塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第18話 笑顔の代償

 今日も弔葬部隊の仕事を終え、宿に(おもむ)き、扉の前で立つ俺。

 

 コンコン、ノックを三回鳴らす。

 

「シオン? いるか?開けてもいいか?」

 

 返事はない。当然だ。

 

「もし、開けてもよかったらノックを返して欲しい。それまで待つよ」

 

 中から物音ひとつしない。着替えているような布の擦れる音も特にしない。まるで誰もいないようだ。

 

 もしかしてまだ野営地にいるのか?

 

 そう思ってドアノブに手をかけると、ガチャリと扉が開いた。

 

「…………」

 

 中には昨日と同じように真っ白な寝間着を着こんだシオンが(たたず)んでいた。

 

「おあ、いたんだ。……入ってもいい?」

 

 これもまた昨日と同じ。シオンはこくりと頷いて中へと戻って行った。

 

 シオンは昨日と同じで、虚空のマナを黙って眺めていた。

 

 切り出さなきゃ。俺自体は拒絶されるかもしれない。それでも――

 

「シオン、話があるんだ」

 

 シオンは身じろぎ一つ動かさずに黙って虚空を見ていた。

 

「俺今日女の子に出会ったんだ。その子、化け物どもとの戦いでお父さんを失ってさ。ショックでマナを拒絶して錬金術が使えなくなっちゃったんだ。俺、どうにかしてその子の笑顔を取り戻したくて色々やってみたんだけど、ダメだった」

 

 シオンは目だけ動かしてこちらを見た。

 

「だから、シオンの力を借りたいんだ。俺の錬金術じゃ、あの子に何もしてあげられない。でも、マナを直接見ることのできるシオンなら、何かできるかもしれない。あの子が錬金術をまた使えるようになるきっかけだけでも与えられるかもしれない」

 

 シオンは反応しない。ただこちらを見続けていた。

 

「だから頼む。俺に力を貸してくれ。チルちゃんの笑顔を取り戻したいんだ!」

 

 深々と頭を下げた。どうか、頼む。シオン。

 

 少し間をおいて、シオンは立ち上がる。何かを書くような音が聞こえた。

 

「シオン?」

 

 面を上げると、スケッチブックのような用紙を抱えているシオンが目に入った。

 

 スケッチブックには、ただ一言『わかった』とだけ書かれていた。

 

「……ありがとうっ……!」

 

 シオンは変わらず無表情で俺を見ている。

 

 だけど、ほんの少しだけ、口元が緩んだような気がした。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 次の日、俺はミラさんに事情を説明した。

 

 ミラさんは快く俺たちの(いとま)を受理してくれた。ミラさんの方で医療部隊や弔葬部隊に話を通してくれるそうだ。

 

 シオンと一緒にチャレスク家に辿り着く。昨日と同じように窓は空いていて、チルちゃんはイスに座っていた。本ではなく板のようなものを見ているようだが、それが何かはこちらから確認できない。

 

(シオン、頼んだぞ)

 

 小声でシオンにそう囁くと、シオンはコクリと頷き、指先から白い粒を飛ばした。

 

 風の力でふよふよと漂う白い雪のような粒は、窓から入っていき、チルちゃんの目の前まで行く。

 

 チルちゃんもそれに気づいたようで、不思議な顔をして白い粒を見ていた。

 

 すると、白い粒が急にパキンと弾け、きれいな雪の結晶のような塊に変化した。

 

「わあ…!」

 

 続けざまにシオンは粒をいくつも飛ばす。粒は竜巻に巻き込まれクルクルと旋回する。

 一気に粒を弾けさせ、無数を結晶を生み出し、神秘的できれいな光景を作り出した。

 

 チルちゃんの周りに、ダイヤモンドダストのような光の粒が雨のように降り注ぐ。

 

 チルちゃんは目を輝かせてその美しい光景を見ていた。

 

「すごい……きれい……」

 

 ふと、チルちゃんは窓に目を向けた。気付いたのだ。白い粒が窓から入ってきたことに。

 

