皆様の感想と評価を生き甲斐に本作は続いていきます。
暗殺依頼
ブラックマーケットに存在する建設中止となったビル、ここは五年前に再開発という名目で住民を強制退去させて着工を始めたが依頼元の会社が倒産したことでそのまま放置されていた。ホコリが溜まってゴミやビニールシートが散乱している床はお世辞にも綺麗とは言えない。
普段は野良猫や浮浪者が立ち寄っては一夜を明かすのだが、最近は現れることはない。代わりにとある人物が拠点として活用していた。
「こちら始末屋、要件を聞こうか」
そこには裏社会で知る人ぞ知る仕事人、始末屋がいた。本名は黒羽アゲハ、歳は少年と言えるぐらい幼いが完遂率は驚異の九割五分を誇り、依頼人の裏切りや意図しない事故を除いて見事に依頼を達成していた。そのことからブラックマーケット最強の仕事人と称されるようになった。
アゲハは置き去りにされたパイプ椅子を連ねた代用ソファーで横になりながら依頼内容を聞く。
『久しぶりだな始末屋、私だ』
「あぁ?新手のオレオレ詐欺みたいなのやめろ。誰だよ」
『ラインモーゼル社の社長、テツザンだ』
「あー、はいはい。これはどうも」
ラインモーゼル社、この会社はキヴォトスでも指折りの銃器メーカーで多くの銃器がここで生産されている大企業である。多くの銃器が民間モデルとして製造されており、アフターサービスも充実した会社だ。
しかしブラックマーケットにおいて大きなシェアを有する会社であり、違法改造モデルの多くを流通させている元凶のひとつだ。ちなみにアゲハはこの会社の依頼を何度もこなしており、お得意先であった。
「それで社長さん。今日も何をご所望で」
『貴様は金さえ積めば何でもこなすそうだな』
「うーん、その通りだね」
『なら頼みたいことがある』
「何さ」
『とある人物を殺してほしい』
「……へぇ」
テツザン社長から切り出されたのは暗殺依頼だった。今まで多くの依頼が始末という名目で再起不能になるほどボコボコにするのが基本だった。しかし今回は暗殺依頼、脅しでも冗談でもなく殺人だった。
まさかの依頼に流石のアゲハも意識が切り替わって目を細める。
「おいおい冗談でしょ。殺人なんて物騒だな」
『私は本気だ。報酬も当然弾む』
「……いくら」
『ざっと一億』
「足りない。二億だ」
『わかった』
多額の金額をふっかけてあしらおうとしたアゲハだったが提示した額を了承されてしまった。それほどまでテツザン社長は本気なのだと察した。
「交渉成立だ。それで誰を殺すんだい?」
『連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生だ』
「……マジかよ」
連邦捜査部S.C.H.A.L.Eとは連邦生徒会の直轄として組織された正体不明の組織だ。連邦生徒会長が失踪したことで治安が激化したキヴォトスを治めるために外の世界から先生と呼ばれる人物が派遣された。
この先生の活躍は素晴らしく、街中で暴れていたワカモの撃退や行政による治安維持やブラックマーケットで暗躍していたカイザーコーポレーションの理事を他校共同の上で撃破したことが挙げられる。先生の指揮能力は非戦闘員の生徒すらも一戦力にするほどで、話に聞いた限りでは何らかの要因で弾丸が先生に命中しないとのことだ。
「とんだ大物だな。報酬は三億だ」
『っ!?ふざけているのか!』
「当たり前でしょ。連邦生徒会、というかキヴォトス中を敵に回すんだ。ハイリスクハイリターンってこと」
『くっ!』
「前金は一億、経費はそっちに請求する、それでいいかな?」
『……わかった出そう!』
「交渉成立だ。プランはこっちで練るから前金の送金よろしく」
ぶつんと電話を切って携帯電話をテーブルに放り投げる。
「……暗殺なんて久しぶりだな」
アゲハはちらりと丁寧に整備された装備を見る。脳裏によぎるのは以前の在籍していた組織で暗殺者として暗躍していた過去、どこからその情報が漏れたのかわからないが仕事は仕事と割り切るしかない。
もっとも、自分にできるのは汚れ仕事しかないとわかっている。
