アビドスの角 ~Abydos Rising~ 作:ダニエルズプラン
さて、アビドス遠征作戦の実施が決定し作戦計画が練られたとしても通常業務がなくなることはない
むしろ作戦のための補給申請書への決済や関係各所との打ち合わせなど、業務内容は通常時よりも増えている
「やることが・・・やることが多い・・・!」
「バカ言ってないで次はこちらの書類の決済をお願いします」
「鬼だぁ・・・」
アヤカが私の泣き言をモノともせず、さらに十数枚の決済待ちの書類を紙でできた塔の上に置いてくる
私もその追加に負けないよう書類を捌いていくが、なぜか一向に減っている気がしない
「・・・ん?砲兵隊の出撃申請書?今回の作戦で砲兵隊を出す予定はないわよ?」
「あぁ、それは砲兵隊と協議した結果です」
私の疑問の声に答えたのはソファに座り、私と同じように書類の塔を相手しているアスハだった
彼女の目の前には確かに書類の塔があるが、その横には『生徒会長決済待ち』と書かれた箱に書類の塔が築かれつつあるのが見える
書類が減らないのはキミの仕業か
「
「ふむ」
「そこで砲兵隊のG6自走砲で敵陣地を射程距離限界から攻撃を実施、さらにサミル輸送トラックを改造した多連装ロケット砲を用いて敵戦力を足止めし、第1飛行隊と陸上部隊、特殊部隊による強襲で敵部隊を殲滅します」
「なるほど、でもこれだけじゃ点在する敵陣地を全て壊滅させることはできないよね?」
「今回の作戦目標はあくまでもアビドス本校との連絡線、及び補給線の確保ですから、幹線道路近くの対戦車陣地のみを攻撃目標にしています」
「納得したわ。決済を通しておくから、戦力の抽出と配置はお願いね」
砲兵隊の出撃申請書に判を押しアスハに渡せば、生徒会会長室の前にあらかじめ呼んでいたのであろう砲兵隊指揮官に手渡して書類の整理に戻る
それからしばらく静かに書類と格闘すること十数分、生徒会会長室のドアが3回ノックされ1人の生徒が「失礼します」と言って入ってくる
「司令、特殊部隊による索敵による敵戦力の解析が終了しました」
「お、待ってたよエル」
生徒会会長室に入ってきたのはショートにした鮮やかな銀髪が特徴的であり、南アビドス高等学校治安維持管理委員会情報部部長の白崎エルだ
彼女は持っていたカバンから折りたたんでいた戦術図を私の机に広げる
「まず初めに、南アビドスとアビドス中央市街地跡を結ぶ幹線道路を射程距離に収めている対戦車陣地は計4個。いずれも
エルが説明すると同時に、特殊部隊が撮影したのであろう敵戦力の写真や推定される射程など様々な情報が書かれた付箋を貼っていく
エルの後ろからは書類の整備を一旦止めたのであろうアスハとアヤカが一緒に戦術図を覗いている
「案外ATGMの射程が長いね、これ通常のTOWとかじゃないでしょ」
「写真を見た感じTOWでは無いですね、かと言って分遣隊の連中が使ってるコンクルスでも無い・・・」
私たちが運用しているルーイカットの射程距離よりも長い射程距離が対戦車陣地から伸びているのを見て、対戦車車両が搭載しているATGMを見るがどのATGMにも心当たりがない
アスハも同じ感想を抱いたようで、ウンウン唸りながら首を傾げている
「・・・情報部の分析によればこれらのATGMはカイザーが量産・配備しているTOWをはじめとするATGMではなく、最近になって流れてきた出所不明のATGMだと推測しています」
「出所不明のATGM!?そんなの流すバカいるんだ・・・」
一般的にキヴォトスではATGMや対艦ミサイル、50kg以上の誘導・無誘導を問わない爆弾等の兵器などの高威力兵器は、いくら無能な連邦生徒会でも流通制限をしているはずだ。機能しているかは知らないが
そんな理由で一般的に流通しているTOWやコンクルスといった一般に流通しているどのATGMとも合わないモノは珍しく、それがメガコーポであるカイザーが使っているともなれば驚きだった
