裏社会の始末屋、キヴォトスにて絆される   作:渡邊ユンカース

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前話に今回から突入するといったな、あれは嘘だ。
それと今回は短めです。


嘘の代償、人の罪

 

「へいらっしゃい、注文は?」

「そんなら熱燗とおでんを貰おうかな」

「あいよ」

 

 D.Uの片隅にある中年の獣人が店主のおでん屋に客が訪れた。客は馴染みの常連らしく、慣れた手つきでおでんを箸で切り分けて食べ、クイっとお猪口を飲む。

 

「くぅ、美味いねぇ」

「そうかい、ならよかった」

「にしても今夜は俺だけかい。いつもの常連は?」

「あぁ、さっき来たぜ」

「何だよ。ったく、間が悪いや」

「ゆっくりしてな」

「独りで飲むのも癪だ。なんか面白ェ話してくれよ」

「無茶ぶりだな。だいたいしてやっただろ」

「いいからいいから」

「……そんじゃ、公言禁止の俺の過去について話そうかな」

「おっ、そいつはいいねぇ。お口はチャックにするからさ」

 

 付き合いの長い店主の過去話に興味が湧いたのか客は嬉々として熱燗を傾けてお猪口をいっぱいにする。

 

「オイラは三年前までヤクザとして悪さをしてたんだ」

「へぇ、確かにいかつい顔だな」

「それは元々だ。まあ下っ端の構成員として働いていたんだ」

「詳しいことは聞かないのが筋だ」

「助かるねぇ。そこで長年勤めたヤクザから足を洗った理由についてだ」

「ほうほう」

「三年前、とある重要な集会が開かれていたんだ。主要な面子が集まったさ、そんな中にオイラは見回りの仕事を貰った」

「下っ端とはいえ長年そこに在籍していたら信頼されるか」

「他の組の情報共有、上納金、購入した兵器について話した」

「物騒だねぇ」

「そして終わろうとした時、事件が起きた」

「事件」

 

 その言葉に客は息を呑む。長年に渡ってヤクザだった店主が足を洗う理由を話すのだ、無理もない。

 店主は間を開けた後、客に渡した熱燗を奪って飲み干す。そしてゆっくり、ハッキリとした口調で詳細を語る。

 

「一人のガキが天井から現れてオジキの頭を刎ね飛ばした」

「えぇ!?マジか!?」

「本当さ。一同は騒然として暫く何もできなかった」

「そ、そりゃあ突然組長の首が飛んだんだからな……」

「我を取り戻した仲間や幹部がガキを殺そうとしたんだが全部返り討ちにあっちまった。あっという間だった」

「ひ、ひぇ~!そ、それでお前さんは!?」

「オイラは何もできなかった。腕利きの用心棒数人が一瞬で倒されちまったらやる気なんて失せるわ」

「意気消沈ってどころじゃなくなるよな……」

「気づいたら手を出していないオイラだけが無事だった」

 

 店主は遠い目で事の顛末を語る。恐らくは長年の経験と本能が叶わないと裏付けたのだろう。

 

「あのL字の武器は二度と見たくない。刃先から血が垂れて、鈍く銀色に光るんだ」

「……それってトンファーってやつじゃねぇかな?」

「そうかもな。真っ赤に染まった顔の包帯が忘れられない、隙間から見える焦点がブレた目が恐ろしい」

「そんなガキもいるんだな。怖ぇ」

「俺に何もせずにガキは帰った。騒ぎを聞きつけた仲間が悲鳴をあげていくのも頭にこびりついている」

「……変なこと聞いちまってすまねぇな」

「いや、いいんだ。気にすんな」

「それでその後は?」

「組長と幹部四名が死亡して十三人が重症及び重体、犯行から罪禍の黒犬(バーゲスト)と断定された」

「罪禍の黒犬、それって犯人の通り名かい?」

「そうだ。裏社会に潜む一大勢力の子飼いの暗殺者、素性は子供という情報しかない」

「ガキに殺しって、人としてどうなんだよ!」

「何でもありの世界だからな。この件で流石に嫌になって足を洗った」

 

 店主はかつての裏社会を思い出す。麻薬や売春や殺人が横行していてカオスだった時代、自分も生き残るために下っ端として仕事をこなした。しかし見回りや運転手や電話番といった直接的に犯罪に関与しないよう振る舞っていた。下手に名を残そうとした同期や後輩は自分の歳になる前にほとんどが死んでしまった。

