何とか土日の趣味で生命を永らえています。
それとそろそろ終わりが近づいてきておりますのでよろしくお願いいたします。
まだ朝日が出始めて小鳥たちが一日の始まりを知らせる頃、シャーレには先生と複数の生徒が集まっていた。恰好や容姿は異なるが、共通してアビドス高等学校の制服を着用している。アビドス高等学校は砂漠地帯近郊の学校で、シャーレからかなりの距離がある学校だ。
「朝早くから来てくれてありがとう」
「ん、サイクリングで慣れているから余裕だった」
「といってもまだ眠いけど」
「うへぇ~、おじさん的には寝足りないかなぁ」
「ホシノ先輩、フラフラしないでください!」
「ほら、私に寄りかかっても大丈夫ですよ」
「ありがとう~、ノノミちゃん」
白髪の生徒は砂狼シロコ、黒髪で獣耳が生えた生徒は黒見セリカ、黒髪で眼鏡をかけた生徒は奥空アヤネ、ベージュのロングヘアーの生徒は十六夜ノノミだ。そしてノノミにもたれかかっている小柄な生徒はアビドス高等学校の対策委員会長を努める小鳥遊ホシノだ。
「ホシノはいつも眠そうだね」
「だっておじさんも歳だからさ。平穏な余生を過ごしたいよ」
「私たちと年齢差ないですよ!」
「ままっ、気持ちの問題ということだよ」
「それじゃあ本題に移ろうかな」
先生は部屋の照明を消してプロジェクターでデータを照射する。
「五日前に送った作戦の確認をするよ」
「ん」
「本日午前九時にラインモーゼル社を強制家宅捜査をシャーレの権限で行うよ。もちろん、ヴァルキューレの力も借りる」
「ヴァルキューレの力を借りられるなんて心強いわね!」
「何事も起きなかったらそのまま皆は監視活動だね」
「シャーレの権限といえど強制家宅捜査ですから問題が起きそうですよね……」
「もしかしたら大型の兵器も出てくるかも!」
「だからアビドスの皆を呼んだんだ。時間は限られているから」
先生は相手に時間を稼がれてしまうとせっかくの証拠が隠滅してしまうことを考慮していたのだ。
「平気、荒事は慣れている」
「ヘルメット団をボコボコにしてきたんだから余裕ですね」
「腕が鳴るわね!」
「弾薬と燃料も十分にあるので支援は任せてください」
「よーし、おじさん張り切っちゃうぞー!」
「……ごめんね。皆を危険な任務につかせちゃって」
「気にしないでよ先生。私と私たちの学校を救ってくれたんだからさ」
アビドス高等学校はカイザーグループとのトラブルで非常に困窮していた。土地も資金も奪われて、挙句の果てには驚異的な神秘を有するホシノの身柄にまで手を出してきたのだ。
しかしアヤネからの救援要請を受けて先生が出向き、諸問題を解決しながらカイザーグループと対峙して勝利をおさめた。このことからアビドス高等学校にとってシャーレに恩義を感じており、今回の任務を快諾したのだ。
「そうですよ!先生が助けてくれなかったらホシノ先輩はどうなっていたことか」
「ん、これも恩返し。私たちの借りはお金以外にたくさんあるけど」
「あはは……」
「シロコ先輩!余計なことは言わないで!」
「君たちの力、すっごく期待しているよ。よし、続きを話すね」
プロジェクターが次のスクリーンを映す。そこにはラインモーゼル社の立地を簡易化した地図が映されており、各々の待機位置が記載されている。
「まずはヴァルキューレ警察学校が令状を出して反応を窺う。ダメだった時には君たちの出番」
「私とシロコ先輩が裏手、ホシノ先輩とノノミ先輩が正面」
「その通り。後方には支援のためにアヤネがいるよ」
「おじさんが翻弄しながらノノミちゃんが辺りを一掃、正面組として頑張っちゃうぞ」
「弾もたくさんあるのでお任せください!」
「裏手組はホシノ先輩たちが陽動している間に裏取りすれば良い。楽勝」
「簡単に言わないでください!」
「セリカなら大丈夫。いつも通り狙撃してくれれば良い」
「頑張るから前に出過ぎないでくださいね」
「ん、善処する」
「……ねぇ、先生。少し聞いても良いかな」
「どうしたのホシノ?」
「あそこで見ている生徒は誰?」
ホシノが指差す先にはドアの隙間からこちらを窺う人物がいた。隠れ見ていた人物は気づかれたことに驚き、慌てて何処かへ行ってしまう。この不審な行動に対して眠たそうにしていたホシノの目つきが鋭くなり、皆に悟られぬようホルスターに指先を伸ばす。
