塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第1話 弟切想一、葬儀屋、異世界に錬成される

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 理由はわからない。

 

 なんでだよ! って思ったさ。俺に何も言わなかったんだから。

 

 俺、弟切(オトギリ) 想一(ソウイチ)は幼稚園の頃からの付き合いだった、清白(スズシロ) ひよりの葬式で彼女の死に顔を見た。

 おしろいで真っ白に塗られた肌、安らかに眠るような表情を浮かべている顔。

 彼女の全てが美しく感じた。恐怖を抱くほどに。

 

 太陽のように明るくて優しかった彼女の笑顔とは裏腹に、その死に顔はいつか見た雪まつりの氷像のように冷たかった。

 その対比すら美しく感じてしまったんだろうな。

 

 それからの俺は取りつかれたように彼女の仏壇に足を運ぶようになった。

 

 彼女の死に顔が頭から離れない。あの美しさに魅入られてしまったのだ。

 そんな自分に嫌悪した。

 だってあまりにも不謹慎だろ? 大切な幼馴染の死を美しく思うだなんて。

 

 我ながらあんまりだ。

 

 だから大人になって葬儀屋になった。

 

 そうすればたくさんの死体を見ることになる。

 あの美しい死に顔も記憶から薄れていき、彼女のことを忘れられる。

 そう思ったのだ。

 

 でも、そう単純なことじゃないらしい。

 多くの死体を見るたびに、彼女の美しさがより強調された。

 より鮮明に焼き付いた。

 

 そんな自分をより嫌いになり、俺はがむしゃらになって働いた。

 

 葬儀屋の仕事は死者を弔う為に故人、あるいは親族に寄り添い、心魂を救う高潔な仕事だ。 

 それに没頭することで俺は、自分を清浄なる人間だと錯覚させることができた。

 

 働いたさ。身を粉にして。違法スレスレの長時間残業だってした。

 どうやら、喪服と同じように死にまつわる仕事は真っ黒らしい。

 

 もう何も感じやしない。

 上司の叱責も、先輩の罵詈雑言も、遺族のかんしゃくも。俺の心は揺さぶられない。

 

 あれ? 俺死なない? 大丈夫?

 

 「はは、葬儀屋が葬儀中におっちんじまうんだったら笑えないな」

  

 エナジードリンクを一気飲みして、真っ黒なスーツに袖を通す。 

 今日で何連勤目だっけ? わっかんねぇ。数えんのやめたからな。

 

 家を出て、満員電車に乗る。目の前の席が空いたので座った。

 

 ――ああ、しんどい。しんどいなあ。

 

 体はこんなにしんどいのに、俺の心は死ぬこともできない。

 いつだって頭の中に彼女の顔が思い浮かぶ。

 彼女の分まで立派に生きようと。人の役に立とうと。

 

 でも、今日は――

 

「無……理……」

 

 意識がすとんと落ちる。意識を失う。ああ、寝過ごして遅刻してしまう。

 先方に迷惑がかかる。

 

「zzz」

 

 でもいっか。

 今日くらいはいいや。

 

 俺の意識は身に纏うスーツよりも真っ黒な闇の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――想一、―― 

 

 俺を呼ぶ声がする。

 

 ――想一起きて 起きなさいってば――

 

 聞き覚えのある声。

 誰かが俺のことを呼んでいる。

 

 ああ、そうだ。俺、寝ちゃったんだ。電車の中で。

 上司か遺族が俺のこと呼んでるんだ。

 せっかく、気持ちよく寝てたのに。

 

 仕方がない。起きよう。起きて仕事をしよう。今日も死んだような目をして働きますよ。

 眠い目を擦って重たい瞼をどうにか上げる。

 そこには――

 

「やっと起きた。全くお寝坊さんなのは相変わらずなんだから」

「ひ……より……?」

 

 俺の目に前には亡くなったはずの清白ひよりが立っていた。

 

 肩までに伸ばした黒い髪。可愛らしい大きな目。あの時のままだ。

 腰に両手を当てながらプンスコと顔をしかめていた。

  

「なんっ……で……」

「久しぶりなのに随分なご挨拶だよね。せっかくおめかししたのに」

 

 そう言うひよりの服装は、おめかしというよりコスプレに近いものだった。

 黒を基調とした、フリルの付いたゴスロリチックな雰囲気の衣類をまとっていた。

 辺りを見渡すと、大きなシャンデリアが天井から吊り下げられ、巨大な窯が緑色の煙を上げており、見たこともないような生き物の毛皮や道具がデスクの上に置かれていた。

 

 ああ、はいはいそういうことね。

 

「夢だな。こりゃ」

 

 我ながら病んでいるよなあ。十年以上も前に亡くなった幼馴染が夢に出てくるなんて。

 しかもゴスロリコスさせてるなんて。そんな性癖、別になかったんだけどな。

 

「夢でも……いいか」

 

 今になっては、ひよりを思い出すのは真っ白な死に装束で瞳を閉ざしてるあの顔だけだ。

 生前の姿を思い出すことなんてなかった。

 

 ――懐かしいな。 

 

 思わず笑みがこぼれる。まるであの頃に戻ったような気分だ。

 不思議と体が軽い。十代の体に戻ったようだ。

 

「……さむっ」 

 

 ふと、寒気を感じて体をさする。剥き出しの二の腕をてのひらでこすりつける。

 そこでようやく、自分が裸だって事に気付いた。

 

「うおっ、夢だからってそりゃないだ――」

「夢じゃないよ」

 

 ひよりが俺の頬をつねり上げた。

 

 痛い痛い。痛いし冷――

 

「いっ!……つめっ!?……」

 

 氷かよってくらい冷たい感覚が、痛みと共に頬に走る。

 

「ほらね? 夢じゃないでしょ?」

 

 指をバキューンとピストルに見立てて、自慢げな顔で俺を見るひより。

 その指は青白い氷に覆われていた。ドライアイスのように白い煙が、宙を泳いでいた。

 

「な……なんだよそれ……」

 

 手品? トリック? それとも魔法!?