 それ故に犯罪や暴力で名を馳せた人物には人目を置かざるおえなかったのだ。

 

「けどよぉ、その組織って今でもあるのか?」

「いや、数々の事件に関与していることがバレた。最終的に連邦生徒会と公安局によって壊滅した」

「正義は勝つんだな。あの恐ろしいガキも捕まったのかい?」

「そいつはわからん。新聞とニュースの報道になかったから消息不明だ」

「そんな物騒なやつが生きてんのかよ!もう夜道も歩けねぇ!」

「もしかしたら秘密裏に逮捕されて処刑されているのかもな。罪状が罪状だ」

「これでキヴォトスも平和になりゃいいんだけどなぁ。熱燗、お代わり」

「……そう願いたいぜ」

 

 店主は真上に浮かぶ満月を眺める。満月はあの時に見えた(薄い黄色)の色ではなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「この廃工場だね」

「そうですね」

 

 トキからアゲハの失踪の連絡を聞いて私はすぐにブラックマーケットに帰った。社長たちにも理由は隠しつつも一足先に離脱することを伝えたら了承してくれた。

 家に帰ると雨の中、泥だらけになって必死の形相で捜すトキがいた。私に何度も謝った後、疲労感からばたりと倒れてしまった。トキを家で寝かせて安静にさせた後、私も捜索を始めた。

 

 私たちは必死になってブラックマーケット中を昼夜問わず捜し続けたけど見つかることはなく、気づけば一か月が経過していた。やっとのことで掴んだ情報を頼りに捜索範囲を絞り、ようやく痕跡を掴むことができた。

 

 アゲハは始末屋を再開していた。暴力から離れて幸せな日々を送らせようとした私たちにとって、その事実が心を締め付けた。もう二度と苦しい思いをさせないために尽くしていたのにどうして戻ってしまったのかがわからなかった。私たちに不満があるなら謝るし、改善する心持だった。

 私はゲヘナで習得した技能で、トキのミレニアム特注の機械を活用することでアゲハの所在地を予測することができた。といっても潜伏先ではなく、単純に依頼内容を傍受したにすぎない。本当ならアゲハがまた過ちを起こす前に止めたかったけど確実性を求めるため依頼中に狙うしかなかった。

 

「覚悟はよろしいでしょうか」

「うん、大丈夫。行こう」

 

 どうして再開したのか、どうして離れたのかを聞くため私たちは廃工場に乗り込んだ。

 廃工場の中には多くの人が倒れており、凄惨たる現場が作られていた。獣人の者は口から血か吐瀉物を吐いていたり、ロボットの人は四肢の一部が欠損している者もいた。

 

「これは、酷い」

「……息はあるみたいだね。気絶しているだけ」

「一応、救急車を呼んでおきましょう」

「そうしよう」

 

 銃器を構えながら私たちは奥へと進んで行く。奥に進むにつれて地面に倒れている人の数も増していく。

 緊張感と警戒心を剥き出しにして第二供給所と記されたドアを開ける。

 

「いた……!」

「やぁ、久しぶりだね」

 

 ボイスチェンジャーでノイズの入った声で挨拶をする者、その正体こそ始末屋(アゲハ)だった。最初に出会った時の装備でたたずんでいて、アゲハの足元には高級そうなスーツを着た獣人が横たわっている。おそらく廃工場を拠点とする一団のボスだ。

 

「アンタらに関係ないならどっか行け」

「ねぇ。どうしてそんなことしているの?早く家に帰ろう」

「家に帰る?笑わせるな、僕に家なんてないよ」

「違います。貴方の家はあのアパートです」

「……話にならないね。どっか行かないとこいつらみたいにするよ」

 

 アゲハは床で倒れる獣人の腹を蹴飛ばす。次はお前だと言わんばかりに殺意と敵意を私たちに向けてきた。

 初めて会った時とは違うお遊びではない本気の殺意に体が動けなくなってしまった。恐怖に支配されてしまった私は口すらも動かなかった。

 そんな中、隣にいたトキは声をかけ続ける。

 

「こんなことはおやめください」

「やめる?トキ、何を言っているのさ。これが本当の僕だよ」

「いいえ違います。本当のアゲハ様は不器用ながらも優しくて甘え上手な方です」

「あのさぁ、僕を苛立たせないでくれない?とっとと失せろ」

「嫌です。さっ、家に帰りましょう」

「……仕方ないか」

「何を――――」

 

