裏社会の始末屋、キヴォトスにて絆される   作:渡邊ユンカース

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今回は内容的に激重です。それと喫煙描写も強いためご容赦ください。
当作品は未成年者の喫煙を非推奨としています。


心臓ドキドキ!これって恋!?

 

「あぁ、朝だ……」

 

 時刻は午後二時時、一週間前の要塞都市エリドゥでの戦闘で重傷を負ったアゲハは未だに癒えぬ体を無理やり起こす。突発的な依頼が入り、依頼内容と報酬の面から仕方なしに依頼を完遂して家に帰宅できたのが午前二時だった。家に着いた途端、安堵したのか玄関で半日も寝てしまっていた。固く冷たいフローリングで眠るのはあまりよくないことだがスラム育ちのアゲハにとって関係ない。

 要塞都市エリドゥで負った傷の処置は帰路の列車内で済ませてあるものの、火傷などの外傷が痛いままだ。アゲハはリビングに行って備えていたカロリーメイトを食べて何をするか予定を立てる。依頼の連絡も入っていない、そもそも武器と装備が破損しているため暫く依頼をこなすことはできない。

 

「……タバコも切れそうだし調達ついでに散歩でもするか」

 

 家でだらだらするのは性に合っていないアゲハは散歩をすることに決めた。

 アゲハは装備はナイフと閃光手榴弾のみ携帯して家を出る。この程度の装備さえあれば大抵の暴力沙汰は解決することができる。

 

「今日はやっているかな」

 

 まず第一に訪れたのは当初の予定であるタバコの入手である。キヴォトスでは基本的に禁煙、喫煙場所も少なかったり指定の場所だったりと喫煙者には肩身が狭い世界なのだ。もっともブラックマーケットやスラム街ではそんな規則を守る者なんていない。路上喫煙する大人が多いものの未成年者はいない。理由としては店主が最後の良心か未成年者に酒やタバコを売らないのだ。

 無論、例外は存在する。アゲハは人通りの少ない通り、というか路地裏にひっそりと建てられた古風な店に入る。

 

「おい、ひび割れ店主。今日は連絡入れたからいるよね」

「クククッ、お久しぶりですね。黒羽アゲハさん」

 

 そこにいたのはひび割れた黒の碁石をした顔をしたスーツの男性が奥の椅子に鎮座していた。久しぶりの再会に店主も喜んでいるのかひびから漏れ出た光が強かった。

 

「いつ以来だっけ。二か月前?」

「タバコと修理済の武器を渡したのがその頃でしたね。して、使い心地はどうでしたか」

「非常に良かったよ。もっとも乱暴に使いすぎて壊れちゃった」

「そうですか。また製作してお渡ししましょう」

「頼むよ。ついでにコートも」

「おや。コートはかなり丈夫に作ったはずですが」

「流石に強力なビームを喰らってズタボロさ。けど便利だったからそれもよろしく」

「かしこまりました。こちらがお値段です」

「いっ!?」

 

 店主は武器とコートの製作費用を簡単に見積もり、その内容をアゲハに見せる。その金額は危うく一千万の桁に届きそうだった。

 

「前はこんなにしなかったじゃん!」

「あれは試作品ということもありましたので」

「えっ、つまり僕は試作品を使い潰していたの?すっごい貧乏人みたい」

「なので今回は最新技術を取り入れて逸品をお渡ししましょう」

「……費用対効果と考えるか。僕の口座から引き落として於いて」

「わかりました」

「それで本命なんだけどタバコちょうだい」

「三カートンです」

 

 店主は机の引き出しから大きな紙袋を取り出してアゲハに渡す。中には三カートン、つまり三十箱のタバコがある。それを見てアゲハは満足気に受け取った。

 

「毎度ありがとう。……前々から気になっていたんだけどこれの代金はどうすんのさ」

「代金なんて気になさらず。すでにいただいておりますので(・・・・・・・・・・・・・・)

「あぁ、結構昔にした実験のことね。そういやしたね」

「えぇ。非常に貴重なデータが取れましたので」

「ふーん」

 

 アゲハは店主から当時受けた実験を思い出す。実験と言ってもアゲハの神秘である稀薄化を用いたもので、どの程度まで存在を消せるかや破壊もしくは殺害できる限界を調べたのだ。後者に至っては無機物から被検体として用意された動植物を対象に行った。

 

「けどアンタには感謝しているよ。独自の手巻きタバコのおかげで僕はまともに生きられる(・・・・・)

「クククッ、あなたのデータを取るための副産物とお考え下さい」

「ならいいか。それじゃ、僕は出るよ」

「はい。またのご利用お待ちしております」

 

