裏社会の始末屋、キヴォトスにて絆される   作:渡邊ユンカース

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二十話も更新できたのは皆様の感想と評価と閲覧のおかげです、本当にありがとうございます。

それと今回は滅茶苦茶長いです。
サブタイトルはThisコミュニケーションを参考にしています。


VS始末屋

 

 先生襲撃事件が起こる三時間前、とあるブラックマーケットにある廃ビルに多くの傭兵が集まっていた。地下駐車場には武器や機材が大量に積まれ、五台の装甲車が並んでいる。

 ざわめきが続く中、傭兵たちを呼び出した雇い主が登壇した。

 

「はい皆さん。おはようございまーす」

 

 その人物はアゲハですでに始末屋としての格好をしている。

 登壇したことで緊張感が高まる中、アゲハは締まらない挨拶をする。

 

「えー、今日は作戦実行日ということなので復習をしましょう」

「それいるのかぁ?」

「ガキのお使いじゃないんだぞ!」

「確認は重要さ。それじゃあ始めていくね」

 

 アゲハは投影機を作動させて白地の布に作戦概要についての説明を始める。

 

「総員三十名の君たちは五グループに分かれてD.U.地区の指定された所で暴れてもらいます」

「班割はどうするんだ?」

「適当に決めて。それで武器や車両はこちらから提供するから有難いと思ってね」

「図々しいな」

「まあ出費が無いからいいんだけどよ」

「話はそれだけ。それと命令するまでそこで待機」

「了解」

「本当にそれだけかよ。追加の仕事は無しだぜ」

「これだけやってくれればいいよ。強いて言うならヴァルキューレに捕まらないでね」

「あの装備なら余裕だな」

「ポリ公なんざ目でもない!」

 

 アゲハは作戦の概要を大雑把に話した。傭兵たちも高い報酬と武器車輛の貸出に満足している様子だ。

 しかし先生暗殺をあえて(・・・)公言しなかった。

 理由は単純、人殺しに間接的に関与するとなれば話は変わるからだ。やはり殺人は忌避感のあるものであり、誰だって関わりたくない。さらに情報漏洩のリスクや逮捕後のリスクも大きくなる。

 以上のことから何も知らない方がお互いにやりやすいだろうとアゲハは考えていた。

 

「それじゃあ今すぐ乗って目的地で待機。仕事の時間だよ」

「了解」

「よっしゃ腕が鳴るぜ」

「暴れちゃうぞ!」

「いえーい!」

「……呑気だねぇ。まっ、頑張るか」

 

 意気揚々とする傭兵たちを傍ら、アゲハは重要人物の暗殺という大仕事のプレッシャーが圧し掛かって気が滅入っていた。三年ぶりの暗殺依頼は流石のアゲハでも容易ではないと認知していた。

 装備は十分に整っていて、整備もしっかりといき届いている。万全の状態でありながらも不確定要素がいくつも存在するのが仕事というものだ。

 

「あぁ、この味は変わんない」

 

 アゲハは気分転換にタバコを吸う。タバコの成分が脳を刺激して快楽物質を出し、さらに後遺症を抑制した。

 一服が終わるとアゲハは吸殻を放り捨て、仮面を被る。

 

「仕事の時間だ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アゲハは先生が来る日と時間帯を先生の傾向から特定していた。諸々の準備を終えた後は先生が来るまで待機すればいい。人が大きい通路を行き交う中、ジッと目を凝らして待つ。

 

「来た」

 

 アゲハは先生とアリスを視認すると携帯電話でメッセージを飛ばして各傭兵グループに作戦開始の合図を送る。その後アゲハは人気のないところで始末屋の格好になり、自身の神秘(稀薄化)を使って気配を消す。

 誰にもぶつからないよう存在を消して先生に迫る。

 

「それでは並びましょう!」

「アリスも並んでくれるのかい?」

「勿論です!勇者は仲間を見捨てません!」

「さらっと切り捨てる前提だったね。けど助かるよ」

「どういたしましてです!」

 

