塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第17話 笑顔を取り戻せ

『錬金術師なんて大っ嫌い!』

 

 先ほどの女の子の言葉を反芻(はんすう)しながら、俺は市場に戻った。

 

『あの子の父親は錬金連合軍の錬金術士だったんだ。でも、敵性生命体どもとの戦いで命を落として。その上、たった一人の兄まで錬金連合軍に後追いみたいに入隊して。それからあの子は病気の母と寂しく二人で暮らしてます。町長も気にかけてくれて、町のみんなもあの一家のことは気にしてるんですけど、チルは誰に対しても心を開かないみたいで』

 

 役人さんがそう言っていた。きっと、自分の大切な家族が錬金連合軍に連れてかれて、奪われたと思っているんだ。

 

 あの子も大切な家族を失ったんだ。

 

 歩いているとマリアさんの姿を見つける。向こうもこちらに気づいたようでぱたぱたとこちらに駆け寄ってくる。

 

「ソーイチ君!」

「すみません、マリアさん、俺」

「ううん、こっちは大丈夫よ。それよりぶつけられたとこ痛くない?」

 

 マリアさんは俺のみけんをまたさすってくれた。

 

「はい。そこは全然。それよりマリアさん」

「はいはい、マリアですよ。なにかしら」

「今日ちょっと俺、(いとま)が欲しくて」

「あら、何かあったの?」

「はい。ちょっと私用で」

 

 真っ直ぐと訴えかける俺を見て、マリアさんはにっこりと笑った。

 

「はい、受理しました」

「え、いいんですか?」

「男の子だもの。色々あるのよね」

 

 聖母。

 

 マリアさんは聖母マリアだった。

 

「ありがとうございます! 行ってきます!」

 

 駆け出す俺を、マリアさんは手を振って見送った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

『チルの家? ああ、チャレスカ家ならここから真っ直ぐ――』

 

 

 チルちゃんの家はさっきの役員さんに教えてもらった。あとはプランを考えるだけだ。

 

 あの子を元気づけてあげられるプランを。

 

 そんなこんなで辿り着いた彼女のおうち。他の家とはあまり変わらない。石造りの家だった。

 

 さて、即興でやってみせますかなっと。

 

 錬成。硫黄に塩を混ぜて細く、繊維のように作り上げていく。水銀の流動の力で動かし繊維を形どっていく。あっというまに完成したのは、クマとハチのぬいぐるみ。いわゆるパ〇ット・マペッ〇!

 

 窓が半分開いているのを確認。スッと覗いてみると、チルちゃんがイスに座ってつまらなそうに絵本を読んでいた。

 

 俺が絶対に笑かしてあげるからな!

 

 窓の下からぬいぐるみをにゅっと出す。

 

 やあやあハチ君、どうしたんだい? クマ君、と話し出した。

 ガタッ、驚く音が聞こえる。こちらに気づいたのだろう。

 

「ハチ君、はちみつをおくれよ」 

「やだなぁ、クマ君、僕はスズメバチだよ?はちみつなんて持ってないよ」

「ちっちっち、知ってるんだなハチ君。君たちは野蛮な昆虫だ。ミツバチの巣を襲って根こそぎはちみつを奪ったんだろ?」

「はっはっは! バレたのなら仕方がない。君には死んでもらうぞ? クマ君! ザシュッ! ザシュザシュッ! グサーッ!」

「馬鹿め、貴様の攻撃など効かんわ!」

「なにっ!?」

「俺の皮膚は分厚いんだ。貴様の小さい毒針が我の――」

 

 ガラッと窓が全開になる音がした。

 

 見上げると、チルちゃんが下を覗き込んでいて目が合った。

 

「…………」

「……や、やぁ」

 

 はは、と笑った瞬間、窓がぴしゃりと閉められる。

 ダッダッダッダと部屋の中を走り、がちゃんと扉が開閉される音が聞こえる。

 

 チルちゃんがこちらに勢いよく走ってきた。

 

「…………!!」

 

 無言で俺の腰にドロップキックを決めた。

 

 まずい! 作用反作用の法則でチルちゃんの身体が大きく跳ね返されて宙に浮いた!

