あなたどういう話し方だっけ...
「......静かだな。」
耳鳴りのするような静寂が満ちる管理人室で、深く椅子に腰かけた。
いつも大きな子供二人があぁでもないこうでもないとこの遊園地の未来について語っている姿も、今日ばかりは見られなかった。
何を隠そう...いや隠してはいなかったか。
父上はまた冒険に出かけた。
しかも今回は、あの男について行くように。
人間と冒険に行ったとは父上もさすがに隠して私にも言わなかったが、二人の姿が一切見えないというのはそういうことだろう。
父上が居ない時のラ・マンチャランドの責任者は、自然と私になっているはず。
本来なら、という枕詞が着くが。
今日ばかりはドゥルシネーアら三人がやってくれるらしい。
クリアンブロは普段の私を気遣ってのこと。
ニコリーナは私があいつの着せ替え人形になってやった事を持ち出してクリアンブロが交渉した。
ドゥルシネーアは...理由を話さなかったな。
つまり。
つまりだ。
「今日は...休めるのか...?」
しかし、他の家族は変わらず園の経営に回っている中私だけ休むというのは、負い目があるな。
そんな後ろめたい感情を抱えたまま木で出来た椅子に体を預けていると、やはり我慢できなかった。
「...ニコリーナが人を欲しいと言っていたな。他の所から融通出来ないか取り合ってみるか。」
結局なにかせずには居られなかった私は立ち上がり、扉を開けた時だった。
ちょうどここに用があったらしく、蝋のように白く細い指を伸ばして固まっている者がいた。
「...ドゥルシネーア、何かあったのか?」
なんだあのカラフルな箱。
「サンチョこそどこに行くの?今日は一日休むって聞いてたんだけど。」
「細事だ。お前の用件を聞く時間はある。」
「そう...それじゃあ。」
この部屋ではなく、この部屋にいる私に用があったらしいドゥルシネーアは、抱えていたカラフルな箱を私へ投げ渡して来た。
「...これは...?」
「昨日、パレードの最中に客から放り込まれたの。昨日の内に渡そうと思ってたんだけど、どこにもあなたの姿が見えなかったから。」
「...?それを、なんで私に...」
「メッセージに名前が書いてあるから。どうして私に投げたのか分からないけど。」
「...かなり重いが。」
「うん。それを、パレードでいつもの位置に立っている私に。」
「そうか...?」
頭の中を疑問符で埋めつくしながら、箱に添えられたメッセージカードのようなものに目を落とした。
そこにはやたらと達筆な字で一文。
「ヒュッ」
即座に血の気が引いて鳥肌がびっしりと立つのがわかった。
「こ...これを、投げたのは...どんな奴だった...?」
「最近噂の狩人様。」
「...知ってる、のか...」
「私のところだとちょっとした有名人だから。毎回やけに精密なコントロールで、血液パックを乗り物に投げ込んでくるの。パレードが終わる頃には、足の踏み場もないくらい。」
何やってんだあのバカ。
しかも毎度毎度、いきなり父上との会話を切り上げてどこに行っているのかと思えば、パレードを見に行っていたのか。
...いつも?
ほぼ毎日来園して...毎回?
「...こわ...もう...本当に何なんだあいつ...」
「もしかして、随分な仲だったり?」
「死にたいようだなドゥルシネーア。」
「...そう。ある意味随分な仲だったみたい。それより私、それの中身が気になるわ。開けてみましょう。」
ドゥルシネーアに催促されて、渋々...爆弾でも扱うように慎重にリボンを解いた。
「...は?」
「まあ。」
中に入っていたのは、10は優に超える山積みの血液パックと、その山の上に乗った鮮やかな赤い指輪だった。
匂いからして、あの男の血で作られたものだろう。
正直これだけでも吐きそうだが、トドメにもう一枚紙が出てきた。
『♡Eat Me♡』...と...
