アビドスの角 ~Abydos Rising~ 作:ダニエルズプラン
南アビドス高等学校
広大なアビドス砂漠の南部に位置するこの学園の生徒会長室で、私こと南アビドス生徒会長秋永ユウナは分遣隊司令から貰ったUSBメモリを前に悩んでいた
「・・・どうしたもんかなぁ?」
あの分遣隊司令がウイルスは入っていないと言っていたが、信用はできないので一応うちの解析班に頼んで解析して貰った
結果としては白であったが、それでも疑ってしまうのはどうしてなのか
しばらくそうしていると、生徒会長室の扉がノックされる
「どうぞ」
「失礼します。司令、この書類の決済をいただきたいのですが・・・」
入ってきたのは鮮やかな藍色の髪をポニーテールに纏めた生徒会役員の1人『東雲アヤカ』だ
アヤカは扉を閉め私の前に来ると手に持っていた鞄からタブレットを取り出して私に差し出し、一つの書類を見せてくる
その内容は、先日車両の改修に用いた大型車両回収車の改修に関する予算申請案
「あれ、この回収車ってペイロードがバカみたいに多い代わりに燃費が悪くて実用性はまだないって結論出てなかったっけ?」
「はい。しかし製造元である
「商売が上手ねぇ・・・」
正直この提案は魅力的だった
試作の輸送車両は確かに燃費が悪いが、逆を言えば悪いところはその燃費だけであり、完全装備のルーイカットを3両同時に運べるペイロードは欠点に目を瞑っても欲しいものだった
そこにこのような改修案を出されれば、乗るしかないだろう
「良いや。まずは改修型を3両購入、それで使い勝手が良ければ追加で何両か購入しましょう」
「それではそのように手配します」
書類にサインを行い、タブレットをアヤカに返す。
アヤカはそれを受け取ると書類とサインに不備がないかを確認し、生徒会会長室から退室しようとする
しかし、何かを思い出したかのようにこちらを振り向くと、私・・・正確に言えば私が持ってるUSBを指差してきた
「司令、部屋に入った時からずっと思っていたのですが、それはなんでしょう?」
「あー、これ?」
私がUSBを振って見せると、アヤカはうなづいて肯定する。
「これねぇ、昨日出撃したじゃん?」
「ええ、確かカイザーの機械化歩兵部隊が南アビドス校境を侵犯した為、まだ仕事がある司令自ら即応部隊を率いて迎撃に向かったのでしたよね?」
「その件は悪かったと思ってる・・・」
しかし昨日は即応可能な上級幹部が私しかいなかったと言う異例な事態だったのだ
だから私は悪くないぞ!
「まぁ昨日の件は事情が事情でしたし別に良いですが、そのUSBと迎撃戦に何か関係が?」
「簡単に言うとね、貰ったの」
「貰った。誰に?」
「カイザー分遣隊司令」
すごい。分遣隊司令の名前を出しただけでアヤカちゃんが苦虫を噛み潰した顔になった
まぁ気持ちはわからないでもないけど
「・・・司令のことですから、もう既に解析班による解析済みだとは思いますが、大丈夫なんですかソレ?」
「一応ウイルスの類はないんだけど、どうも信用がね・・・」
あの分遣隊司令のことは信頼はしているが、信用はしていない
そのため、どうしても私物であろうと業務用であろうとパソコンに接続することは憚られる
「・・・そういえば、近々新型に更新するため廃棄予定のノートパソコンがありますので、それで確認されてはどうでしょうか」
「あれ、そんなのあったっけ?」
備品の更新に関しての報告や情報保全用の書類を書いた覚えはないのだけれど・・・
「昨日補給科のほうに書類を用意させましたので、順に司令のほうへ回ってくるはずです」
「あ、そうなの?月末の秘点検までに間に合うかな」
月末に深夜近くまで残業は嫌なんだけど
「そこはご心配なく、明後日までには司令に持ってきますので」
「ならいいや、アヤネに任せるわ。・・・それで、その廃棄予定のノートパソコンは今持ってこれるの?」
「はい。今から持ってこさせますので、少々お待ちください」
そういうとアヤネは懐から携帯を取り出し、窓際へ歩き出しながらどこかへと連絡を取り始める
私はそれを見送ると目の前のパソコンに表示されていた書きかけの戦闘詳報を完成させ、戦闘詳報用に作られたファイルへ格納する。
そしてほかの書類に手を付け始めて数分経った頃、電話を終えたアヤネが再度近づいてくる。
「お待たせしました。今部下が廃棄予定のノートパソコンを持ってきますので、もうしばらく待ってください」
「りょーかい。あ、そのパソコンもう初期化は済んでるの?」