 二人とすれ違って背後を見せた瞬間、アゲハは武器を取り出す。そして神秘を武器にも込めて必殺の一撃を先生に与える。

 与えた後は騒動に紛れて撤退して依頼は達成する。

 

 

 

―――――はずだった。

 

 

「ッ!?」

「うえっ!?」

 

 一発の銃声が遠方から鳴ったと思うとアゲハの振りかざした右腕に弾丸が当たる。その結果、必殺の攻撃は不発に終わってしまった。

 突然の発砲に周囲の人はパニック状態で逃げていく。喧騒の中、先生は唖然とした様子で辺りを見渡していた。

 

「今のは!?」

「先生!そこから離れてこっちに!」

「わ、わかったよ!アスナ!」

 

 銃声の主とは先程ゲームセンターで会ったアスナだった。アスナの注意喚起に先生は従い、アゲハと距離を置く。

 完全に奇襲に失敗したアゲハは右腕の痛みに顔を顰めながら先生たちをマスク越しから睨みつける。

 

「あ、あの人は!?」

「変な感じがして思わず撃ったんだ。そしたら黒い人が先生を殴ろうとしていたの」

「そ、そうなのかい!?気づかなかった……」

「アリスも気づきませんでした!」

「何かわかんないけど今すぐに逃げた方がいいかも……!」

「ど、どうして?」

「だってあの人、怖くて……」

「アスナ!?」

 

 アスナはいきなり呼吸が荒くなるとバタリとその場で倒れ込んでしまった。すぐに抱き起すも息があり、ただ気絶しているだけだったため先生は安心した。

 一方でアゲハはひとつの大きな疑問を抱いていた。

 

「……やっぱりおかしいな。完全に存在を消したはず」

「き、きみは何者なの!」

「僕かい?どうせ殺すのに言う必要ある?」

「殺すってどういう……!」

「先生はアリスたちと違って、一発撃たれただけでも死んでしまうんですよ!」

「そんなん知ってんだよ。外の世界から来た人なんだろ」

「ならどうして!」

「秘密。けど強いて言うなら依頼さ」

「依頼で殺人なんて、そんなのやっちゃいけないことだよ!」

「そんな常識わかってんの。だから僕の出番だ」

 

 アゲハは両手のトンファーを回して身構える。

 

「僕は始末屋。死を与える者なり」

 

 自己紹介を終えるとアゲハは前傾姿勢で先生たち突撃する。すぐさまアリスが背中に背負ったレールガンを起動して発射するも、青い光弾は容易く避けられてしまう。

 アゲハは行く手を遮るアリスを強引に突破して先生に攻撃を仕掛けようとした。

 

「させ、ないよ……!」

「アスナ!?」

「ちっ」

 

 しかし何とか息を取り戻したアスナがライフルを撃ち、銃弾はアゲハの進行方向に満遍なく撒かれていたためアゲハは後退せざるおえなかった。

 

「大丈夫なのアスナ!?」

「大丈、夫……」

「無理しないでください!」

「いやらしい弾撃ちやがって。未来予知みたいで気味が悪いね」

「アロナ!警備員とヴァルキューレの要請を!」

「そのパッドに言っているみたいだけどそれ無理」

「何でですか!」

「だって各地で仲間が暴れているから手が回らないし警備員は片付けた」

「っ!?」

「それにショッピングモール全体をジャミングして通信妨害、打つ手なしだ」

 

 アゲハは先生が来る前に警備員を全員倒して備品室に監禁した。さらにセキュリティシステムも切り、ショッピングモールの至る所にジャミング装置を置いた。そして先生に初撃を与える直前に各グループへの連絡とジャミング装置を起動させたのだ。

 そのため先生が使える手札を制限した。先生に残っている手札と言えば実戦経験が少ないアリスと瀕死状態のアスナと謎の弾避けの力だけだ。もっとも二人ではアゲハを撃退するまでにいかず、謎の弾避けの力も近距離攻撃の攻撃には対応していない。