 チルちゃんが窓の外を覗き込む。そこには無数の動物たちは宙を舞いながら戯れていた。

 

「わぁ……!」

 

 シオンは土の術で犬や猫、うさぎといった、様々な可愛らしい生き物の粘土細工を作り出し、風の力で浮かせてその光景を作り出していた。

 

「わはっ……♪」

 

 チルちゃんは思わず楽し気に笑っていた。

 

「チルちゃん」

 

 俺はチルちゃんに声をかける。

 

「君に見せたかったんだ。錬金術は人の命を奪うだけじゃない。こうやって誰かを楽しませることのできるすごい技術なんだって」

 

 チルちゃんは楽しいような驚いたような顔で俺と人形たちを交互に見る。

 

「今はまだ立ち直るのに時間が掛かるかもしれない。でも、これを見て笑顔になれるなら、きっと乗り越えられるよ。またきっと錬成できるようになる。お父さんもきっと、君のすごい錬金術をお空の上から見守ってたいと思っているはずだよ」

 

 錬金術ができなくなったのが心因性なら、それを取り戻すのだって心の要因のはずだ。

 錬金術を好きになってくれれば錬脈回路だってきっと応えてくれる。そう思ったんだ。

 

 シオンはチルちゃんの手を取って、てのひらを見る。しばらく見つめていたかと思えば、手を絡め出した。

 

 すると、重なった二人の手が白く光り出した。チルちゃんの右腕に白い基盤のような線が浮かび上がり、全身に広がっていく。

 

 やがて光が収まると、シオンはスケッチブックに何かを書き始めて、それをチルちゃんに見せた。

 

『錬金術、使ってみて』

 

 チルちゃんは恐る恐る地面に手を付き錬金術を試す。すると、地面が盛り上がり、何かを形作った。

 

 これは……犬だ。チルちゃんは錬金術で犬の人形を作り出したんだ!

 

「やった! やったよチルちゃん! やったんだ!!」

 

 つい嬉しくなってここの誰よりも俺ははしゃいでいた。

 チルちゃんも目に涙を浮かべながらその犬を見ていた。

 

「シオン……?」

 

 窓からチャレスクさんがこちらを見ていた。チルちゃんの作った人形を見て目を丸くしている。

 

「錬金術……できるようになったのね……」

 

 チャレスクさんは口元を手で押さえて涙目でチルちゃんを見ていた

 

「シオン、いろいろ教えてあげようよ! チルちゃん、土の錬金術の才能があるってチャレスクさん言ってたし」

 

 それから俺たちは色々なものを錬成した。チルちゃんの得意な土の錬金術だけじゃなく、苦手な水の錬金術の特訓もした。

 チルちゃんはとても嬉しそうだった。また夢を追うことができた喜びがよほど大きかったんだろう。 

 

 でも楽しい時間ばかりじゃなかった。

 

「…………っ!」

 

 じわり、とチルちゃんの瞳から涙が流れ落ちる。ひっく、と漏らしながら徐々に涙は滝のように溢れだした。

 

「チルちゃん! どうしたの? 大丈夫!? どっか痛いの!?」

 

 俺は慌ててチルちゃんに駆け寄った。

 

「お父さん……」

 

 そう一言漏らして、チルちゃんは大きく泣き始めた。

 

「お父さんっ……!お父さんっ……!!」

 

 ふと、チルちゃんが持っていた板のようなものが目に入った。

 それは、チルちゃんとチルちゃんのお父さんらしき男の人が、二人で錬金術でいろんなものを錬成している写真だった。

 

 チルちゃんは思い出したんだ。お父さんとの楽しかった思い出を。

 敵性生命体に壊されてしまった幸せな日々が、きっとこの子の頭にフラッシュバックしている。

 

 俺が何も言えないまま拳を握り締めていると、シオンがゆっくりとチルちゃんを抱きしめて頭を撫でた。

 

 その後、チルちゃんが泣きつかれて眠るまで、シオンはずっと抱きしめ続けていた。




第18話、いかがだったでしょうか。



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