たとえクローズ系ネットワークからの接続を切ったとしても、ダウンロードした行政文書がパソコンに残っていればウイルスによって勝手に収集・拡散されるかもしれない
それだけは何としても防がなくては
「はい。ダウンロードしていた行政文書はデータ吸出しの上、バックアップもできないように初期化しました」
「それは結構」
確認が終わった私はノートパソコンの到着まで暇なため書類の作成の続きに取り掛かり、アヤネも生徒会調質備え付きのソファーに座りタブレットを操作して書類を整備していく。
決済済みの書類をファイルにいくら格納しても減らない決済待ちの書類にため息をこぼしていると、不意に生徒会会長室の扉が2回ノックされる。
「入っていいよ」
「失礼します!ご要望のものをお持ちしました!」
「そこにおいて頂戴。司令、電源コードお借りしますね」
「好きに使って」
「私は失礼させていただきます」
ノートパソコンを持ってきた一般生徒の娘がアヤネの前にパソコンを置くと、アヤネ離れたように電源コードを取り出して起動の準備をしていく
一般生徒の娘はそれを見届けると退室しようとしていたので、わたしは少し呼び止める
「ちょっと待ってもらえる?」
「はい?どうされました?」
「これで飲み物でも買いなさい。おつりは返さなくてもいいわ」
そういって私は500円玉を握らせると、一般生徒の娘はそれを握り直し生徒会会長室を出ていく。
私はそれを見送ると椅子から立ち上がり、空いていたアヤネの隣に座る
「・・・優しいんですね」
「500円のこと?お駄賃変わりだよ」
案外飲料水1本を奢るだけでもモチベーションが違うのだ。ソースは私
それを言うとアヤネはため息を少しこぼすが、パソコンの起動はよどみなく行われていく
しばらくノートパソコンの充電を待つと、アヤネは電源ボタンを押してノートパソコンを起動した。
「充電してなかったんだ」
「廃棄予定でしたからね、ともあれこれでパソコンは使用可能です。司令、USBをお借りしてもよろしいですか?」
「はい」
アヤネはUSBを受け取るとノートパソコンのポートに挿入し、ファイルが開くのを待つ
「司令、ファイルが開けました。ですがこれは・・・」
「ん?なになに、中身何だったの?」
アヤネに続いて、私もパソコンを覗くと私は言葉を失った。
そして数秒固まった後、アヤネからパソコンを奪い取るとUSBに格納されていた唯一のファイルを開く
「・・・・・・アヤネ」
「はい」
「明日、臨時会議を開くよ。参集範囲は各部隊指揮官から高級幹部まで」
「了解しました」
「あ、ちなみに参集は第1級秘匿でお願い」
「承知してます」
私が指示を出すとアヤネはソファから立ち上がり、生徒会会長室から出ていく。
アヤネが出ていった生徒会会長室の中、私は静かに立ち上がり窓際に近づくと今も遠くに発生している中型規模の砂嵐を見て呟く
「・・・久しぶりに会いに行けるよ、ホシノ」
砂嵐が晴れる日も近いのかもしれない
翌日南アビドス高等学校の一角に存在する大会議室には、私をはじめとして幹部や各部隊の指揮官の娘たちが集まっていた
彼女たちの中には本日非番の者もおり、突然の呼び出しに困惑と少しの怒りを浮かべる者もいたが臨時会議が始まる5分前になると一様に背を正し、私が話し出すのを待っている
「・・・さて、時間になったし始めさせてもらうわ。まず初めに、突然の呼び出しにもかかわらず招集に応じてくれてありがとう」
私が椅子から立ち頭を下げる
「今回呼び出した内容は勿体ぶってもしょうがないからもう言っちゃうわ。ずばり、アビドス遠征作戦の実施についてよ」
私が今回の議題を発表するとそれまで静かだった会議室は騒然となり、何人かは冗談を疑うような顔を向けてくる
「静かに!・・・アビドス遠征作戦について説明する前に、みんなにはこれを見てもらうわ」
そういうと私は目の前のPCを操作し、昨日アヤネとともに閲覧したファイルを開く
ファイルが開き、私の背後のプロジェクターに展開された資料が映し出されると再度会議室は騒がしくなり始める
「これを見てもらえばわかると思うけど、これが私がアビドス遠征作戦を提案しようとした根拠よ」
アビドス遠征作戦を提案しようとした根拠、それはカイザーPMC南アビドス分遣隊司令官からもらったファイルであり、その内容が『現在南アビドス高等学校とアビドス高等学校を分断する各種部隊の配置図、およびローテーション表』というものだからだ
もちろん完全にこの資料を信じたわけではない。それでも遠征作戦を提案するには十分な根拠となる
