここでそのまま乱闘というのも、公平さに欠けるだろう。アサシンやキャスターのクラスにとっては特にだ。まずはこの風都に散り、各々の陣地を構えてから戦闘の開始ということで大丈夫だろうか?」

 

「どうせ断ろうが、魔力供給の件を持ち出すんだろうが」

 

 ライダーは男へと反発したものの、男の提案自体に反対する者はいなかった。

 

「……では、器の前には護衛でもつけておくこととしよう……また君のような無頼漢が暴れようとしても止められるようにな……」

 

 その声を発したのは今まで一言も発しなかった老人――男にキャスターと呼ばれたサーヴァントだった。

 

(まずい!)

 

 切嗣は即座に駈け出した。

 間をおかず、キャスターを中心として、通常の魔術師では考えられない速度で黒い人型の使い魔が大量に発生する。

 切嗣は素早く場を離れていたが、キャスターの陣地の構築の迅速さと広大さは群を抜いている。このままでは捉えられてしまうだろう。

 

「――固有時制御――二倍速――!」

 

 猛烈な加速と共に、切嗣は星降る谷発掘場から――つまりイリヤの元から離れる。

 自分一人では愛娘を救う事は叶うまい。助けを求めなければいけない。そう、今度こそ仮面ライダーの……

 ただイリヤの、家族のために――切嗣は走りながら、湧き上がる全ての感情を闇の中へと放り込んだ。

 

 

 

「フィリップ君……舞弥さん……!」

 

 アイリは事務所内で二人の名を呼び、二人の姿を探し続けていた。

 ドアが開いた形跡がなければ、窓も確実に施錠されている。にもかかわらず二人は忽然と姿を消してしまったいたのだ。

 事務所内を当てもなく探し続けるアイリの腕を引っ張るものがいる。鳴海探偵事務所の所長、照井亜樹子だ。

 

「アイリさん、この場を離れましょう」

 

「でも、二人が……!」

 

「アイリさん、二人がどうなったかわからないんでしょう? 私もわかりません!」

 

 そのあまりにもはっきりとした『わからない』宣言には、アイリも目を丸くせざるを得なかった。

 しかしあくまで亜樹子は堂々と胸を張っている。

 

「どうすればいいのか対処法も救出法もわからないのに、私たちが二人がいなくなった現場にとどまるのは危険です! 依頼人は必ず守る……だから私は貴女を連れて逃げます!」

 

 そう叫ぶや否や、亜樹子はミックを抱え、もう片方の腕でアイリの腕を引っ張り、事務所の扉を蹴破った。

 アイリは彼女の言葉に反論は返せなかった。たしかに当てもないのに、異変が起きた現場でうろうろしても自身の身が危険にさらされるだけ――

 それどころか、最悪今も異変と戦っているかもしれない二人の足を引っ張りかねないことにもなるかもしれない。

 

「舞弥さんなら大丈夫! だってうちの探偵がついてますから!」

 

 亜樹子はそうにっこりと力強く笑い、事務所の階段を勢いよく駆け降りる。

 強い女性だ――アイリは思わず感心した。一見すると子供のようにも見えるその雰囲気の中、はっきりとした芯のようなものが通っている。

 アイリは亜樹子に引っ張られながら、舞弥の無事を祈った。

 

(舞弥さん……きっと帰ってきてくれるのでしょう? だってあなたは切嗣が認めた歴戦の戦士なのだもの……こんなところで死ぬはずはないわよね?)

 

 二人と一匹は事務所を飛び出し、風都の路地へと逃げ出した。

 

 

 

「チッ……」

 

 “事務所内”にいる“アサシン”は亜樹子とアイリが近くにあった“鏡”から離れたことで舌打ちをした。

 

≪鏡に映っていたのは亜樹子か……? いや、映っていたと表現していいのかわからねぇが……≫

 

 事務所に置いてあった姿見には確かに彼らの上司ともいえる照井亜樹子の姿が写っていた。しかし亜樹子はこの場にいないのである。

 鏡がまるで窓のような状態になり、亜樹子の姿のみを見せていたのだ。

 

「どうやらそのようだね。そして亜樹ちゃんがアイリさんを連れて、事務所を脱出したことはアサシンと名乗る人物にとっては不都合らしい」

 

≪フッ……なるほど。当てが外れてガッカリか? 蟹男≫

 

 翔太郎の挑発のその比喩に、フィリップは思わず納得した。たしかに蟹をモチーフとした鎧をまとえば、目の前の人物のような外観になるかもしれない。

 しかしアサシンはその挑発を一笑に付し、言葉のみに応対した。

 

「ええまぁ、そうですね。“贄”は多いに越したことはありませんからね」

 

「贄、か……なら亜樹ちゃんの行動は適切だったわけだ――な!」

 

 言葉が終わらぬうちに、ファングジョーカーとなったフィリップは、アサシンへと猛然と攻めかかる。

 

「グゥ!?」

 

 顔面に一発、腹部に二発、一瞬の間に拳撃がアサシンへと叩き込まれる。

 頑丈さこそ非凡なものがあるものの、攻撃速度、反応速度等は、ファングジョーカーのほうが上回っているとフィリップは即座に計算を済ませた。 

 

≪とっとと終わらせようぜ、フィリップ!≫

 

「ああ!」

 

『アームファング!』

 

 フィリップがファングメモリのレバーを入れると、音声と共に鋭利な刃が前腕部から生えるように現れる。

 アサシンとやらの堅牢な装甲も、このアームファングなら引き裂ける。フィリップはすでにそこまでアサシンの能力を推し量っていた。

 

「フン……」

 

 対して殴り飛ばされたアサシンは、バックルからカードのようなものを引き抜いた。

 

「オオオオ!」

 

 両断せんとばかりに躍り掛かるファングジョーカーに対し、

アサシンは慌てることもなく、前腕部に装着された鋏のような意匠のカードスロットへと、先ほど取り出したカードを差し込む。

 

『ガードベント』

 

「くっ!?」

 

 響いた音は何かを切り裂く音でない。金属と金属が激しくぶつかり合う音だった。

 音声と共にアサシンの腕に現れた盾が、アームファングを完全に防ぎきっていた。

 

≪奴の能力か……? この異様な空間といい、突然現れる盾といい、わけがわからねぇな≫

 

「……ああ、確かに。この敵は実に興味深い、ゾクゾクするね」

 

 その口ぶりは、いつものフィリップの口癖とは少し違うように翔太郎には感じられた。

 フィリップは翔太郎の中の困惑を感じ取り、あえていつもの口癖を口にすることで、翔太郎のペースを元に戻そうとしたのだろう。

 その意を汲んだ翔太郎は心の中で笑みを浮かべた。

 

(フィリップの野郎……どんどんデカい男になっていきやがる……俺も置いて行かれるわけにはいかねぇな)

 

≪フィリップ、この訳のわからねぇ能力の検索、しっかり頼むぜ……こいつをブッ倒した後でな!≫

 

「ああ、その意気だ翔太郎」

 

 再び気迫を取り戻したファングジョーカーがアサシンと向き合う。

 スペック上ではWが有利。その事は相手も理解しているはずだ。しかしアサシンはその余裕を崩す事はなかった。

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