呪術高専専門学校。
基本的な呪力操作、簡単な結界・式神術などを学ぶ学校としての側面に加えて高専を卒業した術師への任務の斡旋や部屋の提供といった術師の拠点としての側面も併せ持つ、呪術界の要である。
基本的に術師は高専から等級に合わせた給金を受けており、高専から振られる任務もその等級に合わせられる。
術師の等級は上から特級、一級、準一級、二級...となっており一級から四級までは等級に比例して任務の難易度と給金が高くなっていく。
そのため術師は上の等級を目指しているのである。
「
目元に包帯を巻いた男、五条悟が箱から出した茶菓子を頬張りながら言う。
「この話何回目です?俺じゃ実力不足ですって」
「そんなわけないでしょ。ここ最近も特級1、2体祓ってたし」
「1体だけです。あんま人の成果盛らないでください」
「え〜?」
めんどくさそうに返答をしつつ茶を啜り、何かに気づいたような顔をして紫己は言った。
「…そもそも俺高専に報告書提出しに来ただけですよね。なんで五条さんとお茶してるんですか?」
「まあ、おやつ持ってきてんのが悪いよね。普通に」
「これはこないだの遅刻のお詫びに持ってきたもんで、おやつではないんすけどね?」
はあ。とため息を吐きもう一度茶を啜っていると、真面目な顔をして五条が話しを続ける。
「実際、一級になっといた方がいいと思うよ?紫己の今後のためにも」
「五条さんってそんなに等級に拘るような人でしたっけ」
「別に一級って肩書だけの話じゃないよ。…紫己はさ、夢ってある?」
「なんですか急に。まあ、今んとこは都市伝説を追ってたいってくらいですかね」
「へえ。いい夢じゃん。んじゃもう一個質問ね?」
(何が言いたいんだこの人?)
「紫己はなんで呪術師になったの?」
「それは...怪異を探すのに都合が良かったからですよ」
「はあ...分かってない事にそれっぽい答えつけるのやめなって。悪い癖だよ?」
「いや別にそんなことは」
自信を持って、無いとは言い切れなかった。
「確かにそれもあるだろうけどさ。それは心から出た本音じゃないでしょ。それを探すために必要なんだよ。仮想怨霊以外の相手ってのも」
「いや、それはそうかもしれませんけど。結局忙しくなって都市伝説の調査とかできなくなったら本末転倒でしょう」
「いやダイジョブダイジョブ。一級たってそんな忙しくないって」
「いや七海さんの顔見てみてくださいよ。基本死んでますよ?」
「あー。ソウイエバコノアトヨテイアルンダッタナー」
「ちょいちょい」
「ま、考えといてよ。いざとなったら推薦するからさ」
そう言い残し五条はその場を後にした。
「呪術師になった理由か...」
…そう言えば、俺ってなんで呪術師やってんだっけな。
「だから何回も言ってるじゃない!」
「いや、これはお前がやっただろ!俺のせいにするな!」
ギャーギャーと意味のわからない事で喧嘩をしていた親の声が俺の最古の記憶だった。
俺には居場所が無かった。学校では孤立はしていないが特に親しい友人がいるわけではないし、家でも特にやる事もない。強いて言えば母親の愚痴を聞いてやるくらいで正直いって自分がそこにいるのかいないのか分からなかった。
そんな俺が出会ったのが都市伝説や怪異だった。現実にはありえないそれに強い憧れと好奇心を抱いて俺はどんどんと引き込まれていった。家で1人の時にひとりかくれんぼをやったのも今となっては懐かしい記憶である。
あれはいつ頃だっただろうか学校からの帰り道に呪霊に襲われた際、自分に呪術の才能があることを知った。そこからは親の元を離れたい思いから高専に入学して、そこから仮想怨霊の存在を知って...
ただなんとなく呪術師をやって、なんとなく都市伝説の調査をやっているだけ。
確かにこれではいけないと分かっている。分かってはいるが今でも自分がどこにいるかわからず何をやっていけばいいかが分からない。
ブー、ブー。
スマホが鳴る。少し長居しすぎたようだ。机の上を軽く片付けて応接室を出る。
なぜ呪術師になったのか。その問いは、しばらく頭からは離れてくれなかった。
記録── 2016年8月14日
福岡県宮若市 旧犬鳴トンネル
定期巡回を行っていた窓により三名の変死体を発見
死因 出血性ショック
遺体には目立った外傷が見られず、体内の血液が抜き取られたようにして亡くなっており、現場に残った残滓から特級相当の呪霊による呪殺と判断。
対応可能な一級呪術師の不在のため、冥冥及び七海一級術師により推挙された
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「蒸し暑い...」
8月15日19時頃。まだ蝉も鳴いている時間に俺は山道を歩いていた。
なぜ歩いているのか?それは至極単純暑すぎるからである!
冗談は置いておいて、実際には流石に暑すぎるので自販機まで飲み物を買いに歩いているのだ。正直車で来れば良かったのだが、ジャンケンに負けてしまったので仕方がない。
そうこうしている間に目的の自販機の明かりが見えてきた。少し暗いなか光を見つけそこに飛び込んでいく姿はさながら虫そのものと言ったところか。
これから昇格任務だというのにこうも暑いとやる気も出ない。目の前に見えている自販機に向かって歩いている時間が、途方もなく長く感じた。
「血液の抜かれた変死体ねぇ」
缶ジュースのプルタブに手をかけつつ今回の報告書にもう一度目を通す。
血液の抜き取られた死体、現場の残穢から呪霊によるものだと確定しているが、それにしては遺体に外傷がないのが不自然だ。
「…おそらくかなり賢い呪霊だな」
「フッ。同感だな」
いつの間にか後ろに立っていた半裸の大男が続けて言う。
「あんたが竜胆紫己か?」
「ああ、うん。そうだよ。君は東堂葵くんかな?」
「時にMr.竜胆」
こいつ話聞かないタイプかよ。…まあ見た目どうりか。
「どんな女がタイプだ!?」
「…マジで何言ってんの?」