先生、頑張って働いてください。   作:ゆうれいうさぎさん

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ゆうかちゃんはさみしがり。

「急にシズクさんから連絡が来たと思ったら……。先生、これは一体どういう事ですかっ!? 消費は計画的に、って私言いましたよねっ!!」

 

「ハイ、ゴメンナサイ……」

 

 あぁ、先生の事があんなに小さく見えます。逆にユウカちゃんの事は凄く大きく見えるのが何だか面白いですね。まるで、宿題をしなかったことに怒るお母さんと子供の構図です。私は自分のデスクで書類仕事をしながら、今回の件で怒り怒られる二人を見つめて小さく笑いました。先生は床に頭を擦り付けたまま起き上がらず、ユウカちゃんは明細書片手にぷんぷんと説教をし続けています。

 

「──はいそこまで。お説教が始まってから三十分は経ちますし、そろそろ休憩にしましょう。先生はいい加減顔を上げてくださいね」

 

「はい……」

 

「まぁ、シズクさんが言うなら……。でも先生、私のお話はまだ終わってませんからねっ!!」

 

「ハイ……」

 

「返事の声質が余りにも違いますね」

 

 しょぼくれた先生へと苦笑いを向けながらデスクを離れ、オフィス隣の給湯室へと移動してお茶菓子と湯呑を三つ用意します。さて、先生は苦いコーヒー一択としてユウカちゃんは何が良いでしょうか。彼女が当番の時に好んでいるコーヒーでも良いのですが、たまには違うものも飲んでほしいですね。そうだ、そういえばワカモちゃんから美味しくて簡単に入れられる抹茶のパックを頂いていましたね。今回はそれをユウカちゃんへ出すことにしましょう。そうなるとお茶請けは和菓子にした方が良さそうですね。和菓子は以前ウミカちゃんから頂いたものがまだ残っていましたのでそれにしましょう。

 

「シズクさん、お手伝いしに来ましたっ」

 

 給湯室の入口からひょっこり顔だけを出したユウカちゃん。おや、先程までとはずいぶん違った柔らかい笑顔を浮かべています。

 

「ユウカちゃんありがとうございます。でも大丈夫ですよ、ユウカちゃんはお客様なんですから少し休んでてください。先生へのお説教でお疲れでしょうし、ね」

 

「そ、そんな事ありませんっ! 先生へのお説教はまだ終わってませんし、話さなきゃいけないことも山ほどあるんですっ! 大体、先生はいつも無駄遣いばかりして……」

 

 あらら、ユウカちゃんがまたヒートアップしてしまいましたね。ですが大丈夫です、そんなときは良い方法があります。私に背を向け、お説教という名目で先生への愛情を振りまくユウカちゃんのすぐそばまで近づき、まずは後ろからほっぺたに両手を添わせます。私の体温は低めですから、突然現れた冷たい感触に「ひゃっ!!」と可愛らしい悲鳴を上げて驚いているユウカちゃんのほっぺたを、そのままむにっと軽く横に引っ張りました。

 

「ひ、ひふふふぁんっ、はにほ……」

 

「ユウカちゃん落ち着いくださいね。休憩中なんですから、まずはリラックスしましょう? ちょうどお茶も準備できたことですし一緒に戻りましょう」

 

「……はい」

 

 それぞれのお茶を乗せたお盆を抱え、少し顔を赤らめたユウカちゃんを後ろに連れながらオフィスまで戻ります。それにしても、ユウカちゃんは本当に良い子ですね。シャーレ専属として来てはくれないでしょうか?

 

「……? シズクさん、どうかされましたか?」

 

 ちらりと向けた視線に気が付いたユウカちゃんが不思議そうに首を傾けています。「何でもないですよ」と言葉を返せば、更に不思議そうな表情を浮かべました。

 ………まあ無理でしょうね。ユウカちゃんは、ここキヴォトスにおける三大マンモス校の一角であるミレニアムサイエンススクールの生徒会、通称【セミナー】所属の生徒さんです。普段の業務は積み重なっているでしょうし、責任感が強い子ですからそれらの仕事を放り出すという事も無いでしょう。それに、彼女は仲間想いの優しい子でもありますから。親友であるノアちゃんや後輩のコユキちゃん、目を掛けているゲーム開発部の子達を置いて、というのは考えにくいです。生徒会長であるリオちゃんは……。うん、正直分かりませんが、ユウカちゃんの事です。彼女も大切に思っているでしょう。

