今回は短めで、敵戦車のモデルはドイツの三号戦車L型です。
空気が変わった。
敵戦車による増援と先生が捕らわれたことでアゲハたちの戦況は最悪だった。誰もが襲撃者側の勝利だと確信できる状況だった。しかし、堂々とアゲハが立ち尽くしたことで場の空気が一瞬にして変化したのだ。
空気がひりつき、場に緊迫感が生まれる。
「やるか」
アゲハはゴキゴキと首を鳴らした後に力を込めて踏み出す。その際の脚力は強靭で、踏み込んだ箇所の床が激しく破損していた。
「撃て!」
戦闘経験が豊富な兵士が異様なアゲハの行動に反応して一斉射撃を行う。しかし室内でありながらも三次元機動を駆使して回避しながら前進する。その道中で近場にあった大きな木片を手にして弾丸を捌き始めた。音速を超える速度で迫る銃弾をアゲハは木片が折れぬよう華麗に流し、時には弾丸を叩き落とす。まさに神業の連発、それを顔色を変えずに淡々とこなしていく。
楽勝といったように被弾せずに屋外に出たアゲハは近くに居た兵士の頭部目がけて木片を振り下ろす。ボッキリと木片が折れると同時に兵士も頭部を地面に打ち付けた。
「あ、アゲハ!?」
「今のは何ですか!?」
豹変したアゲハの姿を見た者の反応は様々だった。先生やハスミのように目を丸くして見るからに仰天している者。
「な、なんだこいつ!?」
「よくも仲間を!」
「絶対に近づけさせるな!」
新たな脅威と認識して動揺する兵士の姿。
「久しぶり、だね」
感動の再開を果たして歓喜の涙を零す
このような三者三様の反応に対してアゲハは気にも留めていない様子で辺りを軽く見まわす。路上では先生が三人の兵士に取り押さえられ、やや離れたところではカヨコとハスミが負傷しており、その反対方向から戦車が近づいてきている。
「少し、本気を出す」
木片が使い物にならなくなって手ぶら状態になったアゲハは先生を取り押さえている兵士を睨む。視線には敵意と微小な怒気が込められていて、経験豊かな兵士たちですらアゲハの迫力に怖気づいている様子だ。中心に居る先生ですら初めて見るアゲハの姿に唖然としていた。先生は幼げに遊び、純粋無垢な受け答えをしているアゲハを近くから見ていたのだから無理もない話だ。
「っ!?」
「手榴弾ッ!?」
「人質ごとだと!?」
「うわわわ!!」
アゲハは今しがた倒した兵士から手榴弾を取り出して先生たちに向けて投擲した。まさか人質である先生を巻き添えにする攻撃に兵士たちは理解が追いつかなかった。無論、先生も慌てふためきながらもシッテムの箱を起動させる。
兵士たちは回避が間に合わないと考えて身を構えるも一向に衝撃や痛みは来ない。足元に転がる手榴弾を見ると安全ピンが抜かれていなかった。
「しまった!」
「遅い」
「ぐえっ!?」
皆の注目が手榴弾に移ったためアゲハを視界から外してしまい、兵士の一人はアゲハから怒涛の連撃を浴びる。素手による近接格闘であったが、確実に強固な防弾プレートが張られていない関節部を狙っていた。
「このッ!」
「残念」
バタリと倒れる兵士を尻目に、もう一人の兵士が銃床による攻撃へ移るも難なく躱されてしまう。そしてアゲハは相手の腰部分から抜き取ったマガジンを手にして横腹に目がけて刺突する。
「かふぅ!?」
刺突を受けた兵士の口から空気が吐き出された後に倒れ込んだ。地面に蹲りながら痛みと呼吸困難で悶絶していた。先生を取り押さえていた兵士も残り一人に迫っていた。
「離して!」
「く、来るなッ!」
「ちっ、悪足掻きを」
その場に残った唯一の兵士は先生を捕まえて人質にして、火薬の臭いが漂う黒鉄の銃口を先生に向ける。あからさまに人質を取られたアゲハは気怠そうにしつつも瞳には憤怒の炎が揺れていた。
「その場で膝を着け!」
「アゲハ!私のことはいいから従って!」
「おら!こいつの言う通りにしろ!」
「……先生」
「私はどうにかなるから!だから――――」
「甘すぎ」
「えっ?」
アゲハは頭を掻いて首を傾ける。その瞬間、傾けたことで生まれた空間から一発の銃弾が飛来して兵士の銃身に直撃した。銃弾が命中したことでバキンと銃身が弾かれて銃口は先生からズレた。
何処からともなく飛来した弾丸、その発射元はマスターだった。マスターは残り僅かな銃弾を使って、驚異の
「ナイスだマスター」
「ぐおっ!?」
「いつの間に!?」
一瞬の隙を見逃すわけもなく、アゲハは人質を取る兵士の背後にまわると一気に首を絞める。ミシミシと音を立てて絞めつけられる兵士は抵抗しようともがくも、むしろそれが逆手になって窒息感が増していく。兵士は三十秒程度でバタリと泡をふいて昏倒してしまった。
