外伝は気分によって書こうと思います。
ラインモーゼル社の家宅捜査とアゲハによる戦闘から二週間が経過した。ラインモーゼル社は今までの悪事が捜査により発覚して会社は倒産、社長と社員は逮捕及び書類送検の処分が下った。
一方でアゲハとの戦闘で半壊したシャーレのオフィスはミレニアム学園と連邦生徒会によって改修工事が行われ、以前よりも強固かつ利便性に長けたオフィスが完成した。これはキヴォトスという特殊な環境下で高度に発展した建築技術の賜物だろう。
「うわーん、仕事が全然終わらないよー!」
「先生、頑張って業務をこなしましょう」
「まだ書類の山が連ねてるよー!助けてリンちゃん!」
「その呼び方は止めてください」
改修工事が終わるまで先生は業務をミレニアムサイエンススクールの一室を借りて行っていた。本来なら学園に肩入れするのは執行機関としての公平性に欠けるが、シャーレの業務のためにセキュリティと通信環境に優れたミレニアムサイエンススクールを特例で使っていたのだ。
もっとも先生はその一室から抜け出して、エンジニア部やC&Cに遊びに行っていたためやるべき業務をこなせずに今に至るのである。自業自得だ。
「にしても、あんな事態になったとはいえ先生は普段とは変わりませんね」
「キヴォトスでは日常茶飯事なんだから気にしていたらきりが無いよ」
「三度も殺害されかけているんですが」
「まっ、どうにかなったからさ」
「……あの暗殺者の処遇はアレでよろしかったのですか」
「うん。アレが相応しいよ」
アゲハの処遇は異例のものだった。何十件もの暴行罪と殺人罪などを犯してしまったアゲハは本来なら逮捕されて死刑を下されるはずだった。しかし未成年かつ洗脳状態で犯行に及んでいたため、情状酌量の余地があると見なされてシャーレによる保護観察処分とGPS搭載の足輪を装着と定期的に医療機関による抗欲情剤の提供だけで済んだ。
罪状に比べて処遇が軽く、大々的にニュースにはならなかったが各学園の諜報機関にマークされるようになった。もはやアゲハが裏社会で活躍できる余地はない。
「私とて教育者だよ。まだあの子は若くやり直せるよ」
「確かに再犯の可能性は低いですが絶対とは言い切れませんよ」
「大丈夫。だってあの子にはかけがえのない保護者がついているんだもん」
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シャーレ近郊のD.C自治区に建てられたマンションの一室にて、悲鳴をあげて悶え苦しむ者がいた。
「あー!もう勉強したくないね!」
「そんなこと言わないで。ほら大問3をやろうよ」
「わかんないって!そもそも計算と文字の読み書きはスマホにやらせればいいじゃん!」
「ダメだよ。自分の力で解けるようにならないと」
「はあっ!?名前だけ書ければいいんだよ!」
「名前だけ書いて悪質な契約書にサインしたら大変でしょ」
「そこは暴力で解決」
「すぐに暴力に走らない」
そこにはカヨコがアゲハに付きっきりで勉強を教える光景があった。
アゲハの処遇のひとつとして戸籍の登録が行われた。基礎的な学力が付き次第、中学校の教育課程を修了する試験を受けて高等学校に入学することが絶対だった。ちなみに入学できる高等学校はゲヘナ学園かアビドス高等学校の二択しかない。
勉強という慣れぬ習慣に悶絶するアゲハをよそにカヨコはため息を吐いた。
「そんな様子だと知識が身につかないよ」
「ふんっ、別に構わないよ」
「……また私たちを悲しませるの?」
「うぐっ」
「アゲハがいなかった時はとても辛かったし、今度こそ良い人生を送ってほしいんだけどね……」
「うぐぐ……!」
頑なに勉強を拒むアゲハに対してカヨコは感情を揺さぶる言葉を放つ。アゲハ的にもカヨコとトキに暴行した過去と二人を心配させてしまったことに罪悪感を覚えており、反論することができない。
何も言い返せないアゲハは黙って席に着いてペンを握る。完全に弱みを握られてしまったアゲハだった。
「うん、良い子だね」
「そうやるのは卑怯だぞ!」
「けど本心だよ」
「ちっ!わかったよ!勉強すればいいんでしょ!」
「頑張ったらいっぱい遊んであげるし、ご飯も食べようよ」
「……約束、守ってよね」
細目でジッと見つめるアゲハを見て、カヨコはくすりと口元を緩めた。
処遇が下った後、安心できる環境が整ったおかげかアゲハの態度は柔和してカヨコとトキにより気を許すようになった。普段はツンケンして生意気な態度を取るアゲハだが、一緒に寝食をするよう誘ったり、カヨコとトキの膝の上に乗っかってゲームをするようになった。完全に愛情を貰いにきたアゲハに対して保護者である二人は満足していた。
余談だが世話焼きの二人にとって愛情表現を隠さなくなったアゲハはかなりの劇物で、一生大事にしてあげたいと思えるほどだった。
アゲハが唸り声をあげながら問題を解いていると、ガチャリと玄関の扉が開いた。
「ただいま戻りました」
「ん、おかえりトキ」
「買い物ありがとうね」
「メイドとして当然のことをしたまでです」
「今日は何を作るのさ?」
「えぇ、今日はオムライスを作ろうかと思いました!」
「本当ッ!?」
「はい。ただし頑張って勉学に励まなければあげません」
「なんでそういうこと言うんだ!」
「私とてアゲハ様には幸せになってほしいので」
「……あっそ、頑張ればいいんでしょ」
「頑張るアゲハ様は素敵でございますよ」
二人からの本心からの激励におされてそっぽを向くアゲハ、その頬はほんのりと赤く染まっている。黙々と勉学に励むアゲハをよそに、二人は調理を始める。
栄養バランスを考えながら献立を作り、一時間後には香ばしい匂いが室内に充満する。その頃になると本日の課題を終えたアゲハがキッチンに顔を出してつまみ食いを試みる。しかし手を伸ばした瞬間、じろりとカヨコに見つめられて渋々手を戻す。
「お待たせしました。夕飯の時間です」
「やっとだ。待ちくたびれたよ」
「そう言ってゲームに夢中だったのは誰だったのかな」
「別にいいじゃん。ご飯を待っていたのは本当だし」
「はいはい。それじゃあ食べよっか」
食卓に並ぶのはオムライスをメインにしたメニュー、きちんとサラダも小皿に添えられている。
三人は食卓を囲ってから手を合わせる。
「いただきます」
人の温もりが込められた挨拶がマンションの一室から溢れて、外からでもわかるように暖光で満ちていた。
少年は今日もご飯を食べて勉強をして眠る生活を送る。それこそ少年が憧れていた幸せな家庭そのものだった。
くぅ~、疲れました。これにて本作は終わりです。本当はR-18版も書こうか悩みましたが保留中で、理由としては数話しかできなさそうだなって感じたからです。けど皆様の反応によってはやります。
半年に渡る更新を読んでくださった読者の方々には感謝の気もちでいっぱいです。
今までのご愛読ありがとうございました。