「あぁ、あれは保護している生徒だよ」
「保護ですか?当番ではなくて?」
「そう。どこの学校にも在籍していない子、年齢と背丈はセリカぐらいかな」
「……へぇ~、大変だね。もしよかったらアビドスの子にしちゃおうかな」
「それはナイスアイデアです!合意の上なら合法的ですしね!」
「これで将来的に少し安心」
「話が急展開すぎて驚いたよ。けどそういうのもありかもね」
「お互いがハッピーになって円満解決でよかったよかった」
「だけど本人に問題が山積みだからそれを解消してから考えようかな」
「おじさんたちはその子の入学を楽しみに待っているよ~」
にへへとホシノは笑って頭をぽりぽり掻く、どうやら事情を理解したようだ。
先生的にはアゲハをアビドス高等学校に入学させるのはありだと考えている。しかし記憶が戻った後の学力はおそらく低いと見積もっていた。その理由は長年に渡り教育を受けていないため、下手すれば小学生レベルと同等の可能性があったのだ。効率的かつ徹底的な教育を行ったとして一般高校生程度の学力に達するまで何年かかるだろうか。
まだまだ問題は山積みだということは理解しつつも、先生の頭にはアゲハを見捨てる選択肢はなかった。例え生徒でなくても大人が守るべき子供なのだ。
「それじゃあ、作戦を始めようか」
キヴォトスの治安とアゲハ、そして先生自身を守るために先生は作戦開始を宣言した。
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時刻は午前九時、ラインモーゼル社に出社する社員が増えて始業時刻間際に一人のヴァルキューレ警察学校の生徒五人がロビーに訪れた。中でも公安局の局長の座にいる尾刃カンナがロビーに居る受付係に声をかける。
「おはようございます。ご用件をどうぞ」
「あぁ、社長に繋いで貰いたい」
「はい?」
「早く繋いでほしい。重要な件を伝えに来たのです」
「しょ、少々お待ちください」
カンナはぎろりと目を細めて言うと、気圧された受付係は急いで社長に連絡を繋げる。
『何だ。まだ会合の時間ではないだろう』
「あ、あのヴァルキューレ警察学校の方が社長をお呼びで」
『何ぃ?要件は何だと訊いたのか』
「いいえまだですけど……」
『馬鹿者!確認すらしないで連絡したのか!』
「申し訳ございません!今から訊きます!」
社長とカンナに板挟みで威圧されたため焦燥を隠せない受付係、しどろもどろになりながらカンナに問う。
「そ、その要件が不明だと会えないとのことで」
「……本当は混乱を生みたくはないのですが、こちらになります」
カンナはやむを得ずにカバンからとある書類を提示した。それを見た受付係は驚嘆の声をあげる。
「わあっ!?」
『で、何だ』
「家宅捜査、家宅捜査の令状ですよ社長!?」
『何だって!?』
「シャーレの権限によりとラインモーゼル社に家宅捜査を行います。なのでご了承願いたい」
『ええい!お前、受話器をそいつに代われ!』
「は、はい!」
「初めまして社長、私は公安局長の尾刃カンナです」
『尾刃カンナだと!?あの狂犬か!』
「ラインモーゼル社には違法取引を含む余罪があり、それらを調査するために家宅捜査を今から行います」
『ふざけるな!我らが何をしたというんだ!』
「それを調べるために捜査するので今から一切の物に触れないでいただきたい」
『ここは私の会社だぞ!シャーレであろうが私の資産だ!』
「はぁ、そうですか。それで証拠隠滅を図った場合には相応の処罰が―――」
カンナが言葉を紡ぎ終える前に突如として社内にブザーがけたたましく鳴り響く。ブザーの音による苦痛と事態が悪化しとことをカンナは悟って顔を顰める。その隙に警備員室から重武装の警備員が飛び出して、カンナたちに射撃を浴びせる。
カンナたちは万が一に備えて持ってきていた携帯式のカバン型盾を展開して銃撃を防ぐ。
「ひいっ!?撃ってきた!」
「いきなりすぎますよ!!」
「余程見られたくないものがあるんだな。後退して仕切り直す!」
「了解です!」
カンナたちは盾を用いながら防御隊列を組み、じりじりと後退する。騒ぎを聞きつけたアビドス高等学校とヴァルキューレ警察学校の生徒たちは戦闘態勢を整える。