「とりあえずATGMは歩兵、もしくは第1飛行隊でなんとかしてもらいましょう」
「それだと、今度はVADSが厄介ですね。VADSは対空はもちろんですが、水平射すれば歩兵には十二分に脅威です」
私が案を出せば、今度はVADSの写真を指差しながらアスハが言ってくる
「・・・そうね。アスハ、確かVADSって照準用のレーダー有ったわよね?」
「?はい。確かにVADSには照準用のFCSレーダーがありますけど、それが何か?」
そう、やっぱりレーダー積んでるのね・・・
ならアレが使えるわ
「AH-2にHARMを積みましょう」
「は?ハァアア!?」
「何よ、何か問題あるの?」
レーダー式の防空兵器がある以上、最も有効な手段だと思うのだけれど
「AH-2にHARMは積めませんし、そもそもウチにHARMなんてありましたっけ?」
「あれ言ってなかったっけ?ウチのAH-2ってミレニアムで新型のOS作ってもらったから対空ミサイルや対地ミサイル、果ては対レーダーミサイルも搭載できちゃうんだよ」
「え、そんな話聞いたこと・・・!?あ、ホントだ。使用可能武器にHARMも入ってる」
ええ・・・?と唸りながらアスハは端末で開いたAH-2の性能諸元表を見ている。
実はさっき言った通り、我が校のAH-2は完全に我が校産ではないのだ。機体や武装は我が校で製造しているが、それを動かすためのエンジンやシステム系、電装系はミレニアムサイエンススクールに設計を委託し、こちらでミレニアムの技術者協力のもと生産している。
AH-2に限らず、ルーイカットや小銃に用いる旋盤や溶接具と言った近代産業に必須となる道具もミレニアムからライセンスを貰い製造・使用しているため、我が校の製品は半ミレニアム製と言っても過言ではない
ともあれだ
「そんなこんなで、AH-2でのHARM使用は可能。それでHARMの在庫がどこにあるのかって話だけど」
「あ、それですそれ。せっかくHARMに対応しても、HARM自体がないんじゃ宝の持ち腐れです」
アスハはそう言うが、アヤカの方は何か思い出したようで手持ちの端末を操作して何かを調べている
私は質問に答えず笑みを浮かべながらアヤカを待っていると、答えないのを不思議に思ったアスハもアヤカを見つめる
そしてしばらく経った頃、アヤカはため息をつき眉間をもみながら口を開く
「ようやく思い出しました・・・。はい、我が校には確かにHARMの在庫が存在します。それも50発以上」
「ごっ、50発!?流通も普通のミサイルより限られてるHARMが、ウチに50発もあるって言うの!?」
「ちなみに性能テストをして欲しいって言われてるから50発のうち20発くらいは新型のHARMだよ」
あ、最後の言葉を聞いてキャパオーバーになったのかアスハの口から魂みたいのが飛び出してる。
私がソレを押し戻しているとアヤカが持っていた端末の通知音が鳴り、アヤカはそれを確認する
「・・・司令。急遽ですが会って話をしたいという方からメールが届きました」
「えぇ?一体誰なのこんな忙しい時に」
「それが・・・
メールの差出人の名前が出た瞬間緩やかだった部屋の空気は一気に張り詰め、魂が飛び出ていたアスハも真面目な顔に戻り口を開く
・・・というかそんな簡単に幽体離脱とかってできるものなんだ
「連邦生徒会の防衛室。しかもそのトップである室長さんがアポイントもなしに突然ですか」
「査察・・・いえ、突然という点に目を向ければ私たちの動きに対する干渉という線もありえます」
「情報部も連邦生徒会に対して諜報活動を行なっていましたが、突然会合を行うという情報はありませんでした」
「となると・・・」
防衛室長独自の行動・・・
その内容はどうであれ、今日明日に対応することは不可能だ