 

 要するに勝ち目はない(・・・・・・)

 

「僕も鬼じゃない。抵抗しなければ無痛で殺してやる」

「くっ!」

「先生!」

「私が、隙を作るから逃げて……!」

「アスナ……」

「おいおい、そんな状態なのに気張るなよ。先生だけ殺したいんだ」

「……わかったよ。だから私の生徒には何もしないで」

「勿論、こっちに来い」

 

 アゲハは先生に来いと指示を送り、先生はアゲハを刺激しないよう両手を挙げてゆっくり近づいた。

 

「よし、いい子だ」

「くっ」

「そこに背を向いて座れ」

「……これで、いいよね」

「なーに、一瞬で終わる。死はそういうもんだ」

「きみはこれでいいの?」

「はぁ」

「人を殺したら後悔するし罪悪感も抱いて生きるんだよ。それでいいの?」

「もう抱いている。……さようなら」

 

 アゲハは座して項垂れて死を待つ先生に向けてトンファーを振り上げ、そして振り下ろした。

 

「おらぁ!!」

「がっ!?」

「えっ!?」

 

 そのトンファーは振り下ろされることはなかった。突然アゲハは横からきた衝撃に吹き飛ばされたからだ。

 アゲハは地面に転がりながらも態勢を整えて臨戦態勢を取る。先生の傍らにはアゲハではなく別の人物が立っていた。

 

「ふぅ、何とか間に合ったな」

「きみは……!」

「あー、面倒なことになりそうだ」

「このアタシがいる時に居合わせるなんて不運だな」

「まっ、始末屋の名にかけてアンタは倒して先生を殺す」

美甘ネル(・・・・)、コールサインダブルオーとして掃除を始める!」

 

 ネルは二丁のサブマシンガンをアゲハに向ける。

 コールサインダブルオー、それはC&Cの部長でありミレニアム学園最強を示す呼び名。ネルは潜入や工作や戦闘といった幾多の任務をこなし、絶対に負けることはないことからその名を賜った。

 ネルは偶然にも仕事をサボって遊んでおり、仕事着のメイド服を着ていたため装備も整っていた。不幸中の幸いである。

 

「……はぁ」

 

 ネルと相対することになったアゲハは重々しくため息を吐いた。

 温泉開発部の依頼である対ヒナとは違い、対ネルの準備がない。そもそもネルと居合わせることは想定していないのだ。しかも最悪なことに先生の死守という大義名分により士気も高い。

 

「先生、こいつの相手はアタシがやる」

「ネル、行けるのかい」

「当たり前だろ。アスナを持って退きな」

「……ありがとう!」

「だと思った」

「うわっ!?」

 

 ネルの勝利条件はアゲハの撃破と先生の逃走、どちらか達成できれば良い。しかしそのことはアゲハも認知しており、アゲハはとある物を投げる。投擲物は先生に当たると蛇の如く手首に巻き付いた。

 

「何これ!?」

「爆弾、それも昔ながらのアナログタイプ」

「テメエ汚ェぞ!」

「汚い?勝つために全てを使う、それが戦いだろ」

「ちィ!」

「下手に僕から離れれば起爆、時限性じゃないのが残念だ」

「アロナ解除は!……できない!?」

「そのパッドが電子機器を掌握するのは知っている。昔ながらのアナログ式さ」

「解除方法は!」

「この鍵だけ」

「へぇ、舐めたことしてくれんじゃねぇか。ボコしちまえば解決だ」

 

 ネルは首を回してパキパキと骨を鳴らす。対してアゲハも準備運動とばかりに手首を振った。

 ミレニアム最強とブラックマーケット最強、激戦は確実だ。双方は睨み合い、自身の得物を構えだす。

 

「よしっ、やろうぜ」

「あー、そうだね。やろうか」

「先手は貰った!」

「いきなり激しいね」

 