「うへぇ~、やっぱりこうなっちゃったかぁ」
「こうなったらやるしかありませんね!」
「よーし、皆におじさんの良いところ見せちゃうぞー!」
『浦口組の方々、作戦通りにお願いします』
「ん、裏口で合図を待つ」
「シロコ先輩やりますよ!」
機動隊がカンナたちが外に出た瞬間に防弾盾で囲んで保護する。建物内からは警備隊と会社の私兵が弾幕を張り続ける。
「全員の回収終わりました!」
「ノノミちゃんやっちゃって!」
「はーい!」
ノノミは自身の武器である携帯式ガトリングガンを立て籠もる兵士たちに向けて放つ。脅威の連射速度で切れぬことのない銃声は瞬く間に室内を破壊していく。恐るべき弾幕射撃に兵士たちは思わず怯み、その隙を狙ってホシノが盾を構えて突撃を開始する。
「そーれ、行くぞぉ!」
「くっ!撃て撃て!」
「中に入れさせるな!」
ホシノに向けて銃弾が集中するが難なく盾で受け切って入室する。そして近場に居た兵士目がけて盾で体当たりをして弾き飛ばす。ホシノの側面に回って撃とうとする兵士もいたが、無理やりショットガンを構えて射撃する。
「ぐあっ!?」
「うひょお、こんな態勢で撃つのは面倒だね」
「こいつぅ!」
「甘いよ!」
「ぐがっ!?」
ホシノの殴り込みにより乱戦になる室内、外で待機していたノノミとヴァルキューレ警察学校の生徒はホシノの後に続く。
兵士がじりじりと奥へ撤退する中、ドローン越しから戦況を見ていたアヤネが裏口組に指示を送る。
『今です!』
「ん、行くよ」
「撃ち倒してあげるわ!」
「わっ!?なんだこいつら!」
裏口から最初に突入したシロコは銃撃をしながら近くの兵士に詰め寄り、回し蹴りを喰らわす。すらりと伸びた足は的確に兵士の頭部に当たり、そのままごつんと壁にぶつける。続いてセリカはスコープを用いた精密射撃を行って、兵士が腰に付けている手榴弾に命中して爆発した。
「ぐえっ!?」
「こいつらの強さ尋常じゃないぞ!」
「裏口からも新手が!」
「挟み撃ちじゃねぇか!!」
挟撃されたことでパニック状態になる兵士一同、何とか戦線を立て直そうと努めるが絶対的な力を有するホシノとそれに準じるシロコによって戦線は瓦解する。撃破された兵士にはヴァルキューレ警察学校の生徒が手錠を嵌めて拘束する。両校の行動をそれぞれ分けたことで鎮圧の効率化がなされていた。
「軽傷者三名、続行できます!」
「アビドスの方々、迅速な制圧に感謝します」
「こんなの日常茶飯事だから余裕余裕」
「よし、一階はこれで終わりね」
「ん、この調子で片付けていく」
「誰一人逃しませんよ!」
『今、ラインモーゼル社に向けて社用ヘリコプターが飛んでいるとのことです!』
「おっ、逃げる気満々だね~」
「絶対に逃がしてたまるか。各員、時間との勝負だ!」
「了解!」
「うちらも張り切っていこうか」
「はい!」
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「……ふぅ、まずは良しだね」
まさか早々に立て籠もって銃撃を始めるとは思わなかったが、初動に成功したことで安堵する先生。カップに注がれたコーヒーに口をつける。
――――ことはせずに、びしゃりとゴミ箱に中身を捨てた。
「……そこで見ているのは知っているよ」
くるりと椅子を回して体を扉の前に向ける先生、視線の先には微かに開かれた扉があった。扉は音を立てて静かに開き、覗き見ていた正体が明らかになった。
「アゲハ」
そこには記憶を失って保護下に置かれたアゲハの姿があった。アゲハはおどおどと体を震わせながら先生を見つめていた。
「ご、ごめんなさい。勝手に見ちゃって」
「人の許しがないとダメだよ」
「これから気をつけるね」
「そうしてくれると嬉しいな」
「……静かに絵本、読んでいるね」
「待ってアゲハ」
バツの悪そうな顔をしたアゲハは図書室に戻ろうとしたが、先生はアゲハを引き止める。
先生は意図を含んだ笑みを浮かべて、アゲハに言う。
「――――久しぶりだね、
「……なんだ、バレていたか」
そこには純粋無垢なアゲハはおらず、暗殺者としての
カンナたちが持っていた鞄式盾はキングスマンとかに出ていたあの盾を想像してくれれば大丈夫です。
キングスマンは男のロマンがたくさんあるので好きです。