裏社会の始末屋、キヴォトスにて絆される   作:渡邊ユンカース

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お久しぶりです。
GWは温泉で休養していました。やっぱり温泉は良いぞ、最高だ。
それと短めです。


二つの真相

 

 先生がトリニティ自治区郊外で襲われた事件から三日が経過した。襲撃者の所持していた武器や車両の出所を特定するために連邦生徒会とシャーレは昼夜を問わず捜査

「あぁー!わかんない!」

 

 状況が好転しないため流石の先生も愚痴を零した。このまま放置すれば自分のみならず他の生徒にも被害が出てしまうため早急に解決しなければならず、本来の業務を保留にしている。おかげで部屋の片隅には日ごとに書類の山が増えていた。

 ちらりと隣を見ると昼食を食べたことで眠気が来たのか穏やかに寝息を立てて寝ているアゲハがいた。

 

「あの子があんなことを、ね」

 

 思い返すは獅子奮迅の活躍を見せたアゲハの姿、驚異的な身体能力を活用して終始優勢に戦闘を行っていた光景は先生の脳裏に焼き付いていた。あれが幼児化する前の本当のアゲハの姿であり、その素性が問題解決の糸口になるのではないかと先生は睨んでいた。

 しかしアゲハの調査も進展はなく、カヨコとトキに聞くも拒まれたり誤魔化されてしまった。二人の様子は明らかに打ち明けられない何かを秘めているのだと察することができた。先生は生徒を重んじる大人であるため自白を強要することはない、どうにかして二人の信頼を勝ち取ることで自発的に言ってくれるのを待つしかなかった。

 

「よし!息抜きにコンビニに行こう!」

 

 先生は立ち上がって一階にあるエンジェル24でスイーツを買いに行こうとした。ちなみにシャーレは二度の先生襲撃事件を受けたためヴァルキューレ警察学校と連邦生徒会による強固な警備体制が整えられており、外出することはできなかった。

 先生がオフィスのドアノブを握り、いざコンビニへと扉を開ける。

 

「クックックッ、お待ちしておりました」

「……」

 

 扉を開けた先には何故か黒服(・・)が居た。正確には扉の先が黒服のオフィスに繋がっていて、初めて出会った時と同じ態勢で出迎えていた。

 流石の先生でもこの意味不明な状況に無言で扉を閉めた。

 

「あれ、疲れているのかな」

 

 目頭を押さえながら深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、先生は再び扉を開けた。

 

「その様子だと捜査は難航しているみたいですねぇ」

「……人のオフィスに無断で繋げるって非常識では?」

 

 なお現実は変わることなく、目の前には黒服が待ち構えていた。明らかにゲマトリアが有する謎の力を使用していたのだとわかる。

 先生は警戒心と敵対心を黒服に向けながら慎重に黒服のオフィスに足を進める。

 

「その件に大変申し訳ないと思っております。しかしこうでもしないとお会いできませんので」

「あっ、そう。それで何の用ですか?」

「えぇ。今の問題に関わるお話です。」

「……嘘なら許さないから」

「まあまあ、そこまで警戒しないでください。私は嘘を吐きませんよ」

 

 黒服は空いているソファーに座るよう促すも先生はそれを拒んだ。元より黒服の自分のためなら生徒を利用するという姿勢を先生は嫌悪していて、普段は生徒には向けな黒服に向けた。実際、アビドス生徒会長のホシノを私利私欲のため利用していた事実もあるのだ。

 そんなことを知ってか知らずに黒服はとある話題を切り出す。

 

「D.C.とトリニティ自治区郊外における襲撃事件は災難でしたね。大惨事になるのではと肝を冷やしましたよ」

「本当はそう思ってないでしょ」

「とんでもない、貴方ほど素晴らしい人をくだらぬことで失いたくないのです」

「褒められてもホシノたちにしたこと忘れないから」

「別に構いませんよ。結果はどうあれ事実なので」

「それで何が言いたいの?」

「今回の襲撃を指示した人物を教えて差し上げようかと」

「っ!?」

 

 黒服のひび割れた顔面から白色の光が不気味に漏れ、どうやら満更でもない様子だ。一方で人員と日数をかけて未だに掴めなかった手がかりを黒服が知っていることに先生は驚いていた。先生はゲマトリアの身内による犯行ではないのかと勘繰る。

 

「先生、今回の件においてゲマトリアは関与しておりませんよ」

「……ならよかったよ」

「えぇ、貴方を煙たがる者はいますが武力行使に出る者は今のところ(・・・・・)いませんので」

「そうなだんだ。そしたら早く黒幕を教えてくれないかな」

「急いては事を仕損じますよ」

「大事に私の生徒を巻きこみたくないんだ」

「素晴らしい精神性です。では話しましょう」

 

 そう言うと黒服はとあるファイルを先生に渡す。表紙を捲って中身を確認すると、指折りの銃器メーカーであるラインモーゼル社について記載されていた。

 

「これは……」

「こちらが黒幕です。キヴォトスに来て間もない先生も名前ぐらいはご存知で?」

「もちろん。けどどうして」

「ラインモーゼル社はブラックマーケットに大きなシェアを有する会社で、近い将来に先生が治安改善に乗り出すのを恐れたんでしょう」

「治安が改善されれば銃器の売上が落ちて競争力が落ちるって具合だ」

「その通りです。表社会でラインモーゼル社は他者よりも競争力が低いので」

「……きっとカイザーグループに私が打撃を与えた影響もあるんだろう」

「しかしまあ暗殺を依頼するなど安易すぎますがね。あまりにもつまらない」

 