 

「危ない!」

 

 咄嗟にチルちゃんを俺は抱き抱えるように支えた。

 

「だっ、大丈夫!? チルちゃ――」

 

 チルちゃんは俺の顔をばりばりと爪でひっかいた挙句、どっかへ走り去ってしまった。

 

 ……ぽつんと一人だけ置き去りにされてしまった。

 

「参ったなぁ、こんなはずじゃあ」

 

 優しいくまさんが凶悪なスズメバチを盛大に成敗する抱腹絶倒の物語のはずだったんだけどなぁ。

 

 うまくいかないもんだな、とぽりぽり頭をかいていたら――

 

「誰かいるの?」

 

 窓を開ける音が聞こえた。後ろを振り返ると、先ほどチルちゃんがこちらを見下ろしていた窓が開かれていた。そこにいるのは四十手前くらいの奥様だった。

 

「あっ、初めまして。俺、錬金連合軍の――」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「そうですか。あの子が……」

 

 チャレスカさんは思いつめるような表情でそう呟いた。

 

「だから、どうにか元気づけてあげられないかなって思って」

 

 俺は出されたお茶をズッと啜りながらそう答えた。

 

「昔はもっと明るい子だったんです。主人が見せてくれる錬金術にいつも目を輝かせておりました。将来はお父さんみたいな錬金術になると息まいてました。主人の手伝いもしておりました。彼に似て、土の錬金術の才能があるそうで」

 

 奥さんの表情が一段と曇り出す。

 

「でも、主人が亡くなって受けた傷は、あの子にとってとても大きいものでした。何日も何日も家にこもって泣き続けておりました。ようやく落ち着いたと思ったら、今度は錬金術が使えなくなってしまって……。回路師よると、悲しみのあまり身体が、マナを拒絶してしまったそうです」

「そんなことが……」

 

 PTSDのようなものだろうか。精神的ショックで錬金術が使えなくなるなんて……。

 

「おかしな話ですよね。あの子にとって錬金術は、錬金術師は、家族だけではなく、夢も奪ってしまう形になってしまった。本当は全部化け物達が悪いのに。でも幼いあの子にはそう思えない。錬金術そのものを憎むようになってしまった」

「…………」

「息子、あの子の兄は父親の仇を討つ為に、連合の第三師団に入隊しました。自分が必ずあのゾウの怪物を打ち取ると」

「ゾウ?」

「ええ。ゾウの姿を模した幹部怪人だと伺ってます。息子も復讐の連鎖に囚われてしまいました。ハンスもこのいつ終わりを迎えるのかわからない戦いに身を投じて、命を落としたら今度こそあの子は……」

 

 思いつめた表情を見せるチャレスカさんはこれ以上口を開くことはなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 精神的外傷で錬金術が使えなくなる。

 

 そんなことがあるとは思いもしなかった。

 

 もしかしたら、俺やシオンだってそうなってたかもしれない。

 

 でも、もしシオンが錬金術を使えなくなってたら、戦場に赴くことなんてなかったんじゃないか?

 

 ……………………

 

 ダメだ。シオンは自分の意志で戦いに加わることを選んだんだ。

 

 こんなことを思っちゃ俺はシオンの決意を踏みにじることになる。

 

 悪い癖だ。切り替えろ。今俺が考えるべきことは、どうしたらチルちゃんの笑顔を取り戻すことができるかだ。

 

 お父さんのことはどうしようもできない。お兄さんのことも。

 

 なら、錬金術のことはどうだ? もし、錬金術が再び使えるようになれば、夢をもう一度取り戻すことができれば、彼女に笑顔が戻るんじゃないのか?

 

 考えろ。チャレスカさんは言っていた。チルちゃんの回路はマナを拒絶していたと。

 

 マナに詳しい専門家みたいなのはいないのか。

 

 回路の医師とは別のアプローチでチルちゃんの現状を変えられる人物。

 

 ……待てよ。マナの専門家? いるじゃないか。マナに詳しいどころか、マナ自体をその眼で見られる人物が。

 

 今夜が勝負時だ。俺はどうやって話すか考えながら野営地に戻るのだった。

 




第17話、いかがだったでしょうか。



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