可愛いサンチョが書きたかったのに父上の方が可愛くなってしまった
これはこれでアリか
「ラ・マンチャランドを開演して、もう一年が経つ頃じゃないか?」
血鬼と人間が共存できる夢の遊園地、ラ・マンチャランドを提案したその人は、子供のように目を輝かせながら隣に立つ...呆れた顔の
「...そうですね。」
「ここまで順調に行くとはな。どうやら今回ばかりは、俺の予想が正しかったようだ。」
「......」
「どうしてそのような顔をする?特に問題も無く、我々血鬼を目の敵にする者達も様子見を決めたのだ。これを順調と言わずしてどう表現する?」
「まだ...たったの、一年じゃないですか。」
そう。
まだたったの一年。
私たちからすれば寝て起きた程度のごく僅かな時間なのに、どうしてこの人はこうも自信満々なのだろう。
でもこうやって私が苦言を呈せば、どうせ...
「サンチョ...開演して一週間経った時に発した言葉を覚えているか?」
「いいえ全く。」
「んんっ、『いつ、何があってもいいように備えておきましょう。あなたは人間を信用し過ぎです』だったか?」
「...」
「きっと、今にでもここのアトラクションを最高だって、そうだね...クレームをつけるみたいに言ってくれるファンが出来るはずだ。」
「どこからその自信が湧くんですか...全く...」
わざわざ私の声真似までして...余程有頂天になっているようだ。
「たった一年で、安心は出来ませんよ。いつ、別の地区からハンターがやってくるかも知れませんし。少し...楽観的過ぎます。まだ問題は起きてませんが、それもいつ起こるか...」
柄にも無く、長い文句を垂れていた時だった。
「どっ、ドンキホーテ様!!」
一人の家族が、扉を突き飛ばすように入ってきた。
あの服装は、確か...
「ん?君はニコリーナの子供ではないか。そんなに慌ててどうしたんだ?」
「ひ、一人のお客様が、アトラクションに必要な血液に不満を...!何度説明しても、ここの責任者を呼べと聞かなく、既に何人もの家族が...」
それを聞いたあの人の顔は
「...わかった。」
先程とは打って変わって、親に叱られた子供のように落ち込んでいた。
ニコリーナの管理するエリア。
そこの目玉アトラクションの前に人だかりが出来ていた。
「ど、ドンキホーテ様!?来て頂けたのですね!!」
涙をボロボロ零しながら膝から崩れ落ちる家族を、父上は軽く慰めると、その場所を見た。
「まだか!いつまで私はここで立ち尽くし、希望に満ちた顔でアトラクションへ入場する客を見なければならんのだ!」
そこでは倒れている家族たちの中心で、黒い外套に身を包んだ一人の男が喚いていた。
......
「サンチョ。」
「...はい。」
私の感情の、僅かな機微も見逃さずに制止すると、その男に近付いた。
「どうしたお客人よ!」
...そして、またいつもの小っ恥ずかしい喋り方を始めた。
男も似たような話し方だから、父上一人が浮きはしなかったが、変なのが一人から二人になっただけ。
「あ?...貴殿か!ここの責任者とやらは!ドンキホーテとやらは!!」
「いかにも!人間と血鬼の楽園、ラ・マンチャランドの創設者、ドン・キホーテである!ここは争い事を起こす場では無いと理解いただけないか!」
「...ならば一つ言わせてもらおうか。」
ズカズカと男は父上へ近付き、少しでも手を伸ばせば届く範囲まで入る。
武器の類は持っていないようだが...
...よく見ると、倒れている者たちはただ気絶しているだけ...
...とにかく、いつでもその無礼な首を跳ね飛ばせるように備える。
「貴様...ふざけてるのか?」
一触即発の空気。
周りの家族たちも少し距離を取って、見守っている。
...何をそう心配する必要があるのだろうか。
固唾を飲んで見守る中、男が先に動いた。
「もっと!」
「うん?」
何を思ったのか、男は父上の肩に手を置き、叫んだ。
「もっと血を取れ!!飢える者達が出たらどうする!」
「おっと?」
さすがに予想外な言葉にその場の空気が固まった。
「あのように手が凝ったものばかりなのに、雀の涙ほどの血液しか取らぬとは何事だ!」
「!」
「それにまさか、血鬼の仕立てた服を見れるとは思わなんだ!これまたどうして興味深い!理髪師殿の技術には惚れ惚れとさせられた!」
「!!」
「もしも過去へ戻ることが出来たのなら、ここを知らずにのうのうと生きていた己の頭を吹き飛ばしてやりたい!」
「!!!」
「......はあ...」
はい分かりました。
自慢の遊園地と家族が褒められて嬉しいのは分かりましたから、そう何度もこちらを振り返らないでください。
第一眷属ともあろう人がみっともないです。
「だからもっと血を取れ!人間の生命維持に影響の無い範囲と説明を受けた!私は常人よりも血液が多い体質ゆえ、他の者より三倍は多く取っても大事無いのだぞ!?」
...あぁ、元々そんな話でしたね。
どうやら危害を加えるつもりは無さそうですが...いまいち信用ならない。
この男からは、匂いがする。
血の匂い。
それも、同族の血の匂いだ。
家族のものでは無いが、それでもこの男が数多くの血鬼を殺してきたのは明白だった。
さすがに気付いていますよね...?
