乾燥で喉を壊しました。皆さんもお気をつけ下さい。
「3...2...1...0、よし」
花子の言った通り10秒数え終わり捜索を始める。
正直総当たりで探していく以外に方法がない。花子を探しつつ、脳内で何か逆転の手はないかと考え始める。
時間を数えていた最中脳内に流れてきていたルールによれば、制限時間は3分33秒らしい。しかし簡易領域はあと3分ほどで破られる。一度破れても必中効果を喰らいながらもう一度貼り直すことも出来るが、そうなればかなりのダメージを喰らうことになり、かくれんぼで負けた場合のペナルティも合わせて、近接戦での有利がなくなる可能性がある。
このままじゃジリ貧だ。何か、何かないか?3分以内に花子を見つける方法は?
────
「くそっ!」
焦りを隠しきれず個室のドアを蹴り飛ばす。
何も思いつかないままタイムリミットがあと1分をきってしまった。花子を見つけようと個室を一つづつ壊しまわっても新しい個室が現れて花子がどこにいるのかを隠し続ける。
「ふふ、もうあと少しの命だね?」
反響するように、花子の声が領域内に響く。
「まだだ。あと1分くらいは猶予がある。さっさと見つけて祓ってやるよ」
「1分、ねぇ。それって本当に正しいのかな?」
「は?何言って...」
花子の言葉と共に簡易領域の剥がれる速度が上がっていく。
「…マジか」
白い手に飲み込まれる紫己を見て、花子は勝利を確信する。「鬼ごっこ」で油断させ、「かくれんぼ」で削る。戦闘の経験があまり多くは無いため成功するかわからなかったがここまで綺麗にハマるとは。人間は愚かだと花子は改めてそう思う。
そもそも、紫己が頼りにしていた簡易領域の剥がれ具合から逆算した残り時間は、相手の領域の威力が一定とした場合のものであり、時間を計る物差しとして正確とは言えない。
人間と言うのは案外、何かに夢中になっている時時間の経過に気づかないものである。故に、紫己は簡易領域の残り時間を誤認してしまった。
ここから簡易領域をもう一度展開したとしても、いくら領域の威力が弱いと言っても、少なからず近接戦闘に影響を与えるくらいにはダメージを受けるはずだ。
領域の必中効果である白い手がかき消され、傷だらけの紫己が現れる。
「何回やっても結果は同じだよ?それに、」
大量の個室トイレが消え、花子が紫己の前に姿を現す。
「時間切れ、詰みだよ」
「いや、呪力量の減少程度ならまだ詰みって程じゃな......い」
「ふふ、気づいた?」
この顔だ。策にはまった獲物の顔。絶望と怒りで顔が歪む、この顔。
「呪力がなんの影響も受けてない。…何をペナルティに設定した?」
「うーん。まあ、特別に教えてあげようかな。答えは
「なんか狙ってたんでしょ、隙作ろうとしてたのバレバレだったよ?ここから逆転されても面白く無いし、潰させてもらったの」
「まじか、そこまでバレてた?舐めすぎてたかなぁ」
「一応言っとくけど油断はしないよ?」
そう言って花子は術式を使用する。
「何して遊ぶ?鬼ごっこ?かくれんぼ?それともだるまさんがころんだ?」
「だるまさんがころんだ」
「ふーん?鬼ごっこじゃ無いんだ。じゃあ始めるよ?」
「だーるまさんがーこーろんだ」
花子の術式効果の一つ「だるまさんがころんだ」はゲーム開始後、両者に一切の攻撃行為を禁止する。ゲームの開始と同時にプレイヤーは攻め側と守り側に分けられ、プライヤー間に333mの空間が出現する。
ゲームのルールは単純で、「だるまさんがころんだ」と守り側が言い切る前に、攻め側が守り側に触れれば勝ちと言うもの。
終了条件は、守り側が制限時間333秒の間タッチされないこと、攻め側が守り側をタッチすること。もしくは、
どちらかが勝負を降りることである。
「降参だ」
紫己がそう言うと花子との距離が一気に縮まり、紫己の体から呪力が奪われる。
「ふーん。気づいたんだ?」
「一応ね」
「それで、どうするの?」
そう言って、花子はジリジリと紫己に近づいていく。
花子は勝利を確信する。術式の使用を縛り、呪力と身体を削った。ここからの逆転の方法が花子には思い当たらなかった。
「何か言い残すことはある?」