 黒服は率直な感想を述べていて、言葉には僅かに呆れと怒りが籠っていた。黒服という人物は契約と取引を自身の美徳として重んじる傾向がある。無論、違反者には相応の罰や武力を向けるが基本的には武力行使はしないのだ。

 このような性質状、黒服という大人に対抗できるのは同じ大人である先生だけだ。そのため先生は黒服に対して一種のやりづらさを感じることもある。

 

「ここの社長が私に暗殺依頼を」

「はい。今後の対応については先生にお任せします」

「ありがとう。正直なことを言うと助かったよ」

「先生から褒められて私も嬉しいです」

「……ねぇ、一つだけ聞いて良いかな」

「何でしょうか?」

「私の暗殺依頼、それだけが私に接触する理由かい?」

「……ほう」

 

 先生の問いに黒服は感心したように言葉を漏らす。どうやら黒服の思惑を突いていたようだ。

 

「あなたが私を気に入っているのは薄々感じているけど、もう一枚何か噛んでいない?」

「クックック!貴方は本当に聡い方だッ!」

「なら教えて。何に関係しているの?」

「アゲハさんについてですよ」

「アゲハ!?彼のこと知っているの!?」

「えぇ、以前の彼とはそこそこの付き合いですのでプライバシーに関わること以外はお話ししましょう」

「可能な限りで良いから教えて!」

 

 記憶を取り戻すための糸口になるのではないかと興奮した先生は黒服に詰め寄る。

 

「――――アゲハさんは元男娼で今でも依存症を持っています」

「えっ」

 

 これが好転するのではないかと先生は待ち構えていたが黒服から出された解答は悲痛なものだった。ひとりの少年が持つ過去にしてはあまりに重くて悲劇的だった。衝撃的な事実に先生は唖然としたと同時に以前の出来事と合点がいった。

 

「彼は薬漬けにされて組織の言いように酷使されていました」

「ッ!?」

「スラム街を独りで過ごす子供に救いはありません。最低限の残飯を食べて薬を摂取してから仕事をこなしていました」

「……ひど、すぎる」

「組織が無くなるまで何年も繰り返し、ようやく解放された頃には常時発情する症状に苛まれていました」

「医療機関や保護機関からの手立ては!?」

「スラム街出身なので戸籍が無かったため受けれませんでした」

「つまり、ずっと誰の助けもなく独りで生きてきたってこと?」

「その通りです。しかし彼にはとある神秘を有していたため私が手を貸しました」

「ホシノみたいに人体実験をしたんだ……!」

 

 ギリっと歯を噛み締めた先生は黒服の胸元を掴んだ。神秘に関わる実験で黒服に利用されたホシノが死にかけた事実があり、同様のことをアゲハにしたのではないかと先生は考えたのだ。

 黒服は自身の胸元を掴まれたが抵抗はせず、淡々と事実を話していく。

 

「落ち着いてください先生。私は神秘のデータを一度だけ取り、見返りに彼の発情を抑える薬を与えたのです」

「そうやって生徒を利用して!」

「利用ですか。これは契約の下に成り立つ取引ですよ」

「相手はまだ子供なんだよ!」

「しかし私の薬によってアゲハさんは安定を取り戻したのも事実です。しかも薬は特別仕様で効き目が良い」

「くっ」

 

 何とか事情を呑み込めた先生は黒服の胸元から手を離す。納得こそしていないもののそれでアゲハが救われたのは事実なのだ。黒服はしわが寄ったスーツを整えながら話を続ける。

 

「私が渡したのはタバコ状の薬剤です。錠剤や注射でも良かったのですが本人が強く拒絶したのでその形に」

「……もしかして組織から渡されていた形状に強い拒否感が」

「そうでしょうねぇ。摂取効率が悪く、一日に何度も摂取しなければなりませんが本人たっての希望ですので」

「今のアゲハにタバコは余計吸わせられないからお香として焚いたり、香り袋を持たせたよ」

「大量に用意しないといけませんが効果はあるでしょう」

「私がトリニティ自治区郊外で襲われた時、アゲハがすごい身体能力で戦ったんだけどそれもタバコの影響?」

「いいえ、そんな薬効はありませんから持ち前の能力でしょう」

「……そっか。今回、黒服と会えて色々助かったよ」

「私も先生と久しぶりにお話しできて楽しかったです」

「だけど私の生徒に悪さしようものなら今度こそ許さないから」

「クックック、そんな日が訪れないことを願いましょう」

「それじゃ、さようなら」

 

 先生は入って来た扉を開ける。扉の先には見慣れたシャーレのオフィスが広がっていた。

 一歩踏み出してシャーレの方へ出て扉の方へ振り向く。扉の先には黒服の姿どころかオフィスすら消え失せてシャーレの廊下が見えるだけだ。

 

「相変わらず面倒な人」

 

 黒服に対して愚痴を零す先生だったが、何はともあれ問題解決の糸口を二つも得ることができたため先生は気合を入れて調査を再開することにした。

 調査と同時に先生は記憶を取り戻したアゲハがどんな者であっても支援をする手立ても考え始めた。戸籍がなく生徒でなくても守るべき子供と認知したからには大人の責任を全うしなければならないのだから。

 




この時点(補習部前)ではベアトリーチェはエデン条約に向けて画策している段階なので先生は標的に入っていないと思ってください。
ちなみにアゲハの神秘である稀薄化は自身の存在を稀薄させるか対象に神秘を流し込んで破壊することに特化しているため、二極化すぎて黒服の研究が想定よりも早く終わりました。
本当に汎用性に欠けたピーキーな神秘ですね。
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