投稿する時間と気力の確保が難しくて頭にきますよ!
けど皆さんの感想と視聴と評価が支えになっております。
ちなみに短めです。
「先生、お疲れ様です」
「来てくれたんだね、トキ」
黒服の手助けによって事件は進展していた。黒服から渡された情報を再度精査して、関連企業や供給レーンを秘密裏に調査した。そのおかげで少しずつ情報が集まっていき、家宅捜査状をラインモーゼル社に提出する日も遠くない。
そんなある日、トキが先生の居るシャーレに訪問してきたのだ。万が一のことにも備えてアゲハの関係者であるトキにも厳重な身体検査と学生証の照合を行っている。
「はい。にしても強固な警備ですね。何重にもチェックされました」
「私はそこまで警備しなくて良いって言ったんだけどね」
「仕方がないことです。セキュリティーは万全でなければ意味がありませんので」
「カッコいいこと言うね。ザ仕事人って感じだ」
「ありがたきお言葉です」
一礼をするトキ、実をいうと先生はトキの素性をあまり把握できていない。知っているのはミレニアム学園の会長である調月リオの専属メイドであることと記憶を失う前のアゲハと親交のある者とだけ。そのためこの件が終わって落ち着いた際にアゲハの保護者という繋がりで親交を結ぼうと思っていた。
「唐突に申し訳ございません。先生、お話があるのですが構いませんか」
「大丈夫だよ。言ってみて」
「アゲハ様を少々お借りしてもよろしいでしょうか」
「……理由を聞いてもいいかな」
アゲハの現状としては健やかに日々を過ごしており、匂い袋やお香として焚くことで薬の投与を行っていた。シャーレの方で薬剤の成分を解析して量産することに成功したが、黒服の言う通り粉薬やカプセルなどの形に加工してアゲハに渡すと拒絶されてしまった。よほど男娼時代のトラウマが強く根付いているのだと先生は嫌でも感じてしまった。
ようやく容態が安定してきたアゲハが再度傷ついてしまうのを防ぐため慎重にならざるおえない。
「アゲハ様の記憶を取り戻すためにアゲハ様を以前住んでいた住居の方へ連れていきます」
「確か家はブラックマーケットだよね。治安が悪くて危険だよ」
「それは承知しております。ですが記憶を取り戻すために思い出の場所に行くのが絶対です」
「……」
先生は悩んでいた。大人である自分と護衛を付けてなら承諾していたが、二度の襲撃を経て外出ができなくなっている。トキの実力を信用していないわけではないのだが、行動は慎重にしていきたかった。
十秒程度の沈黙がオフィスを制した。あらゆる要素と可能性を考慮して未来を見据えていき、先生は決断を下した。
「わかった。アゲハを連れていっていいよ」
「っ、ありがとうございます」
「だけど条件があるよ」
「何でしょうか」
「トキとカヨコの二人でアゲハを無事連れていくことと夕方には帰ってくること」
「勿論でございます。この身を持って必ずやアゲハ様を連れていき帰ってきます」
「うん。信頼しているよ」
「はい」
かくしてアゲハをかつて住んでいた住居に連れていくことが決まった。
先生から許可が下りた後、トキは直ちに行動に移った。なおトキは先生に言う前から綿密な計画を準備していた。細かく計画を修正した後、トキは先生に計画を提出して確認してもらった。
「わーい、今日はカヨコお姉ちゃんとトキお姉ちゃんお出かけなんだね」
「そうです。良かったですね」
「うん!」
「……計画してくれてありがとう。でも言ってくれたら私も協力したよ」
「カヨコ様は便利屋68のお仕事もありますので無理はなさらず。それにメイドとしての本懐を果たしただけです」
「そっか。にしてもこの装甲車はどこの?」
「こちらはミレニアム学園で極秘裏に開発した車両です」
「……軽自動車みたいな外見だけど性能は?」
「良好なうえにステルス迷彩機能もあります。街中で従来のサイズでは威圧感を出してしまうためこのサイズに」
「それもそうだね。それじゃ、行こうか」
「運転はお任せを」
三人は装甲車に乗り込み、トキの運転でブラックマーケットへ向かった。道中、荒れたブラックマーケットの街並を見てアゲハが怖がらないよう天井に付いたテレビを観させた。
トキの計画と偽装装甲車のおかげで治安の悪いブラックマーケットを難なく通ることができ、順調に目的地であるアパートに到着した。適当なスペースに駐車してから車外へ降りる。
「ねぇ。何処なの?」
「こちらは以前にアゲハ様が住まれていた住居でございます」
「? 僕のお家はシャーレだよ」
「……うん、そうだったね。さっ、中に入ってみようか」
「うん」