「司令、質問よろしいですか?」
「どうぞ」
「では、失礼します」
立ち上がったのは白色の髪をツーサイドテールにまとめた、南アビドス高等学校防衛委員会委員長の穂風アスハ
南アビドスにおける歩兵・砲兵・装甲戦力を統括する立場である彼女は、総司令官である私にも毅然とした態度を崩さない
「聡明な司令官であれば私は何を言いたいのかわかっていると思いますが、我々の悲願である遠征作戦を実施するには少々根拠が不十分だと思われます」
まぁそうだよね
「さらに言ってしまえば、この書類をどこの組織がどのように収集したのかを仰られていません。そのような状況で遠征作戦を実施するのはあまりにもリスクが高すぎます」
アスハの言っていることは、正しい
そもそも私が提案した遠征作戦は南アビドスとアビドス本校が分断されて以来、先輩やその先輩たちからの悲願だ
そのような悲願を少ない根拠だけで実施しようとするには、確かにリスクが高すぎる
「・・・アスハが言ってることは正しいわ。でも時間がないのよ」
「時間、ですか?」
そう、私やアヤネといった事情を知るものにとって一番の懸念事項は『時間』だ
「最後にアビドス本校に補給物資を届けることができたのは、私が覚えている限り2年前の遠征作戦。あの時私たちは連絡線の寸断や通信困難による遠征作戦の失敗率上昇を見越して、可能な限り多くの補給物資を運んだわ。」
しかし、それ以降は敵対勢力の妨害行為によって遠征作戦の失敗率は上昇。近頃は火点のわからない長距離から攻撃を行える新型
「では本校の物資がそこを尽きるのも、時間の問題と・・・?」
「むしろもう尽きていてもおかしくないわ。あちらの生徒会長はやりくりが上手い方だけど、それでも戦闘が少ないことを前提に考えた補給だったから」
「なるほど・・・」
アスハは納得すると一度席について考え始める。恐らくだが、遠征作戦のために抽出できる戦力を考えてくれているのだろう。
そんなアスハをよそに、今度は反対側の席に座っていた娘が手を挙げる。
「司令、しつもーん」
「良いわ」
「じゃあ失礼して〜」
そういって立ち上がるのはアスハと似た姿だが、エルフのような耳とアスハとは違い纏めずに伸ばした白い髪が特徴の南アビドス資源管理委員会委員長『穂風ユナ』
彼女はおっとりとした態度ではあるものの、しっかりと此方を見据えて質問してくる
「理由はわかったけど、まだこの資料をどこから収集したのか答えてもらってないよ。そこを教えて欲しいな〜」
やはり鋭い娘だ。アスハの質問に対しての回答には理解を示しているが、根拠文書がどこから収集されたのかを回答していないことに気づいて質問してくる
案外こういうことができる娘は少ないから、私は助かっている
「この資料の提供元はね、カイザーPMC南アビドス分遣隊。その司令官よ」
「あのオトナですか・・・」
ユナはどこか頭が痛そうに眉間をもんで溜息を吐くが、どこか納得したようだ。
「・・・まぁあのオトナだったら納得がいきます。しかし、信用しすぎるのは危険ですよ」
「わかってるわ。遠征作戦の実施が決定次第、司令部直轄の特殊偵察部隊を派遣して実際の配置環境と照合をとるわ」
「それならいいんです」
ユナは納得の表情を浮かべると席に座り直し、席の横に置いていた鞄から端末を取り出して何かを考え始める。
「さて・・・一応この文書が正確な情報であるという前提に基づいて話を続けるわね。まず実施するにあたり参加戦力だけど・・・」
そういってもう一度アスハに視線を向ければ、抽出可能な戦力を計算し終えた彼女が私を見る
「抽出可能な戦力は・・・資源輸送車両部隊の護送や警備、突発的な襲撃にある程度まで対応できるものを考慮して機械化歩兵2個中隊に装輪車両2個中隊が限界です」
「今量産配備中の
不意遭遇戦が発生するかもしれない以上、遠征部隊に砲兵隊を帯同させるのは論外だ
もしかしたらわが校が保有する自走砲である
「つまり出せるのはルーイカット装輪装甲車両24両に機械化歩兵が260人ほどね」
「それも結構無理してですね。いくら悲願といえど工業地帯や市街の警備から戦力を抜きすぎるのは問題になりますし」
アスハの言い分はごもっともである。いくら我々南アビドス高等学校の生徒数が多いといえども、実働戦力は少ないものだ。
やはり少数精鋭で行くしかないものか・・・
「・・・あ、そういえば新設した第1飛行隊。もう使える?」
「一応錬成訓練は終了していますが、まさか実践投入なされるんですか?」