 ネルは二丁のサブマシンガンを乱射、アゲハはベンチや看板という障害物を活かして防ぎ、時には壁走りをして躱す。

 

「オラオラ!ビビってんのか!」

「バカ言わないでよ」

「おっと」

 

 アゲハは閃光手榴弾をネルに投擲するもネルは目を閉じて閃光を防ぐ。しかし一瞬の隙がアゲハを見逃してしまう。舌打ちを鳴らすネル、上空から敵意を感じ上を向くとアゲハが急降下してきた。

 鉄板が靴底に仕込まれたブーツによる踵落とし、ネルは攻撃を受けるよりも躱す方が賢明だと判断した。

 

「危ねぇ!?」

「もう一発」

「うおっ!」

「おまけだ!」

「ぐっ!」

 

 踵落としを躱されたアゲハはトンファーによる二連撃をネルに叩きこむ。一発目は当たらなかったが、二発目は胸部に当たる。しかし当たる直前、ネルは微かに後退していたためダメージは少なかった。

 やり返しと言わんばかりに発砲するネル、無数の弾丸が迫るもアゲハは銃弾をトンファーで弾いて強引に突撃を敢行する。

 

「アタシの領域でやり合おうなんざいい度胸じゃねぇか!」

「近接戦は僕の十八番なんでね!」

「ならどっちが強いか勝負しようじゃねぇか!」

「遠慮したい!」

「アリスたちでも構わなかったのにあんなに張り合うなんて……」

「銃弾を捌き、隙あらば打撃を打とうとする。すごい戦いだね」

「けど部長が勝つ。だってコールサインダブルオーだよ」

「そうだね。彼女を信頼しよう」

「……まずは機動戦といこう」

「っ!」

 

 アゲハは再び煙幕手榴弾を懐から地面に転がして起爆、白い煙幕が辺りを包む。その間にアゲハは高速でネルに接近して一撃を与える。ネルも負けじと反撃するがその時にも誰もいない。

 煙幕からアゲハを見つけようとネルは乱射するが当たらず、再度攻撃を喰らう。この繰り返しが何度も続いた。

 

「面倒くせェ!正々堂々戦え!」

「嫌だね」

「ぐっ!?」

「さらに煙幕追加」

「こ、この野郎!」

 

 攻撃しては退いてを繰り返す一撃離脱戦法にネルは手を焼いていた。意地が悪いことに煙幕が薄くなった途端、アゲハは追加で煙幕手榴弾を起爆させる。時折、嫌がらせで閃光手榴弾も起爆させた。

 一方的な状況に苛立ちを覚えたネルはある作戦に出た。それは無謀ともいえる作戦だった。

 

「アスナとチビ助!アタシごと雑に撃て!」

「わかった!」

「えっ!?いいんですか!」

「ンなもんアタシが許す!」

 

 アスナとアリスは銃をネルがいるであろう場所目がけて乱射した。視界不良の中で点での攻撃は不可能と察したネルの大胆かつ強引な作戦だった。闇雲に撒かれる銃弾はアゲハの行動を制限し、ネルに攻撃ができない状況が生まれていた。さらに予期せぬ効果としてアリスの光弾は煙幕を吹き飛ばすことに貢献した。

 多少の誤射による被弾を負いながらもネルは煙幕を晴らすことに成功した。

 

「おいおい、もう煙幕は終わりか?」

「その通り。ったくアンタごと撃てってどういう頭してんだ」

「それでもテメェにやられるよりかはマシだ」

「言ってくれるじゃん」

「あの弾幕だ。テメェも一発ぐらいは喰らっただろ」

「さあどうだろうね」

 

 一進一退の激戦、ネルは打撃による負傷を増やしつつも果敢に銃撃と徒手空拳を行う。対してアゲハも全ての銃弾を捌ききることは不可能で何度も被弾するが新しい装備と気合により耐えていた。

 アゲハは器用に足元に落ちていた椅子をネルに向けて蹴り飛ばす。

 

