裏社会の始末屋、キヴォトスにて絆される   作:渡邊ユンカース

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誤字報告が助かります。マジでありがとうございます。
それと今回から日常回が続きます。


家でくつろげ少年少女

 アゲハがトキとカヨコに知らぬ間に保護された翌日、アゲハは刺し込んできた朝日によって目を覚ます。

 昨日はあのままカヨコの添い寝によって半日以上も睡眠していたのだ。あまりに寝すぎてしまったため頭がぼんやりとしている。

 

「あっ、起きたんだ。おはよ」

「ん」

 

 日々のルーティンである寝起きのタバコを吸っていると買い物袋を持ったカヨコが玄関から入ってきた。アゲハはまだカヨコが居たことに少し驚きながらも口から紫煙を吐き出した。

 

「おはよう。どうしてまだいるのさ」

「別にいいじゃん。社長にも連絡は入れてあるから」

「あっ、そう。それで何を買ってきたわけ?」

「これは今日の朝ごはんとかだよ。カップ麺だけだと体に悪いでしょ」

「……まあいいや。それじゃ、朝ごはんにしようよ」

 

 一服を終えたアゲハはリビングにある折り畳みテーブルに座るが、カヨコはキッチンの方へ向かう。

 

「ねぇ、朝ごはんじゃないの?」

「そうだよ。私が作ってあげようかなって」

「自炊なんて非効率的で手間でしょ。食費なら僕が出すから」

「ダメ。ファーストフードやカップ麺とかに依存するのは良くないから」

「……勝手にして」

 

 カヨコの料理をするという強い意志に気圧されたアゲハは渋々納得した様子でそっぽを向く。カヨコは買ったばかりのエプロンを着けて手際よく料理を始めた。ちなみにアゲハのキッチンに備わっている調理器具はフライパンと包丁とまな板と小鍋という最低限の物しかない。

 慣れた手つきで料理を行っていき、四十分ほどでカヨコは模範的な一汁三菜の朝食を用意した。普段、馴染みのない香ばしい匂いに違和感をアゲハは覚える。

 

「お待たせ。時間と食材がなかったから簡単なものでごめんね」

「……いつもこういうの食べてないから気にしないで」

「そっか。なら食べようか」

「そうだね。いただきます」

 

 たどたどしい箸使いで朝食を口に運ぶ。最初は何か混入しているのではないかと警戒していたアゲハだが、次第に口に箸を運ぶ速度が速くなっていき一口も大きくなっていく。

 その様子を見てカヨコは表向きにはしていないものの満足そうに微笑んでいた。

 

「美味しいんだ」

「……お腹が空いているだけ」

「そういうことにしてあげる。私も食べるね」

「よく食材を揃えたね。探す労力と対価が見合ってないでしょ」

「ただアゲハには美味しいご飯を食べてもらいたかっただけだから」

「……僕のために、ね」

 

 そう呟くとアゲハは用意された朝食をジッと見つめる。感慨深そうにするアゲハを見て、自分のために思いが込められた料理を食べた経験がないことをカヨコは気づく。

 

「なるべく料理してあげるからね」

「まっ、気分転換にはちょうどいいか。いつも同じ風味だし」

「そういえば好きな物って何?」

「タバコ」

「そういうことじゃないって。食べ物の話」

「あぁ、そういう。モカが好き」

「そっか。なら今度は食べてみたい料理は?」

「それなら……」

「何?」

「わ、笑うなよ!」

「大丈夫だから言ってみて」

「……オムライスが食べたい」

 

 常に生意気な少年から出されたのが意外にもオムライスという可愛げのある料理だった。この答えにカヨコは不意をつかれて目を丸くした。

 

「ほら!どうせガキみたいだって思ったんだろ」

「オムライスも美味しいからわかるよ。けどどうして食べてみたいの?」

「そ、それは……」

 

 理由を問われたアゲハはごにょごにょと言い淀んでしまう。

 

「別に無理に言わなくてもいいから」

「……テレビで、幸せそうに食べているから」

「っ」

 

 このささやかな理由にカヨコは衝撃を受けた。

 アゲハにとってオムライスは幸福の象徴だった。理由として皆が談笑しながら一人ずつ用意されたオムライスを食べて満腹になっている様子をテレビや窓越しから見ていたからだ。そして自分もああなりたいと密かに羨んでいたのだ。

 

「そっか。なら作ってあげる」

「マジで!?」

「後で具材を買いに行こうか」

「……期待、してあげる」

「はいはい。ほら、まずは朝ごはん食べ切らないと」

 

 下手な箸使いで朝食を食べ進め、十分後には食事を終えていた。カヨコは野菜を好き嫌いするのではないかと考えていたが、米粒すら一粒も残すことなく完食していた。

 