「油断はしないんじゃなかったのか?」
「強がりだねぇ。もう何もできないでしょ?」
一歩、二歩。後少しで殺せる距離。ゆっくりと楽しむように近づく。
「......呪術にも向き不向きってのがあってさ、上位の術師でも反転術式使えない人って多いんだよね」
唐突なな話に、花子の足が止まる。
「...なんの話?」
「つまり俺にできて、あの五条悟にでも出来ないことはあるんだよ。例えば、」
困惑した花子の隙を見て紫己が瞬時に接近して言い放つ。
「反転術式の
「なにそれ、術式の開示の真似事?」
焦りを隠そうとしながら花子は後ろに下がろうとする。しかし、逃げようとする花子の頭はがっしりと掴まれ、紫己から離れることが出来なかった。
「騙し討ちなんて、」
花子の顔が歪む。
「この、卑怯者!」
紫己の掌から
「呪術師にそんなこと言われてもなぁ」
──
コンコンと車の窓を叩く。ガチャリと言う音で鍵が開いたのを確認しドアを開け中に入る。
「どうだった?ここの花子は」
山本はわざとらしく目を擦り、そう言った。
「まだ確認されてない新しい術式を待ってた。今回は当たりだったよ」
「そうか良かったな。報告書はそっちでまとめてくれ」
「えー?めんどいんだけど」
「俺は術式見てないし書けないだろ。自分でやれ」
「と言いつつー?」
数秒ほどの沈黙ののち紫己は、これは書いてくれんやつだな。と思い諦める。
「くそう。...久しぶりに書くかなぁ」
「書いたらこっちにデータ渡してくれ。あとで送っとくから」
「あーい」
車内に沈黙が訪れる。しかし、沈黙の原因は気まずいからと言う訳では無い。約束をしたわけでは無いが移動の際はそれほど話さないようにしているのだ。
特に理由はないが強いて言えば、山本は運転に集中するため、紫己は移動中基本的に何か他の仕事をしているためである。
(今回は全然良くなかったなぁ)
報告書を書き進めながら今回の戦闘の反省をする。いつもなら報告書に集中しているところだが、流石に反省点が多すぎる。
まず、反転術式の外部出力の使用。コレが予想外だった。本来の策よりも多く呪力を消費してしまったのは、呪力量の多く無い俺にとってはとてつもない失敗だ。
本来の予定では有利な近接で隙を作ってから術式を当てる予定だったのだが、花子の術式のペナルティで術式を没収されたのが本当に良く無い。あれぐらいなら予想できる範囲内だ。次回からに活かしたい。
他にも、簡易領域の残り時間の読み違い。あれも良くなかった。冷静になっていれば気づいたはずだったのだが...。おそらく、花子の策にハマって焦り過ぎていたのだろう。何があってもまずは冷静にならなければならないとは散々言われてきたが、改めて身に染みてそれを感じた。
あと、降参できることに最後まで気づけてなかったのも割とやばいな。かくれんぼの時点で気づけてたらもうちょいスマートに勝ててたんじゃ無いか?術式使用禁止になってても反転で祓えるし、少なくとも無駄なダメージは負わなくてすんだよな...。
それができてたら呪力効率のバフ目当てで術式の開示もしなくてよかったしさぁ。あとあれも、………。
ああだこうだと考えていると運転席から声がかかる。
「着いたぞ」
「ん、お疲れ。終わり次第送っとくな」
「わかった」
ノートパソコンを鞄にしまいつつ車から降りて、ついでに自分の部屋の鍵を鞄から取り出しながら、部屋が一階にある山本と別れ、エレベーターまで歩き出す。
「ただいまー」
人のいないホテルの部屋にそう言い、風呂場に向かいシャワーの準備をする。
「明日は、高専から振られた任務だよな。確か昼頃に現場到着予定だから、出発はそこそこ早くなる予定...」
シャワーを止めてバスルームのドアを開け、洗濯機の上に置いたスマホで時間を確認する。時刻は午前0時半頃。
「…まあなんとかなるか」
翌日寝坊により30分遅刻し、無断で学校に侵入したことも併せて学長から1時間ほど説教を受けることを紫己はまだ知らない...
名前
年齢 20歳
性別 男
趣味 都市伝説系の動画を見ること
長所 結界術
短所 呪力量
・術式 「???」
・領域展開 未修得
・反転術式 修得済み
備考
反転術式の