アルバイトスミレが実装されますね。何なんだその足の長さは!
あっ、そうだ(唐突)今回は二つ視点があります。
「あぁ、クソが」
先生暗殺未遂事件は瞬く間にキヴォトス全域に激震を走らせ、ヴァルキューレ警察学校と連邦生徒会による執行機関が戒厳令を発令した。
これにより各学園の出入りは生徒手帳や住所と金融機関の照合が必須となり、道路と公共機関にも検問が実施された。夜間では戒厳令の発令ということで非常時を除く外出は禁じられ、野外に出ている者には職質を行い、暗殺に加担した傭兵と首謀者であるアゲハの捜索にあたっていた。
「……身動きが取れない」
アゲハはD.U.地区の裏路地に潜伏していた。本来なら逃走手段も確保していたのだが戒厳令により破綻、徒歩でブラックマーケットに行こうにもブラックマーケットの門扉が完全に閉ざされてしまったとのことで帰ることもできない。
「昔を思い出す」
アゲハは気配を消して物陰に隠れ、ゴミ箱に捨てられた残飯や廃棄物を食べて何日も過ごしていた。プリペイド式の携帯電話も破棄しており、ブラックマーケットにある口座も連邦生徒会によって凍結されたため手持ちの金銭でやりくりするしかない。始末屋の装備も証拠隠滅のためコインロッカーに隠した。
「やっぱり夜は寒い。雨も降っているし」
アゲハは大型のゴミ箱の中でゴミ袋に埋もれながら一夜を過ごそうとしていた。ネルとの戦闘でできた傷は応急手当をしたとはいえ、劣悪な環境と本格的な治療が行えなかったことで悪化していた。負傷が原因で高熱が出て、激しい咳もしている。
「強引にでも突破するか」
そんな状況では消費した体力は癒えることなく神秘は一度しか使えない。使いどころを誤れば捕まるのは必至だ。
「っ!?」
強硬策に出ようかと考えていると入っていたゴミ箱が大きな爆発音と衝撃に襲われる。ゴミ箱の中身が散乱すると同時にアゲハも外に出され、始末屋の装備として唯一持ってきていた仮面を被った。
「な、何だよ。人が居るのにさ」
「あら、みずぼらしい野良犬が出てきましたね」
「ふざけたこと言うなよ。
横転したゴミ箱に立つのは狐面を被り和装をした狐坂ワカモだった。
狐坂ワカモ、それは無差別かつ大規模な破壊活動を行うことから災厄の狐と称されている生徒だ。SRT特殊学園でも優秀なFOX小隊との戦闘で収監されるもキヴォトスの動乱により矯正局を脱獄した者のひとりである。
アゲハはワカモのことは知っていたが対面するのは初めてだったが、確実に敵意を抱いていると一目見て察した。
「七囚人様がどうして此処に?まさか僕を捕まえに?」
「捕まえるなんてしませんわ」
「そりゃあよかった。なら邪魔しないでくれ、僕は忙しいんだ」
「へぇ、警察から逃げ回るのはさぞ大変でしょう。その汚い格好で」
「逮捕経験のあるアンタには言われたくないね。僕は未経験なんで」
「面白くない冗談言いますのね」
「気に障った?チンピラ」
「呆れただけですわ、負け犬」
空気がひりつき、重くなる。一触即発のの中相対した二人は睨み合う。
アゲハとしてはこの場から逃げたかった。調子は絶不調で武器もナイフしかない、眼前にいる狐坂ワカモの相手をするには苛酷な状況だ。ここは穏便かつ速やかに済ませようとしてアゲハは動く。
「なあワカモ、交渉だ」
「何ですの」
「僕を見逃してくれたら五千万を払う。約束は守る」
「お金ですか」
「そうさ。アンタは五秒だけ目を放せば大金が入り込む。簡単だろ」
「えぇ、そうですね。見逃す理由にはなりますね」
どんな人間も所詮は金で動く、裏社会で暗躍するアゲハにとってそれは常識だった。暗殺準備時に行った先生のリサーチではワカモは先生と何の関係も持っていなかったのをアゲハは知っていた。
「なら話は――――」
「けど
「うっ!?」
ワカモは瞬時にライフルを構えて引き金を引いた。銃弾はアゲハの胸部を捉えており、予期せぬ一撃を喰らったアゲハは胸を抑えてその場に倒れる。地面の凹みに溜まった水がマスク内に入ってむせた。
「ゲホッゲホ!ふざ、けんな……!」
「始末屋、あなたは私の想い人を殺そうとした」
「お、想い人だぁ!?そんなん知らねぇぞ!」
「当然です。この想いは胸の内に秘めているんですから」
し、知らねぇよ!!