 アゲハは店主と別れを告げて外に出る。時間を確認すると午後三時をまわっていた。本日初の喫煙を堪能しようとカートンから一箱タバコを取り出して中から一本取り出す。

 

「あっ!未成年のくせしてタバコ吸ってる!」

「おいおい。それ寄越してくれたら何も言わねぇからよ」

「ついでに金目の物も置いていけ!」

「……あぁ?」

 

 アゲハの至福の時間を邪魔する不良生徒たちが現れた。流石はキヴォトスでも屈指の治安の悪さを誇るブラックマーケットである。カツアゲできそうな人がいたら躊躇なくカモにするのがここでの常識だ。

 ちらりと今さっき退出した店を覗くと店主はどこかに行っているようで、完全に我関せずを貫いている。

 

「はぁ、面倒なんだけど。さっさと失せろ」

「何言ってんだこいつ!」

「そりゃあこっちのセリフだっての!」

「言うこと聞かなきゃ実力行使だ!」

「……病み上がりだけどやるしかないか」

 

 ダボダボのパーカーとジーパンという普段着構成でありながらも戦闘態勢を取る。完全に格下の相手にナイフや閃光手榴弾は使わない様子だ。

 

「銃に勝てると――――ぎゃ!?」

「あれ?」

「えぇ!?横槍ィ!?」

「誰だ!」

 

 一発の銃声の後、どこからともなく飛来した銃弾によって一人が頭部を撃たれて気絶した。辺りを見渡すと見覚えのある人物が不良生徒たちに拳銃を構えていた。

 

「あっ。カヨコじゃん」

「何しやがるんだ!」

「お前には関係ないだろ!」

「関係はあるよ。だからどっか行って」

「な、舐めた口を……!」

「おい!こいつ便利屋68のメンバーじゃないのか!」

「げぇ!?変に目をつけられたら爆破されるって噂の!?」

「逃げろー!」

 

 どうやらブラックマーケットで便利屋68の評判は広がっているのか不良生徒たちは蜘蛛の子を散らすようにそそくさと逃げていく。なお可哀想なことに気絶した者は置き去りにされていた。

 偶然の出会いにアゲハは飄々とした振る舞いでカヨコに接する。

 

「あのバイト以来だよね。元気だったかい?」

「お金の工面が大変だけどなんとかね」

「あー、見栄を張って破産してそう。そういやアンタにあげた贈り物、どうだったかな?」

「……缶詰とヘッドホンはありがとう。けど私の写真はいらない」

「えー、すごい可愛かったから撮ってあげたのに」

「そういうの、いらないから……!」

 

 アゲハの賞賛にカヨコは思わず照れて赤面する。普段から怖いと他者から評されているカヨコなので可愛いという評価には慣れていなかった。

 

「あー、照れているんだー」

「それ以上、揶揄ったら怒るから」

「もうしないよ。それでどうして此処にいるのさ」

「依頼の下調べ。依頼内容は簡単だけど念のためね」

「素晴らしいプロ意識。最悪の時に最悪の事態が起きるからね」

「もうあの時みたいな失敗はしないから」

「あの時は大変だったからね。だって―――」

 

 言の葉を紡ごうとした次の瞬間、アゲハの心臓がドクンと強く心拍した。

 

「うっ!?」

「どうしたの?」

「ま、まずい……ッ!」

「っ!?ちょっと!」

 

 ドクンドクンと動悸が止まらず、アゲハの額からは脂汗が染み出る。この体調の不具合に立つことはできず、ばたりとアゲハは倒れ込んでしまった。カヨコは何事かと慌てて傍に駆け寄り、アゲハの頬に手をやる。

 

「……熱い。風邪?」

「ち、違う。これはアレ(・・)か」

「何、そのアレって」

「タバコ、早く!」

「タバコでどうにかなるとは思えないんだけど」

「僕が…僕でなくなる前に……ッ!」

 

 すぐさまアゲハの言う通りにパーカーのポケットからタバコ箱とライターを取り出す。箱から一本タバコを取り出して、ライターで着火しようとした。

 

「きゃっ!?」

「――――もう無理」

 

 火照った顔で荒い息遣いを零しながらアゲハはカヨコを押し倒す。アゲハのくすんだ黄色の瞳にはハイライトが消えて、ハートの瞳孔がカヨコを射貫いていた。

 細くもややゴツゴツとしたアゲハの手がカヨコの首筋に触れて、思わずカヨコは矯声を漏らす。アゲハの手は慣れた様子でカヨコの首から胸へとなぞっていく。普段のアゲハの言動とはかけ離れた様子にカヨコはひどく混乱しながらも状況の打破に努めた。

