塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第20話 舞い降りる戦士

 群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)魑魅魍魎(ちみもうりょう)

 錬金術師と敵性生命体の戦いは熾烈(しれつ)を極めていた。

 

 第七師団筆頭、ミラ•ミカエリスは巨大な炎剣で魔獣や怪人達を薙ぎ払っていた。

 

(雑魚どもに用はない。狙うのは……!!)

 

 奥に見据えるは2mを超える巨体、ゾウの意匠を模った幹部級。身体中に纏わりついた苔が青々く茂っている。

 

 ゾウの幹部も従者を次々と屠り去っていくミラに狙いをつけた。大地を揺るがす超重量の肉体は、歩を進めるだけで歯向かう者を戦慄させるプレッシャーを放っていた。

 

 一触即発、剣抜弩張(けんばつどちょう)。睨み合う両者。先に動いたのはミラだった。

 

 炎剣を大きく燃え上がらせ、逆袈裟斬りを繰り出す。走る火柱は軽々とゾウの幹部を飲み込み、紅蓮の渦に飲み込まれた。

 

 だが――

 

 「…………」

 

 苔を燃やしながらも分厚い脂肪に覆われた体は、表面が焦げただけで健在である。

 

(力押しで勝てる相手じゃない。回り込んで首を刈る!)

 

 足元を着火させ、爆発的な推進力で相手の背後に回り込む。

 ゾウの幹部は反応すらできなかったのか、易々(やすやす)と背後を取られた。

 

(やはり図体の分、敏捷性は低いか!)

 

 炎を凝縮させて鋭い一振りの太刀へと変える。

 赤く(たぎ)る炎は、燦然(さんぜん)と光を放っていた。

 

「もらった!!」

 

 赤熱の刃が剛傑の首に迫るその直前――

 

「…っ!」

 

 刹那、咄嗟(とっさ)の判断で足元を爆発させ、横に飛ぶ。

 直後、ミラの(あばら)を強靭なる鞭が襲った

 

「がっ……!」

 

 地べたを転がりながら受け身を取る。睨みつけた先には、嫌らしく口元を吊り上げて笑うゾウの幹部と、その周りをうねるように旋回する長い鼻があった。

 

「簡単にはいかないか……」

 

 ミラは全師団長含めても屈指の猛者である。

 そのミラを持ってしても幹部怪物相手だと部が悪く、手練(てだれ)の団員と連携を組んでようやく撃破できる。

 

 その上、自慢の炎が通じないゾウの幹部は非常に相性が悪く、今まで戦ってきた中でも絶望的な相手となった。

 

(参ったな、勝ち筋が全く見当たらない)

 

 勝利を確信したゾウの幹部が鋭い牙を剥き出してミラに襲い掛かろうと走り出した。

 

 その瞬間――

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 大地が震え、破砕音と共に土煙が巻き起こる。

 

「な、なんだ!?」

「新手か!?」

 

 若い術師達がどよめき出す。

 

 戦場に立つ全員がある一点を注視した。

 

 砂煙と共に現れたのは――

 

 清浄なる白き衣を纏った塩の魔人だった。

 

 

 

 「う、うわぁ!!」

 

 (おごそ)かな乱入者に気を取られた新米術師、ハンス・チャレスクは、虫のような怪人に崩され、そのままトドメを刺される寸前になった。

 

「……!」

 

 塩の戦士はそれを見逃さない。

 即座に距離を詰め、虫怪人の胴を鋭い抜き手で貫いた。

 

 断末魔を上げながら崩れ落ちる怪人の体液を浴びた新米術師は怯えた目で戦士を凝視する。

 

 ――次は自分なのではないかと。

 

「……」

 

  ところが戦士は(きびす)を返して次の獲物に走り向かう。

 

 襲いかかる魔獣達など歯牙にも掛けない。肉体を躍動させるだけで、(はばか)る魔獣どもを文字通り轢き殺していく。

 

 狙う獲物は数人の怪人達。一介の錬金術師達が数人がかりでも苦戦する怪人を一撃で殴り殺していく。

 

 ある者は顔面を握り潰され、ある者は心臓を蹴り潰され、あるものは胴を真っ二つに切断される。

 