アゲハは息を荒上げて脂汗を滲ませながら独白した。予知ができない人の心は簡単にリサーチできないものなのである。
「くっ……」
弁明や釈明を出そうにも目を見開いて牙を見せているワカモには通じないと判断したアゲハはナイフを片手に立ち上がる。
今すぐ立って臨戦態勢を取らなければ殺されてしまうとアゲハは長年の経験から察したのだ。
「おとなしく、死んでくれませんか?」
「誰かを殺したことない
「それならあなたで済ませて
「もしかして僕の片目に打ち込んだのってアンタか。てかストーカーだろ」
「何を言われようがあの方を見守り、呼ばれれば応じるだけですので」
「……」
「……」
皮肉を言い合った後、二人は黙り込む。もはや何を言っても変わらないと感じ取ったからだ。
アゲハは深呼吸をして心を切り替え、鋭い目つきでワカモの隙を探る。ワカモは確実に手負いのアゲハを前に絶対的有利のため慢心しており、その隙に付け込もうとした。
しかし一切の油断もしていないワカモには無意味で、雨粒がただひたすらに二人を濡らしていく。
「ふっ!」
「ッ!!」
最初に動いたのはワカモでアゲハの頭部に向けて発砲する。しかし銃弾を弾いてアゲハは撤退せずに距離を詰める。背を向けて逃走しても追撃してくるのはわかっていたからだ。
ワカモは続けて発砲するもアゲハは狭い路地でありながらも銃弾を躱して迫る。
「くっ!」
「甘いですわ」
傷の癒えておらず疲弊した状態のアゲハには全ての攻撃を躱す余力はなく、一発の銃弾が腹部に当たる。最悪なことに重傷の部位に弾が命中したため勢いのまま倒れてしまった。追撃と言わんばかりにワカモは銃を乱射していく。
「どうされましたか?この程度で死ぬなんて思いませんよ」
「ば、バカ言うなよ……!まだ終わっちゃいない!」
「あら危ない」
「ちっ」
アゲハは銃撃の合間を縫ってナイフを投擲するもワカモは難なく躱す。
「これで終わりですか。始末屋」
「……バーカ、僕を誰だと思っている」
「うっ!?」
突如としてワカモの背後から蒸気が噴き出した。アゲハが狙っていたのはワカモではなく後ろにあった蒸気を循環するパイプだった。蒸気に呑まれて視野が塞がれたワカモにアゲハは近づく。
近づけさせまいとワカモも蒸気で視界が遮られる中で発砲するもアゲハには当たらなかった。
「この!」
「狙いがブレてる」
「くっ!」
「終わりだ!」
アゲハはゴミ箱の上に立っているワカモ目がけて跳びかかった。適当にナイフを当てて怯んだ隙に逃げようとしたのだ。
―――――だがそうはならなかった。
「が、はっ!?」
「甘かったのは、どちらですかね……!」
「ち、くしょう……!!」
ワカモのライフルに着いていた銃剣がアゲハの腹部に突き立てられていた。串刺し状態のアゲハは最後の抵抗というようにライフルを掴んだ。
「ワカモの勝ちです」
「あっ、あぁ……」
ワカモはライフルごと手放すとアゲハは重力に従って背中から地面に倒れ込んだ。倒れた衝撃でマスクが外れてアゲハの素顔が明らかになる。
大量の血液を喀血して、アゲハの目から生気は消えていく。呼吸と脈拍も弱くなり、通常の半分ほどのサイズしかないヘイローの崩壊が始まっている。
体から体温と力が抜けていくのを体感するアゲハ、その傍に立ったワカモがライフルをアゲハから引き抜いて見下す。
「……これから死ぬ感想はいかがですか?」
「最悪さ」
「案外、殺すって気分が悪いものですね。あなたが相手でも」
「業はアンタを、死ぬまで追う。……忘れるな」
弱々しいが意志が込められた言葉をアゲハは投げかける。
降りしきる雨の中、ワカモは狐面を取って素顔を晒す。その行為は死者に向ける弔いであり、せめてもの情けからくる行為だった。
「苦しいでしょう。楽にしてあげます」
「……つかれた」
「さようなら」
ワカモは銃口をアゲハの頭部に向ける。もうアゲハには抵抗する余力も残っておらず、死を受け入れて目を閉じるしかなかった。
走馬灯として今までの記憶がアゲハの脳裏を駆け巡る。散々人から利用されて搾取されてきた幼年期と少年期、最近になって初めて体験できた出来事が次から次へと流れていく。カヨコとトキは今何をしているのだろうか、馴染みのカフェでモカをもう一度飲んでみたかった、楽しいことをもっとしてみたかったという未練と後悔で胸がいっぱいになった。
ワカモは引き金に指を伸ばし、そのまま引かれる。
―――――――はずだった。
「大丈夫!?」
「っ!?」
どこか聞き覚えのある声が二人の邪魔をした。ワカモは驚いた様子を見せた後に煙幕を展開して消えてしまった。煙幕が周りを包み込み、薄れゆく意識の中で最後に見たものは暗殺対象だった先生の姿だった。