 

 「先生、お茶のご用意が出来ましたよ………って、いい加減顔を上げてください。そのままではシズクさんが先生の為に入れてくれたコーヒーが飲めませんよ?」

 

「……うん、分かったよ」

 

 渋々……、渋々? まぁ渋々といった様子で先生は顔を上げました。久しぶりに見た気がする先生の顔は反省という文字が良く似合っていて、普段の男前フェイスが若干崩れています。

 あらら、これは相当効いてしまっているようで。しかし流石は先生ですね、私たちが視界に入ると途端にしっかりした顔付きを取り戻しています。

 

「あっ、先生、そんな急に立ち上がるとっ!」

 

「あ」

 

「えっ?」

 

 ユウカちゃんの忠告も虚しく、立ち上がる先生の体制が大きく崩れて横に傾いていき、そのまま……。

 

「うぐぁぁぁぐしッッッ!!!!!!!」

 

「せ、先生ーーーっ!!!」

 

「あー、それは痛そうですねぇ……」

 

 手を付けれないまま、先生は床へとダイブを決めました。着地点は顔ですね、ご愁傷様です。心配したユウカちゃんが先生の側へと駆け寄りますが、先生は大丈夫とユウカちゃんを手で制して立ち上がりました。今度は大丈夫そうですね、……ですが、鼻が赤くなってしまっています。まぁ天罰という事で、今回はちょうど良いのではないのでしょうか。

 

「先生、大丈夫なんですか……? 相当痛そうですけど……」

 

「うん大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね、ユウカ」

 

「それなら良いんですけど……。先生、これからは急に立ち上がっちゃダメですよ?」

 

「そうだね、そうすることにするよ……。シズクもごめんね、せっかくお茶を入れてくれたのにさましてしまって」

 

「全然時間は経っていないので大丈夫ですよ。さぁ、今度こそゆっくり休憩しましょうか」

 

 さて、今度こそキチンとした休憩です。生徒用にと先生が用意した休憩スペースのソファに私とユウカちゃんが横並び、先生は自分のデスクからオフィスチェアを持って座りました。二人が座ったことを確認し、お盆からそれぞれにと用意した飲み物とお茶菓子を配ります。

 

「ありがとうございます。……あれ、私のはコーヒーじゃないんですね?」

 

「ユウカちゃんはいつもコーヒーですから偶には違うものをと思いまして。もしかして、いつものコーヒーが良かったですか? それなら入れ直しますが……」

 

「い、いえっ! せっかくですしこのまま頂きますっ!!」

 

 丁寧にコップを持ち、くぴくぴと少しずつ飲んでいるユウカちゃん。普段抹茶を飲む機会は予想通り余り無かったようで、「おいしい……」と言葉が漏れています。あらら、コレは可愛らしい笑顔ですね、この笑顔だけでもお茶請けになりそうです。

 顔を先生の方に向ければ先生も同じことを思っていたようで、本当に優しい笑顔を浮かべていました。ユウカちゃんにばれないよう人差し指をそっと唇に当て、口パクで「思っていることは内緒ですよ」と伝えれば、先生はコクリと笑顔のまま頷きました。

 しかし先生、よくそのコーヒー飲めますね。すっごい濃くしたのですが平気そうな顔でグビグビと飲んでいます。これが大人の力なのでしょうか?

 

「……そういえばシズクさん、最近モモイやアリスちゃんが部室に遊びに来てくれたって教えてくれたんですけど、それは本当ですか?」

 

 余計なことを考えていると、ユウカちゃんから質問が飛んできました。……そういえば先週、アリスちゃんから呼ばれて顔を出したのでした。二人から聞いたのですかね?

 

「はい本当ですよ。先週のいつだったか、急にアリスちゃんから電話で呼び出されてその当日お邪魔しました。どうやら謎解きゲームが上手く攻略できなかったようで、だいぶお困りだったようです。その後は皆でゲームをしているだけでしたが、もしかして何かありましたか?」

 

 事実だけをつらつらと言い出して説明すると、ユウカちゃんの表情が少しだけ曇ります。あらら、ユウカちゃんの暗い表情は珍しいですね。一体どうしたのでしょうか?

