裏社会の始末屋、キヴォトスにて絆される   作:渡邊ユンカース

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ここから本編時空に入りますので先生がキヴォトス入りしています。
ちょうどアビドス一章の時系列です。


ペロロ食う虫も好き好き

「アゲハ、ちょっと話があるんだ」

「んあ?」

 

 昼下がりのアゲハの部屋、ベッドに寝転びながらゲームに勤しむアゲハにカヨコは言う。

 

「私、いなくなるから」

「ふーんそう。……どういうこと?」

 

 この宣告に一瞬虚を突かれたアゲハ、その目には驚愕の色が強く写っていた。いきなり突拍子もないことを言われたのなら仕方がないと言える。あとからアゲハはカヨコに絶対に自分から離れないという信頼を寄せていたのため衝撃が走った。

 ゲームオーバーを告げる音が静かな部屋に響く。

 

「……へぇ、勝手にすればいいじゃん」

「何か語弊があるみたいだから説明するね」

「語弊だって?」

「便利屋の仕事で少しだけ来れなくなるってことだよ。同じこと前にもあったじゃん」

「それはそうだけどさ。なんかこう突然すぎない?」

「緊急で来た依頼なんだ。大企業だから報酬も多くて終われば暫く此処で暮らせる」

「……嘘だったら許さないからね」

「嘘なんてつかないよ」

 

 アゲハの感情を感じたカヨコはくすりと笑う。出会った当初の警戒心が消えて、今は全てを委ねているアゲハを感じることは悪い気ではなかった。カヨコはアゲハの高ぶった感情を鎮めようとアゲハの頭を撫でる。その際にトキが勧めたシャンプーとトリートメントで毛質の調子が良くなったこと感じた。

 ひょっこりとキッチンからトキが顔を出す。ちょうど三時のおやつ作りの仕込みをしていたのだ。

 

「ほら、アゲハ様のお世話はこのトキがいますので」

「……世話って何だ。だいたい独りで暮らしてきたから要らないよ」

「しかし私たちのお世話でアゲハ様の調子が良くなっているのは事実では」

「ぐぬぬ」

「ほら、万が一のことが起きたら連絡してね。すぐ行くから」

「僕を誰だと思っている。まっ、そうさせてもらうよ」

 

 パシっと満足したのかカヨコの手を払いのけて、アゲハはそっぽを向いてゲームを再開した。その様子を見たカヨコとトキは耳打ち話を始める。

 

「これ実は安心しているのですね」

「そうだよね。わかりやすいね」

「聞こえてんぞ二人とも」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「アゲハ様、お外に出ましょう」

「えっ、やだ」

 

 カヨコが家を空けてから一週間が経過した。トキが身の回りの世話をしているのだが、リオ直属の部下ということで度々家を空けてしまうことがある。その時にアゲハはスマホにメッセージが送られているのかを確認してから閉じて、その数十分後にまたスマホを開いてを繰り返すことが多々あった。

 トキもなるべく顔を出すように努めているのだが、次第にアゲハの雰囲気が落ち込んでいくのを感じた。今までひとりっきりだったアゲハに美少女二人が世話をしてくれる環境はあまりに劇物すぎた。強欲な少年である。

 

「ですが一週間はお外に出られていない様子ですが」

「別にいいじゃん。食べ物もゲームもあるし、物騒な街をうろつく意味ないよ」

「……なら美味しい食べ物を食べに行きましょう」

「トキとカヨコが作ってくれるご飯で満足」

「それは、なんとも嬉しいお言葉です」

 

 直球の賞賛に思わずトキは頬を赤らめる。滅多にアゲハが人を直接的に褒めることなんてないのだ。

 

「なら家でだらけても文句はないね」

「……仕方ありません。アゲハ様、交渉しませんか」

「僕に交渉?いい度胸だね、言ってみなよ」

「お散歩デートしましょう」

「……あぁ?」

 

 まさかのデートの誘いに素っ頓狂な声を漏らすアゲハだった。

 トキはある程度の日数を共に過ごしたことでアゲハ行動パターンを把握していた。そして行動の原動力が自分が楽しめるか否かで大きく動くため、デートという単語を用いたのだ。事実としてカヨコやトキと一緒に過ごしている時のアゲハは非常に楽しんでいる様子だった。