「ごちそうさま。悔しいけど美味しかった」

「そこは素直に言いなって。いつまでも捻くれなくてもいいんだから」

「僕はこのスタンスで長年生きてきたんだ。無理だよ」

「少しずつ直していけばいいか。ほら、食器洗うから持ってきて」

「はいはい」

 

 朝食を終えた二人は次に何をしようか考えていた。

 アゲハの趣味として喫煙以外に映画鑑賞とゲームがあり、まずは映画を観ることにした。

 

「よく映画観るんだ」

「吹き替えで色々な映画を観るね。特に頭を使わないで観れるやつ」

「アクション映画とか?」

「それ。銃撃戦や格闘やカーアクションはぼんやり観れるから好き」

「恋愛映画とかは観ないの?」

「恋愛を経験してないからわからない。そもそも暴力と金と権力が目当てで付き合うやつが裏社会には多いからさ」

「そうなんだ。そしたらこれは?」

「ッ!?」

 

 カヨコがリモコンで映画のラインナップを操作して提示したのが、バイオレンスな見た目をした化物が宿泊客を襲うホラー映画だった。タイトルとPVを見た瞬間、アゲハは肩を震わせる反応を示した。

 

「嫌だ。絶対に観ない」

「どうして?この映画は結構面白いよ」

「こんな血生臭い映画を朝から観ないといけないんだ!」

「初心者にも面白い内容だよ。頭も空っぽで観れるし」

「そういう問題じゃねぇ!」

「……もしかして怖いんだ」

「あぁ?別に怖くないし」

「あからさまな反応だね。なら観よっか」

 

 カヨコは虚勢を張りつつも内心怖がっているアゲハが面白かったのかボタンを押した。さらに雰囲気を出すためにカーテンで窓を閉め切り、照明を切った。

 そこまでするのかと言わんばかりに苦笑いをするアゲハを傍目に満足した様子でカヨコは座る。

 

「雰囲気を出さないと、ね」

「この野郎……」

「さっ、始まるよ。楽しみだね」

「ちっ」

 

 悪戯心が芽生えたカヨコと憂鬱なアゲハの二人による映画上映会が始まった。

 やはり有名ホラー映画ということもあり、演技と演出が上手くできており非常に見応えのある内容だとカヨコは感じた。だがしかし、ホラー映画が苦手な人間(アゲハ)にとってどうだろうか。

 

「ひっ!?いっ!?」

「……」

 

 端的に言うとビビり散らかしていた。何かしらのホラー演出が出るたびに小動物のような悲鳴を漏らしており、目を逸らしたり手で目を覆ったりなどして観ないようにしていた。用意していたポップコーンやジュースには一切手をつけていなかった。終いには音を聞かないように耳を塞いでいた。

 普段からは想像もできない様子にカヨコは可愛らしいと思ってしまった。

 

「手、繋ぐ?」

「……んっ」

「ふふっ」

 

 心細くなったのかアゲハはカヨコの提案に乗って手を握った。恐怖からアゲハの手は汗で湿っていて温かったが、カヨコは不快には感じなかった。

 ラストシーンが終わってエンドロールが流れるとアゲハはその手を離す。

 

「……少し、迫力があったね」

「そうだね。最後の復活シーンとか驚いたね」

「別に、僕はそこまでだったけど」

「そういうことにしてあげる」

「な、何だよその目は。それと手を握ったこと、誰にも言うなよ」

「どうして?」

「い…言わせんなよ……」

 

 意地悪な質問にプイッとそっぽを向いて拗ねるアゲハ、この感情の起伏が激しい一面を知れたカヨコは満足気に笑みを浮かべる。

 

「あー、腹が減った。ご飯食べたい」

「そうだね。時間もお昼時だし、食べよっか」

「出前でいいか?」

「そうしよっか。夕飯のために後で買い物に行こうよ」

「まっ、ブラックマーケットにもスーパーはあるか。少し高価だけど」

「立地的に仕方ないよ。出前はどれ頼む?」

 

 昼食はラーメンの出前を取り、二人はラーメン二杯と餃子一皿を食べた。食事中にラーメンに縁のある山海経に行った時の話をすると、どうやらカヨコたち便利屋68も依頼で行ったことがあったらしく話は大いに盛り上がった。

 朝食を食べ終えてひと段落つくと、予定通りに買い物に繰り出した。意外にもスーパーマーケットは家の近所(徒歩五分)にあり、小規模ながらも肉や野菜などの商品は揃っていた。

 

「ここで朝ごはんの材料を買ったんだよ」

「……こんなところにスーパーがあったんだ」

「近くに住んでいたのに気づかなかったの?」

「特定の道ばかり使っていたからさ。ある時に周辺を散策しないと知らないことってあるじゃん」

「なるほど。社長の意向で事務所とか決めているから無意識にどこに何があるかを把握してたのかな」

「そうなんじゃないの?知らんけど」

「卵と鶏肉を買って、お米は朝のパック飯があるからいっか」

「これ買っていいかい?」

「……」

 