「た、助けてくれてありがとう」
「あぁ?」
「っ!」
先生は助けてくれたアゲハに向けてお礼を言うが、アゲハは不快そうに一瞥する。敵意が込められていない視線ではあったが、豹変したアゲハを前に先生は思わずたじろいでしまう。
そんな様子を気にもせずにアゲハは眼前の戦車に体を向けて一考する。現在の武装でどのように戦車を破壊すれば良いのかを考えた末、アゲハは装甲車からとある物を引っ張り出してきた。
「
「……こいつだけで足りる」
「弾頭だけ!?」
「そう」
装甲車から取り出したのはRPGの弾頭で射出機は付いていない。それに対して無謀だとツッコミを入れる先生だったが、当の本人的には大真面目に頷く。
アゲハはくるくると二本の弾頭をジャグリングの如く弄んだ後に、逆手に弾頭を握るというどこか見覚えのある構えを取る。
「やるか」
「わっ!?」
アゲハは全身の力を込めて大地を踏みしめて戦車に向けて突撃する。当然ながら戦車も抵抗として砲撃や機銃による攻撃を行うも、機敏に動くアゲハ相手には当たらない。そもそも個に対する攻撃として榴弾による広範囲攻撃が必須だがアゲハは爆風を受けぬよう建物を突っ切り、飛散する破片を弾いて防いでいた。
「まずは一発」
アゲハは一本のRPGを戦車の正面装甲に向けて投擲、その際に弾頭の尾部を蹴ってより加速させる。高速で直進する弾頭は見事に戦車に命中するも戦車の正面装甲は重厚で貫通することはなかった。
この攻撃の目的はあくまで爆炎による視界潰しと戦車の停止させるため、本当の狙いは他にある。アゲハは白煙が上がる戦車を高く跳び超えて、戦車の上空を取った。
「これで終いだ」
空中から弾頭をエンジン部分目がけて全力で投擲、アゲハが地面に着地したと同時に戦車は爆炎を上げて燃え盛る。まさにアクション映画さながらの演出である。
燃え盛る戦車の車内からは搭乗員が飛び出て蜘蛛の子を散らすように逃げていき、アゲハは追撃をかけることなく傍観していた。
「……余裕」
「アゲハ!ケガはない!?」
急いで駆け寄ってきた先生がアゲハをあちこち触る。それに対してアゲハは拒絶反応を起こすことなく黙って見ていた。
いつまで経っても自身をべたべた触る先生に対してアゲハはようやく口を開いた。
「タバコ」
「えっ?」
「だからタバコちょうだい」
「そんな物持ってないよ!」
「ちっ、残念」
「アゲハ!戻ったんだね……!」
開口一番にタバコをたかられた先生は困惑の色を隠せずに硬直していた。もっともその反応は至極当然の反応だ。
いつものアゲハが還ってきたことで涙を流しながらカヨコは迫る。カヨコはアゲハに対して一言では言い表せぬほどの想いを抱いており、その旨を直接解き放とうとしたのだ。
「カヨコ――――」
「アゲハ!?」
気まずそうにアゲハが呟いた瞬間、全身が脱力してしまいアゲハはバタリと倒れ込んでしまう。地面に上半身を打ち付ける前に先生がアゲハの体を抑えてくれたおかげで事なきを得た。もしかして重傷を負っていたのではないかと心配する先生たちであったが、戦闘で疲れ果てたのか寝息を立ててスヤスヤ寝ているだけだった。
「ぐぅ」
「ね、寝てる……」
「……相変わらず寝顔は変わらないんだね」
「そうなのですか?」
「だいたい口を開けて静かに寝息を立てて、こういう時は可愛いんだ」
アゲハが睡眠中に病院の検査を行ったが異常はなく、二日後に目を覚ました時には元の幼児還りしたアゲハの姿があった。カヨコはせっかくの希望が再び潰えてしまったことにショックを受けながらも、またあの時のように記憶を取り戻すのではないかと期待を抱くことができた。トキも何とか記憶を取り戻す手立てとして絵を描いたり、思い出の場所に行ったり、手料理を振るまうも変化はなかった。
一方で先生は謎の襲撃者たちが何者でどこの組織に属しているのかを調査を始めた。
Q.アゲハが好きなゲーセンのゲームは何?
A.レースゲームが好きだがさほどレベルは高くない。実車だと壊滅的な腕前になる。
Q.格闘ゲームはしないの?
A.娯楽のゲームなのに対人でいらいらしたくない主義。なので基本的にソロプレイをしたり、家庭用ゲーム機ではレースゲーム以外にも3DRPGと農園ゲームも嗜んでいる。
Q.カヨコとトキはゲームをアゲハとどんな感じでプレイするの?
A.カヨコは見る専、トキはパーティゲームで煽るが基本的には協力的に振る舞う。なおトキに対してアゲハはしばしば自棄になって騒いでいる。