「おおよそブラックマーケットに連邦生徒会が介入してきたら商売が危ういって感じか。妥当な理由だ」
アゲハはタバコを咥えて火を点ける。タバコの快楽物質が体中にいき渡り、満足そうに紫煙を吐き出す。
連邦生徒会に所属していて卓越した指揮で戦況を動かして謎の力で守られる先生、あまりにも情報が少ない。しかし百戦錬磨のアゲハにとって大した問題ではない。やりようはいくらでもあり、ゲヘナ最強と謳われるヒナを相手に立ち回った人物である。
「多少の手間と金はかかるが手堅くいこう」
一日かけてプランを作成したアゲハは実行のための準備を始めた。いくつかの会社と組織に電話をかけて器具や人員を手配して、先生に関わる情報を事細かに集める。先生が現れやすい場所や好んでいる物についての傾向を調べあげた。
「これが終わったら一年ぐらいリゾート地に高飛びするか」
アゲハは先生の写真にタバコを押し付けた。
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D.U.にある商業地区にて灰色のスーツを着用した女性が街中を歩いていた。その女性は他の者とは違い、頭上にヘイローを有していない。キヴォトスでもヘイローがない人物は多々いるのだが、だいたいはロボットや獣人といった種族である。しかし翼も角も獣耳もない人間でヘイローが無いのは異端であった。
その人物こそ外の世界からきた先生であった。
出るところが出て締まるところが締まったナイスバディの体と端正な顔立ちは美女と称するにふさわしかった。先生の黒い長髪が風になびく。
「今日もいい天気だな」
「あっ、先生!こんにちは!」
「こんにちはアリス」
声をかけられた先生はアリスと呼ばれる少女に挨拶を返す。
この少女は天童アリス、一見すると普通の女子生徒に見えるが違う。アリスはミレニアム自治区郊外の廃墟で発見された全てが謎に包まれた少女だ。そして先日、とあることがきっかけでミレニアム学園で騒動を起こすことになった渦中の人物である。
「この前は本当にありがとうございました!」
「私は先生として頑張っただけさ。ゲーム部の子たちと仲良くやれているかい?」
「はい!モモイもミドリもユズも優しくしてくれます!」
「そっか。なら安心したよ」
「ところで先生は何をされるのですか?」
「私かい?私はこれを手に入れようと思ってね」
先生はスーツの懐から一枚のチラシを提示した。チラシには超合金キヴォトスマンと題された玩具が載っており、今日が発売日だった。
このチラシを見たアリスは目を煌めかせる。
「カッコいいです!」
「そうだよね!ちなみにサウンドも豊富だし、戦車に変形ができるんだ!」
「すごいですね!さながら終盤に登場するギミック兵器みたいです!」
「だよね!」
「もしよかったらアリスも連れていってください!」
「勿論さ。シャーレに帰ったら一緒に開けよう!」
「パンパカパーン!先生は勇者を手に入れた!」
「そこは勇者が先生を手に入れたが正しいかな」
こうして旅の同行者を手に入れた先生はショッピングモールに入居したおもちゃ屋へ向かう。キヴォトス屈指の商業地区のためショッピングモールの規模が大きく、様々な学園の生徒で賑わう施設だった。
おもちゃ屋に向かう道中でゲームセンターを通り過ぎようとした。
「あれ!先生じゃん!」
「アスナじゃないか。こんにちは」
「こんにちは!あれこの前の子もいるんだー!」
「こ、こんにちは」
そこに居合わせたのはミレニアム学園の生徒でC&Cとして活躍する一ノ瀬アスナだった。普段はメイド服の格好で業務に従事するアスナだが、今日は制服姿だった。しかしそれでもグラマラスな体だと制服越しからでもわかるほど豊かである。
アスナに会うと先程まで元気だったアリスは小さく挨拶をすると、先生の陰に隠れてしまった。アスナはそんな様子のアリスを見て疑問を抱いた。
「あれ、どうして隠れちゃったんだろう」
「ほらこの前の件で」
「あー、なるほど」
アリスが深く関与する事件においてC&Cはアリスと対立して戦闘を行った。そのためアリスはC&Cに少しばかり苦手意識を抱いていたのだ。