 アゲハが手に取ったのはポテチだった。なお大容量サイズであり、それを味ごとに複数持ってきていた。パンパンに抱いたポテチの山にカヨコは唖然として口を小さく開いていた。気を取り戻したカヨコはアゲハに言う。

 

「そんなに買わない。せめて小さいサイズを一個だけにして」

「別にいいじゃん。僕がお金出すんだし」

「私が買い物代を出すよ、私も食べるしね。だから戻してきて」

「……この代金は僕が支払うからさ」

「ダメ。健康を考えてお菓子は一日二袋までだよ」

「ちえっ」

「美味しいの作ってあげるから」

 

 舌打ちを打って不満げに商品を棚に戻して小さなサイズを取るアゲハ。しかし学は無くても狡猾なアゲハは悪知恵を捻りだして実行する。

 

「これにするよ」

「そう、ならカゴに入れておいて」

「はいはい」

「……ねぇ。今、別のやつも入れた?」

「何が?このポテチだけじゃん」

「それじゃなくて、これ」

 

 アゲハは姑息にもカゴに入っている商品の陰にもう一つお菓子を忍ばしていた。チョコが入った円柱状の容器は忍ばせるには最適なサイズだったのだ。計画が露呈したためアゲハは悔しそうにする。

 

「はぁ、この二つだけだからね」

「カヨコありがとう、助かるよー」

「また同じことしたらどっちも買わないからね」

「はいはい」

「まったく、そしたらレジに行くよ」

 

 商品をレジに通して会計を終えてから店を去る。やはりブラックマーケットという立地上、普通の自治区で買うよりも1.3倍程度高くついた。それでも商品の鮮度や品揃えを考慮すると良心的ともいえる。

 家に帰った二人は夕方になるまで一緒にテレビゲームをしていた。正確にはアゲハがゲームをプレイして、その光景をカヨコは隣で眺めていた。カヨコ的にはテレビゲームは観る方が好きだった。

 

「それじゃあご飯作るね」

「よろしく」

 

 夕方になり、カヨコはキッチンに立つ。そして先程買ってきた食材を出して料理を始める。

 トントンと手際よく調理が行われ、フライパンで具材が焼ける音が出て香ばしい匂いを醸し出す。食欲を誘う匂いにアゲハはキッチンに顔を出すも、カヨコから秘密と言われて追い出された。軽く悪態をつくも、密かに内心では何が出されるか好奇心で胸がいっぱいになっていた。

 

「お待たせ、できたよ」

「……ふぅん、意外と早かったね」

「そうかな。ほら、手を洗ってテーブル拭いて待っていて」

「もう終わらせた」

「本当だ。そしたら食べよっか、料理持ってくるね」

 

 アゲハが座して待っていると、カヨコは料理を持ってきた。その料理は黄色い下地に赤いラインが引かれている。

 

「な、なあカヨコっ!これって……!」

「うん、望んでいたオムライスだよ」

「オムライス……!」

 

 料理の正体はアゲハが所望していたオムライスだった。カヨコ自身、初めてオムライスを作ったため形がやや崩れていたが誰の目から見てもオムライスと断言できるほどの完成度だった。

 アゲハは驚きながらオムライスとカヨコを交互に見る。

 

「これ、本当に食べていいんだよな」

「いいんだよ。私の分もあるから一緒に食べよう」

「……毒入りなら許さないよ」

「そんなことないよ。ほら、冷める前に食べてみて」

「い、いただきます……!」

 

 恐る恐るスプーンでオムライスを切り取り、口に頬張る。パクリと口にした瞬間、アゲハはピタリと静止した。その様子にカヨコは口に合わなかったのかではないかと心配した。

 

「どうかな。もう少し上手にできたらよかったんだけど」

「……美味しい」

「ならよかった。私も食べるね」

「――――こんなの、食べたことない」

 

 長年待ち望んでいた料理を口にすることができたアゲハは俯いた状態で料理を凝視しており、小さく口から漏らした感想には涙が滲んでいた。目にゴミが入ったのかゴシゴシとアゲハは目元を擦り、一気にオムライスを食べ始めた。誰にも奪わせまい、これは己の願望なのだとと言わんばかりにスプーンを動かしていく。

 カヨコはそれ以上、オムライスについての感想を問うことはしなかった。この光景を見ることができれば答えは明白なのだから。

 




 アゲハは基本的に近親者などからの手料理を食べたことはありません。前に在籍していた組織では効率重視で作られた料理か期限切れもしくは間近の食べ物しか食べていませんでした。そのせいもあり食には無頓着ではないが大雑把な人間になりました。

 しかしオムライスといった幸せの象徴といえる料理などに強い憧れを抱いており、手料理として振る舞われる日を待っていました。ちなみに強い憧れがあるため飲食店ではそういったものは無意識に食べてはいません。そんな面倒くさい少年がアゲハ君なんです。
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