 

「あのさ、僕はここの住民だよ。散歩如きで満足できるとでも?」

「アゲハ様、散歩をすることで身近な気づきを得ることができます」

「むぅ」

「それに私としてもアゲハ様に退屈させないつもりです」

「……わかった。その言葉、信じるよ」

 

 根負けたアゲハは仕方なしにトキの誘いを承諾した。

 そこからトキの行動は早かった。アゲハの身支度とやり残した家事を全てこなし、ついでに自身の髪型とメイクを軽く整えた。あっという間に外出準備ができていたのだ。流石はC&Cである。

 二人はガチャリと玄関から出ると、太陽が元気に辺りを照らしている。快晴の外出日和だ。

 

「それでは行きましょう」

「はいはい」

「今日はこのルートを行きたいです」

「普段とは違う大通りか。別にいいけど」

「感謝します」

「おい、どうして僕の後ろを歩く」

 

 目的地である大通りに向かっていると、アゲハはトキが遅れてついてきていることに気づく。遊園地ではトキがリードしていたり、隣り合って歩いていたが今回は違った。

 

「前回はアゲハ様が不慣れな遊園地でしたのでリードしましたが、今回は普通の散歩なので」

「はあ?意味わかんないだけど」

「私はメイドの身、従者として主人の三歩後ろを歩くのが適切かと」

「あぁ、そういう。……ほら」

「わっ」

 

 アゲハは三歩後ろにいるトキの腕を引っ張り、トキを隣にいさせる。

 

「後ろにいるよりも隣にいた方が楽しいでしょ」

「で、ですが」

「それに誘ったのはアンタなんだから責任もって付き合ってよね」

「っ!」

 

 真面目な顔で積極的なアプローチをかけるアゲハに思わずトキはときめいてしまった。その言葉と表情から本音であることもトキは理解する。

 

「ここまでアプローチされると嬉しいですね」

「当たり前のことじゃん。ついでに手でも握ってあげようか?」

「そうですね。お言葉に甘えましょう」

「はいはい」

 

 大通りの商店街についてもなお二人は手を繋ぎながら歩き続ける。傍から見れば中性的な美少年とクール系なメイド美少女が共に歩いている姿は非常に絵になる光景である。

 商店街では色々な店を巡った。違法に販売されている銃器や手榴弾、明らかに魔改造されて原型がなくなっている車両や電子機器、不正アクセスで行われる学生証の斡旋、明らかに違法な賭博場といった無法のオンパレードだった。

 二人は道中で購入したクレープを食べながら、見てきた店の感想を言い合う。ちなみに食に関しては劣悪な飲食店も当然あるが、美食研究会の手によって悪質店は軒並み淘汰されているため一定の質は保たれている。

 

「面白かったですね。あの銃身が曲がっているサブマシンガン」

「あれ実用性ない上に信頼性ないよ。お得意様を作らないと良い物は買えないよ」

「何を買われていたのですか?」

「よく買ったのは効力倍増の各種手榴弾だな。値段は張るが信頼性がある」

「やはりこの世界ではお金の額が信頼性に繋がるのですね」

「そういうこと。もっともカモられたら殴り込んで泣かせればいい」

「暴力も使いどころですね」

「どいてくださーい!!」

「あぁ?」

「えっ?」

 

 二人がゆったりと歩いていると、目の前から白を基調とした制服を着た少女が走ってくるのを目撃した。その後ろには数名の不良生徒がバイクに乗って少女を追いかけていた。

 

「アゲハ様」

「無視。ロクなことにならん」

「……」

「あぁ、もう!そんな目で見るな!助ければいいんだろ!」

「感謝します」

 

 トキの言葉を発さない訴えに圧されたアゲハは渋々目の前の少女を助けることにした。アゲハの武器は修理中ということもありナイフが一本、トキは護身用の拳銃だけだ。

 

「おい、アンタ!屈めェ!」

「へえっ!?はいっ!?」

「おりゃ!」

 