「こういうのはどうだい!」

「どうもねぇよ!蹴り返してやるよ!」

「足を上げたな」

「ちっ!」

 

 反撃を躱してアゲハはネルの懐に入る。そして一本足になったネルに足払いをする。足払いをされるとぐらつくか転倒するのが普通だが、流石は近接戦のプロということもありビクともしなかった。

 すぐさまアゲハはトンファーで顎を打ち上げようとしたが二丁のサブマシンガンで防がれる。

 

「アタシの番だ」

「マズいっ!?」

 

 かちゃりと二門の銃口がアゲハに向かれ、アゲハは必死の形相で地面を蹴って後退しようとした。

 しかし背中に鎖の冷たい感触が伝わり、目を向ける。その正体はネルがサブマシンガン同士を繋げるためのチェーンがあり、ロープに追い込まれたボクサーのように退くことができなかった。

 ネルはアゲハが接近した瞬間に後退できないようチェーンを忍ばせていた。つまりネルは強制的に耐久戦を仕組んだのだ。

 

「我慢比べの時間だぜ」

「望むところだ……!」

 

 ネルは二丁のサブマシンガンを、アゲハは二本のトンファーを相手にぶつける。銃弾がアゲハを襲い、打撃がネルを襲う。お互いに防ぐことはせず、全力で攻撃を続ける。

 なぜ一度でも防御をしないのか、理由として一度でも守りの姿勢を見せた途端に相手のペースに飲まれてしまうからだ。

 

「うおおおおおお!!」

「オラオラオラオラァ!!」

 

 ネルの色白な柔肌が痣と擦り傷で増えていき、アゲハの仮面と装備もボロボロになっていく。

 近接戦闘におけるアゲハの取り柄は速度を活かした機動戦と手数の多さ、それに対してネルの取り柄は根性による耐久戦と徒手空拳だ。つまり何が言いたいのかというと、ノーガード戦法での殴り合いはネルに分があるのだ。

 絶対に勝つ、絶対に先に倒れないという矜持がネルを強くする。それが強さの根源であった。

 

「ぐっ!!この、クソが!!」

「まだまだやろうぜ!」

 

 ネルは銃弾を再装填の時間も蹴りや頭突きをして時間を稼ぐ。アゲハもチェーンからの拘束から抜け出そうとするも止まぬ攻撃がそれを阻止する。この耐久戦は五分も続き、頑丈なマスクの一部が破損してしまって薄黄色の目が露わになる。

 

「この調子で身ぐるみ剥いでやんよ」

「な、舐めるなああああ!!」

 

 瀕死間際のアゲハは状況を打開するために必死の九連撃ををネルに叩きこむ。額、顔面、首、心臓、腎臓、鳩尾、股間、膝という人間の弱点を正確に捉えていた。普通の人間なら一つでも受ければ悶絶は確実だがネルはニヤリと笑いながら血を吐き捨てて耐えきってみせた。

 

「た、耐えやがった……ッ!?」

「今度はアタシの番だな」

「ぐうッ!?」

 

 ネルは二丁のサブマシンガンを左右に持ち替える。するとチェーンはアゲハの体に巻かれて拘束が強化された。急いで抜け出そうともがくもかなりの腕力で抑えられているため抜け出せない。

 

「悪い手にはお仕置きをしないとなァ!!」

「いッ!?」

 

 銃口が向けられたのはアゲハの両手、意図を理解したアゲハは焦りながらトンファーで防御する。しかしチェーンが腕の動きを阻害し、思った以上に動かせない。弾倉に込められた銃弾が細く色白な手がズタボロになるほど深刻なダメージを与える。

 弾倉の中身が尽きて射撃が終わる頃にはアゲハは激痛と疲労でバタリと地面に倒れた。気絶したアゲハの息は荒く、もはや再起不能状態だった。

 