 

「……いえ、何でも無いんです。すみません気にしないでください」

 

 しかし、ユウカちゃんは訳を説明することもなく、再びコップに口を付けてくぴくぴと抹茶を呑み始めます。うーん、これは素直に聞いても話してくれそうにありませんね。先生と顔を見合わせると、先生はただ笑顔を浮かべるのみ。あれ、先生には理由が分かっているのでしょうか? でしたら教えていただきたいのですが……。

 

「先生、あの──」

 

「──あーっ! リンちゃんから電話だっ!! ごめんね二人とも、少し席を外すねっ!」

 

 急に立ち上がり、わざとらしく演技をする先生はこちらを見向きもせず部屋の外へと走り去って行きました。

 ……逃げましたね。私が理由を知る為に問いかけることを察知したのでしょう。これはあとでお説教です、覚悟しておいてください。

 

「……先生、行っちゃいましたね」

 

「そ、そうですね……」

 

 …………き、気まずいっ!!! 何ですかこれは、ユウカちゃんとは一度もこんな空気になった事は無いのですっごい気まずいんですけど!?

 な、何か会話をした方が良いのでしょうか。ですが何から話せば良いのか分かりませんし、何が原因でユウカちゃんが暗くなってしまったのか分からないので、喋って地雷を踏むのが単純に怖いです……。

 

 私がしばらくオロオロとしていると、ピコンっ!とモモトークの通知音が鳴りました。これはチャンスですね、一旦考えることを辞めて通知を確認します。メッセージの相手は…………、ノアちゃん? 何だか凄いタイミングですね。もう今すぐにでもこの場に来てほしいぐらいなのですが、一体何のご用事でしょうか?

 

………………………………………………………………。

 

…………………おやおやこれはこれは。

 

へぇ~、ほぉ~、なるほど、そういう事でしたか。これは申し訳ないことをしましたね。

 

「ユ~ウ~カ~ちゃんっ!」

 

「ひゃっ!? な、何ですか急に抱き着いてっ!?」

 

「そうですよねそうですよね、ユウカちゃんはいつも可愛いですよね~! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、お姉ちゃんは思いもしませんでしたよ~!」

 

「なっ!!!!? な、なんでそのことを……っ!?」

 

「ノアちゃんから今教えてもらいました」

 

「ノ、ノアーーーーーーー!!!???」

 

 顔を真っ赤にしながら絶望するユウカちゃんに抱き着き、頭を撫で続けます。あぁもうこの子は本当に可愛いですね、本当に貰ってしまいましょうか。……おや? またノアちゃんから連絡が来ましたね、お次は一体何でしょうか?

 ……あらら、残念。釘を刺されてしまいました。ここまで読んでいるとは、流石ノアちゃんですね。本当に末恐ろしいです。

 

「ユウカちゃん」

 

「……は、はい、なんですか?」

 

 顔を真っ赤にしたままのユウカちゃんに優しく囁くと、弱弱しいながらも普段のユウカちゃんらしい凛とした声で返事が返ってきます。

 

「今回はごめんなさい、今度はセミナーに遊びへ行きますね」

 

「…………はい、お待ちしてますから」

 

 抱き着くのを辞め、正面から顔を見合わせてお互いの言葉を口にします。正直こちらも恥ずかしくはありますが、ユウカちゃんを悲しませた罪悪感は確かに心の中にあるので罪滅ぼしの意味もかねてちょうどいいでしょう。にこっ、と微笑むユウカちゃんの明るい笑顔も見れたことですし、私としては大満足です。

 

 そうして一段落となった時、オフィスの入口から話し声と人影が現れました。

 

「いやぁごめんね! リンちゃんとついつい長話しちゃったよ! リンちゃんったら最近とっても忙しいらしくて───」

 

「先生」

 

「あ、あれ。シ、シズク、何かな?」

 

「私は近々ミレニアムへ遊びに行くので、その日の書類は全部お任せしますね」

 

「え、いや、それは」

 

「お願い、しますね?」

 

「………ハイ」

 

 タイミングを見計らっていたのでしょう、ちょうど良過ぎる時に戻ってきた先生へ逃げた事への罰を宣告すると、先程まで笑っていた表情が無になりました。人間ってそんな一瞬で表情が変化するんですね、私知りませんでしたよ。そんなことを考えながら先生の様子を見た私とユウカちゃんは、再び顔を見合わせて笑うのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱりはじまりはゆうかちゃん。
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