「こちらも忙しく近日の対応はできない。また日を改めてお話をしたい。・・・ひとまずこれで返事を送って」
「あちらは納得するでしょうか・・・?」
アヤカが不安げにつぶやくが、私の見立てでは問題はないはずだ
相手が私の考えるような人間だった場合、今回は断られて当たり前くらいに思ってるはず。大事なのは必ず次回への取っ掛かりを作ることだ
・・・まぁそれも考えられないような真性のバカも世の中にはいるから困るんだが
「司令、防衛室長から返信が来ました」
「ん、内容は?」
「突然会談を申し込んだ事に対する謝罪と、いつ頃なら対応してもらえるかの確認です」
まず今日と明日は作戦の準備期間だし、明後日からは作戦だから無理ね
順調に作戦が推移すれば、アビドス本校に滞在する日数も含めて6日後には南アビドスに帰ってこれるだろう
ともなれば、対応できるのは7日後から
「一週間後。一週間後にシラトリ区D.U.にお伺いすると伝えて頂戴」
「一週間後ですね?先方にお伝えしておきます」
「ええ、お願いするわ。私もミレニアムのお得意様にしばらく対応することができませんって伝えておくわ」
アヤカが電話をするために生徒会会長室を出ていったのを見送って、机に備え付けられた電話を取りある場所へ電話する
「・・・もしもし、お久しぶりです。南アビドス学園生徒会長の秋永ユウナです」
『ええ、久しぶりねユウナ』
「はい、いつもお世話になっております。お互い無駄話は好きではないでしょうから、要点だけ言わせていただきます。本校はアビドス砂漠周辺に
『・・・・・・そう、了解したわ。こちらの学園には適当な理由をつけて渡校制限を出しておくわ』
「感謝します」
『あ、そうそう。警報が解除されたら射爆場を借りに行くから、一番に教えて頂戴』
「承知いたしました戻り次第射爆場を取っておきます。リオさん」
『ありがとう。健闘を祈ってるわ』
その言葉を最後に電話は切れ、私も受話器を戻した
「次はゲヘナのほうだね」
また書類整理を行う前に私は再び受話器を持ち、今度は違う番号を入力する
こちらは先ほどの電話主とは違い、数コールしてから電話がつながった
『はい、こちらAnabaseiosお客様サポートです』
「わたくし、南アビドス学園生徒会長の秋永ユウナと申します。『失楽園の方角』を知りたいのですけれども・・・」
『・・・・・・はい、少々お待ちください』
電話先のオペレーターがそういうと、電話からは保留音が鳴り始める
もちろん先ほどのは一種の暗号であり、失楽園の方角なんて興味もない
しばらくすると、保留の音楽が途切れる
『・・・キキキ、私だ久しぶりだな』
「お久しぶりです、元気にされていましたか?マコトさん」
私が今電話している先はゲヘナ学園の生徒会、その生徒会長である羽沼 マコトその人だ
『それで要件はなんだ?雷帝か?それとも・・・』
「いえ、今回電話させていただいたのは雷帝関連のものではなく、砂嵐の件についてです』
『・・・・・・あぁなるほど。事情は分かった、一応我が校でも注意喚起は出しておくが、自由が校風な我がゲヘナの生徒たちは注意喚起を無視して行ってしまうかもしれんぞ?』
「かまいません、そういう輩に一番効くのは言葉ではなく鉛玉と力ですから。少々痛い目を見るかもしれません」
「・・・ふふ、やっぱりあなたはゲヘナで一番ゲヘナらしい生徒ですよマコト」
『当然だ。なぜなら私はゲヘナ学園の生徒会長なのだからな。では終わったら連絡してくれ、勝利以外はいらんからな』
「えぇ、ご期待に添えるように頑張ります。それでは」
『あぁ、健闘を』
お互いに挨拶を交わし、電話を切って受話器を置く。私は電話を終えた時には連絡を終えたアヤカが戻っており、書類の塔の中から私の決済が必要ないものを選別してくれていた。