 

「私、死んで異世界に転生しました」

 

 パキンっと指先の氷が砕け散る。

 自慢げな顔を崩さずにひよりは続けた。

 

「すごいでしょこれ。錬金術っていうんだよ」

「錬金術……?」

 

 何を言っているんだ? まるで漫画の世界じゃないか。

 

 続けてひよりは右手に青い炎、左手に小さな竜巻を作った。

 どこからともなく竜巻の下部からキラキラと光る鉱石のような粒が現れ、左手の周りをぐるぐると旋回していた。

 

「そうそう。これで想一の身体も造ったんだよ?」

「造っ……た……?」

 

 意味が全然分からない。理解がさっぱり追い付かない。

 異世界転生とか魔法みたいな力は百歩譲って受け止めるとして、身体を造ったってのはどういうことなんだ?

 

「そうだよ。想一の魂、ふよふよとさまよっていたからね。このままじゃ冥界? って所に行っちゃうから、私が拾い上げたの」

 

 ひよりは大理石のような白い石でできた、台のような物にすわっている俺の下半身に毛布を掛けてくれた。

 俺の相棒が寒さで縮こまっているのを感じる。

 こいつ、幼馴染だからって俺の裸に何もリアクションを返さねぇ。

 

「その魂の情報から、想一の身体を形成している物質を再錬成してその体を造ったの。だから今、想一の体は私の知る想一なんだよ。異世界転生ならぬ、()()()()()だね!」

 

 ほら、とひよりは俺に手鏡を手渡す。

 そこに映っているのはいつかの俺自身。目の下に隈はできておらず、髭があった痕跡がない。なんとなく、肌が潤っているような感覚すら感じた。  

 

「要するに想一死んじゃったのね。私みたいに」

「死んだってそんな――」

「心当たり、ある?」

「…………」

 

 心当たりか……

 最後に覚えているのは、電車の中で強烈な眠気に襲われて熟睡したことだ。

 その前に十何連勤かして残業で二徹しただろ? そんでエナジードリンク毎日がぶ飲みしてそれから――

 

「過労死……か?」

 

 頭を抱えてそう呟くと、ひよりは吹き出すように笑いだした。

 

 いや笑えない笑えない。

 

「あっははははは! 過労死って。ほんとにあるんだ! あはははははは」

「いやいや、笑い事じゃないって!」

「私も相当ひどいと思うけど、想一も大概だねー」

「だから笑うなってば!」

 

 あんまりな現実に眩暈がする。額を抑えながら台の上に仰向けに寝そべった。

 ……あれ? ひよりは今なんて言った?

 

 私も相当ひどいって――

 

「ひより!!」

 

 俺は勢いよく跳ね起きる。ひよりはまだお腹を抱えて笑っていて、「なに?」とだけ返した。

 

 そうだ。そうだよ。これが夢なんかじゃないんだったら俺は知らなきゃいけないことがあった!

 

「ひより、俺、ずっと聞きたかった」

「だから、どうしたのって――」

「なんで……なんで、自殺なんてしたんだ」

 

 そう言葉を発した瞬間、ひよりの笑い声はぴたっと止まる。

 今までの笑顔から感じられた温かいものが完全に消え失せ、無表情で冷たい目線を向けた。

 そして――

 

「言いたくない」

 

 そう一言だけぽつりと言った。

 

「いいじゃん。そんなことはさ」

 

 ひよりはすぐに破顔して、その場でくるくるとターンする。

 この世のすべてが楽しいものだと言うように、軽快なステップで舞っていた。

 

「死んじゃった事はもうしょうがない」

 

 ひよりの周りに赤、青、緑、黄色の4つの光がクルクルと回る。

 妖精がキラキラと輝きながらダンスをしているようだ。

 

「私達は今、こうして生きていて、こうして再会してるんだから」

 

 ひよりはピタっと足を止めて、こちらに微笑む。

 

「ね、想一」

 

 たんぽぽやひまわりのような、温かく、優しい笑みが俺の心を包んだ。

 あの時の凍りついたような、美しい死に顔が脳裏から消える。

 

 ――ああ、そうだ。

 

「これで、また一緒だね」

 

 これが本来の君の美しさなんだ。

 

 今はただ、自分から流れ伝うこの涙すらあったかくて、心地いい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、泣きじゃくる俺をひよりは慌てて(なだ)めた。本当に小さかった頃を思い出す。

 上級生にいじめられていた俺をひよりは助けてくれたこともあったっけ。

 俺とひよりの十七年間の思い出が頭に浮かび上がっては消えていく。

 

「じゃ、さっそく想一も錬金術やってみよっか」

「へ?」

 

 こうしてひよりとの異世界での錬金生活が始まった。




第1話、いかがだったでしょうか。



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