裏社会の始末屋、キヴォトスにて絆される   作:渡邊ユンカース

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時系列はカイザーPMC理事がアビドスの面々にボコボコにされているあたりです。
にしてもトリニティとゲヘナとアビドスから一斉に殴られるのは可哀想、まあしゃーない。


それしか道がない

 

「……何故だ」

 

 夜の闇が濃くなり始めた頃、アゲハは独り自室で考えこんでいた。今日はトキがリオの仕事で来ることができず、カヨコも依頼で遠出して二週間が経過していた。

 

「どうして依頼がひとつもこない」

 

 悩みの種、それは始末屋としての依頼であった。今までは一週間に二件は依頼の連絡が届くのだが、カヨコたちと過ごすようになってからは一件も来ていない。装備と武器は店主(黒服)にオーダーメイドしてもらっている最中であるため手元には無いが、簡単な依頼であれば簡易的な装備と武器でこなすことができる。

 

「もしかして始末屋の需要が無くなった?」

 

 始末屋の需要が無くなる要因として社会平和もしくは大手企業による独占が考えられる。しかし前者は裏社会ということもあり平和化の可能性は皆無、後者に至っては始末屋は様々な難易度の依頼でもこなす完遂率が評価されている。つまり始末屋の需要は落ちていないのだ。

 

「……他の仕事、考えてみるか」

 

 アゲハはスマホを開いてインターネットで求人募集の依頼を見る。学生証の無いアゲハが働ける職場は限られており、ほとんどがブラックマーケットでの日雇い労働しかない。流石にブラックマーケットで白昼堂々と始末屋紛いの営業はできない。

 

「……少しだけ、挑戦してみるか」

 

 求人募集には日雇い傭兵として働く案件もあり、以前のアゲハなら迷わずその職種を選んでいた。

 しかしカヨコとトキの出会いをきっかけに新たな自分を見つけ出そうと決起したのだ。人間として一皮むけた姿を二人に見せつけたかった。

 

「まずはこの仕事だ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はい、本日来てくださった日雇いさんたち。一日お願いします」

「あぁ、お願いします」

 

 最初に選んだのは引っ越し業者だった。内容としては至ってシンプルで建物から家具などをトラックに積み、移動先の建物に配置する内容だ。

 朝早くからの仕事は堕落した生活を送っていたアゲハの気分を大きく下げた。

 

「はい!はい!」

「それそれ!」

「流石社員さんだ!タンスを楽々と運んでやがる!」

「アタシらも負けられないな!」

「ぜぇぜぇ……」

 

 意気揚々と引っ越し作業に勤しむ社員と日雇いたち、しかし一人だけまだ一時間の作業で息を切らしている者がいた。その者こそアゲハであった。

 

「き、きつぅ……!」

「おいおい、そんなんでへばってちゃ体持たないよ!」

「そうだよ!まだ転居先に行ってもないんだよ」

「わ、わかっているけど体力が……」

「ほら、頑張れ頑張れ」

 

 始末屋としての機動力や瞬発力は磨かれているものの、筋力や持久力にはいささか問題があった。基本的に始末屋の業務は奇襲と闇討ちと潜入工作であり、武器もトンファーとナイフと各種手榴弾といった軽量なものばかりだ。そのためヒナやトキのように正面きっての戦闘はあまり得意ではなかった。

 

「よし、積み終えたからお前ら荷台に乗れ」

「はーい」

「荷台に乗りながら飯を食っとけ、家具を汚すなよ」

「わかりました。おっ、肉汁マシマシのから揚げ弁当じゃん!」

「美味いやつだ!」

「……疲れた体に油っこいものかよ。しかも揺れる車内でとかありえない」

 

 アゲハは過去の生活から腐りかけの食べ物も食べることができた。しかし揺れる車内、しかも疲労した体が油っこい唐揚げを拒絶した。

 アゲハが食べあぐねていると隣に居た不良生徒が唐揚げを狙っていた。

 

「ねぇ、それ食べないならくれよ」

「……なんでだよ」

「勿体ないからに決まってんだろ!」

「……いいよ、特別にあげる」

「やったー!」

 

 トンビの如く唐揚げを奪取した不良生徒はバクバクと美味しそうに食べる。食べ物を人にあげるという普段のアゲハなら絶対にしない行為だが体調が良くなかったため了承したのだ。

 なんとか弁当を食べ終えたアゲハは千鳥足で転居先へ家具を運ぶ。過酷な労働をしていると突然気分が悪くなり、人気のないところで先程食べた弁当を吐いた。人気のないところに行った理由として吐瀉物が作業の妨げになるからではなく、涙目になって嗚咽する光景を誰にも見られたくなかったのだ。

 

「と、とりあえず口直しにタバコだ……」

 

