「トイレの花子さん」をご存知だろうか。
古くは1950年頃から流布されていた「三番目の花子さん」と呼ばれる都市伝説が原型であるとされ、1980年代頃から全国の子供たちの間で噂となり、1990年代には映画や漫画、アニメなど、様々な作品に登場している都市伝説であり、日本で最も有名な都市伝説の一つと言える。
しかし、どんな都市伝説好きやオカルトマニアでも実際にトイレの花子さんをみたことがある人間は存在しないだろう。
特級仮想怨霊「トイレの花子さん」
1995年頃には姿が確認されており、高専に登録されている16体の特級呪霊のうちの一体である。背丈は小学生程で、赤い吊りスカートをはいたおかっぱ頭の少女の姿でほとんどの人間が想像する通りの容姿をしている。
時刻は午後10時15分。
俺、
調査といっても取材など合法的なものではない。時間から分かる通り違法中の違法、不法侵入である。許可が取れれば昼に正面から入ることもできるのだが、「トイレの花子さんの調査したいんで女子トイレ入らせてください。」と言っても入れてもらえるわけがない。良くて不審者認定、最悪通報されて即逮捕である。そんなリスクを払うくらいなら、後から高専に怒られるほうがマシだ。
「それじゃ、行ってくるわ」
シートベルトを外して、運転席に座っている山本に向かってそう言う。
「ん、何分くらいで帰ってくる?」
「10分、15分くらい?」
「よし。おやすみ」
山本が席を倒し、バックからアイマスクを取り出し装着する。
「早くない?もうちょい心配してくれても良くない?」
返事がない。
「死んだか...」
「はよいけ」
冷たい。高専の時はもっと話してくれてたのに。何がこいつをこんなに冷たくしたのだろう。
山本は高専時代の同期で、今は高専でいうところの補助監督みたいなことをしてくれている。運転や書類仕事みたいな雑用しかやっていないが。何がこいつを冷たくしたのだろうか。理由は不明である。
少しでも睡眠を妨害しようと強めにドアを閉めて車から降り、校門を飛び越え学校へ侵入。
「えーっと。...こっちかな」
コツコツと自分の足跡しか聞こえない夜の学校。と言う状況エモさを感じながら目的地である3階の女子トイレに到着。
その後、外からわからないように帷を下す。まあ下す意味はあんま無いとは思うが。夜だし。
大きさは...大体半径5mくらいでいいか。条件は視覚効果のみにして...よし。
「
どろどろと黒い帷がトイレを包み込んでいく。
電気をつけ、トイレに入った瞬間嫌な感覚を感じる。なにかを忘れてる?
そう言えば。とトイレ内に人がいるかを確認していないことに気がつく。
「居なさそうかな」
まあ、この時間に電気もつけず個室に入ってたら呪霊より怖いまであるが。
諸々の準備を終え奥から3番目の個室の前に立つ。息を整え、個室のドアを3回ノックして、
「花子さんいらっしゃいますか?」
と、はっきりと聞こえるように声を上げる。
外では虫が鳴いていたというのにも関わらず、シーン。と言う音が聞こえてきそうなほどの静寂、それを破ったのは。
「...ハズレかぁ」
という俺の声だった。
「今回は行けると思ったんだけどなぁ。割と最近行方不明者出てたしさぁ。じゃあ、あの行方不明者はなんだったんだよ。はぁ...」
ため息を吐きポケットからスマホを取り出す。
「一応山本に連絡して起こしとくか。「ハズレだったぞ」っ...と?」
メッセージが送信されませんでした。
「圏外?帷に電波遮断の条件付けとかはしてないし、」
帷では無い。となると普通に圏外か?そんな山奥のほうでも無いし学校で電波が入んないってことは考えずらいよな。だとすると。
思い出すのは、トイレに入った時に感じた嫌な感覚。
聞こえなくなった虫の声。
不自然な電波の遮断。
ここから導き出される答えは...
「結界?」
それに気づいたと同時、呪力と共に少女の声が発される。
「せいかーい」
声が聞こえた次の瞬間、血に塗れた個室トイレで円状に囲われ、空から白い手が迫ってきている異質な空間、花子さんの領域内に引き摺り込まれていた。
「あれぇ?」
「あっぶなぁ!ギリギリだったぞ!」
声が聞こえた瞬間に簡易領域の展開を始めたが、間に合ったようだ。身体に攻撃を受けた様子はない。事前知識が無ければ間に合っていなかっただろうな、ちゃんと資料読んでてよかった。
「簡易領域?つまんないの。男なら正々堂々戦ってよ」
「正々堂々ね、騙し討ちしといてそれ言う?」
「呪霊にそんなこと言われてもねぇ?」
簡易領域の剥がれ具合的にもって3.4分ってところか。このまま簡易領域が剥がれるまで待たれたら怠いな。
「それにそんな呪力量で私に挑んで大丈夫?結界術には多少自信があるみたいだけど。アンタたちの基準に当てはまれば私は特級よ?アンタなんて術式使わず勝てr」
花子が言い切る前に接近、顔に二発入れてガードを上に持っていったのを確認、即座に腹に前蹴りを入れて後ろに蹴り飛ばす。
「呪力量だけで測ってんのか。流石
「...いいよ。本気でやってあげる」
自分で持ち出しただけあって特級呪霊であることにある事にプライドがあるらしい。領域効果は簡易領域で相殺してるから、相手の攻撃手段は術式か徒手空拳のみ。今ので近接じゃ俺に勝てないことはわかってるし、挑発も効いてる。これで術式を使ってきてくれるはずだ。
これで調査目標の一つ。
特級呪霊「トイレの花子さん」は直接な戦闘力で言えば、せいぜい準一級程度の呪霊である。では、何故この呪霊が特級として高専に登録されているのか?