 隣にいたトキがいきなり吹き飛んで壁に打ち付けられた。いつの間にか私の近くにアゲハの姿があり、急接近してからトンファーによる一撃をトキにしたのだと一瞬でわかってしまった。

 現実には存在しえない化物、そんな最悪な考えが巡ってしまった。

 

「ごほ、ごほっ!」

「僕は忠告した。アンタらが悪い」

「こんなの、間違えているよ……」

「カヨコ、僕は間違えていない。戻っただけだ」

「な、何に?」

「残虐で狡猾で手段を問わない悪人、それが僕だ。生温い生活で暫く忘れていた」

「何か気に食わなかったら治すしもうしない。だから帰ろう……!」

 

 私はアゲハの手を掴もうとした。けど掴まれる前にアゲハは手を引いて一歩後ずさる。

 

「……実は洗脳されて哀れにもこの仕事をやらされ、友達にも手をかけた」

「そう、だよね。だってそんなこと――――――」

「とでも僕が答えれば満足かい、カヨコ」

「えっ」

 

 突然、足に強い衝撃と激痛が走った後に私の体が浮いてバタンと倒れてしまった。恐らくアゲハが私に足払いをかけたのだろう。アゲハは倒れ込んだ私を上から俯瞰していた。

 

「僕が絆される姿は滑稽だっただろうね。たかがご飯と遊びで一喜一憂して懐く姿は面白かっただろうね」

「違う!」

「嘘だね。何もできないでいる僕をアンタらは面白がったに決まっている」

「そんなこと私たち思ってない!」

「僕は僕として立っている。始末屋として自分で此処に立っている」

「こんなの私たちは望んでないよ……!!」

「なら何故!どうして僕の装備を隠したッ!」

「っ!?……それは」

「アゲハ様を、守りたかったからです」

「あぁ?」

 

 トキはお腹を抱えながらゆっくりと立ち上がる。強力な一撃はかなり身に堪えたはずなのに体に鞭を打って奮起している。

 

「貴方は、まだ子供。守られる側なのですよ」

「守られる?ふざけんな、僕は十分に強い」

「生意気言わないでください。私たちから見たらまだまだ危うい子供です」

「調子に乗るな……!」

「うぐっ!?」

「トキ!!」

 

 腹を立てたアゲハがトキの首をトンファーで締め上げる。すぐに私も立とうとしたけど想像以上に足を痛めてしまい立つこともままならなかった。

 

「感情をコントロールできなくて」

「……黙れ」

「楽しいことに目が無くて」

「黙れ」

「わがままばかり言うのに」

「黙れ!」

「トキっ!!」

 

 激情したことでアゲハの締め付けが強くなり、トキの顔色が真っ青になっていく。私は咄嗟に拳銃でアゲハを撃った、撃ってしまった。

 発射された弾丸はアゲハの腕に当たったことでトキを解放した。アゲハは虚を突かれたみたいにこっちを見た後、ため息を吐いた。

 

「ご、ごめんね。痛かったよね」

「……それでいい」

 

 アゲハは満足そうに、踏ん切りがついたように呟く。遠くからサイレンの音が聞こえ、さっき呼んだ救急車が近づいているのがわかった。

 

「さようなら」

 

 一言告げるとアゲハは窓から飛び出して何処かへ行ってしまった。私はその後姿を見送るより、トキの怪我の手当てを優先した。トキの細くて白い首には痣ができていて、お腹の方も内出血が酷かった。

 

「すみません。刺激、してしまいました」

「気にしないで。きっと何言ってもああだった」

「私は、私たちはアゲハ様にとって迷惑だったのでしょうか」

「……わからない。だからもう一度会って聞くしかない」

「そう、ですね」

 

 トキの腕を私に回して廃工場からなんとか離脱した。

 この事件はキヴォトス中に被害者二十名の内、重体が四人で重傷が八人という凄惨な事件として知れ渡った。被害者は密輸組織の構成員らしく、敵対組織による犯行ではないかと記述されていた。

 そんなニュースを読了後はスワイプして消して今日も私とトキはアゲハの捜索に勤しんだ。

 




カヨコ「今まで楽しめなかった分、楽しめるようにしなきゃ」
トキ「たくさんお世話をして幸せにさせなきゃ」
アゲハ「こいつらは暴力しかできない僕を絆してバカにしているんだ!それならまた独りで生きて独りで死んでやる!!」

箇条書きにして整理すると倒くさいぞこの少年!
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