 震える手で喫煙するアゲハだが、余計に体調を害してしまい吐いてしまった。最初の一回で全て吐き出してしまったため胃液しかでなかった。

 その日はグロッキーになりながらも仕事を終えて、日給を貰って帰宅した。日給は始末屋の依頼報酬と比べものにならないほど安いものだった。

 

 

「はい、日雇いさん。よろしくお願いします!」

「お願いします」

 

 次にアゲハが選んだ職種はティッシュ配りだった。時間も三時間、日給こそ安いがティッシュを配るだけの簡単な仕事だ。とりあえず段ボールからティッシュを束でもらい、手にしたカゴに入れる。

 

「キンニークジムでーす。お願いしまーす」

 

 社員から指定された地点でティッシュ配りを行うアゲハ、ティッシュという日常にあっても困らない物は通行人が手に取りやすく、順調なペースでティッシュが無くなっていく。

 

「これなら簡単だな」

「おっ、イケメンがティッシュ配ってんじゃん!」

「くれよー!」

「……はい、どうぞ」

「うわっ、本当にイケメンじゃん。サボってカラオケ行かん?」

「嫌だ」

「そんなこと言うなって、歌うの上手なんだー!」

「だから無理だって」

 

 ティッシュ配りを着実にこなしていると二人の女性の獣人からカラオケに誘われる。アゲハは仕事中な上に興味はないと断るも、その二人はしつこく誘ってきた。

 

「固くなるなよ!」

「もしかして緊張してんじゃね?」

「違うから。さっさと行きなよ」

「もしかしてお金無いんじゃね!」

「なるほどね、だからティッシュ配りしてんだ」

「金ならアンタらよりもあるわ」

「強がっちゃって。ほら、いくら?」

「……は?」

 

 あろうことか二人はアゲハを誘うために金銭で交渉してきたのだ。常人でも金銭での勧誘は困惑するのだが、相手が男娼として客をとっていたアゲハとなると話が変わってくる。

 

「痛いッ!?」

「何すんのさ!?」

「あぁ?」

 

 最悪な過去である男娼時代を彷彿とさせる二人の振る舞いにアゲハは激怒し、一人の指を掴むと折れる寸前まで曲げる。アゲハに掴まれた当人は悲鳴を漏らしながら膝をついた。

 解放させようともう一人が拳銃を抜く。

 

「よくも友達を!」

「それ以上動いたらこいつを盾にする。指の骨も折る」

「痛い痛い痛い!!」

「そして拳銃を持った手首の骨を折る。それでもやる?」

「わ、わかった!もう行くから!」

「わかったよ。はい、さっさと失せろ」

「ひいいいい!!」

「覚えていろ!」

 

 全速力で逃げていく二人を前にアゲハはため息を吐く。変な揉め事になったなと後ろを振り向くとそこには社員の姿があった。完全に今の光景を見られていた。

 

「あっ」

「キミ、クビだ」

「でもあっちが悪くて」

「やりようはいくらでもあったよね。暴力に走るなんてありえないから」

「……辞めるよ」

 

 アゲハはティッシュが入ったカゴを放り投げてから立ち去る。無論、日給を貰わずに去ったためその日は稼ぐことができなかった。

 三つ目には清掃バイト、四つ目には設営バイト、五つ目には軽作業、六つ目には宅配の仕事を請け負った。しかしどの職種も失敗に次ぐ失敗で、気分がすっかり滅入ってしまった。

 

「どうしてこんな目に」

 

 とぼとぼと雨に打たれながら帰宅するアゲハ、この日のバイトも失敗してしまい社員から怒鳴られてしまった。自宅ではトキがカレーを準備しているため、それを頼りにため息を漏らしながら憂鬱な気持ちで帰路を歩く。

 すると一台の黒塗りの高級車が止まった。不自然に停車した高級車に警戒しながらナイフに手を掛ける。

 

「おや、奇遇ですね」

「……店主か」

 

 車内には特徴的な頭部を持ちスーツを着た店主が車内におり、運転は自動運転に任せているようだ。

 アゲハは思わぬ知人との遭遇に警戒を解く。

 

「どうされましたか?傘を差さずに歩いていらして」

「……ちょうど傘を忘れたんだ」

「それは不幸でしたね。ならご自宅まで送りましょう、どうぞ中に」

「そうさせてもらうよ」

 

 車内に入り、店主と対峙するアゲハ。表情がわからない店主とはあまり関わりたくはないのだが、仕事での付き合いもあるため無下にはできない。目的地に向けて発車する車内にて、とりあえずアゲハはタバコを取り出して喫煙を始める。

 