それはトイレの花子さんが
都市伝説から生まれる仮想怨霊は基本的にゆかりのある地で生まれ、そこを離れないというある種の地縛霊的な性質を持っていることが多い。怪談話では、幽霊や妖怪に対する恐怖と同時にゆかりの地にまで恐怖が及ぶためである。そのため、呪霊と土地が結び付けられ呪霊はその土地を動こうとしないのだ。
しかし、トイレの花子さんの怪談は地域を限定せず、爆発的に全国に広まった怪談のため、全国各地の学校自体がトイレの花子さんのゆかりの地となってしまっているのである。
故にトイレの花子さんと言う呪霊は、全国の花子さんにまつわる怪談の数だけ存在し、しかし同一の「花子さん」と言う概念として一つの呪霊にまとめられた存在になっている。
そのため、全国各地ほぼ全ての学校に花子さんが出現する可能性があり、それら全てを祓い切ることは
また、全ての花子が共通で同じ性能の領域展開を会得している。必中効果は、領域内の対象に無数の白い手が襲い掛かり握りつぶすと言うもの。必殺の効果はなく、肉体派の術師なら領域への対策無しでもゴリ押しで突破できる程度でそこまで強力な領域では無い。(花子さん本体の援護を考えない、領域の必中効果単体での評価。)
問題は共通なのは領域だけで、術式は別である点である。
各地域で広まっている花子さんの怪談にまつわる術式が花子さんに刻まれており、今までに高専が確認出来ているものだけで14種類の術式を持った花子さんが存在している。
蹴り飛ばした花子との距離を詰めようと花子に向かって飛びかかるが、領域内にある個室トイレを飛ばされ阻まれ、その隙に花子から飛び蹴りをくらう。
花子は呪力を練り、笑いながら言う。
「何して遊ぶ?鬼ごっこ?かくれんぼ?それともだるまさんがころんだ?」
今の呪力の起こりから考えるに、この質問が術式で間違いないな。提示された3択の質問に答えることで選ばれた遊びが始まって、その遊びの勝敗によって何かが起こるってとこか。それならここは、
「鬼ごっこにしよう」
鬼ごっこなら花子とのフィジカルの差を活かせる為こちらが有利だ。質問に答えない択もあったがペナルティを受ける可能性もある。あの中だったら鬼ごっこが一番丸い。
「ふふっ。いいよ。じゃあ3数えたらスタートね?」
花子が言った瞬間、ゆっくりと頭の中に「鬼ごっこ」のルールが流し込まれる。
制限時間は10進法で言うところの33秒。この時間が過ぎた場合のみ、このゲームが終了する。
「いーち」
領域の中で花子に直接手のひらで触れられてしまったら負け。触れられてはいけないのは手のひらのみで、腕や足などは対象外。また、この術式効果を領域の必中効果に割り当てることはできない。
「にーい」
なんか違和感あると思ったら、ルール説明をわざと複雑にしてゆっくり脳内に送ることで初動を遅らせてるのか。もう開始まで時間がない。
「さんっ!」
開始と同時に花子がこちらへ飛び込んできた為、身体を横にかわし反対側に全力で走る。
「速ーい!ずるーい!」
「ずるいのはそっちだろ!クソシンプルなルール説明ゆっくり脳に流しやがって!」
直線的に飛び込んでくる花子を避けつつ、手に触れないように蹴りを入れて距離を離す。
「はあ、終わりだね」
33秒が経過する。
「こっちは何も変わって無いみたいだけど、そっちは?」
「こっちも何も変わってないよ」
口ではそう言っているが、花子の呪力が明らかに少なくなっている。なるほど、負けたほうがデメリット効果を受けるタイプだったか。次から、残り2つ選んで詳細確認してから
「じゃあもう一回やろっか。次はかくれんぼにするね?」
「ん?」
「10秒数えてねー」
花子がそう言いながらトイレの個室に入って行くと領域内に大量の個室が現れ花子がどの個室に入っているのかがすぐ分からなくなった。
「...成程」
よく考えればずっとこちらに選択権があるわけがない。こちらが選べば次はあちらが選ぶ当たり前の事だ。
先に相手に有利なものを選ばせて、油断させつつ時間を潰す。その後かくれんぼを選び時間を消費させて領域の必中効果で削っていく戦法で性能の低い領域効果を補ってるわけか。
今見えてるだけでも軽く100は超える個室が見えてる。そもそもここは花子の領域内でここから個室が追加されてもおかしくない。これは、
「...さっさと探さないとまずいな」
──簡易領域が切れるまでおよそ3分弱。──