「う、ウワァァァ!!!?」
心の臓が凍り付くような得体の知れない恐怖のもと、箱ごと上に放り投げ、水を見た時よりも素早く後ろに飛んだ。
「あら危ない。」
そしてそれをしっかりキャッチするドゥルシネーア。
「サンチョ?せっかくのプレゼントを放り投げるだなんて、ドンキホーテ様が見たら悲しむと思わないの?」
「うるさい!!あぁもう気持ち悪い!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!!頼むからそれをどこかに持っていってくれ!川に捨てろ川に!!」
「サンチョでも怖い物に私を行かせるつもり?良いから大人しく受け取ればいいのに...人間が「美しいものに惹かれるのは当然だからって言いたいんだろう。」
「...」
お得意の言葉を邪魔されて膨れっ面になるが、今の私にはそんな事を気にしている余裕が無かった。
「なら!尚更!お前に惹かれれば良いんだよ!なんで私なんだ!!」
「美しいの基準は人それぞれですもの。サンチョが良いというお人も居るんじゃないかしら。まあ、私は誰にでも通用する美だけど。」
わざとなのか無意識なのか私を煽るように言うが、これは事実だからなんとも思わない。
ただやたらと私の胸元を見て言ってくるのは鼻につくが。その贅肉引きちぎってやろうか
「そういえば...お前は、あの男が私へなんて言っているか知っているか...?」
「今知ったわ。」
「......はあ...」
「そう心配しなくても、他の家族には言わないから。」
「意外だな。お前はてっきり、乗り気になると思っていたが。」
「死人のような顔で立っている人に追い打ちをかける趣味は無いから。それならまだ気を使って、しゃんとさせる方が好きなの。」
「...ありがとう。」
なんだ、案外優しいやつじゃないか。
今まで少しではあるが、距離を取っていたのが申し訳なく感じてきた。
「あ...でも、もし必要になったら私のところに来て。化粧なら教えてあげられるから。」
「......そうか。」
いや、やっぱり違うな...距離はこのまま取っておこう。
「他にこの事を知っている人は?」
「父上と神父。」
「...少ないのね?てっきり、もっといると思ってた。」
「少ないんだよ...あいつ、妙に分別があるらしく、二人きりや父上との三人でないとそれらしい素振りはしないから...」
「優秀な人間と聞いているのだけど。父上がしきりに狩人様の話をしているくらいだもの。そんな方に見初められたのなら、もっと胸を張ればいいのに。」
「...お前は、どうせあいつと二人きりで会話したことがないんだろう。なら分からないさ。」
「確かに、サンチョの言う通り話したことは無いわ。だって、話せないんだもの。」
「......話せない?どういう事だ?」
「私が近付くと倒れてしまうから。」
「.........すまん...もう一回頼む。」
「私が近寄ると、倒れて、しまうから。」
聞こえやすいようにいくつにも区切って伝えるドゥルシネーア
うんなんだって?
聞き間違いじゃなかった。
どういうことだ?
「...」
「信じてない顔。」
「...当たり...前...だ...」
「ところで、サンチョはあの方のどこが気に食わないの?」
「欲望に正直で猿みたいな所。父上に馴れ馴れしく珍奇な発想を吹き込む所。大仰な仕草。フィクサーという肩書きに誇りを持っていそうな所。邪魔している癖に家族仲に口を出してくる所。私に色目を使う所。」
「たくさんね。」
「当たり前だ。ラ・マンチャランドには多くの人間が来てはいるが、あいつらは我々が血鬼であることを忘れているようにしか見えない。」
その中でも...
「血鬼であることを受け入れ、むしろ血鬼だからこそ良いとでも言いたげなアイツは気味が悪い。」
「ふーん...あ、わかった。」
「何がだ?」
「サンチョは自信が無いのね。」
「...はあ?」
何を言ってるんだお前は...
「だからそうやって、自分に好意を向ける者とその感情が理解できない。」
「...だからなんだと言うんだ。」
「時間はある?私のところに来てくれない?」
「...?お前のところに言って、何を「化粧の仕方、教えてあげる。それで今日のパレードはあなたも参加。」は...???」
「今日は休みなんでしょ?なら時間はあるのね。」
「ま、待て!なんでそうなる!?」
「情けない姉妹への気つけとしては十分だと思ったのだけど。それに、素材も良いし楽しそうだから。」
今ボソリとなにか呟いただろうけど、それどころじゃなかった。
「や、やめ...引っ張るな!私は化粧なんてしたくない!やめろドゥルシネーア!やめ...やめろォ!!!!」
「翼の技術とは素晴らしいな!!あれだけの冒険を繰り返し、幾度と夜を明かしたつもりだったが...見ろ!!まだ日も暮れていないではないか!!」
「今回はどちらかと言うと観光目的であったための時間加速だったが...お気に召したのならなによりだ。
「都市の技術とは摩訶不思議だな...ルーク殿の愛用してるそのポーチもだが...「キホーテ殿!静かに!!」」
「......」
「...突然耳を澄ませて、どうしたのだ...?」
「...聞こえる...」
「何がだ?」
「これは...サンチョ殿の悲鳴だ!!」
「...何も聞こえないぞ?」
「これも愛の成せる業よ!!待っていたまえ!!我がサンチョォォォォォォォォ!!!」
「......なんと...これが、愛...!感情一つで
「きっといつか役に立つことだから。」
「その『いつか』は一生来ないだろう!この事を父上の耳に入られれば、なんと言われるか...!」
「きっと喜ぶでしょうね。」
「畜生!!逃げ道がどこにもないじゃないか!!」
「逃げ道なら!!私が!!用意して進ぜよう!!!!」
この瞬間私の胃袋が爆発したような気がした。
「我が!!サンンンン美しいィィィ!!!」
「は?」
「あら。」
なんで倒れたんだこのバカ。
いや待て。
確かドゥルシネーアを見て倒れた気がする。
「...まさか...」
「ほらね。私に近寄ると、倒れちゃうの。」
「...ドゥルシネーア。」
「もう抵抗する気は無いみたいね。」
「いくらでも、その化粧の練習台にでも何でもなってやる。だから...」
「こいつが来たら...助けてくれぇ...」
「取引成立ね。」
あとがき
ここでは少しずつ外堀が埋められていく第二眷属について語られる
でもどこぞのイシュメールみたいに『私の血液タンク♡一生着いていきます♡』とかはなりません(確固たる意思)
ご安心を。
サンチョはね、父上を含む家族の事が大好きだし、家族のことしか愛さないし、やることなすこと全部父上と家族のためじゃないといけないの。
ルークの深堀り要る...?(設定とか生い立ちとか)
-
いる(断固)
-
正体不明の変態で十分