「ごほごほっ!一体何が、って大丈夫!?今、救急車呼ぶから!」
「いら、ない……」
「そんなこと言わないで!絶対に助けるから!」
「……ぁ」
死の淵にいるアゲハを発見した先生はその出血箇所にハンカチを押し当てて止血を試みる。綺麗な白い手がハンカチごと赤く汚れていく。アゲハは予定通り死ぬために腕を動かして止血する先生の手を払いのけようとした。
「怖いよね。痛いよね。けど私が助けるから!」
「っ」
しかし先生はその行為を救いを求めていると解釈し、ハンカチと先生の手の間にその手を挟んだ。先生の体温が冷め切ったアゲハの体に染みる。
人の温もりを久方ぶりに体感したことで、最初は死を諦観して受け入れていたアゲハだが徐々に死が恐ろしくなり一筋の涙が零れる。
「あと少しだからね、あと少しだけ耐えて!」
「……ねぇ」
「何?」
「死に、たくない……」
「安心して!だって私は先生だからッ!」
それは救いの手が差し伸べられたことによる安堵なのか、もしくは出血によるものなのかはわからないがアゲハは意識を失った。
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月が雨雲で隠されて降り止まぬ雨の中、私は外を歩く。
この前の暗殺未遂事件で戒厳令が敷かれているため非常時を除いて夜間外出は禁止されているけどふと気分転換に散歩がしたかった。要警護対象としてずっと厳戒態勢のシャーレに閉じ込められていたからね、仕方ない。
きっと雨の中の散歩は風変わりだと思うかもしれないけど雨粒が傘や地面に当たって弾ける音は好きだ。
「外にいるのバレたらユウカたちに怒られちゃうな」
一応、シッテムの箱の権限を使って外出ログは消しているけど鉢合わせれば終わりだ。まあ戒厳令が敷かれている中で外出する生徒はいないだろう、いたとしたらこっちが指導して論点をずらそう。
「何っ!?」
一通り散歩が終わり、シャーレの帰路についていると爆発音が響き渡る。何か暴動や事故が起きて生徒たちが巻き込まれている可能性を考えて私は急いで向かう。
音の出所に着くと、辺りは蒸気で蔓延していて大きなゴミ箱が道を塞ぐように倒れていた。私は蒸気を吸って咳き込みながらゴミ箱を通り抜ける。
「ごほごほっ!一体何が、って大丈夫!?今、救急車呼ぶから!」
そこにはおびただしい量の出血をした少年が仰向けになって倒れていた。
急いでアロナに救急車を要請した後、ハンカチを取り出して少年の手当てに当たる。すぐにハンカチが赤黒く染まってしまい、少年の顔色を確認すると真っ青で目は虚ろだった。端正な顔立ちには似合わないほど口元が喀血で汚れている。
「いら、ない……」
「そんなこと言わないで!絶対に助けるから!」
「……ぁ」
「怖いよね。痛いよね。けど私が助けるから!」
「っ」
処置を拒もうとする少年に私は思わず声を荒上げてしまった。きっとこの子は何もかも諦めて死を受け入れようとしている。この子がどこの生徒で素性もわからないけど人命を助けるのに躊躇する理由にはならない、そんな使命感が心の底から湧き出した。
少年は私の手を払いのけようとしたけどその手には力が込められていない。本当に危うい状態でいつ死んじゃってもおかしくない。
「怖いよね。痛いよね。けど私が助けるから!」
「っ」
私はどうにか少年の意識を保たせるためにハンカチと私の手の間にその手を挟む。ズタボロな手は冷えていたから温めて少しでも反応を与えようとしたからだ。
「あと少しだからね、あと少しだけ耐えて!」
「……ねぇ」
「何?」
「死に、たくない……」
「安心して!だって私は先生だからッ!」
すると少年は握られたことで生への欲求と安心感を覚えてくれたのか涙を零して弱々しく本音を打ち明けてくれた。自ら納得して死を受け入れる人間なんていない、それが子供なら尚更だ。
救急車のサイレンが遠方から聞こえてくる。あと少し耐えてくれればこの子は助かる。
「……みんな、ごめん」
「きみ!今、救急車が来たから頑張って!」
後方で救急車が停車すると三名の救命隊員が降りて、少年は救命隊員によってストレッチャーに乗せられた。
私は激励の言葉をかけ続けながら少年と一緒に救急車に乗り込んだ。
ワカモの対先生ではない時の口調って意外と難しい。
内心これで合っているのか不安になります。
それとアゲハ君も所詮はガキなんでね、独りで野垂れ死ぬことは嫌なんでしょうね。もっとも死ぬことで決着がつけられる時は納得して死にそう()