 次々と屠り去られていく仲間を見て、化け物達は錬金術師達を捨て置いて一斉に戦士に飛び掛かる。

 

 腕の一振りは五体の怪人を切り捌き、足の一蹴りはその余波で十体の魔獣を引き裂く。

 

 瞬き一つの猶予もないうちに、敵軍は壊滅して行った。

 

 「あれは一体……」

 

 ミラは、目の前の強敵を警戒しつつ、圧倒的な力を振るう戦士に見入っていた。

 

 一方ゾウの幹部は、標的をミラから新たなる脅威に切り替え、戦士に向かって突撃して行った。

 

 反り返った巨大な牙が標的を付け狙う。体格に見合わぬスピードで戦士にぶちかます。

 

 そのままそびえ立つ岩壁に叩きつけた。

 

「……!」

 

 幹部は、驚愕する。自慢の巨体、誇り高き牙を全力でぶつけてもなお、目の前のターゲットは傷一つつかない。それどころか、両の牙を掴まれ一気に押し返された。

 

「な、……馬鹿な……!!」

 

 踏みとどまろうとするも、大木のような足は機関車の線路のように真っ直ぐな電車道を描くことしかできない。

 

「はあっ!!」

 

 戦士は一気に巨大を持ち上げ、大地に叩きつける。一つ叩きつけるたびに、先ほど幹部が起こした地響きよりも遥かに大きな揺れが戦場を震撼(しんかん)ささた。

 

「バケモンだ……」

 

 遠くで見ていた錬金術師達も、立ってはいられなくなり、あまりにも衝撃的な光景に慄《おのの》いた。

 

「なんて膂力(りょりょく)だ……」

 

 戦いの最中であることを忘れ、ガルドスは戦士を凝視していた。

 

 戦いの流れを握っていた片割れに加勢すべく、クマの幹部はガルドスに目もくれず戦士に向かって行った。

 

 剛腕を活かした連撃を繰り出すも、戦士は卓越した動きでそれを受け流していく。

 

 ゾウの幹部も起き上がり加勢するも、すでに動きは見切られており強烈なカウンターにより再び地を転がった。

 

(わかる、わかるぞ! 動き方がわかる、拳の打ち方がわかる!)

 

 想一は格闘技の経験などなく、戦い方など知らなかった。

 

 だが、心臓を動かすごとに頭の中に戦い方が浮かび上がってきた。まるで思い出すかのように。

 

 戦士はクマの幹部の足を蹴り払う。上空へ浮いたクマの腹目掛けて右ストレートをぶちかました。

 

「がっ……!」

 

 勢いよくゾウの幹部に叩きつけられる。

 

「おのれ……!」

 

 ゾウの前に戦士は立つ。ゾウは両手を広げて士降に襲い掛かった。

 プロレスで言う手四つの状態になり、両者組み合う。

 

「なっ……にぃっ……!?」

 

 体格差などもろともせずに、士降は、ゾウの両手をぎりぎりと締め上げる。

 

「はあっ!!」

 

 ベギィッと音と共にゾウの腕が捩じ切られる。断面から赤い鮮血が吹き出た。

 

「がっ……あああああああ!!!?」

 

 捩じ切られた両の腕はピクピクと痙攣し、ゾウは激昂した。

 

「おのれおのれおのれおのれのれえええええええ!!!!!!」

 

 ゾウは唯一残された最後の武器、長い鼻の鞭を士降に向けて放った。 

 

 

 

「師団長、あれは一体……!?」

 

 第三師団副隊長、シャルカがガルドスに駆け寄る。

 

「…….聞いたことがある」

 

 ガルドスは目を見開き語り出した。

 

「錬金術を最初に編み出した男、始まりの錬金術師。彼が使う三元質のソレは他の追随を許さぬ別格の力。有象無象の術師どもが使う三元質と区別するためにこう呼ばれたと」

 

 ガルドスは口を開く、禁忌の力、その名を

 

「『士降(しお)』と」

 

 舞い降りる戦士、その名の通り君臨した士降と呼ばれる戦士は怪しくも神々しい、この世ならざる無機の光を纏っていた。

 

「この戦い、勝った方が、我々の敵になるかもしれない」

「勝った方って……」

 