「いかがですか、私特性のタバコは」

「相も変わらず良いよ」

「クククッ、それは何より」

「言っておくけど店主。変な細工とかしたら許さないから」

「わかっていますよ。それとこれからは店主ではなく黒服とお呼びください」

「黒服?確かにアンタは黒一色だもんね」

「特に意識してはいなかったもののある人からそう言われましてね。それで通そうかと」

「気に入ったんだ。まっ、どうでもいいけど」

 

 人の名前の由来なぞどうでもいいといった態度で接するアゲハ、アゲハにとって黒服はタバコと武器などを提供してくれる商人という価値しかないのだ。そのため親交を深めようとも思わず、それ以上でもそれ以下にもならないだろうと認識していた。

 アゲハは雨粒がガラスからツーと垂れるのを呆然と見ながら黄昏れていると、ある話題を黒服は切り出してきた。

 

「そういえばアゲハさん。送った装備の感想はいかがですか?」

「はあ?そんなもの届いてないけど」

「おかしいですね。二週間前に送ったはずなのですが」

「もしかして配送中に盗まれたんじゃないの?」

「いいえ、配送済みの通知が届きましたのでそれはないかと」

「ならどうして?僕は知らないよ」

「……もしかして盗まれたのではなくて隠された(・・・・)のではありませんか?」

「ッ!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、アゲハは黒服の胸倉を掴む。掴まれたスーツはシワができており、かなりの力で握られていることがわかる。

 黒服の言葉の意味、それは近しい存在であるカヨコとトキが始末屋の装備を勝手に隠したということ。つまりカヨコとトキが犯人ではないかと黒服は疑っていた。

 

「ふざけたこと言うな!なんであの二人が出てくる!」

「考えてみてください。今まで始末屋の依頼連絡はありましたか?」

「っ」

「それに半同棲をしていたとなると貴方の正体も知っていた可能性があります」

「そ、それは……」

「そして極めつけに貴方の家から小型カメラと盗聴器が確認できました」

「で、でまかせだ!」

「残念ながら探知機で屋外から調べさせてもらいましたが反応しました。こちらが証拠映像です」

「っ!?」

 

 怒りと困惑が混じった胸中でアゲハは提示された証拠映像を見る。すると自宅外とはいえ探知機がけたたましい音を鳴らし、レーダーの波長が大きく波打っていた。黒服の開発した機器はどれも高性能であることをアゲハは周知しているため、紛れもない事実だと納得せざるおえなかった。

 三つの要因はどれも始末屋の依頼減少に辻褄が合う。カヨコは便利屋68を躍進させるために競争相手である始末屋の排除、トキはミレニアムサイエンススクール学園の脅威を監視及び排除という可能性がアゲハの脳裏を横ぎった。

 

「そ、そんな」

 

 驚愕の事実に震える手で黒服の胸倉を放し、アゲハは放心しながら座り込む。まさか信頼を置いている二人がアゲハが始末屋であることに気づき、さらに仕事の妨害をしていたなんて信じたくはなかったのだ。

 

「な、なんで。どうして」

 

 裏切り、その言葉が頭と心を支配した。

 あれほどまで優しく親身になって尽くしてくれた二人が自分を騙していた。もしも二人に出会う前ならここまで酷く傷つくことはなかっただろう。しかし今の温かみを知ってしまったアゲハには深刻な傷を残したのだ。

 タバコを手から落とし、ジュっと座席のシートが焦げる臭いが車内に漂う。

 

「お話をしている間にご自宅につきましたね」

「……あぁ」

「アゲハさん、渡しておきたい物があります」

「これ、は?」

 

 黒服から渡されたのは一枚の地図だった。ある地点に赤いバツ印が地図に書かれている。

 

「盗難防止のためにGPSを仕込んでおりまして、こちらに装備一式があるとのことです」

「……そう」

「それと携帯電話にも仕込まれているのは確実でしょう。こちらの携帯電話をお使いください」

「これにも仕込んでいるのか?」

「そんな無粋なことはしません。どう動くかはアゲハさん、貴方次第です」

「……」

 

 地図と携帯電話を受け取ったアゲハはそのまま車から降りた。向かう先は眼前の自宅ではなく、明後日の方の廃墟の方だ。

 世間一般的バイトをいくつも失敗してしまったことと信頼を置いていた二人の裏切りに傷心したアゲハはいくつもの相手に電話をかける。

 

「こちら始末屋だ。適当な仕事はある?」

 

 やはり自分には暴力を振るうしか生きられない、そう思いながらアゲハは慣れ親しんだ仕事を求めて営業を始めた。ハイライトが灯っていない虚ろな目で生気のない顔で依頼内容を聞く。

 

 

「アゲハ様、遅いですね」

 

 一方でトキはアゲハが帰るのを今か今かと待っていた。

 カレーはもちろん、二食分用意されていた。




次回から独自本編シナリオに入ります。
時計じかけの花のパヴァーヌ編の一章と二章の間に入る幕間だと思ってください。
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