「そうか...いやしかし、提供される血液は既にこちらで決めてあるのだ。今更それを、こちらの都合で変えるなど...」
別の考えに夢中みたいですね。
「...私が言うのもなんだが、場所を...どこか静かな場所で話し合えないだろうか。貴殿は他の...外の理性的でない血鬼とは違うと、分かるんだ。」
「ほう...!」
さすがに断りますよね?
断ってくださいよ?
いくら客人だと言っても、無礼で傲岸不遜なこの態度は目に余ります。
「なんと良い提案であろうか!是非人間の意見も聞いてみたかったところだ!」
...
......なんでこの人が上位眷属なんでしょうか。
他の家族も見ている中で、こんな訳の分からない男と歓談して...もう少し...威厳というものを...
「サンチョ。」
「...はい。わざわざ声をかけなくても、ついて行きますから。」
道中、「彼はきっとフィクサーだ」だの、「心配するような事にはならないだろう」だの...根拠の無い自信を耳打ちしてくる父上が、かなり...いや少し煩わしかった。
昔のあのホールがあった場所には、ラ・マンチャランドの管理人室があった。
父上は、私と他の管理人三人と話し合う時はいつもここへ集めていた。
「座るといい。紅茶の一つも出せないのは申し訳ないな。」
「元より私が押しかけたものゆえ、貴殿が気にする必要はあらぬ!名も知らぬ私の戯言に耳を傾けた事にこそ感謝するべきであろう!」
部屋内に木霊するほどの声量で叫びながら堂々と椅子に腰掛ける。
言動の節々が私の神経を逆撫でするが、当の父上が気にしていない様子なので私も気にしないことにした。
「...キホーテ殿?あー...私の後ろで、私のうなじの辺りへ視線を突き刺す、この麗人は...?」
「気にしないでくれ。吾の子供で、少しばかり心配性なだけである。」
「ほう!!息女殿であったか!」
ぐりんと首を曲げ、こちらを無遠慮に見つめる男へ、つい反射的に身を引く。
「うむ!なんと美しいお方だ!キホーテ殿の目前で無ければ求婚を申し込んでいたところであるぞ!!」
「...」
「うむ!その蔑んだ表情もまた麗しい!」
何をバカみたいな...バカなことを言っているんだこの男は。
「ははは!面白い方だ!きっと今宵のパレードを見れば腰を抜かすであろうな!」
父上も笑わないでください。
「パレードだと!?それはなんとも...!!...っといけない。つい取り乱してしまった。名の一つも申しておらなんだ。あのような場で名乗るのは少々気が引けたゆえ、無礼を許してくれぬだろうか。」
「あの場には穏やかな家族も居たゆえ、気遣いに感謝しよう。」
「なんと寛大なお方だ!では失礼して...」
男は椅子から立ち上がると、父上の真似か、それとも本来の気性なのか堂々とした姿勢を取り、深く息を吸い込んだ。
その様子に目を輝かせる父上と、それを冷たい目で注意深く観察する私はまだ知る由もなかった。
「私は西部シ協会1課部長!!名をヴァン・ルークと言う!此度は噂を聞き付け、日々の疲労を癒すため遠路はるばるこのラ・マンチャランドへやって来た!!」
確かにこの男は、予想通りフィクサーでしたね。
バリ以来のフィクサーの名乗りに対し子供のような顔で拍手する父上。
もう少し...上位眷属としての威信を...
「勇ましい姿であったぞルーク殿!」
「あぁありがとう。ありがとう...ただもう一つ、聞いてはくれんか。私は貴殿らに隠し事をしようとは思わん。貴殿らとは良い朋になりたい故。」
「勿論だ!!かく言う吾も、意を共にする人間を知ることが出来て胸の高鳴りを抑えられんのだ!!」
興奮冷めやらぬ父上へ感謝と、落ち着くように手振りをしながら再び椅子に深く腰掛けて、足を組んだ。
そして、先程の芝居がかった口調とは真反対の、低く響くような声で続けた。
「私は、ヴァン・ルーク。」
「畏れ多くも他の者より、『血鬼狩りのルーク』と呼ばれている。」
「貴殿らの、天敵である。」
その時の笑みと声に形容し難い感情を覚えた私は、即座に手の平へ血を集めた。
あとがき
シリアスは無いです
ルークの深堀り要る...?(設定とか生い立ちとか)
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いる(断固)
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正体不明の変態で十分