 アゲハは近くにあった立て看板を円盤投げの要領で投げる。指示通りに屈んだ少女の頭上を看板が通過していき、追いかけていた不良生徒たちに当たった。バイクに乗っていたということもあり、仲間や周囲の物を巻きこんで派手に転倒した。

 

「これでよし」

「……弁償は誰が」

「そんなの知らないよ。強いて言うならアイツら」

「あ、ありがとうございます!」

 

 助けられた少女がお礼を言いにこちらに駆け寄ってきた。背中には気持ち悪いキャラクターのリュックサックを背負っており、その制服をよくよく見るとお嬢様学校で有名なトリニティ総合学園の生徒であることがわかる。なんやかんやで付き合いのあるハスミと同じ学校だ。

 

「はい、報酬は一万でいいよ」

「えぇ!?お金を取るんですか!?」

「冗談だよ。それでどうして追われているのさ」

「それはですね……」

「いたぞ!捕まえろー!」

 

 第二波と言わんばかりに遠方から一台のワゴン車が迫り、もちろん搭乗員は不良生徒たち。

 

「本当に何したんだアンタッ!?」

「これは分が悪いです」

「言われなくてもわかるさ!

「ど、どうしましょう!?」

「こうなったら最終手段だ!ふん!」

 

 ちょうど駐車されている軽トラックの窓を割り、上半身を車内に突っ込む。そしてハンドル下にある電線を引っ張り出してバチンとショートさせるとエンジンがかかる。

 

「これでよし」

「車泥棒じゃないですかー!?」

「アゲハ様、流石に堂々と犯罪行為委は……」

「ここは駐停車禁止だからセーフ」

「なら構いませんね」

「それでいいんですか!?」

「運転頼むよトキ!ほら乗れ!」

「かしこまりました」

 

 トキは運転席、制服少女は助手席に乗せて軽トラは発進する。ちなみにアゲハは荷台に乗っている。

 

「待てー!」

「普通それで待つかよ」

「ええい!もう撃っちゃえ!」

「ひえええ!」

「そうくるよねッ!」

 

 ワゴン車に乗った不良生徒たちはアゲハたちに向けて発砲し、制服少女は悲鳴をあげる。アゲハが荷台に乗った理由には銃弾の迎撃が挙げられ、手にしたナイフで銃弾を捌いでいく。

 

「走行中だから狙いも甘い。余裕だね」

「アゲハ様、できればタイヤと燃料タンクも守っていただけると幸いです」

「無茶を言うな!」

「こうなったらRPGだ!」

「費用対効果を考えろ!」

 

 まさかの携帯対戦車兵器の登場にツッコミを入れるアゲハ、目的は何かは知らないが明らかにやりすぎの範疇だ。バシュンと発射された弾頭は直進して向かってくるも、トキの華麗なハンドル捌きで躱す。なお揺れる荷台から危うく落ちそうになるアゲハだった。

 

「アゲハ様、拳銃を貸します」

「絶対に当たらないけど脅しにはなるか。おい、お前も撃て!」

「わ、わかりました!」

「わわっ、撃ってきた!」

「負けるな撃ち返せ!」

 

 アゲハと制服少女は共に銃撃を行い、ワゴン車も負けじと反撃を始める。お互い熾烈なカーチェイスでブラックマーケットを縦横無尽に駆け巡る。

 

「RPG!」

「躱します」

「くそっ、このままじゃ長期戦だな」

「アゲハ様」

「なんだトキ!」

「燃料が底をつきそうです」

「まだ二十キロは行けるだろ。それまでに撒けばいい」

「実は始めから給油ランプが点いてました」

「さ、先に言えー!!」

「えええええ!?」

「こうなったら苦肉の策だ!」

「跳んだ!?」

 

 アゲハは荷台から後方のワゴン車に向かって跳躍してボンネットの上に着地した。あまりに人間離れした荒業に制服少女とワゴン車に乗っている不良生徒たちは驚愕した。

 

「恨みはないが、あばよ!」

「ぐえっ!?」

 