「ぃ、っ……」

「これで終いだな」

「やるじゃん部長」

「まるでバーサーカーみたいでした!」

「誰がバーサーカーだ!」

「ありがとうネル。けど生きているんだよね、この子」

「生きてはいるけど近寄るな。こういう奴は手負いが怖ェんだ」

「そ、そうなんだね。けど二人の手当をしないと」

「……それもそうだな。まずは手を縛ってと」

 

 慣れた様子でアゲハの手首と足首に結束バンドを巻いて縛る。荒事に慣れている証拠だ。

 

「よし、救急箱をこっちに投げろ。いつ起きるかわからねぇ」

「よいしょ」

「ありがとよ。こいつに応急処置してから離脱する」

「ネルはやらないの?」

「今やったら隙を作っちまうだろ。アンタをシャーレまで護送するのが最善だ」

「それもそっか。ならお願いするよ」

 

 ネルはアゲハの応急手当を始める。手の止血を行い包帯を巻き、次はマスクを外そうとした。

 しかし手がマスクに触れた瞬間、パチリとアゲハは目を覚ます。

 

「うおおおおおお!!」

「っ!?しまったッ!?」

 

 アゲハはネルに頭突きをして一瞬でも怯ませてから上半身の勢いで起き上がる。そして神秘(稀薄化)を結束バンドの一部に流し込んで破壊、拘束が解かれたアゲハはナイフを取り出して先生に向かう。

 急いで照準をアゲハに合わせるネルだが射線が先生と重なっており、回避された場合のことを考慮して撃てない。ネルもアゲハを追いかけて捕まえようとした。

 

「させないよ!」

「先生はアリスが守ります!」

「そこを退けえええええ!!」

「わっ!」

「くっ!」

 

 立ち塞がるはアスナとアリス、二人を突破するためにアゲハは最後の閃光手榴弾を取り出して起爆した。

 眩い閃光が辺りを照らす中、アゲハは再び神秘を用いて気配を遮断して先生に迫る。

 アゲハは神秘を用いるとヘイローにモザイクが掛かる。何度も神秘を使用したことでモザイク掛かったヘイローはポロポロ零れるように欠け始めており、一撃必殺の分の神秘を回す余力はなかった。それでもキヴォトス人ではない先生にとって一度の刺突が致命傷になりえる。

 

「死ね……!」

 

 死力を込めた凶刃が先生に迫る。先生は神秘によりアゲハに気づいておらず、格上の相手であるネルも間に合わない。勝利は確実だった。

 

 

「させません!!」

「ッ!?」

 

 先生とアゲハの間に入ったのはアリスだった。先生に向かっていたナイフはアリスの肩に突き立てられて鮮血が宙に舞う。

 

「アリス!?」

「よくやったチビ助!」

「何故だ!?何故わかった!!」

「わかりませんがアリスは勇者なので!」

 

 ナイフを引き抜いて先生に攻撃を仕掛けようとしたが腕をアリスに捕まれ、明後日の方向に投げ飛ばされた。

 自信満々のアリスの瞳が若干ではあるものの赤く光っていた。すぐにその色は海色に戻る。

 

「そ、そんな。どうして、ありえない……!!」

「始末屋、テメェは強ェよ。けど運が悪かったな」

 

 依頼を達成できず、神秘(稀薄化)が二度も破られ、格上との戦闘に負けて、友情と信頼から成るチームワークで敗れた。あと少し、本当にあと少しで勝てた。だが度重なる不確定要素がアゲハを敗北させた。

 この事実はアゲハの自尊心とプライドといった感情を瓦解させた。

 

「僕は、僕は負けない……!僕は独りでも強い!」

 

 アゲハは満身創痍の体に鞭を打ってなんとか立ち上がる。尋常ではない殺意と敵意が辺りに充満していき、相対していた先生たちは思わず身震いする。

 アゲハは限界を超えながらも神秘を手にした瓦礫に流す。度重なる神秘の使用でヘイローは半分しか残されていない、つまり生死が危うい状態だ。

 この危機的状況に先生は止めにかかる。

 