「そんなの気にしなくていいって!」
「だってさアリス」
「ほ、本当ですか?」
「うん、本当!むしろ友達になりたい!」
「と、友達……!」
「そうそう!友達!」
友達という響きに感銘を受けるアリス。アリスはその騒動を通してゲーム部たちと友情を育むことの素晴らしさを学んだのだ。さらにアリスはゲームによる英才教育を受けたことで友達という存在が尊いものだと認識していた。
「じゃあ友達の証で一緒に撮ろうよ!」
「……わかりました!撮りましょう!」
「よかったねアリス」
「ほら先生も入って!」
「私もかい?ならお言葉に甘えさせてもらうよ」
「はい、ピース!」
「ピース!」
「いえーい!」
パシャリとアスナのスマホに三人の写真が保存された。後ほど先生とアリスのモモトークに写真を送ってくれるとのことだ。
「そういえばアスナも何を買いに来たんだい?」
「うーん、買いに来たというか呼びにきた感じ」
「呼びにきた?」
「そう。部長が中々帰ってこないから呼んでこいって」
「あの小さいメイドの方ですよね」
「そうそう!うちの小っちゃいネル部長!」
「あ、アリスはあの人苦手です」
アリスはC&Cの部長である美甘ネルと一騎打ちをした。力量の差はあったものの、何とか武器であるレールガンを活用して撤退に持ち込むことができたのだ。序盤のボス並に強敵だったネルをアリスが怖がるのは当然だった。
「けど部長は優しいし面白いから怖くないよ!」
「ありえません!だって口調が悪者ですもん!」
「ほらアリス、事情が事情だったからさ。また会った時に話をすれば案外わかりあえるかもよ」
「そうそう!心配しなくてもいいんだよ!」
「……クエストとして頑張ってみます」
「それならよかった。ところでネルを呼ばなくていいのかい?」
「あっ、そうだった!じゃあね先生!」
「またねアスナ」
そう言ってアスナはゲームセンターの奥の方へ引っ込んでいく。その姿を見送った後、先生とアリスは目的地に向けて再度歩みを進める。
「やっぱりアスナは元気だね」
「C&Cの皆さんともいつか遊べるでしょうか」
「きっとアリスなら大丈夫!それじゃあ行こうか」
「はい!」
「確かこの辺りだと思うんだけど」
「先生!アリス見つけました!」
「どれどれ」
アリスが指差す方へ先生は視線を向ける。そこにはお目当ての商品を販売しているおもちゃ屋だった。お目当ての商品はかなり有名な代物なのか、開店前から長蛇の列ができていた。一人一個という規定から在庫は足りそうなのだが如何せん列に並ぶことに抵抗があった。
「これは、すごいね……」
「お昼のラウンジみたいです!」
「そんなに混んでいるの?」
「アリスは苦手ですがコーヒー渋滞がすごいです!MP回復を求めているのでしょうか?」
「あははは、きっとカフェインで回復しているんだろうね」
「そういえばヴェリタスの皆さんが飲んでいる緑のドリンクは何でしょうか?飲んでみたいです!」
「うーん、アリスには要らないかな……」
先生は苦笑いを浮かべる。ヴェリタスの面々が常飲しているのはエナジードリンク、しかもカフェインが大量に入っている物だ。飲めば徹夜も楽勝、昼夜通して仕事ができる優れものだ。しかし依存性や後日の負荷がかかるため常飲はお勧めできない。
「それでは並びましょう!」
「アリスも並んでくれるのかい?」
「勿論です!勇者は仲間を見捨てません!」
「さらっと切り捨てる前提だったね。けど助かるよ」
「どういたしましてです!」
先生とアリスは列の最後尾に向かう。ちょうどこの時間になると人混みも増えて真っすぐ歩くことすら難しくなり、人を避けながら歩く。
人混みで死角は増えて視野を狭め、周りの声は雑音となり聴力も落ちる。
―――――――つまり暗殺の隙ができる。
「っ」
先生とすれ違う瞬間にコートから武器を取り出して気配を消して振り返る者、その正体はアゲハだった。
先生の背後から
Q.どうして先生が女性なの?
A.そもそも本家ブルアカに男子生徒はいないからif世界線だと思ってください。
Q.どうして先生はナイスバディなの?
A.作者の性癖です。