疑問を浮かべた様子のアゲハだったがカヨコに促されてアパートへ歩き出した。トキが玄関ドアの前に立って合鍵を用いて開錠した。
室内はトキが定期的に掃除していることもあって清潔感のある空間が保たれている。アゲハは靴を脱いで中へと進む。
「アゲハ様、何か思い出すことはありますか?」
「ないよ。だって初めて来たんだもん」
「……そうですか」
「っ。ほら、一緒にゲームしようよ」
「ゲーム!?するする!」
「こういうレースゲーム好きだよね。……トキ、ゆっくりやろう」
「……そうですね。慌てずにこなします」
カヨコはアゲハと一緒にゲームに興じて、その様子をトキが眺める。カヨコとトキにとって楽しかった日々がようやく戻ってきたと喜びながらも、以前と違う中身に違和感を覚えていた。今のアゲハは純粋無垢で可愛いが、自分たちが好いたのは飄々とした態度で人を小馬鹿にしつつも情に厚いアゲハだ。
家に着いてからアゲハに様々なことを試した。一緒に絵を描いてみたり、本を読んだり、歌を歌ったが記憶が戻る兆しはなかった。あれこれ試しているうちに時刻は正午を回っていた。
「アゲハ様、こちらをご用意しました」
「わわっ!美味しそう!」
「トキお手製のオムライスでございます」
記憶を取り戻すための手立ての一つにオムライスを与えることがあった。アゲハがカヨコと遊んでいるうちにトキは事前に買い込んだ食材を用いて調理を行った。
ふわふわの黄色の毛布の下には赤く彩られた布団が用意されていて、誰しもが見て美味しそうだと感じるほどの完成度だ。このような逸品を提供された当の本人は目を宝石の如く煌めかせて、満面の笑みを浮かべている。
「いただきます!」
むしゃむしゃと美味しそうに食べる様は見ている側もお腹が膨れるような感覚があった。カヨコとトキはアゲハが食べている時でも記憶が戻らないかを観察したが、一向に戻る気配はなかった。十分後、口周りがケチャップまみれになったアゲハが満足そうにデザートのプリンを食べていた。
カヨコはアゲハの口をティッシュで拭きながらトキに視線を向ける。表情こそ普段通りだが、口元と視線が下がっており落胆の色が見えていた。アゲハの記憶が取り戻すには長期的な時間を要するとトキは理解していたが、こうも現状を見せつけられてしまうと心にくるものがあったのだ。
「トイレ行ってくるね」
「うん。行ってらっしゃい」
「お手洗いは玄関の近くです」
「わかった!」
トキに言われた通りにアゲハは廊下に出てトイレへ向かう。トイレを済ませた後、アゲハは辺りを見渡して二人の目が無いのを確認した。遊びたい盛りの子供として色々なところを散策したいのだ。
本人としては気づいていないが手慣れた様子で気配を消して足音を出さずに歩く。隣の部屋に入ると、そこには大小様々な段ボールが置かれていてアゲハは箱の中身が気になった。
「何があるかな」
静かに段ボールを開封していき中身を確認する。ほとんどが衣服やファイルや電子機器が占めていたが、アゲハはとある物を見つけた。
「これは何だろう」
それは一本の年季が入った木製のトンファーだった。最初見た時にアゲハは使い方も名前もわからなかった。しかし手にした途端、脳裏に武器の使い方や戦い方が浮かんできて混乱した。頭を片手で抑えながらトンファーを軽く回す。体が動作を覚えているのか無意識的に八の字の軌跡を描き、従来の構えを取る。
「ッ」
アゲハは自分に起きたことに驚きながらも静かにトンファーを箱に戻す。そろそろ行かなければトキが捜しに来るだろうと察したからだ。大きく深呼吸をした後、アゲハはトキたちのところへ戻っていく。足取りには力が込められていた。
「ただいま!」
「お帰りなさい。お手は洗われましたか?」
「当然だよ!」
「偉いですね」
「お腹がいっぱいになったら何をしようか」
「ゲームしようよ!」
「今度はトキが相手をさせていただきます」
「うん!次はトキに負けないよ!」
「……それでは野球ゲームで対戦です。こう見えて野球のルールは完璧に知っています」
「ゲームだから関係ないけどね」
在りし日の日常は束の間で、すぐに帰りの時刻を迎えていた。ガチャリと玄関のドアを施錠してから三人は装甲車に乗り込んだ。何も成果は得られなかったと落ち込むトキを慮ったカヨコが運転を代わった。
シャーレへ向かう際中、アゲハはテレビを観ることなく窓越しの景色をジッと眺めていた。西日が車内に刺し込み、光と影の境目がアゲハの顔に生まれた。
おやおや、しょんぼりしているトキは可愛いですね。
てかトキってすごいいい子なんですよ、知ってましたか?(自明の理)