「アイツ、自棄になりやがった!」

「先生、これヤバいよ……」

「これ以上やったら死んじゃうよ!」

「うるせぇ!誰にも負けないことこそ僕の存在証明だ!」

 

 全身全霊で地面を踏みしめようとした瞬間、どこからともなく一発の弾丸がアゲハに当たる。弾丸は的確にマスクの欠けた部位(片目)を射貫いており、アゲハは激痛で膝をついた。

 

「うぐっ!!ぐぅ!!」

「な、何が起きたの?」

「……どうやら誰かがアイツを狙撃したみたいだ。腕が良いな」

「けどいったい誰が……?」

「はぁはぁ、くそ……」

 

 狙撃を受けたことでなんとか冷静さを取り戻したアゲハは障害物に身を隠す。満身創痍で獲物も装備もない、状況を整理したアゲハは呼吸を整えた後、遮蔽物越しに先生たちに告げる。

 

「今日はここまでにしてやる」

「あぁ?何言ってんだ!」

「だが絶対に仕事を成し遂げる。それが始末屋の矜持だ」

「先生、無理にでも捕まえるべきだ」

「……わかったよ。始末屋、その挑戦受けるよ」

「おい先生!?」

「きみを救えるのなら私は誰だって救ってみせるよ」

 

 先生から放たれた言葉は本物だった。心の底から悪人でも弱者でも救う余地があるのなら全て救う、そんな矜持が読み取れた。

 先程まで殺そうとしていた人物にまで善意と慈悲をかけようとする先生にアゲハは拍子抜けた。

 

「アンタ、お人好しって言われない?」

「よく言われるよ」

「……ふーん。それと手首の爆弾、あれ嘘だから」

「えっ!?」

「そんな便利アイテムあってたまるか。蛇のおもちゃを改造しただけ」

「よ、よかった……」

「だが先生。死はお前の傍にあるのを努々忘れるな」

「悪ィけどC&Cとしてテメェを今捕まえるが異議はねぇよな」

「ネル!?」

「うちの部員もミレニアム生徒(アリス)もやられてんだ。もうアンタ(先生)だけの話じゃねぇ」

「……それもそうか。けど僕は逃げる」

「へっ、やってみろよ!」

 

 武器を構えながら一歩一歩注意しながら迫るネルにアゲハは天井を見上げる。そしてカチリと何かを起動して、天井に向けて放り投げた。

 

「冷たっ!?」

 

 商業施設や住宅は天井にとある物の設置が義務づけられている。それはスプリンクラーだ。天井から大量に降り注がれる冷水は視界を悪くし、音も消す。一瞬の隙と視覚と聴覚の妨害さえあればアゲハは神秘を使わずとも逃げることができる。

 即座に意図に気づいたネルは銃撃を加えるが、アゲハが居たであろう場所にはいなかった。

 

 先生暗殺未遂事件はキヴォトス中に激震が走った。

 外と世界から派遣された重要人物が暗殺されかけたのだから当然とも言える。すぐに報を聞きつけた執行機関であるヴァルキューレ警察学校と連邦生徒会が始末屋の捜索に乗り出して、キヴォトス全域に戒厳令が敷かれた。




Q.どうしてアリスとアスナには気配がバレたの?
A.アスナは神秘の幸運と直感、アリスはAL-1Sとしての機能が作用した感じです。もっとも前者は負担がかかるため多用できません。

策が無いと絶対に学園最強格には勝つどころか引き分けもできないのがアゲハ君です。
得意な近距離戦では短期戦では勝てるかもしれませんが、ネルとツルギみたいな耐久戦オンリーの人と相性が悪いです。
つまりアゲハ君がフルボッコにされる展開は確約されていたものです。そもそもアゲハ君の得意分野は奇襲と潜入工作だから仕方ないね。
神秘が込められた一撃必殺はジャイアントキリングを可能にしますが調整ができないため戦闘での扱いが難しすぎる。
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