第1飛行隊
それは去年より配備を始めた
「ええ、実践訓練も必要だろうしちょうどいいじゃない?」
「・・・まぁ特殊部隊が事前に確認しているなら大丈夫ですか」
アスハは渋々といった感じで納得し、後ろに控えていた秘書官に耳打ちしてから端末を操作しだす
「戦力はこれでいいとして、次は作戦ね」
「最低でも予備案は2つほしいですね。もし資料に齟齬があった場合、作戦計画が1つだと遠征作戦そのものが破綻しかねませんし」
「そうね。では作戦目標をアビドス本校への到達及び物資の輸送、副目標として本校とわが校を分断するカイザーの捜索及び撃滅として作戦を練っていきましょうか」
そうして、一度昼食も兼ねた休憩をとったのちアビドス遠征作戦の具体案が練られていく
その深夜、南部アビドス砂漠と北部アビドス砂漠の中間点に存在するアビドス中央市街跡では各所に点在している監視地点から交代要員が集まり、食事や睡眠など各々が好きに休憩をとっていた
しかし、そんなアビドス中央市街地から離れた小高い砂丘にデザート迷彩に身を包み双眼鏡を片手に市街地跡を監視する2人組がいた
「・・・こちらSierra1-7、旧アビドス中央市街地にて敵の物資集積地点及び宿舎を発見」
『こちら1-1、了解。Sierra1-1より
『1-3了解、アウト』
『1-5了解、アウト』
「1-7了解、アウト。・・・さてユン、移動するわよ。荷物をまとめて」
「りょーかいミナ」
2人は双眼鏡をしまい南アビドスの特殊部隊向けに調達されているカスタムされたM4カービンを肩に担ぐと、砂丘を滑り降りて停めてあったバイクにまたがり移動を開始
2人はライトを点けずに4車線の幹線道路の傍をバイクで走っていく
「・・・待ってミナ。このすぐ近くに一箇所監視地点があるらしいよ」
「それじゃあ、情報と照合しないとね」
2人は再度バイクを停めデザート迷彩のカバーでバイクを隠すと、情報端末に表示された大まかな監視地点の座標を頼りに捜索を始める
なるべく音を立てないようにしながら捜索を続けると、2人はあるものを発見した
「・・・ビンゴ。ユン、戦術端末の座標と配置戦力の情報をアップロードして」
「りょーかい。・・・しっかしATGM搭載のハンヴィーに固定式の
その労力を他に回せば良いのに、そんなことを呟きながらもチェストリグに取り付けられた戦術共有端末に情報を書き込んでいく。
もう1人の生徒は双眼鏡を覗きながら、ほかに変わったモノが無いかを確認する。
「ん・・・?ちょっと待って、敵のパトロールがこっちに近づいてくるわ。数は3名」
「え、マジ?・・・あーホントだ。獲物は
2人は伏せた状態でM4カービンを構え、いつでも発砲できるように照準を合わせる
「どうする?3人くらいなら私たち2人でヤレるし、なんならあいつらが持ってる情報端末から重要な情報を得られるかもよ?」
「・・・いや、やめておこう。情報は魅力的だけど作戦前にいらんことして警戒させたく無いし」
「じゃあ静かにして通り過ぎるのを待とうか」
相談を終えると2人はさらに深く地面に伏せ、パトロール隊が通り過ぎるの待つ。しかし、いつ気付かれても良いようにM4のセーフティを解除することは忘れない
しばらくその状態でいるとパトロール隊は方向を変え、2人から遠ざかっていく。2人はその様子に安堵の息を吐きながら発見の報告を行う
「Sierra1-7から1-1へ、敵の対戦車ミサイル陣地を発見。ATGM搭載のハンヴィーの他、固定式のVADSを確認。端末に座標をアップロードする、オーバー」
『こちら1-1、了解。・・・確認した。1-1から1-7、そこから少しいったところにもう一つ陣地があるそうだ。確認し、確認後作戦区域を離脱せよ』
「1-7了解、アウト」
2人は離れて行ったとはいえ、パトロール隊が近くにいることを考慮して、ハンドサインとアインコンタクトを用いて荷物をまとめバイクのもとへ走っていく
その後もう1箇所の対戦車陣地を捜索・発見した2人は戦力と座標のアップロード後、Sierra1-1からの命令通り作戦区域からの撤退を開始
その他のSierra小隊員たちもカイザーの歩哨やパトロール隊に気づかれることなく任務を達成し、作戦区域から撤退していった
〜次回予告〜
砂嵐はいつか晴れる
止まない雨がないように、晴れることのない砂嵐も無い
あるのは晴れるのが遅いか早いかの2択
さぁ、今こそ私たちで砂嵐を晴らしてやる
次回『アビドスの角 〜Abydos rising〜』
今もう一度、道をつなぎ直す