 ゾウの放った鼻を軽々と受け止め、士降は豪快に振り回し、クマに衝突させる。

 ゾウの鼻は千切れ、雑に放り投げられた。

 

「まるで赤子扱いだ……勝つのはどう考えても……」

「気を緩めるな。あれと戦うハメになるかもしれない」

 

 士降はその場で垂直に飛び、ゾウの顔面目掛けて膝蹴りを放った。

 ぐじゃりとその場で顔面がひしゃげ飛び、巨軀(きょく)の魔物は沈黙する。

 

 トドメに士降は上空から必裂の肘鉄を打ち出す。

 真っ二つに切り裂かれたゾウは無残な姿をこの地に晒した。

 

 舞い降りる戦士は人差し指、中指と親指で輪を作り、キレよく十字を切ると、ゆっくりと次の獲物に振り向く。

 焦りを見せるクマの幹部は足掻くように飛びかかった。

 

 士降は構える。肘に携えるブレードが光を乱反射して真白に輝く。

 

 クマの鋭爪(えいそう)が、士降の鋭刃(えいじん)が交差する。

 

 一瞬の硬直、先に動いたのはクマの幹部。ゆっくりと振り向くと同時に胴体がぐらりとズレ落ち、落命した。

 

 勝負は決した。再び士降は指で十字を切る。

 

 士降が振り返った十数メートル先にミラが(たたず)んでいた。

 

「…………」

「…………」

 

 両者何も言わず、視線を交わすだけ。

 先に動いたのは士降だった。

 

 ゆっくりと踵を返し、去って行く。

 ミラは追わず、黙ってそれを見送った。

 

 が、

 

 それを見逃さない者もここにはいた。

 

「総員、砲撃用意!」

 

 ガルドスの命により、第三師団員達が士降に錬術兵器を向ける。

 

「ガルドス師団長! 何を!?」

 

()え!!」

 

 ミラの静止も虚しく、号令により各々の最大火力の中、遠距離攻撃が士降を襲った。

 

 猛火、雷撃、かまいたち、多種多様の攻撃の雨が折り重なり、白と黒の合わさった砂煙を撒き散らす。

 

「やったか!?」

 

 誰かがそう叫んだ。

 

「ガルドス師団長! これは一体、どういうおつもりですか!? あの者はこちらに対して何一つ害を加えておりません!」

「だからと言って見過ごすわけにはいかん! 奴は明らかに人間ではない! いつ気まぐれでこちらに牙を向けるのかもわからない化け物だ! ならば討てる内に討つべきだ!

 なにより――」

 

 ガルドスはごくりと冷や汗を流しながらごくりと固唾(かたず)を飲んだ。

 

「士降の力……あれは危険すぎる……!」

「あ、あれは……!」

 

 団員の誰かが指を刺す。

 

 硝煙の中佇んでいるのは、傷ひとつついていない士降ひとり。

 

 「バカな……!!」

 

 ガルドスは息を呑む。自分の最大限の威力を含めた砲撃、まともに喰らえば幹部級の怪人ですら無事では済まない、揺るぎない自負を込めた渾身の一撃。それを無に帰された。

 

 己が培ってきた全てを否定する存在が目の前にいた。

 

(まずい…! やつはどう出る!?)

 

 士降はゆっくりとガルドス達に振り向いた。

 

 こちらを狩りにくるか?そう構えた途端――

 

 「なっ……!?」

 

 士降はガルドス達に向けて呆れたように手を上げた。

 まるで話にならない、と言いたいかのように。

 

 士降は錬金術師達の前から無言で立ち去った。

 

「助かったのか……?」

「見逃されたのか……?」

「生きた心地がしない……」

 

 団員達は留めていた息を大きく吐いた。

 中には力が抜けて尻餅を付くものもいた。

 

「我々など……歯牙にも掛けないというのか……」

 

 次元の違いを見せつけられたガルドスは、悔しさを握りつぶすように手のひらに血を滲ませた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 先ほど想一が立っていた崖の頂上に一人、佇んで戦況を覗き見る男がいた。

 

「へえ、面白いのが現れたな」

 

 男はニヤリと口角を引き上げて笑い、その場を後にした。




第20話、いかがだったでしょうか。



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