 ボンネットの上で態勢を整えたアゲハは運転手に向けてフロントガラスごと蹴りぬいた。足は運転手の頭部を捉えており、強い衝撃によって運転手は気絶した。運転手が気絶したことでハンドル操作とペダル操作が効かなくなり、ワゴン車は電柱に突っ込んだ。ぶつかる寸前にアゲハは脱出して、再度軽トラの荷台に帰還した。

 

「これで一件落着」

「す、すごい!あんなにやり方で!」

「見事なお点前です」

「トキもよく躱してくれた。爆破物は捌くのに疲れるからさ」

「いえーい、ピスピース」

「両手を放してアピールするな」

 

 ある程度の距離を置いたところで停車してアゲハたちは降りる。車体にはいくつかの銃痕ができていたため、燃料があったとしても長くは走れないだろう。

 アゲハはタバコを取り出して一服する。さしずめ仕事終わりの一服だ。

 

「た、タバコを吸っちゃいけないんですよ!」

「恩人に言うセリフじゃないでしょ。そういや名前は?」

「私は阿慈谷ヒフミと言います!」

「ふーん、そう」

「失礼ながらどうしてトリニティ自治区の方がこちらに?」

「そ、それはですね……」

「ん?」

 

 制服少女はガサゴソとリュックサックを漁り始める。そして取り出したのは一個の可愛げのない舌を出したニワトリの人形だった。

 

「このペロロ様人形をゲットするためです!」

「えっ」

「……冗談ですよね?」

「冗談ではありません!これは数量限定の茶道ペロロ様人形なんですよ!」

「いや知らんて。そもそもペロロ様って何だよ」

「ペロロ様をご存じないのですか!?モモフレンズは知ってますよね!?」

「興味ない。トキは?」

「話には聞いておりますが特段関心はありません」

「カヨコなら知っていたかもね。案外、そういうの好きそうだし」

「それでヒフミ様はどのように入手したのですか?」

「オークションですね。ちょうどブラックマーケットで開かれると聞きましたので」

「……要するに競り勝ったのはいいけど、競り相手に強奪されそうになった感じか」

「その通りです!」

 

 人形にあそこまで執着する方も大概だが、痛い目に遭わされかけたのに一向に手放そうとしないヒフミの意志にアゲハは呆れていた。むしろ敬意すら抱きそうになった。

 

「まあいいや。もうこれ以上、騒動を起こすなよ」

「好きでやっているわけじゃないんですけどね……」

「てかお嬢様学校の生徒がこんなところに来るなよ」

「あまり世間体的によろしくはないのでは?」

「大丈夫です!こっそり来ているので!」

「そういう話じゃない。……もしハスミっていう生徒にあったらよろしく言っといて」

「あの正義実現委員会のハスミさんですか?どうしてですか?」

「行きつけの店の常連でね。暫く顔を出してなかったからさ」

「わかりました。それでは色々とお世話になりました!さようなら!」

「気を付けてお帰り下さいませ」

「二度と来るなー!」

 

 ペロロ狂いのトリニティ生徒であるヒフミに別れを告げるアゲハとトキ、ちょうど口にしていたタバコはかなり短くなっていた。

 アゲハが消化済みのタバコを適当なゴミ箱に捨てようとしていると、トキは事前に用意していた携帯灰皿を取り出す。

 

「アゲハ様、こちらに」

「どうも。よし、帰るか」

「よろしいのですか?」

「よろしいも何も久しぶりに運動したしね。それに家からかなり離れた感じだし」

「それもそうですね。帰りましょう」

「夕飯はシチューがいい」

「そう言われると思いまして下準備は終わらせております」

「良いね。期待しているよ」

「ご期待に応えられるよう尽力します」

 

 こうしてアゲハとトキのお散歩デートは終わった。久しぶりの運動のおかげでシチューが特段美味しく感じたとのことだ。

 後からわかったことなのだが、茶道ペロロ様人形の価格が軽く十万円を超える逸品であったことがわかり二人は仰天したのであった。

 




時系列的にはアビドス生徒会がヒフミたちに会って銀行強盗をする前の話です。
これに懲りずにヒフミはブラックマーケットに来ているのでかなりヤベー生徒です。まあ元からか。
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