 

「煙、だけでも……!」

 

 なんとかカヨコは指に軽い火傷を負いながらも片手でタバコとライターを持って点火する。アゲハによく染みついていたにおいが辺りに漂う。

 

「はっ、うぅ。あぁ……!」

「これならっ!」

 

 お香のように紫煙を嗅がせるだけでは効果は薄いと判断したカヨコは口にタバコを咥えた後、口から紫煙を吐き出した。至近距離から紫煙を受けたアゲハはカヨコから離れるように卒倒した。

 

「はぁはぁ、何とかなった……」

「……」

「すごい勢いで倒れたけど大丈夫?」

「……タバコ、くれ」

「はい」

 

 うつ伏せになりながらも器用に喫煙するアゲハ、それをよそにカヨコは乱れた衣服を整える。

 タバコを吸い終えるまでの数分間、二人は何も発することはなかった。ただ無言の空間に紫煙が漂っていた。

 

「ごめん」

 

 沈黙を打ち破ったのはアゲハだった。弱々しく短く謝罪を述べる。普段の人を小馬鹿にするよう態度から一転した少年の振る舞いはアゲハの本心から出た一言だとカヨコは察することができた。

 吸い終わったタバコを捨てたアゲハは壁を背に膝を丸めた状態で座り込んだ。

 

「ううん、大丈夫だよ」

「ごめん。本当にごめん」

「平気だよ。大したケガもしてないし」

「迷惑かけてごめんなさい……ッ」

 

 涙声だった。ただひたすらに、ただの童のように謝罪しながら泣きじゃくる少年がそこにいた。

 カヨコは泣きじゃくる少年を慰める方法なぞロクに知らない。しかし、ただひとつだけ言葉を介さずに慰める方法を知っていた。

 

「大丈夫だから」

「っ!うぅ……!」

 

 カヨコは正面からアゲハを抱きしめてあげた。カヨコは抱きしめる際に涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったアゲハの顔が見えて、一流の実力と実績を有するが未だ子供であることを認識した。カヨコは優しい声色で大丈夫と囁きながら小さな背中をポンポンと赤子をあやすように叩いてあげた。

 カヨコが十分間、アゲハを抱きしめ続けた頃には嗚咽が止まりすすり泣くこともなくなっていた。

 

「どう、落ち着いた?」

「……うん」

「そっか。今は、話したくない?」

「……話したら、嫌われる」

「嫌わないよ。だってあの時、助けてもらったから」

「……そっか」

 

 アゲハは赤く泣き腫れた目をゴシゴシと擦り、カヨコと視線を合わせる。何度か深呼吸を行い息を整えた後、ようやく重い口を開いた。

 

「昔、僕は組織の男娼だったんだ」

「ッ!?」

「僕は幼くて美形で覚えが早いから色々なことをされた。老若男女、種族問わず相手にされたんだ」

「そう、なんだね」

「効率化のために薬物で常時発情、組織から抜けた今でもこのタバコを一定時間吸わないとアレ(発情)が起きる」

「ひど、すぎる……!」

 

 想像を絶するほどのアゲハの過去にカヨコは不快感と怒りが込み上げてきた。今のアゲハの年齢から察するに十歳にも満たない時から男娼をさせられていたのだと考えることができた。

 

「他にも、僕は組織で――――」

「組織で?」

「これは、これだけは言えない!絶対に言えないんだ!」

「大丈夫、落ち着いて……!」

「これは、これだけはダメだ!!」

 

 アゲハは人にも話せない過去を思い詰めた結果、意識が動転して錯乱状態に入る。その様子は戦場で外的ストレス(PTSD)を負った兵士そのものだった。カヨコはどうにかしてアゲハを落ち着かせようとするが一向に治らないでいた。

 そんな中、とある狂騒を聞いたある人物が二人に声をかけた。

 

「見つけました」

「誰っ!?」

 

 ブラックマーケットのようにお世辞にも清潔とは言えない環境にそぐわない清潔な格好をした少女が二人を見つめていた。新たな敵かと察したカヨコは拳銃を瞬時に抜いて少女に向ける。一方でアゲハは耳を塞いで縮こまっていた。

 

「私はC&C所属、飛鳥馬トキです。以後お見知りおきを」

 

 そこには一週間前の依頼でアゲハと激戦を繰り広げたトキ(メイド)がいた。

 




リオ「重傷だから休養期間を与えるわ」
トキ「ならブラックマーケットに行ってきますね。休養の使い方は個人の自由ですから」
リオ「えぇ……」
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