「さあ、今日中に終わらせるかな」
一度背伸びをしてから、私は書類の塔を崩すために手を動かし始めた。
そしてその翌々日
日が傾き始めまもなく夜になると言う時間帯にも関わらず、1個大隊ほどの人数の生徒たちが完全装備で校庭に整列しており、その後ろにはエンジンをかけいつでも出発する用意のできたルーイカットをはじめとした車両群がいた。
私はそんな生徒たちの前にある台に立ち、生徒たちに向き直る。
「忠誠!」
『『『『忠誠!!』』』』
「忠誠!」
向き直ると同時に今日の当直の生徒が挨拶を行い、それに続いて整列していた生徒たちも敬礼と挨拶を行ってくる
私もそれに対して敬礼で返す
「休ませ」
「せいれーつ、休め!」
号令官の号令を受けて一般生徒たちが足を肩幅に開き腰に手を当てる。その状態のまま顔が私の方に向けられるのを確認すると、私は口を開く
「諸君!栄光ある南アビドスの生徒諸君!カイザーによってあびどすアビドス本校との連絡線が寸断されて早二年。ついにこの時が・・・我らの悲願の時が来た!」
いつもとは口調を変え演説を行う
「我々はアビドス本校との連絡線を遮断する旧アビドス中央市街地跡のカイザーPMC部隊を撃滅し、アビドス本校への連絡線を確保する!」
『『『『ウオォォォォォ!!!』』』』
生徒たちの指揮は最高潮に達し、各々が手を挙げ歓声を響き渡らせ
車両群の方に目を向ければ同じようなモノで、体をキューポラから出していた車長たちや防弾ガラス越しのIFV・AFVの操縦手たちも歓声を上げているようにも見える
「総員車両に搭乗!!」
『『『『了解!!』』』』
彼女たちの士気はそのままに私が車両への搭乗を命じると、彼女たちは列を整えてそれぞれの車両へ搭乗していく
私もそれを見届けてから演台を降りる
「・・・それじゃあアヤカ、留守の間学校のことは任せるよ」
「はい、留守中のことは万事お任せください。・・・・・・ご健勝を」
「2年前からの悲願だもの任せて。明後日あたりには刻印なしの物品が大量に届くよ」
お待ちしておりますと言ってアヤカから差し出された帽子を被り、私は近くに停めていたルーイカットの梯子を登り車長席に入るとヘッドセットを被り通信機の電源を入れる
「
『こちら
『
『
ヘッドセットを通してルーイカットやIFV、AFV、歩兵等の各小隊から指揮権の移譲と行動準備良しの通信が入ってくる
そして最後の小隊の確認を終えると、私は再度口を開く
「全局傾聴。大隊各車は市街地から戦闘区域に入るまでの間、指揮車を先頭に2列縦隊にて戦闘区域まで進出。戦闘区域に入り次第戦闘隊形
『『『『『了解!』』』』』
「それじゃあ行くわよ。全車前進!!」
真上に掲げた腕を振り下ろし、前進を叫べば私に乗っているルーイカットが勢いよく前進を開始する。
私は慣性によって後ろに体を持っていかれそうになるが、体勢を立て直し後ろを振り返れば順次後続の車両が動き出していた
「車長!もうすぐ校門を抜けます!」
「了解。住民には迷惑をかけたくないし、市街地は安全運転で行くわよ」
「了解です」
そうして私の乗る指揮車両が校門を抜ける際、私の視界の端に1人の生徒の姿が見えた
その生徒がなんてことない、それこそ南アビドスではよく見られる砂塵防護を施したヘルメットと長袖の白いセーラー服に身を包んだ南アビドスのヘルメット団にいる生徒
しかし私は違和感を覚えたのは彼女の立っている場所と持っている
そこまで考えた私の口からは自然とため息が溢れる
「・・・これは作戦変更の可能性があるかもね」
少なくとも順調にはいかないだろう
私はそう結論を出し、頭の中で作戦の再整理を開始した
〜次回予告〜
ついに始まる遠征作戦
立ち塞がるのは因縁の敵
さぁ、今こそ奴らに借りを返す時だ
次回『アビドスの角 〜Abydos rising〜』
『
再会の時は、近い